第28話 第四話「ラブティア全員集合! でもさっそく解散危機で大ピンチ!?」
Side:乙女川アカリ
アンナさんがラブティアに変身してから、すでに数日が経った。
今のところ、妖精も現れていなければ、闇の気配もしない。実に穏やかな日常が流れていた。
しかし、私たちラブティアは、まだ一度も顔を合わせて話し合うことができていなかった。
葵さんは習い事や部活とかが色々あって忙しくて、アンナさんはよく分からない研究をし始めたみたいで、ラブティアホンでメッセージを送っても碌な返信がない。
リンリンもリンリンで心配だ。
アンナさんが預かるって言っていたけど、変な実験で改造でもされているんじゃないかと心配だ。次会うときには体の半分がサイボーグ化しているかもしれない。
……こんな状態で大丈夫なのかな?
葵さんもアンナさんも、なんか住む世界が違うって感じだ。2人ともメッセージだと素っ気なくて事務的で、話していてあまり楽しくない。
だから、この前、2人にSNSの交換を持ちかけたら、2人ともやってないときたもんだ。そんな人初めて見た。
それで試しにこの前買った夏物コーデを自撮りして、こんなのアップしてますって葵さんにメールで送ったら、何故か真面目に心配されちゃったし。
ただの写真なのに、何がそんなに危ないんだろう?
「でも、今日やっと3人で話せるからね。いっぱいおしゃべりして仲良くなろうっと!」
今日、やっと葵さんの都合がついたみたいで、放課後アンナさんとリンリンも合わせて、みんなでラブティア会議をする予定なのだ。
お昼休みも少し話せるみたいなので、4限目が終わったら、ダッシュだね。
「乙女川さん! 廊下は走らない!」
「はーい!」
先生に怒られちゃった。
◯◯◯
集合場所は、アンナさんの科学研究部の部室だ。
生徒会室も候補にあったんだけど、他の子が来たら大変だからと、こちらになった。
「お邪魔しま~す。――あ、アンナさんこんにちは! それとリンリン! 無事だったんだね!」
部室の戸を開けると、すでにアンナさんとリンリンが待っていた。私も急いで来たはずなんだけど、相変わらず早い。それと、リンリンはサイボーグ化は免れていたようだ。
「アカリ君。久しぶりだね。しかし君は、私をマッドサイエンティストか何かだと誤解しているようだ」
「アカリ! ランラン! 久しぶりリリ!」
リンリンが元気よく挨拶をしてくれる。私の鞄から飛び出したランランも、リンリンに声をかけた。
「リンリンも元気そうで何よりララ! 怪我はもう大丈夫ララ?」
「ケーキをいっぱい食べたからもう大丈夫リリよ」
「怪我は大丈夫だと伝えたはずだよ?」
「だってアンナさんのメッセ、いつも固くてホントかどうか分かりづらいんですよー。全然返事もしてくれないし」
「文面なら必要な情報さえあれば十分だろう?」
アンナさんは文面だと本当に淡白だ。面と向かって喋っている時は、おどけた表情をしてくれてかわいいのに。
「どの道今日会うことになっていたんだ。今日親交を深めればいいだろう?」
「そうララ! 今日はランランたちの話を聞いてもらうんだララ!」
この話し合いを希望したのは、ランランとリンリンだった。私も話はしたかったけど、2人のとは用件が違うだろう。
しばらくランランたちを交えて、アンナさんと雑談をしていると、数分ほど遅れて葵さんがやってきた。
「遅れてごめんなさい」
「大丈夫ですよ。私たちもさっき来たばかりですから」
「8分だね」
アンナさんが腕時計に視線を落として言う。
「……アンナさん!」
「迷惑に思っていないのだからいいだろう」
そういう問題じゃないんです!
「みんな早く座るララ! ご飯を食べながら話をするララよ!」
空気を読めないランランの発言に促されて、私たちは大人しく席に着いて、お弁当を取り出した。
◯◯◯
コッペパンのカスを頬につけたランランがテーブルの上に立つ。
「みんな食べながらでいいララから、聞いてほしいララ」
食べながらで聞いていい話なんですか?
「まずはラブティアが全員揃ったこと、そしてアカリとアンナにはリンリンを助けてくれたことを改めてお礼を言うララ」
ランランとリンリンがその小さな頭を下げる。
「私はリンリンの助けにはなれなかったわね。ごめんなさい」
葵さんがランランの言葉に謝る。
「急な出来事だったし大丈夫ララ。今ここにいられるのだからそれでいいララよ」
「そうですよ。何とかなったんだから大丈夫ですよ!」
私の言葉に葵さんは笑みを返してくれる。
「それで話というのは他でもないララ。これからも妖精を集めていくのを手伝ってほしいララ!」
「軽く話には聞いているが、妖精というのはそんなにも大事なものなのかい? とてつもないパワーを秘めているのは理解しているが」
アンナさんの疑問に答えたのはリンリンだった。
「妖精はリンリンたちの住む光の国を支える重要な存在リリ。それが闇の国によって人間界に落ちて、光の国は今大慌てなんだリリ」
「ランランたちは光の女王さまの命令で人間界に来たララ。虹のコフレと妖精たちを見つけ、ラブティアたちの助力を得る計画だったララ」
「つまり、コフレとラブティアである私たちが見つかったから、あとは妖精探しってことなんだよね?」
そうララ、とランランは力強く頷いた。
「妖精は全部で53匹。一匹は光の大妖精ケーシィさまララ。残り52匹を見つけるのがランランたちに課された使命なんだララ」
つまり、今のところ私たちが集めた妖精の数は3匹。残りは、
「49匹。かなりの数ね。見つけるアテはあるのかしら?」
「リンリンが妖精の気配を辿れるリリ」
ランランは闇の気配に敏感だったけど、リンリンは妖精の気配に敏感なのか。なるほど、相性はいいわけだ。
「闇の国はどうして妖精やコフレに執着しているんだい?」
「詳しいことは知らないララ。突然攻めてきて、光の国は大混乱だったララ。ランランたちは、退却する闇のやつらを必死に追撃してたララ」
これまで戦った闇の戦士たちはどれも攻撃的で話ができそうにもなかった。本当は理由なんかなくて、嫌がらせで戦っているのかも?
「ともあれ、私はランランたちのことを手伝うよ! 困ってる人がいたらお節介を焼けってパパもよく言ってるもん。そうですよね、アンナさん! 葵さん!」
「お節介かはともかく、私も協力するにはやぶさかではないね。妖精や別世界のことなどは純粋に興味がある」
私の声にアンナさんが頷いてくれた。次いで、葵さんの方に顔を向ける。
だが、葵さんの顔は神妙だった。思い詰めるような口調で、
「アカリさん、アンナさん。やっぱり、私はラブティアには相応しくないわ。きっとあなたたちの足手まといになる」
突然の告白に、私は目を見開いた。葵さんの表情は、生徒会室で言い淀んだあの時とそっくりだった。
◯◯◯
「葵さん! そんなことないですよ!」
私は葵さんの言葉をすぐ否定した。しかし、葵さんは私の声に対して、静かに首を横に振る。
「いいえ。リンリンの件だって私は何もできていない。今日だって、あなたたちと話し合うためだけにどれだけ時間を使わせてしまったか。肝心な時、役に立たないラブティアは、要らないはずだわ」
だから、私はラブティアに相応しくない。皆の邪魔はしたくないわ、という葵さんの言葉に、私は返す言葉がなかった。しかし、
……私は、それでも葵さんがいいよ。
それは紛れもない私の本心だった。
「おや、いつの間にかこんな時間だ。午後は体育だったね。そろそろ準備をしなければいけない。話の続きは放課後にしよう。祖父の知り合いがやっている茶屋が近くにあってね。予約を入れておいた。楽しみにしておいてくれ」
アンナさんは急にわざとらしくそう言うと、私たちを残して立ち上がり、続けて、
「ああ、リンリン君とランラン君。放課後、迎えに来るから、ここでゆっくりしておくといい。内側から鍵だけ閉めておいてくれ」
と、アンナさんは告げて、1人だけでそそくさと出て行った。
「私たちも行きましょう。今日は学年合同だから裏山の体育館を使うわ」
「は、はい」
葵さんの落ち着いた台詞に、私は気まずさを覚えながらも返事をした。
……アンナさん。空気を読んで話題を変えてくれたのかな?
アンナさんの気遣いに、私は内心で少し感謝する。
放課後、葵さんともっとちゃんと話し合おう。
午後は2限とも体育だ。私は急ぎ足で更衣室に向かった。
◯◯◯
学校の裏山の麓には大きめの体育館がある。
室内競技が複数同時にできる、広めの施設だ。
今日の授業では、バレーボールをやるらしい。
まずクラス内でチームを複数作り、5限目はクラス内で試合を回していくようだ。
私のチームは、サッカー部の友人以外はほとんどが文化部の子になってしまった。とりあえず友人にはアタッカーを任せ、私はリベロを務める。
相手チームのスパイクを私が拾い、文化部の子にトスをしてもらって、アタッカーの友人が決める。この作戦で私のチームはクラス内で1位になった。
『―――!』
不意に、隣のコートから歓声が上がる。
見れば、その中心にいたのは葵さんだった。アタッカーとして華麗にスパイクを決め、周囲の生徒たちの羨望を集めている。
「やっぱうちの生徒会長は華があるねえ」
そうだね、と私は友人の言葉に頷く。
勉強もできてスポーツも上手。お茶やお花、ピアノなど、私には想像つかないほど色んなことができる。素直に尊敬してしまう。
私はお転婆でおっちょこちょいだから、葵さんみたいな人が近くにいてくれたら、きっとすごく安心できると思う。やっぱり、葵さんにはラブティアをやめてほしくない。
「…………」
視界の端。体育館の隅で見学しているアンナさんの姿を見つけた。見学している割には、実に堂に入った態度だった。
視線が合う。アンナさんは私の顔を見て、不敵な笑みを浮かべる。
……アンナさんと2人でラブティアか。
悪い人ではない。だけど、正直空気感が独特な人だ。騒がしいランランたちを含めて、皆を率いていける未来が見えない。
クラス内の試合が終わって、次はクラス対抗戦に移った。クラス内の順位で対戦相手を決める。初戦は、葵さんのチームだった。
葵さんのチームも、先ほどの試合で1位になっていた模様だ。
試合は、ほぼ互角だった。
葵さんのスパイクを私が拾い、アタッカーが返す。その繰り返しだった。相手チームはスポーツ系が多く、リベロに至っては本職のバレー部員だったのだ。
おかげでお互い得点が決まらず、ズルズルと試合時間だけが流れていく。しかし、私のチームメイトがトスをミスしてしまい、そこから崩れて、私たちは負けてしまった。
ミスをした子を皆で慰める。
負けてしまったけど、全力でやったのだし、私は清々しい気持ちだった。
「あー! 突然何故か、とても気分が悪くなってしまったー! これは保健室などで休まねばー! 2人くらい付き添ってくれたまえー!」
何故か急に、アンナさんが棒読みで大声を出し始めた。
葵さんと顔を合わせて、自分たちを呼んでいるのだろうと理解する。
「また光ヶ丘さんか。仕方ない。誰か光ヶ丘さんを保健室に連れて行ってくれ―――」
「私たちが行きますよ。丁度試合も終わりましたし」
困ったように頭を掻いていた体育の先生は、私たちが保健室に向かうのを許可してくれた。
「――妖精が現れたそうだ」
体育館を出て、アンナさんは開口一番、私たちにそう告げた。




