第25話 敗走する女幹部
【お知らせ】2026/10/19
第19話「疾走する女幹部」に、一部描写を加筆しました。
今後の展開につながる内容となっていますので、既にお読みいただいた方も、お時間があれば再度ご確認いただけますと幸いです。
なお、物語の大筋に変更はありません。
Side:ルナーラ
「負けちゃったね。――だから言ったでしょ、うまくいかないって。誘拐はダメなんだから」
住宅街の路地。
私はオッソをおんぶして歩いていた。
アジトを目指しながら、私は首を捻って背中のオッソを見やる。
「うまくいくと思ったのに……」
小熊に戻ったオッソは、通行人にバレないよう私の上着で姿を隠しつつ息を漏らした。
「これに懲りたら卑怯なことも危険なこともしないこと、わかった?」
私たちはラブティアに負けた。負けるべくして負ける作戦だったけど、オッソは自分の立てた作戦がうまくいかなかったことに不満そうである。
今日、私とオッソは2人で妖精を探しつつ、ラブティアが通う学校周辺の調査もしていた。
途中、私は校舎の窓越しに何故か檻で寝ている光の住人を見つけたけど、無視した。手を出しても意味がないと判断したからだ。弱いものいじめも好きじゃないしね。
しかし、オッソがやらかした。
オッソはなんと、いつの間にかその光の住人を手にして戻ってきたのだ。しかも興奮して、そのまま走り始めるのだから、ほとほと困った。それ誘拐だよ。
オッソの考えた作戦は人質作戦だった。
ラブティアを誘き出し、人質を盾にラブティアと1人ずつ戦うと言うのだ。加えて、マブイナーも使うという卑怯すぎる作戦だ。絶対にうまくいかないと思った。
だが、当のオッソはやる気満々で、私がいくら言っても意固地になるだけだった。
気絶した光の住人を抱えて離さないオッソと問答を続けていると、いつの間にか海岸についていた。
私はオッソの作戦が失敗すると見て、オッソがこれ以上暴走しないよう監視する傍ら、光の住人に危害が及ばないよう注意しつつ、静観することにした。
この際、言って聞かないのなら、やらせて失敗させた方が覚えると考えたのだ。
しかし、その結果、オッソの作戦も私の考えもうまくいかなかった。
現場はしっちゃかめっちゃかで、私も軽くだが負傷してしまった。以前図書館で見た光の住人が急襲してきたので、攻撃が当たったついでに、ようやく人質を手放せたけど、3人目のラブティアが現れたのは完全に予想外だった。
これ以上はオッソの身が危ない。私は内心苦々しい気持ちで撤退を決めた。これなら、やっぱり無理やりにでも止めたほうが良かったかもしれない。
オッソはこれに懲りて、人質とかいう非道な真似は止めてもらいたいものだ。
妖精集めを品行方正に完遂できるとは、私も思っていない。だけど、それでもやっちゃいけないことはやっちゃいけないのだ。
私も、もっと考えて行動しないといけない。
「ルナーラ怒ってる?」
「オッソが懲りてなかったら、怒るかな」
私の言葉にオッソは謝った。分かった、もうやんない、と。
「うう、まだ目が回ってる気が。あたまぐあんぐあんする。――ルナーラは手ぇ大丈夫なん? 真っ赤っかだったやん?」
ジャイアントスイングにかけられたオッソは、私の手の怪我を心配してくれた。私はオッソに、まだ赤みが残る右手を少しだけ見せる。
「実はもう治りかけです」
へえスゴー、とオッソが驚く。
「あのピカピカビーム防いでそれだけってヤバ。ルナーラってホンマにスゴいんや」
そうだよ。ルナーラさんは強いんだよ。
「気功術で手は防御してたからね。素手だったら流石にこれだけじゃ済まないよ」
「いいなあ、ぼくも闇国真拳習いたいなあ」
教えてほしいなあ、とオッソがおねだりしてくる。
また今度ね、と私は返して、背中のオッソをぐいっと押し上げ背負い直す。晩ごはんは何にしようか。
「お夕飯は何がいい?」
「うーん、しゃけ」
「今朝食べたじゃん」
「じゃあ、やきにく」
いいね焼肉。でも、そんなしょっちゅうできるほどお金がないんだよ。月イチで我慢してくれ。
「ええ、ならなんでもいい」
なんでもいいが一番困るんだけど。
「ルナーラのごはんおいしいし、なんでもいい」
おやおや、嬉しいことを言ってくれる。
……それなら、少しお肉も残ってたから今日は野菜炒めにしようかな。この前作ったとき喜んでたし。
オッソに野菜炒めでいいか聞く。が、オッソから返事はなかった。
「オッソ? って、寝てるし」
オッソは戦いの緊張が解けたせいか、いつの間にか眠っていた。小さな寝息をたてながら、私の背中にしがみついている。
「まったく。いい気なもんですな。――まあ、ケガもしなかったし、いっか」
私はオッソを起こさないよう気をつけつつ、静かに屋敷に戻った。
◯◯◯
屋敷の玄関を開けて中に入る。
「ただいまー!」
私は帰宅を告げながら、背中のオッソを揺する。そろそろ起きて自分で動いてもらわないと。ルナーラタクシーはここまでですよ。
「ん、あれ、もうついたん?」
「ついたよ。手洗いうがいしてきな。眠かったら夕飯まで寝てていいから」
オッソが頷いたのを見て、私はしゃがんでオッソをおろしてやる。目をこすって、ぼんやり立つオッソを撫でてやっていると、屋敷の奥がにわかに騒がしくなった。
廊下のむこうから、ガチャガチャとした物音。
何事かと思う間もなく、廊下の奥からイエチェーとウーヤが走ってきた。
「ルナーラ! オッソ!」
「遅いぞ!」
2人とも喜色満面。興奮した様子で私たちの前に立つ。見れば、イエチェーはわざとらしく後ろに何か隠していた。
悪戯か、と一瞬訝しむが、しかしこれは早く何か聞いてほしそうな顔だ。仕方ない。
「ただいま。2人はどうしたの? そんなに急いで」
私が問いかけると、イエチェーとウーヤは顔を見合わせて笑う。よく聞いてくれましたと言わんばかりの勢いで、イエチェーは口を開けた。
「実はな! おれたち妖精を捕まえたんだ!」
なんと。それは驚きだ。予想外の返答に私は素直に驚く。
「虫網でな、こうやって捕まえたんだぞ!」
イエチェーはドヤ顔で鼻息を荒くし、ウーヤが何も持たない手で虫取り網を振るう仕草をする。
「えー、ぼくはとれんかったのに、ずるい」
先ほどの負けを思い出して、オッソは口を尖らせた。まあまあとオッソを宥めて、私は肝心の妖精を見せてもらおうと2人にお願いをする。
「すごいじゃん2人とも。じゃ、イエチェーさまとウーヤさま。是非私めに、その妖精をお見せくださいませ!」
頭を低くして、手を合わせて子どもたちにお願いする。わざとらしかったが、下手に出たおかげか2人はもったいぶることもなくすぐ獲物を出してくれた。
「じゃじゃーん!」
透明なプラスチック製の虫かごを前に突き出すイエチェー。中にいたのは、手のひらサイズの妖精だった。
暗めのふわふわな体毛。小さな狼耳、特徴的なあくどい顔に逆三角形の目を閉じてスヤスヤ眠るそれは、紛れもなく、
『くー』zzz
紛れもなく、妖精のクーちゃんだった。
「―――――」
やばい。どうしよう。反応に困る。
……そういえば、ウーヤたちはクーちゃんと会ったことなかったんだ!
赤ん坊の頃に何度か会ったはずだが覚えているわけがないし、ダークネスが来てからはウーヤたちに会う機会なんてなかった。だから、知らなくて当然だ。
どうしよう。
「へえ、妖精ってこんなかんじなんや」
感心した、興味津々な声色でオッソが虫かごの中で爆睡をキメるクーちゃんを覗く。イエチェーもウーヤも鼻高々でオッソにみせている。うわー、言い出しづらい!
ラブティアと戦っている時よりピンチかも知れない。頭の中をフル回転させて上手い言い回しを考えるが、そんな語彙は私にはなかったと気づき頭を抱える。
「おい、ルナーラは見ないのか? 最初の1匹目なんだぞ?」
ウーヤがテンション高めに話しかけてくる。いつもはもっとカッコつけた態度なくせして、よほど嬉しいらしい。マジで困るから止めて!
しかし、これは私が言わなければならない役目だ。私は自分にそう言い聞かせて、はしゃいでいる子どもたちに向き直った。
「みんな。あのね、その妖精なんだけどさ―――」
「なんだよルナーラ。欲しくてもあげないぞ。手柄はおれたちなんだぞ」
「いや、ちがくてね。その妖精、実はクーちゃんって名前の子なんだよね。闇の国で、仲良くしてた、私の友達の妖精、ナンダヨネ」
『―――』
3人が無言になる。
「だから、元からいた闇の妖精だから、たぶんその、ノーカンになると思います。はい」
玄関の空気が凍りつく。
「なんだ。そうなんや」
唯一軽症なオッソが呟く。ウーヤとイエチェーは完全に無言だった。先ほどまでの笑顔はどこにもない。
私は気まずさで死にそうだった。
「ちぇ、喜んで損したぜ」
「だな……」
イエチェーとウーヤは、悟ったような顔で呟く。
止めて。私が悪いみたいじゃん!
いや、悪いのか?
もはやわけがわからない。どうしたらいいのだ。
白けた3人と悩む私。呑気に眠るクーちゃんだけがこの空気を吸わずに済んでいる。
ルナーラ「今日、焼肉する?」
3人「別に、なんでもいい」
ルナーラ「……はい」
クーちゃん『zzz』




