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第10話 闇の聖者の御業を知る少女ルナーラ


 ひたすら枯れた木が痛々しく乱立する森。


 私はわざわざ村外れにある場所を選んでここに来ていた。理由は、ある実験、いや練習のためだ。


「村長さんたちも頑張っているし、私も何かできることを見つけないとね」


『くう!』


 光の国へ使者として、村長さんはわずかな食糧だけを携えて一昨日旅立った。


 村近くにある祠でお見送りを村人みんなでしたのだが、あの祠が光の国に続いているとは全然知らなかった。小さい頃に近づいたら駄目だと言われていたけど、まさかそんな機能があるとは。てっきり誰かを祀っているものだとばかり思っていた。


 祠は、そのまま光の国にある祠に繋がっているらしい。ただ光の祠から光の国の住人たちが住んでいる場所まで少し距離があるようで、行き帰りを考えると、村長さんが帰ってくるまで、数日かかるだろうとのことだ。


 私もまだまだ闇の国について知らないことが多いと実感しつつも、何かできることを増やしたいと思い行動を起こしたわけだ。


「図書館で前に見つけた、闇の聖者さまに関する記述。それを再現できたら伝説の再現ができるかも」


 農業関係の本を読み尽くした私は再度、世界や伝説について書かれた本を調べていた。そこで闇の聖者さまが起こした奇跡についての資料を見つけたのだ。


「全てを吸い込む“ダークネスホール”と全てを生み出す“ホワイトホール”」


 闇の聖者はこの2つの奇跡で、ラブティアに負けた闇の国を救ったらしい。

 いま、闇の国は伝説と同じように荒廃という状況に陥りつつある。もしかしたら、本当に戦争になってラブティアたちと戦うことになるかもしれない。いったいどれほどの強さを持っているのか不明だが、最悪の状況になっても闇の聖者と同じことができれば、闇の国を救えるかもしれない。

 私はそう考えたのだ。


「ダークネスホールとホワイトホール。ようは吸って吐くってことだよね?」


『くーく?』


 そんな魔法みたいなことがただの村娘の私にできるのか分からないが、挑戦しない理由にもならない。


 私は肩に乗せていたクーちゃんを近くの岩場に移動させて、クーちゃんが背後になるように立った。できっこないが、万が一もある。念のための避難だ。


「やっぱりこういうのは技名は叫ぶもんだよね。叫ぶだけでいいのかな? それとも息を吸ってそれっぽい動きをした方がいいのかな?」


 昔見たアニメを思い出そうとするが、もうかなりうろ覚えだ。だいたい予備動作込みで叫んだら発動していた気がする。


 取り敢えず、やってみてから検証しよう。そのためにも人気のない森跡にまで来たのだ。

 私は正面を向き、ダークネスホールを叫んで思い切り息を吸い込む。


「――ダークネス、ホール!」


 叫び、吸気しようとした瞬間、私の眼前が歪んだ。


「……!?」


 目の前の空間が捻じれ、まるで渦を描くように動き始める。そして、そのまま私の視界に映る枯れ木を勢いよく引き寄せた。暴風で吹き飛ばされるように、木々が私に迫る。


 当たる!


 そう感じた直後、木々は圧縮されたようにそのサイズを小さくして、目の前の黒い渦に飲み込まれていった。


 私が何とか止めようと四苦八苦した末の15秒。ようやく“ダークネスホール”らしき現象は収まった。その間に吸い込まれた枯れ木の数は実に16本だった。


「ほんとに、できた? まさか私って、―――うっ」


 惚けて言葉を漏らそうとした私は、急に襲いかかった悪寒に顔をしかめた。


「なにこれ、急に苦しくなって―――」


 喉奥に骨がつっかえたように、強烈な違和感が胸中を支配する。私は苦しみにもがくが、一向に収まる気配がない。


『くー! くーくー!』


 岩の上からクーちゃんが何か叫んでいる。あの動きは、何かを吐き出すような動作だった。


「出すって何を? もしかしてホワイトホールをしろってこと?」


『くー!』


「……ホワイトホールっ!」


 苦しさを抑えて顔を上げた私は叫んだ。

 

 直後、眼前に白い渦が生まれる。先ほどの引力とは逆の、放出する力が吹き荒れた。

 私の眼の前から次々と飛び出していく枯れ木たち。間違いなく今しがた私が吸い込んだものだった。

 吸い込んだ16本すべて吐き出すと、ホワイトホールは自然に消滅していた。


「はぁ、はぁ、ぁ」


 私は息も絶え絶えになり、堪らずその場に横になって倒れた。


 胸の苦しみから解放されたが、それを埋めるほどの疲労感が全身を支配している。

 この疲労感には身に覚えがある。以前、クーちゃんと畑に力を与え始めた時に感じた疲労感と同質のものだ。初めてとは言え、2つの技を使っただけで6年間鍛えた気力が一瞬で底を尽きたという訳か。


 ……流石、聖者さまの奇跡、なのかな。


 やばい。貧血を起こしたように眼の前が暗くなってきた。ここで気絶するのはまずい。

 私が気力を振り絞ろうとした直後、鼻先に温かい感触を感じた。


『くー』


 クーちゃんだった。

 クーちゃんが触れた場所から、私の中に温かい力が流れ込んでくるのが分かる。気持ち悪さが引いていき、やがて視界が晴れた。心配そうな顔をするクーちゃんが見える。


「ありがとう、クーちゃん」


『くっ!』


 この技の練習はしばらく控えたほうが良さそうだ。気力が万全な状態じゃないと、とてもじゃないが練習にならない。


 私は砂まみれになった上体を起こして、そのまま体育座りの姿勢になった。少し休んで、体力を回復させないと。


「……私って、追加戦士ってことなのかな?」


 気が弱ったせいか、自分らしくもない考えをしてしまう。

 闇の聖者の御業が使えてしまった。別に変身したわけでもないので、そうとは限らないが、使えたことへの意味は考えてしまう。


 嫌だな、と思う。私が救いたいのは闇の国、そして優しい村のみんなだ。光側の精神をしていたとしても、光側に行って闇の国を救えるとは思わない。


『くう?』


「大丈夫だよクーちゃん。私、闇の国を救えるよう頑張るから」

 

 力を分けてくれたクーちゃんに再度お礼を言って、私は自分が起こした奇跡の技の結果を見据えて考える。


「なんでも吸えるのなら、光の国にある妖精の力とかも吸えるのかな?」


 そんなに都合が良く行くとは思えないが、闇の聖者が起こした奇跡の一端を知れたことは大きい。


 おそらく、過去にいたという闇の聖者は、荒廃した闇の世界にダークネスホールで吸い取った妖精パワーをホワイトホールで放出したのではないかと思う。


 過去に起こった荒廃の理由が、今私たちが置かれている状況と同じなら、だが。


 しばらく休憩していると、村の方向から誰かが近づいてくる気配が分かった。村人の誰かだろう。


「おーい、そこにいたのかルナーラ! 村長が帰ってきたんだ! すぐ戻ってきてくれ!」


 村人の台詞に、私はすぐさま立ち上がった。

 急いで村に戻らないと。


    ◯◯◯


 村の祠に向かうと、すでに村長さんを囲んで村人たちが集まっていた。


 中心にいる村長さんは、ひどく憔悴した表情でうなだれており、着ていた外套もボロボロになっていた。とても旅をしただけの様相には見えなかった。


 介抱される村長さんに駆け寄り、私は声をかけた。


「村長さん! 何があったんですか!?」


「ルナーラか……」


 村長さんの弱々しい言葉が返ってきた。村長さんは悔しそうな顔で、詫びるように語った。


「光の国の者たちは何も話を聞いてくれなんだ。援助もすげなく断られ、妖精の話も取り合ってくれず、あげくには妖精は我々も見ていない。きっとお前たちの仕業だと言われて―――」


 てひどい仕打ちを受けて、逃げるように帰ってきたと、村長さんは説明した。


 村長さんは、とうとう心が折れてしまったようだ。しわだらけになった顔を更に歪ませて、さめざめと涙を流し始める。


「すまない。すまない皆。――闇の国はもう、おしまいじゃあ……!」


 光の国の所業と村長さんの涙に、村の若い衆がにわかに殺気立つ。今にも祠に飛び込んで仕返ししに行きそうな空気だった。


 ……まずい! このままじゃ本当に伝説通りになっちゃう!


 私はまだ闇の聖者ダークネスの御業は完璧に再現出来ていないのだ。もし戦いが始まっても、奇跡を起こすことなんてできない。


 私は皆を止めようと口を開こうとする。が、


「みんな、m――――」


「おやおや、何かお困りごとですか?」


 私の言葉に被せるように、知らない女の声が聞こえた。声の主は私たちの背後に立っていた。

 どこからともなく現れたその女は、優しげな表情を貼り付けて、村人たちの前でこう語って聞かせた。


「――もしお困りごとがあれば、この私ダークネスが皆さんのお力になりましょう」


 私たちの前に、魔女ダークネスが初めて現れた瞬間だった。





ルナーラ「めっちゃ怪しいヤツきた!」

ダークネス「」

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