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第37話 休日できない女幹部withオッソ


Side:乙女川アカリ


 4月後半の日曜日。

 

 朝からパパの食堂を手伝っていた私は、夜営業のための買い出しを頼まれた。

 お釣りは好きに使っていいらしい。


「アカリ。ホットケーキが食べたいララ!」


 背中に背負ったナップサックから顔を覗かせるランランが何やら主張する。紐が肩に食い込むから、あまりゴソゴソ動かないでほしい。

 私のお小遣いの使い道を決めようとは、いい度胸だ。


「うーん。夜は手伝いもいらないって言ってたし、オヤツにしてゆっくり宿題するのもアリかな」


 卵と牛乳は家にあるはずだし、ホットケーキの粉だけ買ったら作れる。予算的にも問題ない。


 居候であるランランの要望に従うのは、なんか癪だけど、ホットケーキは私も好きだし今日は見逃してあげよう。


「じゃあお釣りはホットケーキ代に使おっか」


「おほ、今から待ち遠しいララ」


「ランランも手伝ってよね。働かざる者食うべからずだよ?」


「あいあいさーララ!」


 こういう時だけ調子がいい。ランランのケーキ好きにも困ったものだ。


 肩を竦めたい気持ちを抑え、私はスーパーの前でパパから渡された買い出しメモを取り出した。


「……ええと、キャベツ3玉と玉ねぎ4個、ニラ1束に、あとはもやし2パック」


 今日は炒め物がよく出ていた。それの買い足しだろう。


「アカリ。ラブティアの聖具に通知が来てるララよ」


 ナップサックに仕舞っていたラブティアホンの通知を、ランランが小声で教えてくれる。


「そうなの? 誰から?」


「アオイからララ」


 アオイさんなら、きっとゴールデンウィークの予定についてだ。どこかに遊びに行けたらいいねと以前から話していたけど、その予定が分かったのかもしれない。


 さっそく内容を確かめようと、ランランにラブティアホンを出すよう頼む。だが、その時だった。


「きゃあ――――っ!!」


 突然、甲高い女性の叫び声が、スーパーの駐車場に響き渡る。

 加えて、悲鳴は一つだけでは終わらなかった。


「おい、なんだあれは!?」


 老若男女問わず、周辺にいた全員が息を呑み、ある方向にくぎ付けになる。


 彼らの視線の先には、巨大なタコの怪物が現れていたのだ。


 たこ焼きからタコ足が伸びた変なフォルム。全身に根と蔓を生やした珍妙な姿。しかし、その威圧感は本物の化け物だった。


『マブイナー!!』


 駐車場の奥で、怪物が咆哮し、その触手を振り回している。


 周辺にいた買い物客や通行人は、我先にと逃げ始めていた。


「マブイナー!? こんな場所になんで!?」


「まずいララ! コフレがない。アカリ、家に置きっぱなしララよ!?」


 ヤバい。

 すぐ終わるおつかいだからって油断していた。このままじゃ、マブイナーが暴れて周りの人や物に被害が出ちゃう!

 

『マブイナー!!』


 マブイナーが触手を振り回し、駐車場内で暴れ始めていた。


 8本の触手を自在に操り、どんどん周囲の車を掴んでは別の場所に移す。その上、マブイナーは周辺から邪魔なものを退けると、そのまま興奮したような雰囲気で触手を乱舞させ始めたのだ。危険極まりない!


「ランラン! 急いでコフレを取りに戻ろう!」


 私はマブイナーを一刻も早く止めるため、自宅へと急行した。


    ◯◯◯


Side:ルナーラ


 マブイナーが眼下で暴れている。


 近くのビルの屋上から、それを見下ろす私は、隣にいる小熊姿のオッソが不満そうに声を漏らしたのを聞いた。


「なあルナーラ。もっと派手に暴れさせたらダメなん? マブイナー、すごい窮屈そうなんやけど?」


「ダメだから! 他の人が逃げ終わって、あとラブティアが出て来てからにしなさい」


「ええ、でもラブティアの子もどっか行ったんやけど?」


 私は頭を抱えたい気持ちだった。


 オッソの“たこやきさんの触手捕獲大作戦”は、また卑怯極まりないものだった。なんとラブティアを触手で捕らえて、動けない状態にして攻撃するというのだ。


 砂浜の反省はどこいった。もっと正々堂々戦いなさい。

 

 ……いや、正々堂々戦って怪我をされても困る!


 これが正解なのか? 絶対違うよね?


 ……いったい何が正解なんだ! オッソもよくそんな作戦を思いつくよ。もっと正攻法な作戦にしてよ。私もちゃんと手伝うんだから!


 とりあえず、市街地の真ん中でマブイナーを出すからには、なるべく被害を最小限にする必要がある。

 他の人を怪我させない。物をむやみに壊さない。この条件で、私は戦うことを許可した。


 だが、その肝心のラブティアがどこかへ走り去ってしまったせいで、車などを移動し終えて手持ち無沙汰になったマブイナーは、駐車場で踊り狂う怪物になっている。

 

 ……ラブティア! 早く来てえっ!


 私は早くこの事態を終わらせたい一心で祈った。スーパーで買った食材も早く冷蔵庫にしまいたいのだ。


「来た! よっしゃ行くぜえ!!」


 下を覗き込んでいたオッソは、自身にオトナ化の魔法をかけて、そのまま飛び降りた。


「もう、ほんとに大丈夫なの?」


 今日はただの買い出しだったから、仮面を持ってきていないのだ。できれば穏便に済んでほしい。


    ◯◯◯


 戦場に舞い戻ったティアルクスは、一直線にマブイナーに突撃していた。すでに戦闘を開始している。

 

 消えてからわずか数分での登場。何をしていたのかは知らないが、早く来てくれたのはありがたい。


 このままオッソの戦いぶりを眺めよう。

 

 飛び降りたオッソは、そのまま音を立てて地面に着地。めり込んだアスファルトから、むくりと立ち上がる。


 そして、砕けたアスファルトの塊を持ち上げると、無言でティアルクスめがけて投げた。


 ビュンっ!


 オッソが投げたアスファルトが、一瞬でルクスの耳横を掠める。


 背後から来た不意の攻撃で、ルクスの意識は咄嗟に後ろに逸れてしまう。

 マブイナーはその瞬間を見逃さなかった。すぐさま触手を使って、ルクスを拘束してみせたのだ。


「背後からの音と気配で脅威を見せつける。動揺した瞬間に、マブイナーが捕まえる、か」


 上手い連携だ。事前に決めていたわけでもないだろうに、必要最低限の動きで捕獲作戦をやり遂げている。


 ……うーん。でもこのあと捕まえたルクスをボコスカ殴るつもりなんだよね?


 教育上、だいぶよろしくない。殴るなとは言わないが、やりすぎはよくない。駄目だと思った時は、殺気を飛ばして止めよう。この距離で、ちゃんと届くかな。


 私は少しばかり不安を募らせながらも、眼下の戦いを見守る。


 丁度、オッソは拘束したルクスに手をかけようとしていた。

 だが、


「あれは、光の精霊」


 1人の青年が、オッソの前に立ちはだかった。

 あれは以前、砂浜で私に攻撃を仕掛けてきた光の国の住人だ。


 光国真拳(こうこくしんけん)の使い手ランラン。なかなかの実力者だったけど、パワータイプのオッソでは少し荷が重いかもしれない。


 ……オッソって最後は力技でどうにかしようとするしなあ。


 オッソはランランとの戦闘に入った。

 両の爪で引き裂こうと果敢に攻め込むオッソに対して、ランランは柔軟な動きでそれらをいなす。

 そして、オッソが息切れして攻撃が大振りになった瞬間、ランランはオッソの懐に入り、脇腹を肘鉄で弾いた。


 顔を少し歪めるオッソ。しかし、止まらなかった。そのまま、ランランを仕留めようと爪を振り下ろす。


 ランランはダッキングで爪をかわし、再び鋭い拳をオッソの脇腹に打ち込んだ。

 2度も同じ箇所を攻撃されたオッソは堪らず後退する。

 ランランが攻め手に回った。


「純粋に経験値の差かなあ。動き自体は型通りっぽいけど、巨漢のオッソ相手には効きそう」


 オッソも負けじと、噛みつきや頭突きで攻撃のレパートリーを増やしている。が、いかんせん術理のない動きなので容易に対処されていた。


 ……熊の体だと私の教えた型も使いづらいからなあ。


 オッソとランランがじっと睨み合う。一瞬の緊張の後、お互いが飛びかかった。


「なるほど。それが狙いか」


 突っ込んできたオッソの頭を踏み台にして、ランランはその奥にいたマブイナーめがけて更に跳んだ。


 ランランの飛び蹴りが、ルクスを拘束していたマブイナーの足に直撃。その衝撃で、ルクスは力ずくで拘束を解いた。


 そこからは、オッソが不利になる一方だった。


 ルクスがマブイナーをけちょんけちょんにし、ランランがオッソをヒットアンドアウェイで翻弄する。

 オッソもマブイナーも機動力がイマイチないせいで、俊敏な光側に有効打を与えられなかったのだ。


「最初は良かったけど、予定外のことにはまだ対処できないみたいだね。これは今後の課題かなあ」


 眼下でひときわ大きな光源が現れる。


 ラブティアのフォトンレイによって、タコ焼きのマブイナーが焼かれたのだ。

 光を見たオッソは勝ち目がないと判断したのか、ランランに牽制の一撃を放ってから退却していった。


 それを見届けた私は置いておいた買い物バッグを手に取り、屋上から降りる。膝で地面の衝撃を吸収し、そのまま全力で跳んだ。

 マブイナーがいた場所めがけて高速で直進し、地面に落ちたあるものをひょいと掴んで、その場を一瞬で離れる。


 ……今のならたぶんバレてないでしょ。


 私はオッソの匂いを追いかけた。


    ◯◯◯


 小熊姿のオッソは近くの路地裏で膝を抱えて座り込んでいた。


「こんなところで何してるの?」


「………」


 オッソはいじけてしまっている。


「今回は妖精を取り逃がしたわけでもないし、次戦う時の練習だと思えばいいよ」


 私がしゃがんで顔を近づけると、オッソは顔を背けてしまった。

 

「はいこれ」


「……あ、たこやきさん」


 私が差し出したガチャガチャの景品にオッソの表情が和らぐ。300円が惜しくて一応回収しておいたけど、どうやら正解だったらしい。


 たこやきさんを受け取ったオッソは、一度目尻を拭って鼻をすすると、いつものオッソの顔に戻った。


「ルナーラ。ありがと」


「どういたしまして。じゃあ帰ろっか」


「うん」


 私はオッソと手を繋ぎ、屋敷へと歩き出した。


「オッソ、誰かに見つかったらいけないから人間になっておきなよ?」


「タコさんウインナーいっぱい作ってくれたらええよ」


 先ほどまで見ていた、たこ焼きマブイナーのシルエットを思い出し、私はオッソの言葉に苦笑した。

 あれを見た後に、まだタコ型に拘るのか。


「しょうがないね。いっぱい作ってあげる」


 やたあ、とオッソはたこやきさんのフィギュア片手に喜んだ。





ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

ルナーラとオッソの休日?な休日、楽しんでいただけたでしょうか。


もし本作を少しでも面白いと思っていただけたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです!

皆さまの応援が、今後の執筆の大きな励みになります。


次回からはゴールデンウィーク編開始予定です。

引き続き『ニチアサ転生!』をよろしくお願いします!

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