第3話 勉強家の少女ルナーラ 5歳
とうとう、この日がやってきた。
苦節2年。私と村長さんとの熱く長いバトルもここで決着を迎えた。3歳の時に図書館にいきたいと訴えて拒否られてから、実に長かった。
村長さんが拒否した理由はもちろん年齢だ。
当然である。3歳の子どもが図書館に来たいと言っても、ただの興味本位で絵本もない図書館に来ても読めるはずがないのだ。生前の私もきっと同じように考えることであろう。だが、私は違う。私は本がちゃんと読みたいのだ。
でも、妥協が必要なのも事実だ。3歳の子どもが本をスラスラ読めるのはどう考えてもおかしい。だから私はこの2年、頑張って文字を覚えようとする良い子ちゃん戦法で村長さんを説得することにした。
そして、村長さんを説き伏せ、村長さんの用意したテストに合格したらという条件を見事勝ち取ったのだ。5歳の誕生日を迎える直前、私はテストに余裕で合格した。文系女子短大卒舐めないでほしい。
「お前さんの強情さにはほとほと呆れたよ。そんなに図書館に入りたいものなのか?」
ネズミ老人である村長が呆れた口調で私に語りかける。村長さんの手にはすでに図書館の鍵が握られていた。
「本を汚したら出禁じゃからな?」
「もー、分かってますよ村長さん」
村長さん先導で私たちは図書館へ向かう。
村長宅の裏には村一番の大きさを誇る巨木がそびえ立っている。図書館はその根元内部に存在しており、どうやって共存しているのかさっぱりだが、凄く異世界風味で興奮する。
……わー、やっとこの国が闇の国とかいう名前なのか分かるのかな?
村長さんは図書館の厚い扉に鍵を差し込み、カチャリと音を立てて開錠した。待ちに待った図書館に入る。
古い紙と生きた木の匂いが、私の鼻腔に充満する。
「ほれ、ここが図書館じゃ。満足したか?」
まだ何も読んでないよ村長さん。
「この世界のこととか分かる本はあるんですか?」
「ルナーラ。お前さん、本当に本が読みたかったのか?」
やっぱり村長さんは、この期に及んでまだ私を疑っていたらしい。ずっと本が読みたいって言っていたのにひどい村長さんだ。
「ずっと前から読みたいって言ってたじゃないですか!」
口先を尖らせて拗ねる私に村長さんは苦笑する。
「うーむ。しかし世界のことが分かるか。なら、まずは闇の聖者さまの伝説を読むとよかろう」
これじゃ、と村長さんはとある棚から、しっかりと装丁された一冊の本を取り出してくれた。
“闇の聖者の伝説”とそのままの題名が書かれている。
「ありがとうございます!」
「絶対に汚してはならぬぞ。それと遅くなる前に帰ること、本は元あった場所に戻すこと、鍵は閉めて帰るときにわしに返しに来ること。これが―――」
「できなかったら出禁ですよね? ちゃんと分かってますよ」
村長さんはその後も何度も汚しては駄目だと念押ししてから先に帰った。
村長さんを見送った後、私は細く短い息を吐いてから、選んでもらった本を抱えて近くの読書机に移動した。大人サイズなので、本を机に乗せるのも、椅子に登るのも一仕事だ。
椅子の座面で膝立ちになる。
「結構分厚いし、読み切るのも時間かかりそうだな」
私はその厚紙で装丁された本を手で開けた。中の文字を見ると、意外にも書かれている文字は大きく、これなら頑張れば1日で読み切れそうな文字量だった。
さっそく冒頭を読むと、どうやら闇の国は大昔、厄災に見舞われて、ひどく荒廃してしまった時期があるようだ。
「それで闇の国の人たちは光の国ライトパレスに侵攻。へー、光の国ってのもあるんだ」
荒廃した闇の国が、何故光の国に攻め込むのか理由は判然としない。けど、本の内容によれば、序盤こそ優勢だった闇の国の軍勢は、途中から劣勢に陥ったようだ。
「光の国にて伝説の戦士“ラブティア”たちが誕生、闇の国の戦士たちはまたたく間にやられた―――」
その一文を読んだ瞬間、私はゆっくりと目を閉じてから、深く考え込んだ。
闇の国が光の国に侵攻。その後、光の国に伝説の戦士が現れ、闇の国を撃退。これって、
「ニチアサじゃん!」
なんだよラブティアって。まんまプ◯キュアじゃん!
そんなはずはない。嘘だと思いながらも、私はひとまず続きを読むことにした。
敗北し闇の国に逃げ帰った軍勢だが、その後もラブティアたちに懸命に抵抗を続けるも成果はなく、荒廃したままの闇の国は滅びかける。しかし、そこに闇の聖者さまが現れ、奇跡の御業を使って闇の国は救われた。闇の聖者さまの名前は“――ダークネス”。書は、そこで終了していた。
私は読み終わった伝説を静かに閉じる。
「私の故郷、ニチアサ世界の敵側じゃん」
予想外の事実。全くもって信じられない。あんなに優しい村の皆が、光の国に攻め込みとか考えられない。いや、昔の話だし、聖者さまに助けられて穏やかになったのかも知れないけど。
そうやって頭の中でぐるぐると思考していると、気付けば、すでに窓の外が白んでいた。思いのほか時間がたっていたようだ。そろそろ帰らないといけない。
私は後ろ髪を引かれつつも、本を棚に戻し、机や椅子を整えてから、図書館の鍵を閉めた。ちゃんと村長さんにお礼を言って、鍵を返す。
明日もお願いしますと言ったら、意外そうな顔をされた。
村長さん、いい加減私を信じてほしいよ。
ルナーラ「ひどいよ村長さん!」
村長「すまんすまん」




