第39話 第七話?「お菓子な子どもと遭遇 ルクス、新たなる力」②
Side:光ヶ丘アンナ
星明かりが綺麗な夜。
爺やにホットミルクを淹れてもらった私は、自室でゆっくりくつろいでいた。
「クッキーもあれば良かったリリ」
「寝る前の間食はいけないな、リンリン君」
私の言葉でリンリン君もすぐ諦めたようで、それ以上ねだることもなく、大人しく小さなカップを傾けて中のミルクを飲んだ。
私も口をつけ、温かなミルクの香りを楽しむ。
「しかし、昼間のアレには驚かされたよ」
「アレ? “虹のコフレ”のことリリ?」
ああ、と頷く。今思い出しても理解に苦しむ出来事だった。
――昼休み。
ゴールデンウィークの予定を決めた後、私たちはコフレに3匹の妖精を収めた。
その直後、コフレに変化が現れた。
コフレの内蓋。元は白猫の意匠があった部分に、突如として本物の猫の顔が生えてきたのだ。
「ケーシィさまララ!」
最初に反応したのはランラン君だった。
「きっと妖精の数が増えたから、光の大妖精さまが力を取り戻し始めたんだリリ」
「ええっ! “虹のコフレ”って大妖精さまだったの!?」
ランラン君たちの言葉にアカリ君が驚く。
「言ってなかったララ?」
「言ってないよ! そんな大事なことはもっと早く教えてよ。私、この前チャンプルー作るときに豆腐の水切りでコフレを重し代わりにしちゃったよ」
「何をやってるんだララ!」
「でも、ランランも美味しいって喜んでたじゃん!」
「2人とも話が逸れてるわ」
閑話休題。皆でコフレを囲み、観察する。
「目を瞑ってるわね。眠ってるのかしら?」
「まだ妖精の数が少ないんだリリ。きっとあと何匹か集めたら起きてくれるリリ」
「光の大妖精さまは不思議な力を持ってるララ。きっと妖精集めの力になってくれるララよ」
「葵さん、ふにふにしてます。可愛い」
「ふふ。そうね。何か食べたりするのかしら?」
アカリ君と葵君が、内蓋に生えた猫を愛でている。
……注目するのはそこではないと思うぞ2人とも!
宝石箱に猫の生首がくっついている時点でおかしいとは思わないのか。デフォルメされてはいるが、かなり奇異な見た目をしている。
……そもそもその顔の大きさでは蓋が閉まらないぞ。押し込むのか! 押し込む気なのかアカリ君!?
コフレと猫顔の体積が釣り合っていない。このまま閉じれば確実に潰れるはずだ。
「2人とも、もっと気にするべき点があると思うのだがね?」
「あ、そうですよね。――大妖精さま、この前は水切りに使ってごめんなさいでした」
アカリ君。謝れて偉いが、そういうことではないのだ。
「そうよアカリさん。不衛生だわ」
葵君はたまに明後日な方向に思考が飛ぶ。まともなのは私だけのようだ。
私以外の4人は、その後も和気あいあいと頓珍漢な会話を続けていった。
――それと、コフレは何故か普通に閉まった。
光の大妖精が“虹のコフレ”だった事実には、今も戸惑いが残っている。
他の妖精には、姿形を変えるような動きは見られていないので、大妖精だけの特殊な能力なのかもしれない。
自室。
ミルクを飲んで寝落ちしてしまったリンリン君を抱え、小型のベッドに入れてやる。
私は星を眺めようと窓辺に立った。
「……闇の国がコフレと妖精を欲している理由は何なんだろうね」
妖精の力は絶大だ。
安易に考えれば、何かしら良からぬことを行おうとしていると推測できる。だが、それにしては、
「私たちが戦っている闇の戦士が4人だけというのは、腑に落ちないね」
闇の国側にも大規模に行動できない何かがあるのか。それとも、あの人数で十分と考えているのか。
「十分と言えば、十分かもしれないね」
思い出すのは、あの仮面を着けた女戦士のことだ。頭から狼耳を生やした彼女。
埋めがたいほどの実力差だった。
ラブティア全員で戦ったというのに、あの時の彼女は終始余裕そうで、終いには私たちの攻撃を誘い、フォトンレイを跳ね返して見せた。
今振り返っても身震いする光景だ。
彼女が本気で戦えば、今の私たちでは到底太刀打ちできまい。
「彼女が前に出さえすればそれで十分だろう。でも、彼女が能動的に動いている節は見られない。一体何を考えているのか―――」
まるで手を抜いて、他の闇の戦士を戦わせているようだ。
彼女が本気になったとき、それは私たちの敗北の瞬間なのかもしれない。
◯◯◯
Side:乙女川アカリ
「いらっしゃいませー!」
ゴールデンウィーク終盤。
私はパパの食堂の人気看板娘として元気に働いていた。明日の葵さんたちとのショッピングに備えて、お小遣いをモリモリ稼いでいるのだ。
「お、元看板娘じゃないか。今日はルナちゃんはいないのかい?」
お店に入ってきた常連の田中さんにからかわれる。
「もー、みんな同じこと言って、ひどいですよー。私はまだ看板娘です。奥が空いてるのでどうぞ」
久々にちゃんと食堂を手伝って分かったけど、最近お店が忙しい理由は完全に月さんのせいだった。
お客さんが皆、入ってきた途端に月さんを探してキョロキョロするのだ。あからさますぎる。
終いには私を見てため息を吐くのだから、ひどいもんだ。
……私だってまだ月さんとは一回しか会ってないのに。みんなずるいよ、きっと月さんとおしゃべりしまくってるんだ!
座席に座った田中さんの前に、私はお冷とおしぼりを置く。
田中さんはありがとうと言い、続けて、
「で、ルナちゃんは休み?」
どうやら田中さんは月さんにメロメロらしい。
「そうですよ。ゴールデンウィークは看板娘の私がいるから、ゆっくりしてもらおうってパパが休みにしたんです」
「いやあ、アカリちゃんもかわいいけど、こんな小さい時から見てるからか、うちの子を見てる感覚になっちまうんだよ」
田中さんは親指と人さし指で小さく隙間を作る仕草をしていた。田中さんの中では、昔の私は豆粒サイズだったらしい。
しかし、田中さん、その発言は完全にセクハラだ。
ご飯目当てではなく、新看板娘の月さんが目的だと白状してしまっている。
月さんが素敵なのは事実だ。関係の浅い私でも分かる。
月さんには色香がある。イヤらしいという意味ではない。大人びているのだ。
まるで人生2回目といった感じで、非常に落ち着きがあって理知的。それでいて、時折見せる影のある笑みがミステリアスで、常連のおじちゃんたちを惑わしているのだ。
「月さんに告げ口してほしくなかったら、いっぱい注文してくださいね」
「へへ、甘いなアカリちゃん。口の軽い俺がルナちゃん相手に何も言ってないわけないだろう?」
もう手遅れのようだ。私の中で田中さんの評価がガラガラと崩れていく。
「いつものセットで頼むよ。味玉は2つね」
月さんの魔力に首ったけの田中さんからオーダーを聞いた私は、伝票に書き込んでパパに渡した。
「チャーハンとラーメンのセット、味玉2つだよ」
「あいよ。アカリ、こっちの料理を運んでくれ、3番さんな」
はーい、と私は応じて焼肉定食を3番テーブルに持っていく。
……私も月さんに会いたいなあ。
正直に言えば私も月さんに首ったけだ。年上のかっこいいお姉さんに憧れてしまっている。
その後も私は食堂で働きまくり、パパからいっぱいお小遣いをもらった。
さあ、明日はいよいよ葵さんたちと遊ぶ日だ。
……楽しみだなあ。




