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第18話 第二話「正しく輝く心 ティアルーメン 誕生!」③


Side:日森(ひのもり)葵(あおい)


 私は蔓の檻の中で、乙女川さんの戦いを見守ることしかできなかった。


 何もできないことが歯痒い。


 できることなら何かしたいけど、捕まっている状態ではどうしようもなかった。


「乙女川さん!」


 態勢を崩した乙女川さんに、怪人のパンチが当たる。何とか直撃は防いだが、勢いで木に叩きつけられてしまった。

 その後、不利な状況から隙を見て追撃を逃れた乙女川さんは、どうやら態勢を立て直せたようで、再度怪人と攻防を始めた。


「頑張って!」


『きゅー』


 胸に抱いた子鹿の妖精が鳴く。誰にも盗られまいと、少し強く抱きすぎてしまったようだ。慌てて謝ると、妖精は何故かじっと私を見つめてきた。


「え……」


『マブイナー!』


 油断したせいで、木の怪物が蔓をさらに伸ばして、私から妖精を引き剥がそうと迫ってきた。必死に抵抗するが、拘束が強まってどうにもならない。


 ……!?


 奪われる。そう思った瞬間、頭の中に1つの言葉が流れ込んできた。自分のものではない思考。しかし、私はその言葉に咄嗟に従った。


 ――ボクを掲げて!


 力を振り絞って、妖精ごと両手を上へ伸ばす。


『キュー!』


『マブイナー!?』


 妖精から強烈な閃光が走った。


 木の怪物が悲鳴をあげて、その場で暴れる。どうやら、閃光で目が眩んで何も見えていないらしい。


「妖精と心を通わせる。間違いない。キミが2人目のラブティアだララ!」


「あなたは乙女川さんの」


 乙女川さんのぬいぐるみが、いつの間にか怪物の足元で叫んでいる。喋るだけでなく、動くこともできるらしい。夢に出てきそうだ。


「これを使うララ!」


 ぬいぐるみは私にスマホを投げつけてきた。目の前に飛んできたスマホをキャッチして、ぬいぐるみに視線を戻す。


「妖精と一緒に自撮りでラブティアに変身できるララ」


『きゅう!』


 何がなんだかよく分からないけど、乙女川さんの助けになるのならそれでいい。


 私は迷わずスマホのカメラを自身に向けた。直後、


「ラブティア! ドミネーション!」


 身体が勝手に動き、私は無意識にそう叫んでいた。一緒に写った子鹿の妖精がスマホに飛び込む。


 驚く。だが、次の瞬間には私の服が消えてさらに驚いた。


 身体が空色に輝き、私を拘束していた蔓全てが弾け飛ぶ。


 よく見れば、輝いていたのは制服の代わりに身を包んだ衣だった。


 衣はキラキラと光りながら、しかしその存在を徐々に確定させていく。

 最初に変わったのは足元だった。


 ハイヒールブーツにハイソックス。次は、ショートパンツにスリットスカートが生まれる。そして、上半身はインナーウェアの上にブラウスを着させられた。


 白と青を基調にした衣装を身にまとい、私は自分の紺色の黒髪が伸びて、艶やかな空色になったのを自覚した。鹿角を模した髪留めでポニーテールにヘアメイクされる。


 地上に立ち、私の身体は勝手にポーズを構える。


「――正しく輝く心、光の使者ティアルーメン!」


 華麗に口上を決めた私は、やっと身体の自由が返ってきたことに気づいた。


「あ、動けるわ」


「ルーメン!」


「乙女川さん!」


 怪人を捨て置いて、乙女川さんが私のもとに駆け寄ってくる。やっぱり、可愛い。素敵だ。


「あ、一応今はティアルクスって名前なので」


「そうなのね、気づかなくてごめんなさい。でも、この変身、その服もだけどあなたの趣味じゃなかったのね」


「そ、そうなんですよ! かわいいとは思いますけど、決して自分で好きで着てるわけじゃないんです!」


 必死で何かを弁明するルクスに私は苦笑しつつ、


「私は似合ってると思うわ」


「そ、そうですか? あ、でもルーメンの服もカッコいい系の可愛い服でよく似合ってますよ!」


 ありがとう、とお礼を言う。


「お前ら! 俺さまのことを忘れるな!!」


 青筋を立てた怪人が急に喚き始める。そして、同調するようにそばにいたぬいぐるみが抗議した。


「今は戦闘中ララ! おしゃべりは後ララよ!」


 そうだった、そうだった。変身による高揚感で、少しばかり気がそれてしまっていた。


 私はイエチェーという怪人に正面を向け、ルクスはマブイナーに対峙した。背中を合わせて、ルクスに声をかける。


「ルクス!」


「うん、行くよ!」

 

 2対2で戦闘再開だ。


 私はまず走った。


 そのまま左右に跳ねて、怪人に接近。パワー全開で右の拳を叩きつける。


「くッ、早い!」


「ハァ!」


 猪怪人は腕で受け止める。だが、威力を殺せず、そのまま後ろに押し込まれた。10メートルほどでようやく制動する。


「今度は俺さまの番だ! 食らえ!!」


 仕返しとばかりに怪人は突進攻撃を仕掛けてきた。直線的な動きだ。避けるのは容易いだろう。しかし、


「なにっ!?」


「鹿も突進は得意なのよ!」


 私は真正面から怪人めがけて突進した。腕をクロスさせ、そのまま怪人と激突する。強い衝撃が腕に走った。


 何となくだが、自分のなかに妖精の子鹿のパワーが巡っているのが分かる。


 強靭な脚力で、私は巨漢の怪人を押し返す。


 パワー負けするのが予想外だったのか、怪人の顔が歪む。


「くそ、舐めるなあ! ――ナッ!?」


 私は猪怪人が押し戻そうと力を込めたタイミングで、力を抜いて横に避けた。予想外の動きに、怪人はあっさりと前に態勢を崩した。


「はっ!」


「グホッ!!」


 倒れる怪人の腹を蹴り上げて上空にふっと飛ばす。


「ルクス! 行くわよ!」


「任せて!」


 私は上空で藻掻く怪人を追ってジャンプし、怪人をルクスたちがいる方向めがけて再度蹴り飛ばした。

 

「おーりゃーっ!!」


 任されたルクスは、戦っていた木の怪物マブイナーを地面から引っこ抜いて、そのままジャイアントスイングにかけていた。狙いを定め、落ちてくるイエチェーに向かって投げ飛ばす。


「ぎゃあああ!!」


『マブイナー!?』


 空中で怪人怪物が衝突、そして地上に落下した。


「ルーメン、やるよ!」


「分かったわルクス!」

 

 私はルクスと合流し、2人で手を握り合った。汗ばんだ柔らかい感触が心地よい。何をするのか知らないが、頭に浮かんだ単語を叫ぶ。


『ラブティアの美しき光が、邪悪な心を打ち払う!』


 全身が熱い。身体中のパワーが燃えているようだ。


『ラブティア・ダブルフォトンレイ!』


 手を突き出し、全身に漲る力を解き放つ。


 力は光の奔流となって、私たちから溢れ出した。


 浄化の光がマブイナー怪人を焼き尽くす。


 ……勝った!


 初めての戦いだったが、確実な手応えがあった。


 数秒後、光が落ち着き、林は元の姿に戻っていく。が、しかし、


『――!?』


 私たちの視線の先、マブイナーたちがいた場所に予想外の存在がいた。


 そこにいたのは、大きな狼だった。


 私たちの身の丈ほどあるその巨狼は、静かに佇み、琥珀色の瞳で私たちを捉えている。


 咄嗟に、私たちは身構える。


『うちの部下が世話になったな』


 喋った!

 

 動物が喋るとは驚きだ。だが、喋ったことへの驚きよりも、何より部下という言葉に冷や汗を流す。


「ルクス」


「うん、すごい威圧感だね」


 狼から放たれる圧が、恐ろしく強い。肌が粟立ち、身がすくみそうになるほどに。

 先ほどの怪人より、明らかに上位の存在だった。


『恐れる必要はない。今日の争いはここまでだ』


 そう告げる狼は、地面に向かって顔を落とし、口で何かを咥えると、そのまま走り去っていった。


 何を咥えたのか、薄暗くてよく見えなかったけど、気のせいかもしれないが小さな猪に見えた。


「終わった、のかしら?」


「……たぶん」


 私たちはあの狼が本当に去ったのか分からず十秒ほど動けないでいたが、とうとう諦めて警戒を解いた。

 あの威圧感も完全に消え失せている。どうやら本当に帰ったようだ。




 妖精を守る。

 その目的は達成できたが、やや不完全燃焼な結末に終わってしまった。


 ……これから、どうなるのかしら。





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