第16話 第二話「正しく輝く心 ティアルーメン誕生!」①
Side:乙女川アカリ
光ヶ丘中学校。
お昼休みの中庭。
私は木陰のベンチでお弁当を食べていた。
いつもならクラスの友だちたちと学食とかに行っているのだけど、今日は色々あってここにいる。
「もー、他のラブティアを見つけるなんて、無茶言わないでほしいよー」
「ラブティア同士は惹かれ合うララ。きっとこの学校の近くにいるはずララ」
私の嘆きに、購買で買ったコッペパンにかぶりつくランランは、何度も聞いた説明を繰り返す。しかし、本当にそんな都合のいい話があるのか疑わしい。
私がラブティアに変身して、すでに数日が経過している。妖精や、あの闇の戦士の気配は今のところないが、私は別の意味で困っていた。
「アナタは妖精とお友だちになれますか、って聞くんでしょ? 私そんなメルヘンキャラじゃないよー。恥ずかしいよー」
「ランランの故郷の未来がかかってるララ。冗談じゃないララよ!」
こっちだって冗談じゃないから恥ずかしいのだ。
この前はノリと勢いとなりゆきでラブティアに変身して戦ったけど、私はただの中学生で、世界の命運とか急に言われても困るのだ。
「光の国は存亡の危機なんだララ。早く妖精たちをこのコフレに集めないと大変なことになってしまうララよ」
困っているなら、私だって助けてあげたい。それは本心だ。
「でも、だからって、手がかりもないのにラブティアになれる子を探すなんて無茶だよ」
そんなことはない、とランランは首を振る。
「ラブティアは伝説では3人、ラブティアの聖具も3つ。ルクスに変身したアカリを除けばあと2人。きっと見つかるララ。3人のラブティアが揃えば妖精集めも楽勝ララ!」
見つける方法もなしに力説されても困る。ランランは少し楽観的すぎだ。
私はポケットに忍ばせていたラブティアの聖具、いやスマホを取り出す。
変身アイテムではあるが、見た目はデコレーション多めのただのスマホだ。暗い液晶には、私の顔がうっすらと反射している。
「乙女川さん?」
『――!?』
急に声をかけられた私とランランは驚いて硬直してしまった。
視線を上げると、そこには生徒会長である日森葵が立っていた。
紺色の長髪に、大人びた容姿。
学校きっての才女として有名で、芸事にも堪能だと聞く。この前もなにかの賞を取ったとかで表彰されていた。
「あ、こ、こんにちわ! 会長さん!」
取り繕うように笑顔を浮かべた私に、会長さんは軽く微笑んだ。
「こんにちは。乙女川さんがこんなところで昼食なんて珍しいわね。いつもは大勢と―――」
彼女は穏やかな口調で喋りながら、しかし、そばで硬直するランランやコフレ、ラブティアホンに気付き、困ったように目尻を下げる。
……ま、ずい!
冷や汗が噴き出る。
この状況はどう見ても、ぬいぐるみにご飯を食べさせながら遊んでいるようにしか見えない。中3にもなっておままごとをする、完全に痛い子である。
「乙女川さん。勉学に関係ないものを持ってくるのはあまり褒められた行為ではないですよ。今日は見逃してあげますけど、次からは注意してくださいね」
やんわりとした注意。気を遣わせた感じが逆に辛い。
会長さんはそう言い残すと、逃げるように去っていった。
完全に彼女の姿が見えなくなったタイミングで、私は肩の力を抜いて息を吐く。本当にびっくりした。そして、絶対に変な誤解もされた。
恥ずかしい。顔が熱い。もうこれから会長さんと目を合わせられないよ。
「やばかったララね」
いや、終わったよランラン。たった今。私の残り長い中学生生活が。
「もしかしたらあの子がラブティアかもしれないララ。妖精と知り合いか聞いてみるララ!」
ランランが正気を疑う発言をする。
あれを見られた後に、どうやって妖精のことを聞くというのだ。もはや痛いとかそういうレベルじゃなくなる。
「……勘弁してよぉ」
私は憂鬱な気持ちでコフレとラブティアホンを鞄の奥底に隠した。ランラン、キミも入りなさい。
◯◯◯
Side:日森葵
乙女川さんと別れた私は、そのまま生徒会室に向かった。
鍵を開け、誰もいない部屋に入る。
生徒会室をある程度好きにできる。生徒会長になった唯一の利点だと思っている。
少しばかり上等な椅子が置かれた会長席。そこにゆっくりと、私は腰を下ろした。
「……はぁ」
背もたれに寄りかかって、細く、息をつく。
独りだけの時間だ。ようやく気を休められる。
私は、少し、疲れていた。
皆から期待されることに、疲れている。
私は幼い頃から優秀だった。何をしても簡単にできてしまう。勉強も音楽も芸術も、スポーツだってそうだ。できないことなんて何一つとしてなかった。
そのせいで、私の人生はずっと皆からの期待の目に晒されている。成果をだし続けることを期待されている。私は、それに応え続けることに、疲れている。
嫌なわけじゃない。むしろ応えたいと思う。だけど、どこかで限界はきてしまう。
きっと、親に言えば状況は変わるのだろう。でも、親をがっかりさせるのではないかと思うと、言い出せない。
自分にはできない。もう無理だ、と。
「……乙女川さんは、どうなんだろう」
先ほど偶然出くわした彼女。
同じ学年だけど、クラスはずっと別だったせいで、ほとんど話したことはない。でも、彼女のことは、ずっと気にかけていた。
私が乙女川さんを明確に意識したのは去年の県総体の頃だ。
彼女は助っ人ながらもエースとして、女子サッカー部の応援に入っていた。人数ぎりぎりの中で快進撃を続け、彼女たちは県総体決勝に進んでいたのだ。
生徒会役員として応援席に座っていた私は、PK戦の最後、気負うことなく立つ乙女川さんの顔を見て内心驚いた。
どうして、そんなに自信満々で笑っていられるのだろうか、と。
私には無理だと思った。特に練習もしていない競技で、飛び入りの自分がチームメイトの期待に応えることなんて、とてもではないが耐えられない。
先輩同輩後輩。チーム全員の期待を背負って、最後の1本を託される。彼女はあの時、何を考えていたのだろうか。
彼女は、迷うことなく蹴った。そして、ゴールを決めた。
チームにもみくちゃにされながら中心で笑う彼女の顔は、今でも鮮明に覚えている。
「……憧れるなあ」
虚勢を張っている自分とは大違いだ。
あんな人になりたいと、心から思う。
ぬいぐるみと遊んでいたのは少し意外だったが、無趣味な私よりかはマシと言えるだろう。
考え事をしていたせいか、いつの間にか随分と時間が経過していたようだ。昼休みの終了を告げるチャイムが鳴る。
私は生徒会室の扉を閉めて、午後の授業に向かった。
◯◯◯
放課後、私は小走りで路地を移動していた。
塾に向かうためだ。
部活の顧問と練習予定の打ち合わせをしていたのだが、思ったより時間がかかってしまい塾の時間に遅刻しそうなのだ。遅れても何もないが、何もせずに遅れたという結果は避けたい。
遅れた時間を取り戻すため、滅多に使わない近道を選んで、息が揚がらない程度の速度で走る。
「……はぁ、はぁ」
人気のない公園を横切った時だった。
「―――?」
不意に視界の端に、光る物体が見えた。
そのゆらゆらと揺れる光は、吸い込まれるように林の奥へと飛んでいく。
蛍にしては随分と時期が早い。それに、明るさも大きさも蛍の比ではなかった。
「……なにかしら」
無性に気になる。
腕時計に目線を落とす。急げば、まだ少しだけ時間に余裕はあるだろう。
私は誘い込まれるように、足先を公園に向けていた。光る物体の後を追う。




