第1話 転生したらケモい世界だった
鬱蒼とした林の中。
私は気がつけば、小さなバスケットの中で毛布と一緒に包まれていた。
身体がうまく動かせない。
ここはどこだろうか。確か繁忙期で忙しくて会社から帰ってきて、久しぶりにゆっくりしようと湯船に浸かっていたことだけは覚えている。
「キャン……!?」
声を発そうと口を開いたら、私の口から出てきた音は鳴き声だった。
……うそ。
私はその時初めて認識した。自身の身体が、全くの別物になっていることに。全身は毛に覆われ、足には肉球があり、鼻先は丸く尖っている。
「きゃううん(私、子犬になってる?)?」
訳がわからずパニックになる。
ここはどこだ。私はどうなったのだ。これは夢なのか現実なのか。いっそ悪い夢であってほしい。
……もしかして私、死んじゃったの?
輪廻転生。アニメや漫画、オカルト話でよく聞くが、まさか自分が本当に体験することになるなど想像もしていなかった。
ひどく疲れていたことだけ覚えている。新卒2年目の繁忙期、覚束ないながらも頑張って働いて、久しぶりに湯船に入ってウトウトしていたら、気付けば子犬の姿に。
……溺死しちゃったの?
まだ両親に親孝行もろくに出来ていなかった。
無断欠勤すれば、会社の上司が親に連絡してくれているはずだが、早く見つけてくれなければ私は今頃ひどい姿になっていることだろう。できればなるべく綺麗な姿で親に会いたい。
もう、ここにいる私には確認のしようのない話だが。
「―――」
子犬の私は、おそらく捨てられている。
雑草生い茂る林の中、私を入れたバスケットだけが放置されている。親の姿どころか、飼い主らしき気配もない。
くう、と小さなお腹が鳴る。
生まれて間もない、こんな小さな体では、何も食べなければ数日とて持つまい。
転生したというのに、もうすでに私の命は風前の灯であった。胸中には両親へ別れを言えなかった後悔、そばに誰もいないという不安、そしてすぐにも死にそうな恐怖。いろいろな感情が渦巻いてひどい有様だった。
「ァ―――!」
私は感情を抑えきれずに泣いてしまった。止めどなく涙が溢れるが、口から出るのは甲高い鳴き声だけだった。
誰かいないのか。私を産んだ親はどこにいるのだ。誰でもいい、私を助けてほしい。
「――おやおや、鳴き声が聞こえると思ったら。かわいそうに、捨てられてしまったんだね」
喉が裂けんばかりに鳴いていると、不意に林の向こうから老婆の声が聞こえた。
その老婆の姿を見止めた瞬間、私は驚きで泣くのを止めてしまった。
「さあ、おいで。私のお家で温めてあげよう」
私を抱え上げた老婆の頭には立派なうさ耳が生えていたのだ。
ウサ耳マダム




