第14話 観劇する女幹部
Side:ルナーラ
闇の国から日本に渡ってきて早1ヶ月。
一緒に行動していたウーヤが急に匂うとか言って学校の敷地に入っていった時は頭でもおかしくなったのかと思ったが、本当にコフレと妖精が現れたのは驚いた。
「……ティアルクス、か」
ウーヤとマブイナーを前に、桜色の光に身を包まれた少女がカッコよくポーズと口上をキメている。
すごい美少女だ。本当にアニメや漫画から飛び出てきたようなキラキラ女子で、ザ・元気っ子の主人公といった風格である。
彼女が、この世界を物語とした時の主人公なのだろう。
変身時、制服が溶けて光るだけの薄着になった時は、ちょっとエッチだなと思ったし、ウーヤも気まずそうに視線を反らしていたけど、なるほどあの状態で攻撃するのは確かに憚れる。
変身途中での攻撃問題の解を得て、少し得をした気分だ。
私は物陰からの観察に徹している。ウーヤが一人でやると息巻いて出ていったからだ。本当にウーヤだけで大丈夫だろうか。心配である。
変身したティアルクスに対して、ウーヤはさっそくマブイナーをけしかけていた。が、大ジャンプで避けられた上に、かかと落としで1発KOされてしまった。
「けっこうパワーはあるんだね」
ティアルクスの動きに感心しつつも、私は仲間であるウーヤを応援する。しかし、
「攻めるのはいいけどそんな単調な動きじゃカウンターが怖いよ。……あちゃー、言わんこっちゃない」
パンチとキックばかりだったウーヤの腹に、ティアルクスの1発がめり込んだ。クリティカルヒットである。
ウーヤはそのまま本棚をなぎ倒しながら吹っ飛び、壁に激突した。
そろそろ手を貸すかどうか悩むけど、あとで拗ねられても困る。もうしばらく様子見かなとか呑気に考えていたら、ティアルクスが放った浄化技を見て、私は慌てて飛び出しウーヤを引っ掴んで隠れた。
……いや強! 殺意バリバリの必殺技だったよ!
真正面から喰らいたくない威力だった。ラブティア、やはり恐ろしい相手だ。
「……ウゥ、はなせルナーラ。まだやれる」
私の小脇に抱えられているウーヤ君が抗議する。彼は本当の姿である5歳の身体に戻っていた。
「いや、流石に無理だよウーヤ。今日は諦めて帰るよ」
私の言葉に納得したのか否か、ウーヤは一度唸ったあと、身体を弛緩させた。
正直、今のラブティアなら私の敵ではないだろうけど、今はこのままの方がいい。ウーヤの怪我もあるので今日は撤退だ。
私はウーヤを背中におぶさって、騒ぐラブティアと精霊を尻目に図書館から早々に立ち去った。
……とうとう第一話開始ってとこかな?
人気のない路地を選んで、夕方の住宅街を走る。向かうのはアジトだ。
◯◯◯
アジト兼自宅である屋敷に帰宅する。
この屋敷を手に入れるのも一苦労だった。無論賃貸だ。家主のお爺ちゃんを手八丁口八丁でなんとか説得して、格安で住まわせてもらっている。
私は玄関を開けて入り、ひとまずウーヤをおろしてあげた。
「お腹以外は怪我はない? 痛いところはある?」
「子ども扱いするな……!」
ラブティアに負けたのがそんなに悔しかったのか、ウーヤはまだ拗ねている様子だった。
「お腹やられちゃったし、あんまり食べないほうがいいのかな? どう? 食べれそうなものとかある?」
「――カレーが、いい」
やっぱり子どもじゃん。内心そう思うけど、言ったら怒りそうなので言わないでおく。
私たちが玄関で騒いでいると、その音に気付いたのか奥から2人の人影が顔を覗かせた。
「なんだふたりとも帰ってたんだ」
「ウーヤ君、怪我でもしたん?」
「イエチェー、オッソ。なんでもない」
猪少年のイエチェーと熊少年のオッソだ。
イエチェーは夕飯前だというのにお芋チップスを食べている。
「イエチェー、夕方にお菓子食べたら駄目って言ってるでしょ。そんなんじゃ大きくなれないよ?」
「いいもん。ダークネスさまの魔法ですぐ大人になれるから大丈夫だもーん」
あれは大人の大きさになっているだけで見た目はかなりケモい。あれを成人と見なすのは無理があるよ。
「いいのかなー、そんなこと言って。今日は美味しいカレーの日なのになー」
「――今日はこのくらいにしておく」
イエチェーは私の台詞に逡巡した後、お芋チップスの袋を閉じた。よろしい。
「ウーヤはご飯の時間まで休んでおきなさい。イエチェーとオッソは渡してるドリルをやること」
「えー、いやや。ドリルより戦う練習したい!」
オッソの抗議を、また今度ね、と言ってかわして、私は3人を送り出した。
私もキッチンに向かい、ご飯の準備をする。先に炊飯ジャーの開始ボタンを押し、カレーはストックしている野菜煮込みを使って作る。
小一時間ほどで完成した。子どもたちを呼び、食堂で1つの机を囲んで食べる。
「ダークネスさまが出すカレーのほうが美味しい」
おいおいイエチェー、喧嘩なら買うよ? 作った本人を前にそんなことを言うもんじゃない。
「俺はこれも嫌いじゃない」
ウーヤは今日はやけに素直だね。かわいい。
「たまになら食べてもいい感じ」
オッソよ。君は毎日私の飯を食べていることを忘れてるんじゃないのか。
3人ともなんやかんや言いながらも全員おかわりした。いっぱい用意しておいてよかった。
「よし。じゃあ今日はウーヤから報告があります。ウーヤ」
今日あったことを共有しようと、私はウーヤを促したが、ウーヤはムスッとした表情を浮かべる。
「俺は、報告することなんてない」
いや、あったよ。
「ウーヤが言わないなら私が言うよ? イエチェー、オッソ。今日ウーヤが“虹のコフレ”を見つけました。ただ伝説の戦士ラブティアも現れたので、一旦撤退しました」
私の説明を聞いた2人は、意味を理解した途端声を出して笑い始めた。
「何して帰ってきたのかと思えば、ウーヤ、お前負けてやんの!」
「ウーヤ、ダサすぎやん!」
「………」
悔しそうに歯噛みするウーヤを見て、私は理解した。
……ふーん。そういうこと。
闇の国にいた頃、彼らはただの友だちだった。だが、こちらに来て、その関係性も変わったらしい。
今は誰が一番活躍できるか。競争相手として見ているようだ。もしかしたら、親からそう言われているのかもしれない。
イエチェーとオッソはひとしきり笑ったあと、自身の身体に大人化魔法をかけた。2人の怪人が生まれる。
「ガハハ! コフレも妖精も、ラブティアとかも全部、この超戦士イエチェーさまがまとめてやっつけてやるぜ!」
全身毛むくじゃらの巨漢、口元から大きな牙を覗かせたイエチェーが獰猛な笑みを見せる。
「いいや! 一番活躍するのは我や! この爪と頭脳で全部引き裂いてやるんや! 大軍師オッソさまが闇の国一番の戦士なんや!」
大熊になったオッソが吠えながら大きな爪を見せつける。
協調性の欠片もない言動に私は頭が痛くなってくる。
「……こんなんで本当にやっていけるかな?」
イエチェー「うーん、変身したら」
オッソ「またお腹減ってきた」
イエチェー&オッソ『おかわり!』
ルナーラ「そんな、私のおかわり分が……!?」
ウーヤ「……ガキばっか」




