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第27話 圧倒する女幹部


 小高い山。

 緩やかな傾斜を築く雑木林の中。


 私は狼の姿となって、木々の隙間を駆け抜ける。


 視界の真ん中に捉えているのは、素早い動きで飛んで逃げる妖精だ。


『ホントに見つかるなんて。やっぱりクーちゃんにお願いして正解だったね』


『ク!』


 私の頭の上でガッツポーズを決めるクーちゃん。今朝のぐーたら姿が嘘のようだよ!


 ……それにしても、ホントに見つかるなんて。


 食堂のアルバイトが終わったあと、屋敷に帰った私は以前から考えていたことをクーちゃんに聞いた。クーちゃんなら同じ妖精の気配や場所が分かるんじゃないか、と。


 答えはイエスだった。


 それなら、ものの試しにと、夕飯前までの時間を使って私はクーちゃんと一緒に妖精探しに出かけたのだ。

 機動力を確保するために狼の姿になった私は、街を巡り、その結果クーちゃんが一つの方向を指し示した。


 ……まさか、ラブティアたちの学校のそばに妖精がいるなんて。


 クーちゃんの案内に従った先は、光ヶ丘中学校の裏山だった。

 この時間はまだ授業中だろうから、ラブティアたちに遭遇する可能性は低いだろうけど、夕飯の準備もある。早く捕まえてしまおう。


 枯れ葉の積もった地面を蹴って、私は前に跳ぶように走る。


 逃げる光は、小さな翼をはためかせて木々を縫うように飛んでいた。


『くー! くー!』


『ぴい! ぴ! ピピ!』


 クーちゃんと逃げる妖精が会話している。中々緩い光景だが、何を喋っているのだろうか。


『クーちゃん。なんて言ってたの?』


『くう! クーク! く!』


 捕まえられるもんなら捕まえてみろ、だそうだ。


 ……めっちゃ煽られてない?


 完全におちょくられている。生意気な妖精だね。


『そんなこと言うなら、ちょっと本気だしちゃうよ』


 妖精と私の追走劇が始まった。妖精は宙を飛び、時折フェイントを混ぜて逃げていく。それを私が高速で追う。


 決着は数分でついた。


 妖精のフェイントがワンパターンだったのだ。数回見たら慣れた。私はフェイントをかけた妖精の前に先回りして、その進行を遮った。


『はい。お遊びはここまでだよ』


『ぴえー』


『くー』


 妖精は突然前に現れた私に驚いて止まった。

 素直に諦めてくれたのか、大人しくクーちゃんの言葉に応じている。白い羽毛に丸っこいフォルム。シマエナガみたいな鳥の妖精だった。


 よし、一度人間体に戻って逃げないように捕まえよう。今度からは保護するために籠も持ってきた方が良さそうだ。


「あなたはこの前の狼! 妖精に何をしてるの!!」


 突然、聞き覚えのある声が耳に届いた。この声は、


『……ラブティア。授業中じゃないの?』


 林の向こうから、3人の少女が走ってきているのが見えた。全員、体操着だ。体育の授業を抜け出してきてまで妖精を捕まえに来たのか?


『ぴ!』


 私がラブティアたちに気を取られている隙に、シマエナガみたいな妖精が逃げ出した。しまった。また追いかけっこか。


『結局こうなっちゃうのか。仕方ない』


 私はラブティアに対処するために、一度身を屈めて茂みに身体を隠す。ケモミミ少女に転変し、念のために持ってきていた仮面を被った。

 身バレしてバイトしづらくなったら大変だからね。


「クーちゃんはここに隠れてて」


 クーちゃんを胸元にしまって、私は立ち上がった。


「あなたは砂浜の時に会った、えーと、ルナーラ!」


 私のケモミミ姿を見て、ティアルクスである少女が叫ぶ。


「いかにも、戦士ルナーラだ」


「狼から人に姿を変えられるのか。興味深いね」


「2人が強いと言っていた敵はあの人なのね?」


「そうです。私のフォトンレイを片手で受け止めてたんです!」


 なんだろうか。少し違和感がある。


 ……なんか全員距離があるような。敬語交じりだし。


 仲良くないのか。いや、そこまでではないか。だが、少なくとも、親密な間柄には思えない空気感だ。

 よくよく考えれば、ラブティアと戦い始めてからまだ2週間足らず。以前から友人関係でなければ、このくらいの距離感になるのかもしれない。


 ……友だちとは仲良くならないと、うまくいくものもいかないよ。


『……くーくー』


 クーちゃんが同調するように鳴く。くすぐったいから、戦ってる時は静かにしててね。


「とにかく! 妖精を奪われるわけには行かないんだから、みんな! 行くよ!」


 何やら話し込んでいたラブティアたちだが、少女の声に応じて一斉に変身アイテムを構えた。妖精を肩に乗せ、アイテムをかざす。


『ラブティア! ドミネーション!』


 山中に光の大輪が咲く。


 ……うわ、眩し! 3人同時は派手だね。


 ピンク、青色、黄色の華々しい輝きが生まれ、それぞれがポーズを決めて高らかに口上を述べた。


「――清く煌めく心、光の使者ティアルクス!」


「――正しく輝く心、光の使者ティアルーメン!」


「――美しく閃く心、光の使者ティアキャンデラ!」


『希望の力と未来の光! ライトネス・ラブティア!!』

 

 私が女児だったら、さぞ興奮して喜んだだろう。が、華麗なラブティアたちの登場を前に、私は静かに腰を低くして身構えた。


 ……ライトネス・ラブティア。それがラブティアたちの正式な名前なんだね。


 ラブティアたちの名前は、全部光関係の語句で統一しているようだ。眩しすぎて困っちゃうよね。


 変身したラブティアたちは、しかし私と対峙したまま動かないでいた。警戒しているのだろうか。先手は譲ってあげるつもりなのだが。


「来ないのか? ライトネスラブティア」


 私の言葉を聞いた瞬間、ルクスが1人で前に出てきた。拳を構え、跳んでくる。


「てりゃ――っ!」


 直線的すぎる。もう少し考えて動くべきだ。

 私はルクスの勢いを利用して、彼女の拳を手で取って、そのまま後方に投げ飛ばした。


「あ――――――ッ!?」


 ルクスは叫び、林の奥に消えていく。


 次に来たのはキャンデラだった。すでに私の背後に回り、回し蹴りを叩き込もうと足をあげている。


 奇襲を仕掛けるならモーションの大きい蹴りではなく、パンチや体当たりの方がいい。大ダメージを狙ったのだろうが、タイミングが遅すぎる。


「……!」


 私は片手だけでキャンデラの蹴りを受け止めた。そして、その蹴り足を鷲掴みにして、大きく振り回してから天高くに投げ飛ばしてやった。


「2人が一瞬で!? ――こうなったら」


 ルクスとキャンデラが消えたことで焦ったのか。ルーメンも単独で突っ込んできた。

 先ほどの2人の失敗を意識してか、掴まれないよう拳を高速で連打してくる。


 ……早いけど、重さがないね。


 腰が入った動きではない。動きも硬いし縮こまっている。

 私は彼女の連打を、両手で優しく外側に弾いてあげた。瞬間的に胴がガラ空きになる。


 さあ攻撃だ。 

 震脚。足を踏み腰を据え、全身を躍動させ、肩から腕へと力を連動させる。動きは小さく、しかし大胆に。


 寸勁。


 ルーメンの身体に対して、ゼロ距離での発勁を打ち込んだ。


「―――!?」


 衝撃に、ルーメンの顔が瞬間的に歪む。

 音を感じるよりも早く、ルーメンの身体は茂みの向こうに吹っ飛ばされていった。


 ルクスが最初に突っ込んできてから十秒足らず。ラブティアは私の周りからいなくなった。


「……思ったより、連携がダメだね」


 これからどうしようか。とりあえず妖精を探さないとだけど、と私が思考を妖精に傾けた直後、


「うりゃァ!!」


 最初に投げ飛ばしたルクスが戻ってきた。元気なのは良いことだ。

 

 ……だけど、まだ直線的すぎる。


 再度突っ込んできたルクスを、私はもう一度投げ飛ばしてやった。が、


「く、まだまだ!」


 投げ飛ばしたルクスがそのまま木の幹に着地し、再度跳躍してきた。いい復帰能力だ。


 ルクスはそのまま私の正面に回って、腰を据えた拳打を連続して叩き込んでくる。


 いいパンチだ。先ほどのルーメンより動けている。これは容易には弾けないだろう。


「私を忘れてもらっては困るね!」


 私の左斜め後ろに、キャンデラが戻ってきた。すでに蹴りのモーションに入っている。挟撃か。

 対して、ルクスはキャンデラの動きを見てから拳を一発、大振りに切り替えた。


「今だ!」


 今じゃないよ。それは悪手だ。


 君はそのまま高速連打を続けるべきだった。私がキャンデラに対処する隙が生まれたよ。

 私は左腕を後ろに上げて、キャンデラの蹴りを受け止める。そして、残った腕と肘を使い、ルクスの腹部を打ち抜いた。


「かはっ!?」


 ルクスの身体が衝撃で、くの字に折れ曲がる。


「隙あり!」


 背後のキャンデラはまだ動いていた。蹴り足はすでに引き、脇を締めて拳を放とうとしている。


 背中越しに尻目でそれを確認した私は、間に合わない、防ぎようがないと判断。だが、ただ食らうのも面白くない。


「闇国真拳(あんこくしんけん)奥義、功勁(こうけい)!」


 全身の筋肉を固め、更に気功術でガードすることで瞬間的に防御力を上げる技だ。殴ればただでは済まない。


「っ―――!?」


 想像以上に硬かったのだろう。キャンデラの顔がわずかに歪む。


 ……そこは耐えて次の動きに移らないといけないよ。


 私は身を開き、キャンデラに半身を向ける。キャンデラの蹴り技を防ぐために使った片腕を、そのままキャンデラを攻撃するために使う。

 片腕での発勁だ。威力は半減するが、今はそれでも十分だ。


 私がキャンデラの胸部に狙いを定めた直後、


「たァ――――!!」


 頭上から、ルーメンが落ちてきた。片足をあげている。かかと落としをする気のようだ。


 ……流石に受け止め切れないね。


 私の身体は完全に開ききっている。このまま受け止めるのは無理だ。私は攻撃を止めて、すぐさま身を翻し、その場から距離を取った。


 攻撃が当たらないと判断したルーメンは、そのまま足を下ろして着地。仲間2人に声をかけた。


「ルクス、キャンデラ! 大丈夫!?」


「うう、何とか。お腹が裂けるかと思った」


「私は大丈夫だよ。手をついたくらいだ」


 ラブティアたちはお互いを労った後に声を掛け合う。


「1人ずつはやっぱりダメだね」


「相手は強い。まとめてかかるのが最善だろう」


「分かったわ」


 短い作戦会議は終わったようだ。次はちゃんと3人で来るらしい。

 

 さあ、第2ラウンドだ。


 前に出てくるのはルクス。両サイドからルーメンとキャンデラが続く。

 動きは直線だが、3人同時だと対処が難しい。ラブティアたちはがむしゃらに拳を打ってきた。


「はあっ!」


 3人同時に、とにかく手足を出してくる粗削りな動き。連携もあったものではないが、現状の3人の技術では最善だろう。


 3方向からくる拳打を的確に捌く。防ぎ、落とし、避ける。何度か打ち返して人数を減らすが、すぐ戻ってくる。


 流石にこれを続けるのは面倒だ。


 ……誘うか。


 私はそう判断してすぐ動いた。

 わざと攻撃を受ける回数を増やす。1発、2発と徐々に捌けなくなって劣勢になっている振りをするのだ。そして、


「だぁあっ!!」


 一瞬、分かりやすく大きな隙を作った。直後、正面のルクスがいの一番に反応する。


 溜めの入った重い1発が腹に来る。


 私はその攻撃をあえて受ける。インパクトをずらし、後ろに跳んで威力を逃す。


 大きく飛ばされた私を見たラブティアたちは、にわかに表情を明るくさせた。そして、そのまま3人は手を繋ぎ合い、最大火力を放つことを選んだ。


「――ラブティアの美しき光が!」


「――邪悪な心を打ち払う!」


「――今こそ、真なる姿で照らし出せ!」


『――ラブティア・フォトンレイ! トライノヴァ!!』


 3条の光が、視界を埋め尽くす。


 まるでもう一つ太陽が現れたようだ。3条の光の奔流は混じり合い、私めがけて食らいついてくる。


 ……これがラブティアの真の必殺技なんだね!?


 だが、


「――ダークネス、ホールっ!!!」


 私は自身の眼前に闇の引力を生み出した。


 光と闇が交錯する。


 闇は、光を飲み込んだ。


『―――!?』


 光に遮られて見えないが、ラブティアたちが息を呑んだ気配がした。驚いたことだろう。必殺技が吸収されたら私も驚くよ。


 だけど、驚くのはまだ早いね。隠し玉はまだあるんだよ!


 私は、私を飲み込もうとした光の奔流を逆に全て飲み込んでやった。


 そして、光が収束した後、愕然とするラブティアたちめがけて、叫ぶ。


「喰らえ、――ホワイトホール!!!」


 闇の奔流が生まれた。

 

 全てを喰らい尽くす勢いで、闇の力は、山の斜面を地表ごと掻き毟る。


「み、みんな逃げてっ!!」


 果てしない破壊の力に、呆けた2人を叩き起こすルクス。ラブティアたちはすんでのところで退避に成功した。


 私はラブティアが避けたのを確認して、自身も跳んだ。ラブティアたちとは逆方向に、高速で走る。

 そして、木の上で呑気に観戦していた妖精を鷲掴みにした。


『ぴえ!?』


「さ、鬼ごっこはこれで終了。大人しく捕まっててね」


 さっきから見てたのは気づいてたんだから。


「妖精も捕まえたし、帰ろうか」


 私は戦闘現場から離脱する。ラブティアたちを尻目に、


「……ほどほどに強くなってね。ラブティア」


 私は、否、闇の国はこうして最初の妖精を獲得した。





作者の矢成です。

闇の国、ようやく妖精を獲得しました。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


もし本作を楽しんでいただけましたら、ブックマークや作品評価で応援していただけると励みになります。


これからも「ニチアサ転生!」をよろしくお願いします!


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