第41話 第七話?「お菓子な子どもと遭遇 ルクス、新たなる力」④
Side:日森葵
ケーキバイキングのお店には、販売スペースも併設されていた。
これなら大丈夫そうだ。
バイキングの方も今は空いている様子だったので、私たちは先にバイキングで休憩することにした。
自分たちが楽しみたいという欲求もあったが、子どもたちもケーキやお茶を楽しめば多少は落ち着いてくれるだろうと考えたのだ。
「テーブルでそのまま注文するんですね。この30分の短いコースでいきましょう!」
オープン記念限定の店舗と聞いていたが、思ったより高級志向の内装だった。
受付役に人数を告げ、テーブルまで案内してもらう。上品な飾り付けに、子どもたちはおっかなびっくりといった様子で席に座った。
「買い物はおやつのケーキを食べてからにしましょう。ぶつかったお詫びだから、好きなものを選んでちょうだい」
私の言葉に、子どもたちは小さな声だったがお礼を言ってくれた。
少しやんちゃな子たちだと思っていたけど、ちゃんと行儀よくできるようだ。親御さんがしっかりしているのだろう。
「……んもっ」
アカリさんの鞄が暴れている。
きっとランランだ。ケーキバイキングに来たはいいものの、自分は除け者にされていることに気づいたのだろう。
……残念だけど、動くぬいぐるみは外には出せないわ。
最初から分かっていたことだ。衆目の前で、光の精霊ランランを出すわけにはいかないのだ。
……人の姿に変身すればいいのだけれど、気づいてないみたいなのよね。
頭の中をケーキが支配して他のことを考えられていないのだ。
あとでランランたち用に私たちもケーキを買ってあげましょうか。
鞄の中で絶望に打ちひしがれるランランを尻目に、私たちは思い思いの注文を決め、ウェイターを呼んで注文を伝えた。
アカリさんがモンブランにミルクティー。アンナさんはイチゴのタルトにダージリン。私がチーズケーキにオレンジペコ。子どもたちはショートケーキにオレンジジュースだった。
元々長居するつもりもない。追加注文の予定もないのでウェイターにメニューを返しておく。
そして、ケーキを待つ間、テーブルが無言に包まれる。
さてどうしたものか、と考える。
アカリさんたちと雑談をし始めては、子どもたちを放置することになる。しかし、子どもたちにあれこれ聞いても、彼らの心が休まらないだろう。
ただ、無言というのも気まずい。
私が色々思案していると、唐突にアンナさんが子どもたちと話し始めた。
年はいくつか、兄弟か、好きな食べ物は何か。基本的には子どもたち自身のことを聞き、徐々にその質問は子どもたちの好きなことへと移っていった。
「カブトムシはまだ時期が早いね。今の時期なら、そうだね。そろそろコクワガタが出てくるはずだ。公園の木陰、木の皮の隙間に隠れていることが多いよ」
いつの間にか、アンナさんの話を子どもたちは興味深く聞いている。上手いな、と私は素直に感心した。
アンナさんが子どもたちの相手をしてくれたおかげで、ケーキが到着するまでの間、気まずい空気を作らずに済んだ。
皆でケーキと飲み物を楽しむ。
子どもたちも夢中でケーキを食べ、完食して満足してくれたようだ。そして、食べ終わると、次第にそわそわと入り口付近にあるケーキの販売コーナーを見始めた。
流石にこれ以上は待たせられないか。私たちも早めにケーキを食べ終え、子どもたちを連れて販売コーナーに足を向けた。
ショーケースに目いっぱい顔を近づけて、やんちゃそうな子どもが、ポツリと呟く。
「トキ婆のケーキ、あるかなあ」
「トキ婆のケーキはないだろ」
どうやら、2人はそのトキ婆という人のケーキが欲しいようだ。なるほど、これは困った。
そんな個人が作ったケーキはないだろうし、どんなケーキかも分からない。
「そのトキお婆さんのケーキっていうのは、どんなケーキなの?」
アカリさんが問いかけるが、返ってきた答えは、とても美味しいらしいという要領を得ないものだった。
食べたことすらないそうだ。これは想像以上に難題になった。
「世界中のケーキがあるって、テレビでやってたからさ」
そのトキ婆という人のケーキもあるかもと思ったのだろう。2人も本当にあるとは思っていなかったようだが、できれば似たものを見つけてやりたい。
「トキお婆さんがどうやって作るか、聞いたことはあるかい?」
アンナさんが子どもたちに聞く。先ほど会話していたおかげもあってか、2人とも素直に答えてくれた。
「なるほど。凝っておらず、焼いて作る。食べきれなくて余ったものは、次の日フレンチトーストみたいな状態で出していた、か―――」
すごい。アンナさんがかなりの情報を聞き出してくれた。私やアカリさんでは、こんなにうまくはいかなかったはずだ。
「これはもう推測の域を出ないが、パウンドケーキかもしれない。シフォンケーキやスポンジケーキの可能性もあるが、食べきれないほど重いケーキならパウンドケーキが一番可能性が高い」
アンナさんの言葉を契機に、私たちがパウンドケーキのことを子どもたちに教えると、どうやらそれらしいということが分かった。
決め手は、そのトキお婆さんのお家に、パウンドケーキ用に使えそうな型の器があったことを子どもたちが思い出してくれたからだ。
アカリさんが店員に声をかける。
「すみません。パウンドケーキはありますか?」
「ご用意はございますが、ドライフルーツを混ぜたものしかありません。それでよろしければ」
「フルーツ入りらしいけど、大丈夫かしら?」
子どもたちはしばらく悩んでいたが、最後には納得した。小さな財布を取り出して、個包装されたパウンドケーキを一切れだけ購入する。
子どもたちは互いに顔を見合わせて笑っていた。
……その小さなケーキは、トキお婆さんのケーキではないかもしれないけど、君たちの心が籠もった素敵なプレゼントだわ。もらった人は、きっと喜んでくれるはずよ。
迷子の子どもを連れ回すなんて褒められた行為ではない。だが、この2人のやり遂げた表情を見た私には、これが間違ったこととは思えなかった。
「ひとまず、これで一件落着ですね。とりあえず迷子センターかインフォメーションのところにいきますか?」
アカリさんがそう言い、私が頷こうとした直後だった。
モール内にけたたましい警報音が鳴り響いた。
突然の音に、客や従業員たちも騒然とする。
「何が起こったの?」
状況を飲み込もうと、私たちは辺りを見回すが、何も分からない。が、そのときだった。
『――マブイナー!』
遠くから、聞き慣れた怪物の咆哮が耳に届いた。まさか、という思いが胸中を支配する。
「……おい、イエチェー。お前、ズボンの後ろ破けてるぞ!」
「……あ、ヤベ、入れてた種落としたかも!」
「……もういい、逃げるぞ!」
背後で子どもたちが何やら喋っていた気がする。だが、警報音とマブイナーの叫びに気を取られている間に、子どもたちはいつの間にか消えていた。
「うそ、あの子たちがいないわ!」
『マブイナー!』
怪物の声が大きくなっている。思ったより近い。
早くしないと、怪我人が出てしまう。しかし、あの子どもたちのことも心配だった。
「どうすれば……」
「ひとまずマブイナーの対処が先決だ、葵君」
「葵さん、みんなが逃げる時間を稼がないと!」
「――そうね。分かったわ。行きましょう!」
私たちは、戦いへと向かうことを選んだ。
……どうかあの子たちも無事に避難してくれていますように。
警報を聞いて逃げていく群衆に逆らいながら、私は心の中でそう祈った。
懐にしまっていたラブティアホンを手に取る。
次回、決着!




