第11話 ただの村の少女ルナーラ 15歳
魔女ダークネスが闇の国に来てから1年という歳月が過ぎた。
結論を言えば、ダークネスのおかげで闇の国は一時的にだが救われている。
ダークネスは不思議な魔法を用いて自在にご飯を生み出すことができたのだ。
ダークネスのもたらす食事によって闇の国の食糧事情は劇的に改善した。
カレーやハンバーグ、ラーメンやケーキ、ジュースなど地球の食べ物が魔女の手から際限なく出てくる。
私としては久しぶりに食べる味でしかなかったけど、素朴な味しか知らなかった村人たちには衝撃的な味だったようで、すぐ虜になってしまった。
そして、最初こそ疑う村人もいたけど、今はほとんどの人があのダークネスだと名乗る魔女のことを、再来した闇の聖者さまだと信じている。
村長さんは村を救ってくれたダークネスを心から信奉しており、彼女の言うがままに動き従っている。あのタッソさんですら畑を止めて、ダークネスの食事に夢中になっている様子だった。
――畑? もういいじゃないか。ダークネスさまの食事があれば、誰も苦労しなくて済むんだ。
タッソさんの言葉を思い出して、私はため息を漏らす。
「どうしたんだい?」
浮かない顔をする私を母が気にかけてくれる。
私は誕生日ケーキであるいちごのショートケーキをつつきながら、誤魔化すように笑う。
「なんでもない」
「ダークネスさまにケーキを出してもらったけど、私が作るよりとっても美味しいね」
「私はお母さんのケーキの方が好きだよ?」
「ふふ、そうかい。ありがとう」
味気ない、心のこもっていない誕生日ケーキを食べても、私の心の中のもやもやは晴れない。いっそう曇るばかりだ。
◯◯◯
最近、徐々にだが村の人達の様子がおかしくなっている。
理由はもちろんあの魔女、ダークネスによるものだ。最初こそ彼女は優しげな言葉で皆に話しかけていたが、今では自分こそが闇の女王だと言わんばかりに横柄な態度でふんぞり返って皆を顎で使っている。
村人の不平や不満が出ようものなら容赦なく折檻し、しかし誰が悪いかと言えば全ては光の国が悪いのだとのたまうばかり。
日に日に、村人たちが光の国を憎悪する感情が強くなっている気がする。もはや洗脳に近い状態だった。正気でいるのは私とお母さんくらいなものだ。
「怖いなぁ。昔のみんなに戻ってほしいよ」
『クー?』
村から離れた場所で私はクーちゃんに慰めてもらう。
ダークネスが現れてから、クーちゃんは何故か村に寄り付かなくなった。
最初はどこに行ったのかわからず、とうとうクーちゃんも闇の国を離れたのかと残念に思っていたのだが、ふと村を出たときにまた私の前に出てきてくれたのだ。
理由はわからないが、どうやらあの魔女に近づきたくない様子だった。
「どうやったらみんなが正気に戻ってくれるのかな?」
渇いた川を眺めながらぼやく私に、クーちゃんはシャドーボクシングの真似事を見せてくれた。
クーちゃんは、私にダークネスをボコボコにしてしまえと言っているようだった。なかなか物騒な提案だ。
「クーちゃん、暴力はいけないよ? それにダークネスから食事がもらえないと私たちはすぐ飢えちゃうから、張っ倒したら解決って話じゃないんだよ」
私としても、とっとと追い出したいが、彼女がいなければ私たちが立ち行かなくなるのは目に見えている。根本の妖精問題を解決しない限り、私に選択肢なんかないのだ。
頑張って遠回しに皆におかしくないかと言って回っているが、あからさまに変なやつ扱いをされてしまっている。
取り返しがつかなくなる前に、私も覚悟を決めないといけないのかもしれない。闇の聖者ダークネスさまの伝説を再現する覚悟を、だ。
「ダークネスホールの練習、もっと頑張らないとね」
『くー』
クーちゃんが頭をポンポンとしてくれる。励ましてくれているのだろうか。
2年後、私は恐れていた事態を前に、何もすることができなかった。
ルナーラ「お母さん! 私たちだけでもがんばって畑続けようね!」
トキ「ふふ、そうね。いつか実るといいね」




