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第32話 第五話? 「負けるな乙女 勝てよ乙女」


Side:日森葵


 闇の戦士ルナーラに敗北した私たちは、放課後アンナさんが予約した茶屋に来ていた。


 案内された個室の中で、誰も話さない。アカリさんもアンナさんも、座ったままうつむき黙っている。

 気まずい空気の中でただ時間が流れる。


 私は、ずっと頭の中でアカリさんの言葉を思い出していた。


 ――負けるのって、悔しいですね。


 私は、どうだろうか。


 今日の体育。私のチームは強かった。それなりに運動が得意な生徒でチームができ、私がアタッカーとして動くことでほぼ確実に勝てるチームになっていた。


 クラスでは簡単に1位になった。


 でも、アカリさんのチームには勝てなかった。

 否、正確に言えば勝てた。相手のミスで。


 私はアタッカーとして、一度もアカリさんの守備を突破できなかった。あまりにも白熱した攻防になったため、ミスをした相手チームの子は泣きそうになっていた。


 アカリさんや他のチームメイトに慰められる彼女を見た時、私は暗い感情を抱えた。


 私は、どうだろうか、と。

 私は、負けた時、どうなってしまうのだろうかと。


 私の人生は負けなしだ。

 一度も失敗したことがないわけではないけど、きちんと練習すれば大抵勝てた。

 だから、私は怖くなっていった。私は絶対越えられない壁にぶつかった時、どうなってしまうのか。


 挫折して、二度と立ち上がれないのではないかと。


 成長するにつれて、私が競争する相手のレベルもどんどん上がっていく。勝つために必要な努力も更に増えていく。


 もし、いつか負けて、挫折して、勝てなくなってしまったらと考えると、私の心は暗くなる一方だった。


 私は私の弱さが怖くて、周囲の期待を裏切るのが怖くて、一人で勝手に疲れていた。


 ――私は負けた時、立ち上がれる自信がなかった。


 だから、ラブティアとして戦うのが怖かった。


 妖精を集め、光の国を救う。そんな重大な使命を前に、私は役に立てなかった時、自分が折れてしまうのが怖かったのだ。だから、逃げようとした。


 でも、


「アカリさん」


 私は自分の手元に視線を落としたまま、アカリさんに声をかけた。


「……葵さん?」


「私、負けるのが怖かったの。足手まといになるのも、越えられない壁にぶつかるのも怖かった」


 自分がどうなるか分からなくて、怖かった。でも、


「今日、あれだけ強い人に負けて、妖精をとられて、やっと分かった。私って、こんなに負けず嫌いだったんだって―――」


「葵さん」


「ここに来るまでもずっと考えてた。次負けないためには、どうしたらいいのかって。どうやったら強くなれるんだろうって」


 アカリさんの顔を見る。少し曇っているけど、私が憧れた、あの時の太陽のままだ。


「アカリさん。私も、負けて悔しい。すごく、悔しいわ」


 負けるのは怖い。でもラブティアとして負けたままではいたくない。

 私のその言葉に、アカリさんの顔が晴れる。


「葵さん! 私も! 私もです! 今すっごく悔しくて、もうどうしたらいいんだろって考えすぎちゃって頭の中パンクしそうで! それでずっと考えこんじゃって!」


「ふふふ」


 アカリさんが堰(せき)を切ったように喋っていると、横にいたアンナさんが小さく笑みを漏らした。


「ああ、すまない。いや、皆、考えることは一緒だったんだと思うと、少しおかしくてね」


「皆って、アンナさんも?」


「ああ、負けてとても悔しいね。絶望的な実力差だった。でも、次こそは絶対勝ちたい。だから何がダメだったのかずっと考えていた。トライアル&エラーは、科学の基本だろう?」


 全然違う性質の人たちの集まりだと思っていたけど、私たちは意外な共通点があったらしい。


「ふ、つまり私たちは負けて会話をするのも忘れるくらい、負けず嫌いだったってわけね?」


「あはは、なんだかそう言われると、少し笑っちゃいますね」


 私たちは、顔を見合わせて笑い合った。


「もー、笑い事じゃないララ! みんな静かだから、ランランたちはどうしたらいいララか、心配でしょうがなかったんだララ! ランランたちの心配を返せララ!」


 鞄の中から、ずっと隠れていたランランたちが飛び出した。2人とも目尻に涙を溜めていた。


「リンリンは、みんなのこと信じていたリリよ」


「嘘をつくなララ! 一番半べそかいてたのはリンリンララ!」

 

 2人のやりとりに、私たちはまた笑い合う。


「さあ、茶屋に来たんだ。そろそろ注文をしよう。ここのわらび餅が私は好きでね。ぜんざいもおすすめだ」


 アンナさんの言葉を皮切りに、皆でワイワイとしながら注文を決めた。

 

 茶菓子とお抹茶を頼み、皆で自分たちのダメだったところを言い合う。あの動きがいけなかった、あそこでこうすれば良かった。次はこうすればいいんじゃないか、と。


 そして、次こそは勝とうと誓い合った。



 

 初めての敗北の味は少し苦かったけれど、私は、自分の新しい一面を知れたことに、少し安堵していた。





ランラン「このゼンザイ! 脳髄が痺れるほどの美味しさララ!」(ゴクゴク)


リンリン「わらび餅もフワフワで美味しいリリ!」(バクバク)


アカリ「この桜餅も美味しいですね」(パクパク)


葵「アカリさん、行儀が悪いわ」


アカリ「ええ、なんで私だけ!?」


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