第38話 第七話?「お菓子な子どもと遭遇 ルクス、新たなる力」①
Side:乙女川アカリ
休み明け。月曜日の昼休み。
光ヶ丘中学校、科学研究部の部室にて。
「ええ! アンナさんたち、妖精を2匹も捕まえてたんですか!?」
私は目を丸くした。
テーブルの上には、アンナさんと葵さんが見せてくれた虫かごがある。中には2匹の妖精がいた。
タヌキとキツネの妖精だ。
妖精は虫かごの中で、ゴロゴロと戯れている。
「ははは、そこまで驚いてくれるとはね。君にはサプライズのしがいがあるよ」
「実は昨日、アンナさんから呼び出されてね。リンリンが妖精を見つけたから協力してほしいって。丁度時間もあったから」
2人の言葉に私は愕然とする。昨日、私がマブイナーと怪人オッソと戦っている間、2人はそんなことをしていたとは。羨ましい!
だが、いい気になってもらっては困る。私にだって、2人に秘密にしていることがあるのだ。
私は鞄からコフレを取り出して、ある妖精を呼び出した。
「おや!」
「まあ!」
2人が驚いてくれたのを見て、私は鼻をフフンと鳴らす。
コフレから出てきた妖精は、アザラシの見た目をした妖精だった。
昨日、妖精が手元にいなくて慌てていた私の目の前に、奇跡的なタイミングで現れたのだ。おかげですぐ現場に戻れ、大きな被害もなく勝利することができた。
アザラシさんパワーでタコ型マブイナーをやっつけたのだ。
「びっくりララ! まさか1日で妖精を3匹も集められるなんて。やっぱりラブティアはすごいララ!」
「ランランたちも妖精をゲットしてたリリね。リンリンたちは何もなかったけど、大丈夫だったリリ?」
「実はマブイナーと熊の怪人と戦ってました。ランランが協力してくれたおかげで勝てたんですけど」
私の説明にアンナさんと葵さんが目を見開いた。
「ランラン君と2人で戦っていたのかい? そんな事態になっていたのなら私たちに連絡をくれればよかったものを」
「そうよ。無茶はいけないわ」
2人が言うのももっともだ。だけど、あの時は本当に慌てていたし、急いでいたのだ。
私は2人に頭を下げて詫びる。が、私も連絡と聞いて一つ思い出したことがあった。
「そういえば、昨日葵さんがくれたメッセージ、結局なんだったんですか? あとで見返したら取消になってて気になってたんですよ? 聞いてもはぐらかされるし」
「ああ、それはこの妖精のことだよ。私がアカリ君を驚かせようと言って、消させたんだ」
「そうだったんですね。私、てっきりゴールデンウィークの予定が決まったのかと思って気になってたんです!」
この前の博物館の遠足も、マブイナーが出てきたせいで全然満喫できなかった。ゴールデンウィークは絶対に邪魔されずに遊んで、みんなと仲良くなりたい!
「ゴールデンウィークは、一応最終日の午後なら空きができそうだわ。そこでいいのなら、だけど」
「私はいつでも構わないよ。妖精についてのレポートを書いているだけだしね」
「ホントですか! なら、ゴールデンウィーク最終日、みんなで遊びましょう! 場所はどこがいいですかね?」
「ランランは最近できたあそこのショッピングモールがいいララ! オープン記念限定で世界中のケーキが食べられるケーキバイキングをやってるララよ!」
「ショッピングモールかあ。駅前のバスで行けばそんなに時間もかからないし、丁度良さそうですね」
葵さんもアンナさんも異論はないようだ。
「じゃあゴールデンウィークの最終日。1時頃に駅前に集合しましょう! 夏服いっぱい買って、みんなでコーデ考えたりしましょうね!」
「それとケーキバイキングララよ」
アンナさんも葵さんもスタイルいいし、なんでも似合いそうだなあ。
「アカリ。ケーキバイキングも忘れてはダメララよ!」
ゴールデンウィークが今から楽しみだ。
「ケーキバイキング!!」
◯◯◯
「ゴールデンウィーク楽しみだなあ!」
放課後。
葵さんは部活と塾。アンナさんは家の用事があるそうで、特に予定もなかった私は、一直線に家路に着いた。
別の友だちと遊んでも良かったけど、ゴールデンウィークのためにもお小遣いは残しておきたかった。
この時間帯なら、パパやママは食堂の方だろう。そう思って、私は実家の食堂の扉を躊躇なく開けた。
「あ、すいません。いま準備中で―――」
店内。ちょうど真正面に立っていた人を見て、私は思わず見惚れてしまった。
スラリとした長身。ウルフカットにされたアッシュグレーの銀髪が印象的で、白く透き通った肌によく映える。目鼻立ちも整っており、ややツリ目がかった琥珀色の瞳は、まるで宝石のようだった。
見たこともないほどの美人が目の前に立っている。一瞬、入る店を間違えたかと思ってしまったが、美女が身につけているエプロンは間違いなくうちのやつだ。
ベージュ色に“超乙女食堂”の刺繍が入ったエプロン。美人が着れば、こんなエプロンでも最新のトレンドかと錯覚するのだから恐ろしいもんだ。
「あ、えと、その……」
何か言おうと口を開く。が、私は恥ずかしくて何を言っていいか分からなくなり、アワアワとすることしかできなかった。直後、
「おう、なんだアカリ。もう帰ってたのか?」
店の奥から、パパが顔を出してきた。
パパの顔を見た私は何とか調子を取り戻し、すぐパパに詰め寄る。
「パパ! あの人だれ!」
「あの人?」
「あのモデルの人だよ!?」
「モデルじゃねえよ。バイトの子だよ。前に言ったろ。新しくアルバイト雇ったって」
「あんな綺麗な人がこんなしょうもない店で働くわけないじゃん!」
「おいおい、しょうもないはひどいなあ。これでも10年以上家族を養ってる俺の城なんだぜ?」
頭を掻いて肩を竦めるパパ。
私はそういうことが言いたいんじゃないと憤慨し、なおも言葉を続けようとする。だが、それよりも早く、後ろから声をかけられた。
「私もここは良い店だと思いますよ。料理も美味しくて、店長さんも瑠璃子さんも良い方で、お客さんたちも気の良い人ばかりで」
鈴のような軽やかな声色。
振り返れば、あの爆美女が優しげな表情で私を見ていた。
今のパパとのやりとりを聞かれていたと思うと顔が熱くなる。それに、そんなにパパたちの店を褒めてもらえるなんて嬉しい。
「ああ、ルナちゃん。こいつがうちの娘のアカリだ」
「乙女川アカリです」
「はじめまして。ここでアルバイトさせてもらっている暗井月です。よろしくね」
ニッコリと微笑む月さん。
絶対良い人だ。すごいドキドキする。こんな素敵な人がうちの店で働いていたなんて、全然気づかなかった。いつもは早く帰ってきてもいなかったのに。
「ルナちゃんが来てくれるようになってから、どんどん忙しくなってよ。今日は無理言って少し残ってもらってたんだ」
そうだったんだ。今日は運が良かったのか。
「ルナちゃん。今日はありがとな。これ、炒飯と野菜炒め包んどいたから、持って帰ってくれ」
「いいんですか? ありがとうございます」
「……うう、パパはなんでそんな平気に喋れるの?」
「おいおい、俺はママ一筋だぜ?」
パパは微笑すると、唐突に昔話を始めた。
「――そう。あれは俺がまだ17の頃だ。湾岸の隼として負け知らずだった俺は、瑠璃色のヤツに負けて、それからソイツを見かける度に勝負を挑んでいたんだが―――」
パパの聞き飽きた惚気話が始まってしまったので、私は月さんに勇気を出して話しかけた。
「あの、月さん。良かったらSNS教えてください!」
「ごめんね。私、ケータイ持ってなくて」
「う、そうだったんですね」
葵さんもアンナさんも持ってはいたのに、月さんは持ってすらいなかった。
住む世界が違う人は違うなあ、と感動してしまう。
……でもこれじゃあ仲良くなれないかも。
せっかくこんな綺麗な人と知り合いになれたのに。
「じゃあ、機会があったら休みの日にでもお茶とか行きませんか?」
「そして俺はソイツを無理やり停めさせて、顔を見せるよう迫ったんだ。そしたら中から出てきたのが女でよ。俺は思わず見惚れちまって、何を言っていいか分から――、ってアカリ、あんまりルナちゃんを困らせるなよ」
「困らせてないもん!」
困らせてないよね?
「ふふ、大丈夫よ。機会があったら行きましょう」
うわー、笑った顔も綺麗だなあ。
その後、月さんは仕事を終えると、私と少しだけ話をしてから帰って行った。後ろ姿も凛々しさがあって綺麗だった。
「いいなあ。私も将来はママみたいになりたいって思ってたけど、月さんみたいなちょっとミステリアスな美人にも憧れちゃうよー」
いや無理だろ、とパパに笑われてしまった。
あとでママに言いつけてやる!
『……にゃぁ』




