プロローグ
「月さん! どうして!?」
豪雨が降りしきる中。
人気のない埠頭で、少女の悲痛な声が響いた。
それを聞いて、私は改めて彼女たちを見やった。
まだ変身前の3人の少女たち。伝説の光の戦士ラブティアだ。
遠くに立つ灯台の灯りが無感情にひたすら回り続けている。私はそれを尻目に小さく息を吐いた。
彼女たちとは、この半年以上ずっと戦ってきた。その間、私はずっと仮面を被ることで正体を隠してきた。しかし、不運が重なり、とうとう正体を知られてしまった。
……さて、どうしたもんかな。
いずれ、彼女たちには協力してもらいたいことがある。それを思えば、いつまでも誤魔化すわけにはいかない。
「どうしてって言われてもね。見ての通りだよ。今までアナタたちと戦っていた闇の戦士ルナーラは、この私、暗井月だったってわけ」
私はありのままを説明する。
少女たちは何か言いかけるが、その時、
『くー』
『かー』
コンテナの陰から、友人である闇の妖精クーちゃんが戻ってきた。探していた妖精を連れて。
「黒い、妖精!?」
「友だちなんだ。君は少しここに入っててね」
私はクーちゃんが連れてきてくれた妖精に、用意していた小型の籠へ入ってもらう。
大人しくて助かる。大抵の妖精は逃げようとするからね。
「妖精を返してください!」
「妖精は誰のものでもないよ。ただ、私たち闇の国も妖精を欲しているだけ」
それに、先に妖精を独占したのは光の国側だ。
「月さん! 目を覚ましてください!」
洗脳でもされていると思ったのか、見当違いのことを言われた。
少し、腹の立つ物言いだった。
私は、私だけは正気だ、間違いなく。
「闇国真拳、奥義―――」
私が攻撃態勢に入ると、少女たちも反射的に構えた。そして、
『ラブティア! ドミネーション!』
薄暗い埠頭に、輝かしい光が咲き誇る。
「清く煌めく心、光の使者ティアルクス!」
「正しく輝く心、光の使者ティアルーメン!」
「美しく閃く心、光の使者ティアキャンデラ!」
『希望の力と未来の光、ライトネスラブティア!!』
桜色、空色、黄金色。
華々しい輝きをまとった3人が、カッコよくポーズを決める。
マナー違反だが、さっそく攻撃させてもらう。
「――覇玉浸透掌!」
突き出した掌底から、圧のある暴風が吹き出す。
『……っ!!』
驚いた。
彼女たちは私の気当てに耐え抜いていた。以前なら容易く吹き飛ばされていたのに。
内心で微笑する。強くなった、と。
成長してくれるのは、こちらとしてもありがたい。
ラブティアたちは、今度はこちらの番だと私を攻め立てた。先に出てきたのはルクスだ。
「ラブティア・スターライトアタック!」
桜色の光跡を伸ばして、ルクスが私目掛けて突っ込んでくる。威力はあるが単調だ。
私は拳打一つでルクスの光を打ち砕いた。
「ラブティア・スプライトシャワー!」
横からキャンデラの光の散弾が私を襲った。更には、
「ラブティア・ファーストフォトンレイ!」
技を砕かれたルクスが距離を取って、すでに次の一手を放っていた。以前とは見違えた連携プレーだ。
ルクスから放たれたまばゆい光が私に迫る。
「いい連携だね。だけど、――ダークネスホール!」
私は眼前に闇の引力を発生させて、迫りくる光を全て飲み込んだ。そして、
「食らえ! ホワイトホール!!」
吸収した光を、そのまま闇に変換して放出する。
「ルーメン! お願い!」
「ラブティア・オーロラベール!」
青空色の戦士が前に出た。
彼女の生み出した玉虫色の輝きが、私の放った闇を上空へと跳ね除けた。お見事!
「月さん! 私たちはどうしても分かり合えないんですか!?」
一歩前に出たルクスが叫ぶ。
分かりあえるかもね。でも、まだその時期じゃないんだ。
黙り込む私の心を知ってか知らずか、ルクスは言葉を重ねた。
「話せば、話せば分かり合えるはずです!」
「……話せば、ね」
話して分かり合えるのなら、どれほど良かっただろうか。
私の脳裏に、故郷のみんなの顔が浮かぶ。
かつては優しかったみんな。
だけど、その顔は歪んだ。
私の言葉を否定して、叱責して。
私がどれほど、みんなを説得したと思っているのだ。
大切な人たちが洗脳される悲しみを、彼女たちは知らない。知らないから、そんなことが言えるのだ。
がぎり、と歯が軋む。
いけない。駄目だ。冷静にならないと。でも感情が抑えきれない。
「我流闇国真拳奥義! 雷咆土槌掌!!」
私はやり場のない激情のまま、右の拳で地面を殴りつけた。
瞬間、雷鳴のような轟音と共に、埠頭が砕けた。
「月さんっ!!」
足場を失ったラブティアたちが海面へと落ちていく。
私は彼女たちの叫びを背に、その場を跳び去った。
◯◯◯
「やばー。またやっちゃったー」
港から離れた私は、ビルとビルの狭い隙間に身を隠して、頭を抱えていた。
後悔で、のたうち回る。
ラブティアたちとは、いずれ協力して、闇の国を支配する魔女を倒さないといけないのだ。
それなのに、また怒りに任せて暴れてしまった。
『くー?』
『かー!』
クーちゃんと捕まえた妖精が、私そっちのけで呑気に会話している。
クーちゃんは私の事情を知ってるんだから、もう少し労ってくれてもいいんじゃないのかな。
『くーく』
視線に気づいたクーちゃんが、私の狼耳の生えた頭をポンポンと触る。どんまい、だそうだ。
簡単に言ってくれる。
「はあ。でも、これで集まった妖精は12匹。あとはうまいことやって、あの魔女をなんとしてもやっつけないと」
私の腕力だけで、あの魔女を倒し切れるか自信がない。
やはり、ラブティアたちの浄化技が頼みの綱だ。
愛する故郷を、優しかった村のみんなを救うために。私は改めて、全力で戦う決意を固めた。
そう。
全ては、私が転生したあの日から始まったのだ。
この作品を読んでいただきありがとうございます。
ここから12話まで、ルナーラが故郷を旅立つまでの話が続きます。面白い、続きが気になると思っていただいた方は是非、ブックマークをお願いします!




