第13話 第一話「私がラブティア? ティアルクス誕生!」
2話に分けてもよかったですが、第一話なのでこのままお届けします。ご容赦ください。
私の名前は乙女川アカリ!
光ヶ丘中学校に通う3年生で今は14歳。スポーツが大好きで、よく部活の助っ人を頼まれてるんだ。勉強はちょっぴし苦手だけど、楽しい中学校生活を満喫中!
ある日の朝。桜の花びらが舞う通学路を、私は大急ぎで走っていた。
「わー、また遅刻しちゃうー!」
パパとママがやっている食堂の手伝いをしていたら、登校時間ギリギリになってしまった。
全力ダッシュで勢いよく角を曲がると、運悪く通行人とぶつかってしまった。
「きゃっ」
ぶつかったのは背の高い男性だった。固い胸板にはじき返され、私は態勢を崩す。
「おっと、大丈夫?」
程よい低めの声。コケそうになった私を抱きとめてくれた男性を、私は見上げた。
甘めの爽やかイケメンだった。端正な顔立ちと、服越しに伝わる筋肉質な感触が印象的で、私は思わず彼に見とれてしまった。
「大丈夫かい?」
「あ、――す、すみませんでしたー!」
私は彼の顔を凝視していたことを自覚して、顔を真っ赤にして逃げるように走り去ってしまった。
学校には普通に遅刻した。
1限目の国語の先生に廊下に立っておくように言われ、私は誰もいない廊下で1人棒立ちになる。
「……かっこいい人だったなぁ」
考えるのは今朝ぶつかった人のことだった。
「イケメンだったなー。俳優さんとかかな? ドラマの撮影とかしてたのかな? いつやるんだろう! きゃー絶対見ちゃう!」
「うるさいですよ乙女川さん!」
廊下ではしゃいでいると先生に叱られた。おかげで廊下に立つ時間が延長された上、昼休みに呼び出されて、追加の罰として放課後、図書館の掃除をするよう言い渡されてしまった。
◯◯◯
図書館。
「ちゃんと廊下に立ってたのに、掃除までやらせるなんてひどいよー」
今日は友だちと遊ぼうと思っていたのに。
私は誰もいない図書館で用具箱から箒を取り出しながら、ブーブー文句を漏らす。
この学校は私立ということもあってか施設が充実しており、図書館も別棟として独立していて結構大きいのだ。つまり、掃除が大変なのである。
箒とモップがけだけでいいとは言われたけど、それでも1時間以上はかかるだろう。絶対先生の仕事を押し付けられただけだと思う。
取り敢えず箒でゴミを集めて、そこからモップがけだ。私は腕まくりをして、仕事に取り掛かろうとする。
ざざ、ばたん。
不意に、誰かいるような、そんな物音が耳に届いた。
「え……」
思わず身体を竦める。今日は休館日で誰もいないと聞いてたのに、誰かいるのか。先生だろうか。
私は箒を持ったまま、物音の正体を探ろうと恐る恐る本棚の間を見て回った。
「すみませーん。誰かいるんですかー?」
オバケとかは勘弁してほしい。遊園地のお化け屋敷は好きだけど、あれは友達が一緒だから楽しいのだ。
館内を順繰り歩いていると、再び音が聞こえた。それは図書館の奥の方、古い蔵書が詰め込まれている棚からだった。
「間違いない! やっと見つけた!」
若い男性の声だった。私は急いで声がした方に向かうと、そこにいたのは、今朝ぶつかったイケメン俳優だった。
「あなたは今朝の俳優さん! どうしてここに。というかここは学校の人以外立ち入り禁止ですよ! 何してるんですか!?」
よく見ると、イケメンの手には箱のような物があった。まさか、
「まさか泥棒!?」
「いや、違う! これは元々俺たちのもので―――」
イケメンが慌てて弁明しようとするが、それを遮る声がきた。自分たちとは違う。第三者からの声だった。
「はは、とうとう見つけたぞ! 光の国の宝“虹のコフレ”!」
声の主がいたのは、本棚の上だった。
「う、うそ、バケモノ!」
そこに立っていたのは異形な姿をした男だった。
全身が黒い羽毛で覆われ、足には鳥を思わせる太い鍵爪、腕には大きな翼がある。まるで漫画やアニメで出てくる怪人そのものだった。
「お前は、闇の戦士だな!?」
イケメンが険しい表情で叫ぶ。怪人の方は余裕そうな態度で、イケメンの言葉に応じた。
「いかにも! 吾輩こそダークネスさまに仕える闇の戦士がひとり、ウーヤさまだ!」
ウーヤと名乗った怪人とイケメン。今にも闘いが始まりそうな雰囲気に私はパニックになった。
……何が起こってるの!? ドラマや特撮の撮影じゃないんだよね!?
特撮にしてはリアルすぎるし、2人から感じる緊張感は紛れもなく本物だった。
「大人しくコフレを渡してもらおうか?」
「ふざけるな! これは俺たち光の国のものだ! お前たち闇の国なんかに渡してなるものか!」
「手荒な真似は好きではないが、仕方あるまい」
怪人ウーヤはそう言うと懐から1つの種を取り出した。禍々しい形をしたその種をウーヤは指ではじき飛ばし、種はそのまま本棚に当たったかと思うと一瞬根を張った。
種から生えた根はあっという間に本棚を侵食し、かと思えば、その本棚はみるみるうちに異形の怪物に変化していった。
『マブイナー!』
本棚の怪物がひとりでに動き出す。私とイケメンは怪人と怪物に挟まれてしまった。
「君は早く逃げるんだ!」
「え、あ、でも―――」
私はパニックと恐怖で足が竦み、動けなくなっていた。
『マブイナー!』
怪物から打ち出された本が、私めがけて飛んでくる。私は避けることもできず目を瞑った。が、咄嗟に彼が覆いかぶさるかたちで守ってくれた。
「あ、ありがとう。ってあれ?」
倒れたままながらも、彼にお礼を言おうと目を開ける。が、しかし、彼の姿はどこにも見えなかった。代わりに胸のあたりに妙な重量を感じる。
「う、イタタ。キミ、大丈夫かララ?」
私の胸の上には珍妙な生物が乗っていた。
2頭身サイズの、リスみたいな見た目をしたぬいぐるみだった。しかし、その手には彼がさっきまで持っていた宝石箱をしっかりと掴んでいる。
「もしかしてさっきのイケメン?」
「あ、しまったララ。変身が解けてしまったララ」
珍妙生物は本当にイケメンの成れの果てだったようだ。
「聞いていた通り、光の国の住人は変な見た目をしているのだな。まあいい。――やれ! マブイナー!」
『マブイナー!』
怪物が私たちを襲おうとジリジリ近づいてきた。
もう駄目だと、私がそう思った瞬間、それは突然現れる。
ゆらゆらと豆電球のような光を灯して、宙を飛ぶそれは、やがて私の肩にやってきて着地した。
光り輝くそれは、よく見れば牛のような見た目をした小さな生き物だった。
『もー』
「まさか、妖精ララ!? もしかしてキミが、伝説の戦士ラブティアなのかララ!?」
「え、なに、どういうことなの?」
状況が飲み込めない私をおいて、珍妙生物はどこから出してきたのか分からないスマホを私に渡してきた。
「これを使って変身するララ!」
「へ、へんしん?」
いや急にスマホを渡されて変身しろって言われても分からないんだけど!
「内カメで自分と妖精を一緒に撮るんだララ!」
「自撮り!? ここで自撮りするの!?」
早く、と珍妙生物が急かす。わけも分からず言われるがまま、私はスマホのカメラ機能を起動させた。
……あ、意外と画質いい。
そんなことを考えてる場合ではないか。
私は左肩にいる妖精が映り込む画角で、かつ自分が一番盛れる右斜上25度にスマホを構えた。急いで撮影ボタンを押そうとした直後、突然私の口が勝手に動き始めた。
「ラブティア! ドミネーション!」
どういうことなの。今日何度目かも分からないパニックを私は起こしていた。
身体が勝手に動いていく。
自撮りすると同時に肩に乗った妖精はスマホに吸い込まれていた。そして、スマホからキラキラとした桜色の光が溢れ、渦を描きながら私の体に巻き付いていく。
制服を置換し、私の服は光る薄いベールのみになる。だが、スマホから出てくる新たな光たちが私の手足にまとわりつくと、そのままブーツとアームカバーに変化した。
フリルのついたプリーツスカート。インナーの上はブラウスで、腰のあたりに大きなリボンがついている。
変化は髪にも現れた。私の赤みの強いショートヘアがみるみる成長して、しまいにはウェーブのかかったロングヘアに。綺麗な桜ピンクの髪になった。
仕上げには牛要素を感じさせるミニサイズのカウボーイハットが頭の上にちょこんと乗って私の変身は終了する。スマホはいつの間にか腰のポシェットに収納されていた。
「――清く煌めく心、光の使者ティアルクス!」
かっこよくポーズと口上をキメてから、やっと身体の自由が戻ってきた。
「うわー、キラキラしてる!」
私は自分の身体を舐め回すように見る。
「ふふ、まさか伝説の戦士まで現れるとはな。だが、都合がいい。ティアルクス! 貴様を倒して妖精とコフレ、全て吾輩がもらい受けよう!」
『マブイナー!』
変身完了まで多少時間があったはずなのだが、怪人と怪物はちゃんと待っていてくれたようだ。
「ティアルクス! あいつらを倒してくれララ!」
「あ、やっぱり私が戦う流れなのね」
成り行きで巻き込まれてしまった。喧嘩なんてしたことないけど、全身にみなぎるパワーを思えば何とかなるかもしれない。
「なんだかよく分からないけど、そこの悪そうなアナタ! 人の物を勝手に奪うのは許さないよ!」
『マブイナー!』
最初に攻撃してきたのはマブイナーだった。マブイナーは全身に張った根をムチのように操り、私たちめがけて振るう。
私は攻撃を回避するために珍妙生物を抱えてジャンプした。が、力を込めすぎたせいで天井にぶつかりかける。
「おっと、危ない危ない」
「マブイナー! 上だ!」
『マブイナー!』
マブイナーが本を乱射する。すさまじい対空砲火だが、私は華麗にかわし、落下速度そのままにかかと落としをマブイナーに食らわせてやった。
『……マブイナー』
脳天直撃。堪らずマブイナーは地面に倒れ込んだ。
「く、小癪な! こうなったら吾輩が相手だ!」
怪人ウーヤが前に出てきた。その翼をはためかせ、猛烈なスピードでパンチやキックを繰り返す。
思ったより単調な動きだ。
「てりゃ―――!」
カウンターで、怪人の腹を殴った。
「ぐはッ!?」
直撃。ウーヤは苦悶の表情を浮かべ、そのままふっとばされた。本棚を幾つもなぎ倒して、図書館の壁に激突、めり込んだ。
「ヤバ! 図書館壊しちゃった!」
「心配いらないララ。あとで直せるララ! それよりも必殺技で一網打尽にするララ!」
ララララ、とうるさい珍妙生物の言葉を信じて、私は頭の中にある台詞を叫んだ。
「ラブティアの美しき光が、邪悪な心を打ち払う!」
全身にみなぎる光の力を両手に集め、私はマブイナーとウーヤめがけてそれを解き放つ。
「――ラブティア・ファーストフォトンレイ!」
私の手から、輝かしい光の奔流が生まれる。
光の奔流はまたたく間にマブイナーを飲み込み、本棚を侵食していた根を焼き切る。
ウーヤもちゃんと狙っていたはずだが、光が収まった後、その姿はどこにもなかった。
「逃げられたみたいララ」
「な、なんとかなったー!」
緊張の糸が解け、私はその場にへたり込んでしまう。いつの間にか変身も解除されており、元の制服姿に戻っている。
しかし、休んでいる暇はない。破壊されまくった館内で、私は逃がすまいと珍妙生物を掴んで訴える。
「早く図書館直して!」
「く、苦しいララ。妖精に頼んだら、直してくれるはずララ」
はずって何? 確信もなしに大丈夫とか言ってたのかこの生き物は!
「妖精さま! この場をお直しくださいっ!!」
私の周りをプカプカ浮かんでいた牛妖精に懇願する。妖精は私の願いに一声鳴くと、身体を揺すって光を撒き散らしていった。光が通り過ぎた場所がどんどん修復され、新品同然の状態になっていく。
一分もかからずに、図書館は元に戻った。
「助かった!」
今度こそなんとかなったと私は安堵の息をついた。
「ランランも助かったララ。ありがとうララ。できたらこれからも協力して一緒に戦ってくれると嬉しいララ!」
「協力って、何を協力するの? それに私まだあなたの名前すら知らないんだけど?」
私の言葉に、珍妙生物も思い出したようだ。
「忘れてたララ! ランランは光の国からやってきた精霊ランランだララ。よろしくララ!」
ランランと名乗った珍妙生物は、その手に持っていた箱を見せて語る。
「これは光の国の宝“虹のコフレ”ララ! このコフレに全ての妖精を集めることがランランの使命ララよ。でもさっきみたいに闇の国の奴らにこのコフレを狙われているララ。だから協力してほしいララ!」
「妖精を集めるって……?」
こうやるララ、とランランはコフレを開けて、私の周りを飛ぶ妖精に向ける。妖精は吸い込まれるようにコフレの中に入っていった。西遊記の瓢箪みたいな機能に、私はぼやく。
「訳がわからないよぉ」
こうして私のランランとの出会いと、ラブティアとしての初めての戦いが終わった。
そして、ラブティアとしての長い闘いの幕開けだった。
ルナーラ「とうとう始まっちゃった!」
マブイナー「ヤラレター」




