第24話 第三話「美しく閃く心 ティアキャンデラ誕生!」④
Side:光ヶ丘アンナ
私たちはティアルクスの指示に従って、砂浜から退避し、堤防に上がった。
ティアルクスとオッソという闇の戦士との戦いを、私はランランという光の精霊とともに眺める。
「彼女1人で勝算はあるのかい?」
「きっと大丈夫ララ。でも、ルーメンもいたら心強かったんだララ」
初耳の名前が出た。他にもラブティアという存在はいるらしい。
これは失敗したな。知らなかったとは言え、アカリ君に他方へ連絡を促す時間を与えなかった私の失態だ。
「そのラブティアに連絡は取れないのかい?」
「アオイが持つラブティアの聖具に連絡を取れるのはルクスしかいないララ」
あおい。生徒会長のことか。
……なるほど。昼休みに2人が一緒だったのはそういうわけか。しかし困ったな。私も電話は学校に置いてきたままだ。連絡のしようがない。
「君は戦えないのだろう?」
「人間に変身したら、少しはできるララ。でも不意打ちが精々ララ」
「ラブティアはアオイ君以外にはもういないのかい?」
「もう1人なれるララ。でも、最後の聖具はリンリンが持っているララ。それにラブティアになるには妖精に選ばれないといけないララ」
ラブティアには、誰でもなれるわけではないらしい。妖精に好かれることが絶対条件とのことだ。
……妖精。確かアカリ君が変身した時、小さな光る牛が一瞬だけいたな。あれか―――。
こんな時、都合よく妖精が現れて、私が妖精と縁を結べれば、事態は限りなく好転するのだが。
私が腕を組み、黙考していると、
『ぴー』
いた。
小さな光るフラミンゴのような生物が、私たちの隣でティアルクスの戦いを眺めて喜んでいた。
まさか、という思いが込み上げてくる。
「ランラン君、これは」
「妖精ララ。きっと、ルクスの光に当てられて出てきたんだララ」
ランラン君も驚いた様子だった。
だが、都合がいい。これは事実だ。そして、目の前に妖精が現れた私がやるべきことは、1つだ。
発光しているし、もしかしたら白熱球のように熱いかもしれない。だが今はそんなことを気にしている暇はない。私は躊躇なく、光る妖精に手を伸ばした。
『ぴ? ぴー!』
「――驚いた。自分から乗ってくるなんて」
内心あり得ないと思っていたのに。フラミンゴもどきの妖精は、私が伸ばした手に自ら乗ってきたのだ。妖精は純真な瞳で、私を見詰めている。
これは、認められたと、そう判断してよいのだろうか。
「まさか、君が最後の1人だったララか!?」
「ランラン君、不意打ちは得意で合っているね? 変身用のアイテムはリンリン君が確実に持っているね? そして、ラブティアに変身するにはルクスがやっていた自撮りのような行為をすれば自動的に変身が始まる。その認識であっているね?」
突然の質問攻めに、ランラン君は動揺しながらも頷いた。
「よし。では今からあそこの仮面をつけた女性めがけて君を投げるから、何とかリンリン君を救出してくれ。その後は私がなんとかしてみせる」
私の提案を聞いた途端、ランラン君は慌て始める。
「投げる、投げるララか!? 無茶振りすぎるララ。ただ投げられただけじゃ、そんなにうまくできないララ!!」
「安心したまえ。運動は好きではないが不得意でもない。この距離と君の重量なら、いい感じに投げられるだろう」
「まず投げることから離れるララ! だいいち投げられたところで宙で落とされてそのままお終いララ!!」
それもそうか。
仕方ない。私は眼下で戦闘を継続中のアカリ君に向けて、叫んだ。なんでもいいから大事にしてくれ、と。
彼女は即座に反応してくれた。陽動にぴったりの、特大の光線を放ってくれる。
……なんだこの光線は! 人体からエネルギー波を打ち出せるとは、実に興味深い!
私は興奮しながらも、抗議を続けるランラン君を振りかぶって勢いよく投擲した。
「ぎゃー!!」
私も後を追う。ランラン君が上手くやるのを期待して。
◯◯◯
Side:ランラン
うぎゃあ、と叫びながらランランは宙を舞った。
本当に投げるなんてひどい。しかし、こうなったらやぶれかぶれでなんとかするしかないと覚悟を決める。
空中で体を捻って姿勢を制御しつつ、ランランは目の前で光の奔流がリンリンたちへ向かうのをみとめる。
……ラブティアの力を素手で受け止めたララ!?
リンリンを拘束していた女戦士は、空いた腕1本で、なんとラブティアのフォトンレイを受けきったのだ。
そんな馬鹿な、とランランは思う。伝説の戦士の技を止められる者がいるとは、にわかには信じ難いからだ。しかし、現実は事実でしかない。でも、
「あの腕はもう使えないはずララ!」
フォトンレイを受けた腕は、明らかに使い物にならないと分かるほどに負傷していた。これなら、いけるかもしれない。
ランランは投げ出された空中で、タイミングを計って人間モードに変身した。そして、
「闇の戦士! 覚悟!」
俺は着地と同時に女戦士に対して掌底を放った。
女戦士は、俺の攻撃に冷静に対処していた。彼女は負傷した右腕の肘を使って、俺の掌底を受けたのだ。
「光の住人か」
「応とも! ライトパレス、光国流真拳の門弟、ランラン。推して参る!」
最初の一撃で、この女戦士が相当の実力者なのは分かった。迂闊な動きはできないが、リンリンを救うだけなら、やりようはある。
ひたすら手数で押すかたちで、俺は女戦士を封じ込める作戦にでる。つかず離れずの距離で、がむしゃらに拳打を打ち込む。
しかし、女戦士は、俺の拳を足や肘を使って的確に捌いていく。信じられない反応速度と体捌きだった。
……この動き。明らかに達人級! 強い!
冷や汗を流す。この女戦士の両腕が自由だったなら、俺は数秒とて相対を続けられなかったことだろう。
しかし、今なら行けるはずだ。俺は数秒でも早くアンナの頼みを叶えるために、捨て身の覚悟で行動を起こした。
「光国流真拳、乱れ突き!」
更なる圧倒的手数で押す、光国流の散打だ。
この乱れ突きにより、わずかにだが、俺は女戦士の処理速度を上回った。
「隙あり!」
俺の放った掌底が、リンリンを掴む女戦士の腕を直撃する。この衝撃で、リンリンは飛んでいった。
……よし。
確かな手応えに、思わず口元が緩む。
「闇国真拳奥義、覇玉掌……!」
闇の女戦士は、リンリンを掴んでいた手がフリーになった瞬間、即座に攻撃に移っていた。
猛烈な掌打が、俺の体を突く。
俺は衝撃で吹っ飛ばされる最中に、視界の端でラブティアの聖具を手にしたアンナの姿を見付けた。
「……後は頼んだ。伝説の戦士ラブティア!」
変身も解けて、ランランはそのまま砂浜に落ちる。
◯◯◯
Side:光ヶ丘アンナ
敵の手から離れたリンリンから無理やりラブティアホンを受け取った私は、妖精を手に自身を被写体にした。そして、
「ラブティア! ドミネーション!」
身体の自由を奪われた。
実に興味深い感覚だった。
五感はあるのに、身体が勝手に動く。自撮りした妖精はラブティアホンに取り込まれ、画面から黄金色の光が飛び出した。直後、私の衣服が飛び散った。
身体中に光がまとわりつく。
……熱はない。感触はシルクのような肌触り。すでに布として存在しているのか!
興味深い。
キラキラと発光する布は、やがて存在を確定させていく。
足はハイヒールブーツ。ショートパンツにスリットの深いロングスカートに変化。上半身にはインナーの上にタイトブラウス。羽を思わせるマントを帯びた。
淡い茶髪は光り輝く金髪に変色し、ミディアムだった髪は足につくほど伸びて、ツインテールにまとめられた。
……ニョキニョキ髪が伸びる感覚は面白いな!
ルクス君が変身する様を見るのも面白かったが、自分で体験するのは更に面白い。
ラブティアホンを腰のポシェットに収めて、私は地上に舞い降りた。
「――美しく閃く心、光の使者ティアキャンデラ!」
なかなかかっこいいポーズを決めて、私は仮面の女戦士の前に立っていた。
身体の自由を取り戻す。なるほど。変身は完全に自動なのか。面白い体験になった。あとでレポートにまとめておこう。
「3人目のラブティアか」
「割って入るようですまないね。しかし、これでも3対2。君たちの有利はいささかの衰えもないのだ。是非加えさせてほしい」
「余裕そうな口ぶりだな」
「いやすまない。何分初めての経験で興奮していてね。少し饒舌になってしまうようだ」
そうか、と女戦士は頷いて、興味なさげに身構えた。応じるように、私も腰を落とした。
前に走る。仮面の戦士に向かって。そして、私は女戦士に最接近した瞬間に上空へ跳んだ。
私は跳躍して、ティアルクスがいる場所に優雅に着地した。
「やあ、色々あって戻ってきたよルクス」
「キャンデラ!」
戦闘も大事だが、まず優先すべきは挨拶だ。新入りなのだから、先任者に声をかけるのは当然だろう。
「まさかアンナさんが最後の1人だったなんて信じられないよ!」
「私も驚いているが、日頃の行いが良いからかな。運には恵まれているようだ。では、あの仮面の戦士とは私が戦おう」
二つ返事で、ルクスは応じた。一度背中を預けてから、2人は己の戦場に戻る。
「すまない。待たせたね。ここからが本番だ」
相手の応答を待たずに、私は攻めた。
全身に充足するパワーに高揚しつつ、とりあえず力任せに拳を繰り出す。迎撃される。
蹴りつける。弾かれる。回し蹴り。止められる。拳で連打。いなされる。もう一度蹴り、避けられた。
……強い。
片手がろくに使えないのに、仮面の女は私の攻撃を完全に防御していた。
回転を上げるか。
私は威力ではなく数に切り替えて、拳と蹴りを打ち出す。なるべく相手の負傷した腕側に移動して、
「はっ!」
一撃だけ、通った。
仮面の女戦士が後ろに後退する。追って、更にもう一発。アッパーだ。
受け止められるが、彼女はさらに飛ばされた。
跳んで、撃ち落とす形で私は地面めがけて思い切り蹴りつける。仮面の女戦士は、砂浜に墜落した。
「キャンデラ!」
ルクスの声。振り返れば、ルクスはなんと自販機と熊を同時にジャイアントスイングにかけているところだった。
派手だね。
「ルクス、あっちにまとめてくれたまえ!」
「OK!」
ルクスは熊と自販機のうち、まず熊を投げ飛ばした。狙いは仮面の女戦士が飛ばされた場所だ。
次に自販機も投げ、敵方を一か所に集める。
やることは1つだ。
ルクスの元に着地し、彼女と手を握る。
「――ラブティアの美しき光が」
「邪悪な心を打ち払う!―――」
『ラブティア・ダブルフォトンレイ!!』
全身を巡るパワーが、手に集約され、光となって打ち出される。先ほどルクスが放った光よりも更に太い光の奔流が、闇の戦士たちめがけて襲いかかった。
「……今日はここまでだね。オッソ、引くよ」
光が収まったあと、そこには浄化された自販機が残されているだけだった。
「ふうん。逃げられたみたいだね」
私は戦闘が終わったことを悟り、少しばかり肩の力を抜いて、ルクスに手を差し出した。
「とりあえずなんとかなったようだ。無事リンリン君も取り戻せたし、勝利で良いのかな?」
「うん。キャンデラのおかげでなんとかなったよ。ありがとう!」
「それはよかった。――ところで、この変身はどうやって解除するのだろうか?」
こうして、私のティアキャンデラとしての初めての戦闘は無事終了した。
とても興味深い体験の、始まりとなったのだ。
アンナ「少し喉が渇いたね。ジュースでもどうだい?」
ランラン「ランランは飲みたいララ」
リンリン「リンリンも飲んでみたいリリ」
アカリ「私はしばらくジュースは。……なんかまだベタベタしてる気がする」




