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第30話 思案する女幹部


Side:ルナーラ


 温かな陽気の下。

 

 私は人気のない歩道を歩きながら、肩越しに光ヶ丘中学校と、その奥にある裏山を見た。


 私がラブティアたちとの戦闘から離脱して、まだ数分も経過していない。が、私が起こしたホワイトホールによる惨禍は、すでに跡形もなく消えていた。


 ……相変わらずすごい修復力。


 たぶん大丈夫だろうと思ってはいたけど、あれだけ滅茶苦茶にしたので、本当に直るか内心不安だったのだ。


 改めて、妖精という存在の規格外さを思い知る。あれだけのことを平然とできるのなら、54匹で闇と光の国を支えているのも納得だ。


 私は自分の右手で掴んだ光に視線を落とす。


『ぴえぇ』


 シマエナガに似た、光る妖精。


 苦節10年。やっと闇の国を救う希望を手に入れた。思わず、胸が熱くなる。



 そう、熱い。

 


 入れ物を持ってくるのを失念していたので、こうやって直接掴んでいるわけだけど、正直言ってヤバいくらいに熱い。アツアツの湯飲みを持っているみたいだ。


 ……妖精ってこんな感じなの!?


 クーちゃんはひんやり気持ちいい感じなのに!


 私は必死に気でガードしようとするけど、それでも滅茶苦茶熱い。マジで火傷しそう!


『くぅ! クク!』


『ぴ? ぴーぴ?』


 私の胸元から顔を出したクーちゃんが、激熱妖精に何か注意するように声をあげた。妖精側も反応して、そうすると徐々に妖精の発光量が落ちて、熱も穏やかなものになっていった。


 ……わざと熱くなってたの!?


 妖精は白熱球か何かか!


 原理はまったく分からないけど、悪戯されていたことを知って、私は妖精への憧れを少し見直したくなる。


 ……まあいいや。それよりも、この妖精をどうするか考えるのが先決だよね。


 私は左手に妖精を移し、ヒリヒリする右手をクーちゃんに治療してもらう。


『ぴっぴぴ』


 シマエナガは自分の羽を器用に使って、まるで詫びるような動きをした。本当に悪気はなかったらしい。ウソくさいけど。


「はあ。気をつけてね」


 私は吐息を漏らして、この妖精をどうするか考える。


 ……どこかで隠しておくのも手だけど、ダークネスがどうやって私たちを監視してるのか分からない以上、迂闊なことはできないよね。


 少なくとも監視方法への対策を講じない限りは、素直にダークネスに献上するのが最善だろう。


「あの魔女の目的も分からないし、どうすれば。いや、妖精を渡す代わりに、色々聞き出すのもアリかな?」


 ダークネスはコフレと大量の妖精を求めている。それなら、数匹程度であればダークネスに渡しても大事には至らないはずだ。その間にダークネスの目的なり監視方法なりを探って、対抗策を模索する。


「やっぱり、その辺りが安牌なのかな? どう思うクーちゃん?」


 私の右手を擦っていたクーちゃんは、私の投げかけに、ひょいひょいっとシャドウボクシングで応じた。


 山狩りで昼寝の邪魔をされたのがそんなに嫌だったのだろうか。やっちまえ、と言っている気がした。


『ぴえーぴえー!』


 そうだそうだ、やってしまえ、とシマエナガが鳴き声をあげる。

 この妖精もこの妖精で、好戦的だ。


 皆、呑気なもんだ。それをやらないといけない私の身にもなってほしい。だけど、

 

「まあ、とりあえず妖精(きみ)には情報源になってもらおうかな?」


『ぴえ!?』


 シマエナガは愕然とした表情で固まった。


    ◯◯◯


『大儀であった、戦士ルナーラ。捕らえた妖精は、地球でそのまま管理しておくとよいでしょう』


 は? と思わず聞き返さなかった私を、まず褒めてほしい。


 予想外の言葉に私は内心動揺する。

 てっきり、すぐにでも闇の国に運び込むよう命令されるものだとばかりに考えていた。


「こちらで、私たちの庇護下に置け、と。そういう意味ですか?」


『無論です。それ以外の言葉に聞こえましたか?』


 何言ってんのお前、といった返答をされる。

 想定していたやりとりと違いすぎて、私の頭からは考えていた応答集がすっぽり抜ける。


「何故か聞いても? 闇の国には妖精の不足という喫緊の課題があります」


『闇の大妖精が見付からぬからです』


 大妖精。まだ探しているのか。

 ダークネスは冷たい瞳で、鏡越しに私が握っているシマエナガを見据える。


『闇の世界に戻れば妖精は自由を取り戻します。それこそ光の国に渡ることも容易でしょう。これを防ぐために、闇の大妖精から助力を得る予定でしたが―――』


 その大妖精が見つからないので、現状闇の国へ妖精を送るのはベストな選択ではない。ダークネスはそう説明する。


 当初の妖精を対価に情報を得る作戦は早々におじゃんになってしまった。


『しかし―――』


 不意に、魔女ダークネスが静かに私へ視線を向ける。思考の読めない、冷淡なその視線に晒されるが、私はあえて直視した。


『――よく妖精を捕まえたものです。どのように捕まえたのですか?』


「…………」


 閉口する。探られているのだと直感する。私は手の内を見せないよう、慎重に言葉を選ぶ。


「ラブティアの周辺を探索していた際に発見しました。ラブティアとも交戦しましたが大事にはならず、無事妖精を確保した次第です」

 

 必要最低限の言葉で濁す。


『――ほお』


 短い、しかし圧を感じる声が返ってきた。


 ゴクリ、と私は生唾を飲む。数秒後、


『良いでしょう。改めて、大儀でした、戦士ルナーラ』


 妖精の確保を以後もつつがなく行うように。そう告げて、ダークネスは自ら通信を切断した。


「……は。ラブティアと戦うより疲れる」


 私は手元に残った妖精を見る。


『ピイ』


 そっぽを向かれてしまった。ダークネスに渡す話を事前にしたせいか、少し距離を感じる態度だった。

 嫌われてしまったかもしれない。


「倉庫に鳥かごがあったし。世話はウーヤたちに任せようかな?」


 気まずいし。うん、ウーヤたちに任せよう。





ルナーラ「ただいまー。これお土産ね。みんなで世話してあげて」


イエチェー&オッソ「妖精だー! すげー!」


ルナーラ「ふふーん」


ウーヤ「―――」

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