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第17話 第二話「正しく輝く心 ティアルーメン誕生!」②


 公園の奥にある雑木林。

 それなりに手入れされているおかげか、木々の間隔も広く、人が歩く程度の隙間は十分にあった。


 落ち葉と雑草の地面を踏みしめて、私は先を進む。


 先ほど見かけた光は、どこにいるのか。目を左右に動かして、辺りを見回すが、それらしい姿は見えない。


 自分は何をやっているのだろう、と思わないでもない。しかし、もう少しだけもう少しだけと自分に言い訳をして、足を前に進めてしまう。


「――あれは」


 ほどなくして、私は見付けた。


 間違いない。さっき見た動く光だ。


 握り拳1個分の明かりが、淡く明滅しながら大きな樹木の周りを飛んでいる。


 私は気づかれないよう慎重に近づく。


 だが、ぱきり、と小枝を踏んでしまった。突然の音に、光がビクリと動く。辺りを見回す光は、やがて私の存在に気がついた。


 逃げられる。そう思った私だが、意外にも光は私の方に近寄ってきた。


 数度、私の周りを回った光は、私が差し出した両手に着地してくれる。


「――温かい」


 心地よい温もりが手に伝わる。


『きゅー』


 光る物体は、よく見れば、かなりデフォルメされているが鹿のような見た目をしていた。

 羽も持たずにどうやって飛び、どうやって光っていたのか。のほほんとした瞳が、私を見上げている。


「あなたは―――」

 

 何なのかしら、と言おうとした私は、しかし、背後に突然現れた威圧感に目を見開いた。


「見付けたぞっ! 妖精!!」


 子鹿を抱き、振り返る。


 そこにいたのは、全身毛むくじゃらの大男だった。夕暮れの薄暗さで分かりづらいが、口元には大きな牙も見える。明らかに普通の人間ではない。


「妖精をよこせえ!」


「きゃッ!!」


 大男は叫び、ものすごい速度でそのまま突進してきた。


 身構えていたおかげか、私は咄嗟に横に跳んで難を逃れる。

 理解不能な事態と攻撃されたことに動揺しながらも、私は震える体を叱咤して起き上がり、急いで走った。逃げなければ!


「交番が近くにあったはず!」


 温かい光を胸で守りつつ、私は林を抜けようと足を動かす。だが、


「……うそ。どうして」


 この雑木林は、こんなに広くなかったはずだ。いくら走っても、外の景色が見えない。まるで林の中をぐるぐる回っているようだった。


「がはは、逃げても無駄だ。大人しく妖精を渡せ!」


 妖精とは、この子のことだろうか。

 

 大男は執拗に私たちを追いかけ回す。この子を渡せば、見逃してもらえるかもしれない。だが、尋常ではないあの男に渡して、この子が無事であるとは到底思えなかった。


『きゅ?』


 守らないと。


 私は妖精を抱きしめて、なんとか逃げ切ろうと走る速度を必死に上げる。


 が、その時だった。


 地面から飛び出た木の根に足を取られ、私はその場に倒れてしまったのだ。妖精を庇って、肩から落ちる。


『がはは、鬼ごっこもここまでだ』


「来ないで!」


 追い詰めたと言わんばかりに、大男がゆっくりとにじり寄ってくる。必死に這って距離を離そうとするが、もはや意味のない行為だ。


「もらったァ!」


 最後、大男は跳ぶように突っ込んできた。が、しかし、


「てりゃーっ!」


 突然、大男はその顔面を横から殴りつけられ、林の奥へと吹っ飛んでいったのだ。


 急展開に、息をのむ。


 大男を殴ったのは少女だった。白とピンクのコスチュームに身を包んだ彼女は、私の顔を見て声をかける。


「大丈夫ですか!」


「――乙女川さん?」


 髪型も服装もおかしいが、雰囲気は私が憧れている人の空気そのものだった。


 私の言葉に、彼女は固まる。


「ひ、人違いです」


「でも、腰についてるぬいぐるみは今日見たのと同じものに見えるわ」


 私がそう指摘すると、彼女は赤面した。


「あの、違うんです会長さん。これは色々あって仕方なくこの格好をしてるだけで。決して私の趣味じゃなくて―――」


 急に弁明し始める乙女川さん。やはり本人で間違いなかったようだ。


「ルクス! 闇の奴が戻ってくるララ!」


 ぬいぐるみが突然喋った。もはや何でもありか。摩訶不思議な出来事の連続に、私の中の常識が音を立てて崩れていく。


「がははっ! ラブティアも現れるとは好都合だ! オマエを倒し、妖精も丸ごといただいてやる!」


 林の向こうから、凶悪な笑みを浮かべる大男が戻ってきた。口からわずかに出血しているが、鋭い牙がより恐ろしく見えるだけだった。


『マブイナー!』


 響くような誰かの声が聞こえた。その瞬間、私の腰と腹に植物の蔓が勢いよく巻き付き、そのまま宙に引き上げられてしまった。


「きゃー!」


 私を拘束したのは、いつの間にか現れた木の怪物だった。


「会長さん!?」


「オマエの相手はこの俺さまだ!」


 私を助けようと振り返った乙女川さんに大男が襲いかかる。その太い腕で、乙女川さんを殴りつけた。


「マブイナー! その妖精が逃げないよう見張っておけ!」


『マブイナー!』


 怪物の蔓が、檻のように私を囲い込む。


    ◯◯◯


Side:ティアルクス


 放課後、私は妖精と戯れるメルヘン女子を求めて、学校を徘徊していた。


 その最中、急にランランが闇の気配がすると言い始めるので急いできてみれば、そこには妖精を抱いて襲われそうになっている会長さんがいた。正直、驚いた。


 取り敢えず怪人を殴り飛ばす。


 間一髪。何とか間に合って良かった。会長さんに怪我はなさそうだが、一応声はかける。


「乙女川さん?」


 私の顔をのぞき込む会長さんに私はたじろぐ。


 さっそく身バレの危機だ。慌てて否定するけど、腰に取りついていたランランを指摘されてしまい、私は堪らず言い訳を並べ立てる。


「……ランラン! 変身中は誰かわからなくなるんじゃなかったの?」


「……わからなくなるけど、雰囲気までは誤魔化せないから、気づく人は気づくララ」


 なんてことだ。これでは、痛い子どころかやばい子認定されてしまうぞ。


「ルクス! 闇の奴が戻ってくるララ!」

 

 ええい、私の尊厳がかかっているのに邪魔だてしおって。許さないんだから!


 ランランの指す方を見れば、茂みの向こうから闇の戦士が戻ってくるのが分かった。実に好戦的な笑みを浮かべている。


 私が闇の戦士に意識を集中させた直後、なんと後ろで隠れていたマブイナーに会長さんが捕まってしまったのである。大ピンチである。


 すぐ助けようと身体を返すが、闇の戦士に急撃され、私は闇の戦士と戦わざるを得なくなった。


「俺さまはダークネスさまに仕える闇の戦士が1人、イエチェーさまだ! さっさと負けてコフレと妖精を渡してもらおうか!」


 この前のカラス怪人とは別の、この見た目は猪だろうか。私は猪怪人イエチェーの猛攻を受ける。


 膂力任せの大振りな拳だが、一発の威力が強い。当たったらかなり痛そうだ。慎重に避けて受けて、カウンターの機会を伺う。が、


「しまっ―――!?」


 一歩後ろに下げた足先が柔らかい腐葉土を踏んでしまい、ズルリと滑る。私は不覚にも態勢を崩してしまった。


「食らえッ!!」


 イエチェーの重い一撃。無理やり両腕で受けたものの衝撃を殺しきれず、私は背後の木に叩きつけられた。


「くっ!」


「おら、もう一発!」


 追撃する怪人を私は地面を蹴って避ける。動きが直線的で助かった。態勢をすぐさま立て直し、構える。


「ランラン大丈夫だった? ねえランラン、――ってあれ!? ランランは!?」


 腰に抱きついていたはずのランランが、いつの間にか消えていた。先ほどまではいたのに、どこかに落としてしまったようだ。


 ……まず、くはないけど、どこに!


 さっきの攻撃でどこかに飛ばされてしまったのだろうか。怪我をしてなければいいが、今は目の前のことで手一杯で、助ける余裕はなかった。


「会長さんも助けないといけないのに、いい加減にしてよね!」


 私は力を込めて猪怪人めがけて拳を放った。腕で止められるが、怪人の顔は明らかに歪んでいた。効いている!


「調子に乗るな!」


「それはこっちのセリフだよ!」


 怪人と私は互いに拳を繰り出した。


 2人の拳が重なる直前、いきなり閃光のような眩い光が林の中を走った。


 ……なにこれ、眩しい!


 寝起き直後に朝日をみた気分だ。思わず手で目を覆う。


「くそ。なんだこれ! 見えない!?」

 

 猪怪人が目を押さえて藻掻いている。かなり効いている様子だった。


「あれは……」


 私は猪怪人がのたうつ横で光の発生源に視線を向ける。そこにいたのは、会長さんと、その手に包まれた光り輝く妖精だった。


 さっきの光は、あの妖精の仕業か。


 見れば、会長さんを拘束していたマブイナーも、先ほどの閃光で怪人と同様に苦しんでいる。今なら、拘束も甘くなって、すぐ助けられるはずだ。


「会長さん!」


 私は急いで助けようと足に力を込める。だが、私が見つめた先、会長さんの手には、妖精とは別の物が握られていた。あれは、


「ラブティアホン!?」


 私が叫んだ直後、再び眩い光が辺りを包んだ。





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