第23話 第三話「美しく閃く心 ティアキャンデラ誕生!」③
「リンリンだララ! リンリンの気配が残っているララ!」
「ひゃあ!? へ、変な動物がまた出た!?」
「ランラン! 勝手に出てこないでって言ったのに!」
壊れた檻を観察しようと足を進めた瞬間、割り込むかたちでランランが部屋に飛び込んで、開口一番仲間の名前を叫んだ。
ランランは興奮した様子で、破れた檻を見て叫んでいる。そして、急に出てきたランランに、アンナさんは驚いて腰を抜かしていた。まるで猛獣に睨まれた少女のように震えている。
予想外の出来事と突然の騒動に、私はどう収拾をつけていいか分からなかった。
「もー、一旦静かにしてー!」
数分後、やっと落ち着いたランランと平静さを取り戻したアンナさんに対して、私は告げた。
「まずは状況を整理しましょう!」
アンナさんが手を挙げた。
「あー、まずたずねたいのだが、キミたちの言うリンリンという仲間は、私が保護していた生物で間違いないのかな?」
「ランランは間違いないと思うララ!」
だそうです、と私はアンナさんに向き直る。
「正直驚いている。人間とこれほど流暢に会話できる生物がいるとは。夢でも見ている気分だ」
「一応ランランたちは光の国の精霊らしいです」
「なるほど。光の国、精霊、実に興味深いな」
「あの、こんなこというのもなんですけど、信じてくれるんですか?」
アンナさんは科学研究部の部長だ。私はてっきり非科学的なことだと否定されると思っていた。だが、アンナさんは私の疑問に口端を上げる。
「私は、私が興味を抱いたことを研究したいだけだよ。そこに現実的かどうかなんて敷居を作る気はないね」
故に科学研究部と銘打ったのだ、とアンナさんは笑う。
「それで、この状況はどういう理由か分かるのかい? 何も知らない私から見れば、外から襲われたか、中から暴れたふうにしか見えないが」
アンナさんの台詞に私は腕を組んで考える。私もアンナさんと同意見だ。しかし、1つあげるとすれば、
「中から暴れた可能性は低いと思います。檻の裂け方的に外から内に向かってますし、だいいち―――」
「リンリンはこんな物騒なことはしないララ」
ランランの断言に、私も頷く。精霊姿のランランは驚くくらい非力だ。仲間のリンリンに、こんな真似ができるとは思えない。
「では襲われたということになるね。窓も破られていて、破片の大半は室内に。十中八九そうだろう。次に考えるべきは目的だ。思い当たる節はあるかい?」
ただの珍生物愛好家の仕業かもしれない。アンナさんは静かにそう告げる。
「ランラン、どう思う?」
私の呼びかけにランランは無言で応じた。ゆっくりと破られた檻の周りを回る。しばらくして、ランランは叫んだ。
「ここ! ここの部分からわずかだけど闇の気配を感じるララ! 窓に向かって続いてるララよ!!」
ランランは窓辺に寄って、食い入るように外を見詰め始める。後ろからアンナさんが近づく。
「ほお、下手人は闇の勢力というわけか。あとは追えそうかい?」
「ぎりぎりララ。だけど、向こうの方に続いてるララ!」
「よし、なら話は早い! あとを追おう!」
アンナさんは即断で行動を開始した。ランランを抱えて、白衣も脱がずに走り始めたのだ。
「え!? ちょっと! アンナさん!?」
私も慌ててついていく。鞄からコフレとラブティアホンを抜き取り、2人の後を追う。意外に早い!
「待ってえ! 置いてかないでください!」
なんでラブティアの私より先に向かってしまうのだ。
◯◯◯
学校を出たあたりでアンナさんの疾走は終わった。流石に最後まで走り続ける気はなかったようだ。
アンナさんは早歩きに切り替えて、ランランの指し示す方向に一直線に進む。
「もー、急に走らないでよぉ。びっくりするじゃないですかー!」
「ははは、すまない。柄にもなく興奮してしまったんだ。許してくれ。それにキミたちとしても仲間を助けるのは早い方がいいだろう?」
「それはそうですけど、にしても突然すぎです!」
私の抗議をかわし、アンナさんは腕に抱いたランランに聞く。
「方角はこのままかい?」
「このまま真っすぐララ!」
「なるほど。では海岸だね。砂浜があったはずだ」
アンナさんは歩調を早めた。このまま海岸まで向かうつもりらしい。
「アンナさん、もしかして最後までついてくる気ですか? 危ないですよ!」
「危ないのはキミもじゃないのかい?」
「私は一応、正義のヒーロー的なことができるので……」
ほお、とアンナさんの瞳が不気味に揺れた。
「興味深い!」
これは、言わないほうが良かったかもしれない。アンナさんの目が私を観察対象として見ている気がする。いや、完全に見ている目だ。
「アカリは光の国に伝わる伝説の戦士ラブティアになれるララ!」
ランラン、余計なことは言わないで!
「アカリ! 変身してランランたちを抱えて海岸まで連れて行ってほしいララ」
「変身! アカリ君、是非頼むよ!」
人をタクシー代わりにしないでほしい。だが、リンリンが心配なのも事実だ。私は早々に観念して、コフレから牛さん妖精を呼び出した。
「ラブティア! ドミネーション!」
妖精と一緒に自撮りをして、私はスマホから飛び出た桜色の光を浴びた。
「――清く煌めく心、光の使者ティアルクス!」
カッコよくポーズを決めると、アンナさんが小さく拍手をしてくれた。少し、恥ずかしい。
「衣服が消し飛んで、その上から発光現象を伴う物質が身体を覆い尽くしていたね! 毛髪の異常成長も見られた! 興味深い! 熱や感触はあるのかい!?」
「もー、静かにしてください! 舌をかんでも知らないですよ!」
私はアンナさんとランランを両脇に抱えて跳んだ。屋根に着地して、そのまま屋根伝いに海岸を目指す。
「とんでもない身体能力だ! 実に―――」
「興味深いのは分かったので、後にしてください! 急ぎますよ!」
「このまま真っすぐララ!」
自由人ばかりで私は本当に大丈夫か心配になってきた。やっぱり葵さんがいないと私は不安だよ!
◯◯◯
砂浜が広がる海辺。
私たちは十分もかからず到着した。
「闇の気配を濃く感じるララ!」
砂浜に着地すると同時にランランが言う。
「人影は見当たらないね」
アンナさんの言葉に頷きつつ、私は二人を降ろして辺りを見回す。しばらくして、砂浜の向こうから2つの影が現れた。
「アンナさん、ランラン、下がって」
現れた2人は、以前見たカラス怪人、イノシシ怪人とも違った。1人はデカい熊、もう1人は仮面をつけた長身の女性だった。女性の頭からは狼を思わせる耳が生えている。
「闇の戦士! リンリンをさらったのはあなたたちね!?」
私の張り上げた声に反応したのは、仮面の戦士だった。
「リンリンとは、この生き物のことかな?」
仮面の戦士が片手をあげる。その手に掴んでいたのは、口を塞がれ体を縛られている兎に似た精霊だった。
「リンリン!」
ランランが叫ぶ。どうやら間違いないようだ。
「リンリンを返しなさい!」
「拒否する。返してほしくば、我らを倒すことだな!」
仮面の戦士はそう言うと横にいた熊怪人を促した。熊が前に出てくる。
「我はダークネスさまに仕える闇の戦士が1人、オッソさまだッ! ラブティア! いざ尋常に勝負だ!」
人質を取っておいて真剣勝負とは笑止千万だ。
「アンナさんとランランは離れてて!」
「あか、ルクス君だったかな? 数はあちらが多い。ここは勝負よりリンリン君を助けることに注力することを勧めるよ」
アンナさんはそう言い残して、ランランを抱えて堤防の方へ退避していった。
「闇の戦士オッソ! 私と戦うこと、後悔させてあげる!」
「覚悟! ラブティア!」
さっそく熊が突っ込んできた。仮面の戦士は後ろに下がっている。観戦する気のようだ。一対一でなら、私にも十二分に勝機はあるだろう。
私は迎え撃つため、向かってくる熊怪人に意識を集中させた。
だが、その直後、突如背後から現れた怪物の攻撃に、私はまともに対処できなかった。
『マブイナー!』
現れたのは自販機の怪物だった。私めがけて、取り出し口から無数のペットボトルや缶を打ち出してくる。
「きゃ―――!?」
激しい攻撃に晒された。私は幾つか反射的に避けられたものの、数個は直撃してしまった。
「どおりゃあッ!!」
マブイナーの攻撃に身を固くした私を追い打つように、大熊がその鋭い爪を腕ごと振り下ろしてきた。
衝撃で吹っ飛ばされる。
波打ち際を転がりながら、私は手をついて態勢を立て直す。顔を上げて、熊と自販機を視界に捉えた。
熊はなおも追撃しようと動いていた。自販機はカバーとしてか、目立った動きはしていない。
私は反撃に出る。まず対処すべきは熊怪人オッソだ。
「てりゃあーっ!」
駆けてくる熊に対して、私も駆けて拳を繰り出す。拳と拳がそのまま衝突した。強い衝撃に骨が軋む。
拳を引いて、軽くジャンプ。大熊の顔面めがけて蹴り上げた。防がれる。すぐさま連撃に切り替え、踏みつけまくった末に跳んで、距離を取った。
「ちょこまかと動きやがって! マブイナー!」
『マブイナー!』
マブイナーが蔓脚を動かして前に出てきた。炭酸ジュースを振りまくって吹きつけてくる。ちょっとかかってしまった。ベタベタする。
マブイナーを回避するついでに大熊に接近して、私は彼の胸部を打ち抜いた。が、有効打にはならなかったようで、オッソはそのまま私に掴みかかってきた。
「くっ、意外と力があるみたいやな!」
私は退避せずに熊の両手を掴み返してやった。力比べに入る。押したり引いたりして、最後には大熊を持ち上げて投げ飛ばす。
「うごあぁッ!」
『マブイナー!』
熊怪人が倒れた穴を埋めるためにマブイナーが突っ込んでくる。だが、あまりにも無策だった。単調な動きをするマブイナーの攻撃を避けて、私はマブイナーを殴り飛ばす。
「くそ、ラブティアめ。調子に乗りやがって!」
投げた大熊はすでに立ち上がって、こちらを睨んでいた。私はマブイナーから再び、熊に意識を向け直す。が、しかし、
「ティアルクス! なんでもいい。大事を起こしてくれたまえ!」
大声でアンナさんの叫びが耳に入った。
私は迷わず動く。理由は知らないが、きっと何かあるのだろう。変な人だけど、悪戯でこんなことを言う人ではない。
「ラブティア・ファーストフォトンレイ!」
全身に漲るエネルギーを放出する。特に打つ方向を考えていなかったので、とりあえず大熊めがけて放った。
「真正面からでそんな大技当たるか!!」
熊怪人はぎりぎりではあったものの、私の攻撃を避けてみせた。私が放った光はそのまま、その後方にいた仮面の戦士に向かって一直線に進む。
「あ、ヤバ。リンリンに当たる!?」
「ルナーラ! 避けろ!!」
ルナーラと呼ばれた仮面の戦士は、しかし動かなかった。ただひと言だけ。
「――問題ない」
そう言って、仮面の戦士は、リンリンを掴む手とは逆の、空いた片腕だけで私のフォトンレイを受け止めたのだ。
「うそ……」
私の、ラブティア・ファーストフォトンレイが、破られた。
次回、決着




