第4話 闇の国の少女ルナーラ
次の日、私は母の畑の手伝いをしてから村長さんのお宅をたずねた。
昨日言っておいたおかげか、村長さんはすでに手元に鍵を用意してくれていたみたいだ。またお小言を貰いつつも鍵をありがたく頂戴して、私は図書館に向かって駆けた。
「昨日のは私がそういう風に読んじゃっただけかもしれないからね。他の本を読んだら結構違うかも」
1日挟んだことで私は多少冷静に考えられるようになった。一冊読んだ程度で分かった気になるのは駄目だと思ったのだ。
輪廻転生は聞いたことくらいはあったが、いくらなんでもニチアサの世界に転生するわけがない。
昨日読んだ本の近くから、私は参考になりそうな本を選んでいく。今日は早めに来たし、数冊くらいなら読めそうだ。
良さげな本を読書机に運び終えた私は、さっそく読み始める。まずは“光の国”と書かれた一冊だ。
「――光の国はクソである」
パタン。思わず本を閉じて目頭を揉む。おかしいな。誤読するほど私の視力は悪くないはずなのだが。
私はそんなはずはない、単なる比喩と考え、再度続きを読んだ。
「――もう一度書こう。光の国はクソである」
もう一度書いてあった!
なんという念の押しようだ。よくよく見れば、そこから先も延々と光の国をなじる言葉が羅列しているのが分かる。
1冊目からなんという高カロリーな本を選んでしまったのだろうか。正直言って続きを読むかどうか悩む。しかし、今は少しでも情報が欲しいし、私は悩んだ末にちゃんと読むことにした。
「…………」
1時間以上かけて読了した結果、光の国がクソであること以外何も分からなかった。ここまで批判と非難の言葉を書き綴れるのは一種の芸術と言えるほどの熱量だった。
光の国の住人は、やれ能天気だ、考えなしだ。光の女王は自己中心的だと、そういった文字がひたすら続いていた。まだ1冊目だというのに、すでに私は疲労感に囚われている。
……次の読もう。
平積みした本の一番上を手に取る。題名は“闇と光、そして地球”だ。
そう地球の名前があるのだ。これを見つけた時は、前世のことを思い出して心臓がドキリとしたけど、私は覚悟を決めて本を開いた。
内容のほとんどは、闇と光の国に集中していた。
闇と光の国には妖精がおり、2つの世界を行き来している。この動きが自然の力を補い、循環させて、世界のバランスを保っている。
そして、闇の世界の住民は闇の気を多く持ち、光の住民は逆に光の気を多く持つ。地球は光と闇を支える支柱のような役割を果たしていて、地球には人間という存在が沢山いる、と記されていた。
著者自身地球に詳しくないのか、あまり詳しい内容は載っていなかった。
「……まあ、どのみちきっと私がいた日本とは違うんだろうな」
もし帰れるのなら帰りたいと思わないでもない。でも、今の私は闇の国の住人ルナーラ・クライデスだ。それ以上でもそれ以下でもない。
最後、3冊目は“光の戦士”というタイトルだ。
ある意味ではこれが本命かもしれない。私は腰を据えて、文章を目で追った。
伝説の戦士“ラブティア”。彼女たちは妖精に愛された存在で、不思議な道具とともに出現する。超常的な力を持っており、闇の国の精鋭でも太刀打ちするのがやっとで、勝利できる可能性はほぼなかった。ラブティアの数は3人であると伝わっている。
「不思議な道具、これは販促用の玩具ってことなのかな?」
前世、子どもの頃見ていた女児向けアニメでは、そういったアイテムを使って変身していた。自分も幾つかねだって買ってもらった記憶がある。
「やっぱりそういう世界なのかな?」
いつか、闇の国はラブティアたちにコテンパンにされてしまうのではないのか。そう不安に思う。
でも、私には闇の国の人たちが光の国を攻め込む情景が浮かばない。そんなことをする人たちでもないし、こうやって伝説だけが残っているなら、もう全て終わった話で今の私たちには関係ないのかもしれない。
私はそう結論づけて、一旦ラブティアたちのことは忘れることにした。
最近また、母の畑の調子が悪いのだ。それだけでなく、他の畑でも収量が落ちているらしい。図書館に来たかったのは世界のことを知りたいのもあったが、農業関係で役に立つ知識がないか調べる目的もあったのだ。
今日はもういい時間だし、明日読む本だけを見繕ってから帰宅することにした。明日探す手間が省けて読む時間がいっぱい取れる、いいアイデアと思う。
「……“妖精と畑”? これって本当に農耕系なの? 童話とかじゃないの?」
肥料や図鑑、害虫対策などの本に混ざって、そんなタイトルの本を見付けた。何でここにあるのか疑問に思うが小説関係は今は興味がないし、変に動かして村長さんに怒られるのも嫌だ。私は中身も見ずにその本を棚に戻した。
「ある程度読みたい本も見付けたし、今日はもう帰ろ! ええと、本は全部戻したし、机も椅子も綺麗にしたし、大丈夫かな?」
私は不備がないか再度確認してから、図書館の扉を閉めた。
ルナーラ「ひどいよ村長さん!」
村長「今回わしなんもしとらんよ」
ルナーラ「たしかに!」




