第29話 第四話「ラブティア全員集合! でもさっそく解散危機で大ピンチ!?」②
私たちは体育館の裏にある山を走っている。
「2人の試合を眺めていたら、ランラン君たちが隙間からすごい形相で私を見ていてね。驚いたよ」
アンナさんが急に迫真の演技を始めたのは、ランランたちによるものだったようだ。
「丁度良く君たちの試合も終わってくれて助かった」
アンナさんは平然とそう言うが、私としては体育の先生に嘘をついたことになるので内心複雑だった。
妖精を早く保護して、なるべく早く戻ろう。
「こっちリリ。妖精の気配がどんどん強くなってるリリ!」
裏山は整備された遊歩道がなく、獣道に近い道があるだけだ。そこをランランたちを抱えて、私たちは山を登っている。
「アカリさん。気を悪くしたら申し訳ないのだけれど、さっきの試合―――」
「さっきの試合ですか? 葵さんのスパイクとっても凄かったですよ! 拾うのが精一杯で、皆も凄いって言ってました!」
私の感想に葵さんは何故か曇った顔をする。
「アカリさんは負けて悔しいとか、できなくて悔しいとか、そう思ったりはするのかしら?」
「悔しい、ですか? どうですかね。あんまり感じたことはないですけど。次はもっと頑張ろう、ですかね」
私の答えに満足したのか分からないけど、葵さんは小さく頷いてこの会話は終わった。なんだったんだろうか。
「あそこリリ!」
リンリンの張った声に、私たちは気を引き締め直す。リンリンが指さした先には、確かに妖精の光が見えた。が、しかし、
「あなたはこの前の狼! 妖精に何をしてるの!!」
妖精の目の前には、いつぞやの大きな狼がいたのだ。
私の大声に、狼の顔がこちらに向く。
その隙に、捕まりかけていた妖精は逃げ出してくれたようで、私は一度安堵しつつ、改めて狼に向き直った。
とても大きな狼だ。私が背中に乗っても走れそうなほど、大きい。
だが、狼は私たちが近づく前に急に身を屈めた。かと思えば、数秒後そこから現れたのは、数日前リンリンを誘拐した、ケモミミを生やした仮面の女戦士だった。
「あなたは砂浜の時に会った、えーと、ルナーラ!」
「いかにも、戦士ルナーラだ」
落ち着いた、しかし若い女性の声が返ってくる。仮面で顔は見えないけど、私より少し年上くらいだろうか。
「狼から人に姿を変えられるのか。興味深いね」
研究対象が増えたと言わんばかりに、アンナさんが口元を上げる。そして、
「2人が強いと言っていた敵はあの人なのね?」
「そうです。私のフォトンレイを片手で受け止めてたんです!」
私は葵さんの問いに答え、更に、
「ランランが、闇の拳がどうたらとか言ってました」
「闇国真拳ララ。アカリはちゃんと話を聞くララ。闇の国に伝わる恐ろしい拳ララよ。皆、気をつけるララ」
「私が相手した時も強いと思ったね。片腕なのに崩せなかった」
「闇国真拳に対して、光の国には光国真拳という武道があってララな―――」
「とにかく! 妖精を奪われるわけにはいかないんだから、みんな! 行くよ!」
ランランの話が長くなりそうだったので、私は無理やり皆の話を打ち切った。私の声に反応して、アンナさんや葵さんも、ラブティアホンを構えた。
私はコフレから、妖精を呼び出して、叫ぶ。
『ラブティア! ドミネーション!』
山中に光の大輪が咲く。
「――清く煌めく心、光の使者ティアルクス!」
「――正しく輝く心、光の使者ティアルーメン!」
「――美しく閃く心、光の使者ティアキャンデラ!」
『希望の力と未来の光! ライトネス・ラブティア!!』
私たちってそんな名前なんだ!
初めて知った。
いつもは自動再生みたいに口から勝手に言葉が出てくるけど、今日は皆で変身したせいか、追加の口上まで名乗っていた。
ライトネスという言葉の意味を色々考えそうになるが、一旦我慢し、私たちは身構えた。
だが、動かない。
迂闊には手出しできなかった。
闇の戦士ルナーラ。前回は私のフォトンレイで片手が使えない状態だったけど、今日は万全の状態なのだ。警戒しないと。
スタートラインに立った陸上選手のように、私は張り詰めた空気の中で戦闘開始のゴングが鳴るのを待った。
そして、
来ないのか、という相手の言葉に集中を欠いた私は、咄嗟に前に飛び出していた。
拳を振り上げ、殴りかかる。
だが、次の瞬間、私は何故か奥の森めがけて投げ飛ばされていたのだ。
「あ――――――ッ!?」
茂みに突っ込み、転がりながら尻もちをついた。
……痛ぁ。
殴りかかった腕を掴まれて投げられたらしい。
私はすぐさまダッシュで皆の元へ戻るが、その場に仲間の姿はどこにもいなかった。
私が戻ってくる数秒の間に、きっと皆も投げ飛ばされたんだ。
そう直感した私は自分を叱咤し、再び仮面の戦士ルナーラに飛び掛った。また投げられるものの、木に着地して、そのまま反撃を開始する。
軽い動きだと投げられる。今度は投げられないように腰を据えて、速く、かつ重い一撃を連打しよう。
「私を忘れてもらっては困るね!」
敵の後ろに、キャンデラの姿が見えた。
あの動きは蹴りだ。それなら、私ももっと重い1発でダメージを!
「今だ!」
「悪手だね」
「!?」
冷徹な声。次の瞬間、仮面の戦士はキャンデラの蹴りを受け止め、そのまま私のお腹を打ち抜いた。
「かはっ!?」
痛みと衝撃。体が、くの字に折れ曲がる。
意識が一瞬遠のきかける。その間もキャンデラとルナーラは攻防を繰り広げていた。しかし、キャンデラも有効打を放つことはなく、崩された。
「たァ――――!!」
不意に頭上から、ルーメンの声が聞こえた。
仮面の戦士が退く。
たぶん、ここでルーメンの相手をするのを嫌ったのだろう。
そして、私たちの間に着地したルーメンが声をかけてくれる。私もダメージからだいぶ回復してきた。
「1人ずつはやっぱりダメだね」
「相手は強い。まとめてかかるのが最善だろう」
「分かったわ」
私が先走って前に出たことで、拙い連携が更に崩れてしまった。一回やられたことで頭も冷えてきた。浮足立った気持ちを落ち着け、今度こそ3人で戦う。
第2ラウンド。
まず出たのは私だ。あとからルーメンとキャンデラが続く。そして、私たちは力のあらん限りに仮面の戦士を攻撃した。
1人の攻撃がダメなら2人で。2人がダメなら、3人で。
がむしゃらに手足を繰り出して、反撃の隙を与えないようにする。
しかし、それでも何度か打ち返され、私たちは落伍すまいと必死に食らいついた。
そして、徐々に1発、2発と私たちの攻撃が通るようになっていく。
いける!
私たちの攻撃が、仮面の戦士の防御を上回った。私はそう確信して、拳に込める力を強める。
1発でも多く打ち込んで、何としても勝つんだと気合を入れる。
そして、最後に生まれた大きな隙を、私は迷わず突く。
「だぁあっ!!」
全力で放った一撃が、仮面の戦士に命中した。
仮面の戦士が吹っ飛ばされる。
「みんな!」
この瞬間を逃さないよう、私たちは自分たちの使える最大の手札を出す。
お互いの手を繋ぎ合って叫ぶ。
「――ラブティアの美しき光が!」
「――邪悪な心を打ち払う!」
「――今こそ、真なる姿で照らし出せ!」
『――ラブティア・フォトンレイ! トライノヴァ!!』
全身の熱を解き放つ。
私たちから打ち出された3本の光は螺旋を描き、巨大な1本の光となって闇の戦士を飲み込み、
「――ダークネス、ホールっ!!!」
突然の一声。
その声が聞こえた直後、私たちの光が闇の渦に取り込まれたのだ。
『―――!?』
予想外の出来事に、思わず息を呑む。
打ち破ろうと必死に光を注ぎ込む。だが、遂に出し尽くした。
光が消えた先で、闇の戦士が無傷で直立している。
「喰らえ、――ホワイトホール!!!」
『っ!?』
光とは真逆の、闇の奔流を仮面の戦士が放った。
恐ろしいほど静かで、しかし地面を削り取るほどの荒々しさ。視界を埋め尽くすほどの闇が、私たちの眼前に迫る。
「み、みんな逃げてっ!!」
私はハッとして叫ぶ。呆然とした横の2人を叩き起こし、私たちは何とか闇の力から逃げた。
闇の奔流が収束したあとには、何も残っていなかった。
――私たちは、負けた。
膝を折り、腰を落とす。私は地面に力なく座った。
「ルクス、ルーメン、キャンデラ……」
「妖精の気配が消えたリリ」
「闇の気配もどこかに行ったララ」
離れた場所にいたランランたちが戻ってきた。2人の台詞を聞いて、私は歯噛みする。
そして、荒れた山の斜面を見詰めながら、私はルーメンに、いや葵さんに向けて口を開いた。
「葵さん。負けるのって、悔しいですね」
「……アカリさん」




