天使の配信と海賊版撲滅キャンペーン
天使の配信と海賊版撲滅キャンペーン
「シャラララーン☆ 神界のリスナーのみんな、今のバッチリ見えたかなー!? これが悪質な霊感商法と、海賊版(コピー品)武器の正体だよーっ!」
ポポロ村の集会所に、場違いなほど明るくポップな声が響き渡った。
声の主は、背中に純白の羽根を羽ばたかせ、上空にふわりと滞空している天使族のトップ配信者・キュララである。
彼女の周囲には、複数の『魔導カメラ』が浮遊し、先ほどの加藤真守による圧倒的な論破と、伝説の武器粉砕ショー、そして『特製新聞紙・顔面フルスイング』の決定的瞬間を、余すところなく『ゴッドチューブ』へと生配信していたのだ。
「ちょっと、手羽先女!」
集会所の外から恐る恐る戻ってきたリーザが、上空のキュララを指差して驚きの声を上げた。
「アンタ、今回はあの無駄に長い『三分間の変身バンク』やらなかったんですの!? 普通に最初からカメラ回してましたわね!」
「当たり前でしょ! 前回みたいに肝心な見せ場(戦闘)に遅刻して、チャンネル登録者を大量に減らすわけにはいかないのよ! 今回は最初から『海賊版撲滅キャンペーン・突撃取材枠』としてスタンバイしてたんだから!」
キュララが魔導カメラに向かって得意げにウインクを決める。
彼女の目の前に展開された半透明のコメントウィンドウには、天界の神々(リスナー)からのコメントが滝のように流れ続けていた。
『草』
『神の金属が木の棒で粉砕されててワロタ』
『中身スッカスカの劣化コピーwww 100均のおもちゃ以下ww』
『マモル先生のコンプライアンス(物理)チェック、相変わらず容赦なくて最高』
『【スーパーチャット 500G】悪徳詐欺師のざまぁ展開、メシウマです!』
「ん……あ、あべぇっ……」
その時、壁際で白目を剥いて気絶していた火原が、ピクピクと痙攣しながら目を覚ました。
マモルの放った新聞紙の衝撃で、顔面の真ん中にはくっきりと赤いストライプの跡が残っている。
「あっ! 詐欺師のおじさんが目を覚ましたよ! みんな、突撃インタビューの時間だよっ☆」
キュララがスッと火原の目の前に急降下し、マイク代わりの魔導具をそのひしゃげた顔面に突きつけた。
「さぁ火原容疑者! 泥を固めただけの壺を金貨百枚で売りつけようとしたり、中身がスッカスカの偽造武器を『本物』と偽って暴れたりした今の心境を、神界のリスナーに向けて一言どうぞ!」
「は、へ……? か、カメラ……? 配信……?」
火原の焦点の合っていない目が、周囲を飛び交う魔導カメラと、空中に浮かぶ辛辣なコメントの嵐を捉えた。
自分が自信満々で『伝説の武器』を取り出し、マモルに木の棒でアッサリと砕かれ、新聞紙で顔面を張っ倒された一部始終が、全世界(神界含む)にノーカットで大々的に放送されていたという事実。
「あ、あぁ……あぁぁぁっ!?」
火原の顔から、一瞬にして血の気が引いた。
「や、やめろ! 映すな! 俺の、俺の現場のプライドが……全国に晒され……っ!」
「プライドだと? お前にそんな高尚なものがあるなら、最初から他人の技術をパクって粗悪品を作るな」
マモルが冷酷に見下ろし、火原の胸ぐらを掴んで引きずり起こした。
「火原。お前はもう、このアナステシア世界のどこへ行っても商売はできない。お前のその安っぽい顔と、詐欺の手口、そして『コピースキルは見た目だけのハリボテ』という致命的な弱点は、今この瞬間、全世界のギルドと警察機構に共有された」
社会的抹殺。
それは、平和な社会インフラに寄生して小金を稼ぐことを至上の喜びとしていた詐欺師にとって、死以上の完全な『ゲームオーバー』を意味していた。
「そ、そんな……俺の平和なユートピアが……美味しいご飯が……っ」
絶望で膝から崩れ落ちる火原。
「そこまでだ、悪徳詐欺師! 神聖なポポロ村で悪事を働いた罪、きっちりと償ってもらうぞ!」
蹄の音を高く響かせながら、集会所に突入してきたのは、ポポロ村の自警団リーダー・マンミアだった。
彼女は巨大なパイルバンカー式シールド『アグニ』を構え、部下の自警団員たちと共に火原を完全に取り囲んだ。
「マモル先生、ご苦労様でした! あとは我々にお任せください!」
マンミアがマモルに向かって敬礼する。
「ああ、頼む。こいつは首の爆弾が外れた『ナンバーズの脱走奴隷』だ。スリーとかいう幹部に見捨てられたトカゲの尻尾だからな、背後関係もたっぷりと吐かせてやってくれ」
マモルは火原を突き飛ばし、マンミアへと引き渡した。
「ひぃっ! や、やめてくれ! 俺はもう、絶対に悪いことはしねぇ! 大人しく真っ当に、土方からやり直すから!」
自警団に取り押さえられ、魔導錠をかけられながら火原が泣き叫ぶ。
「真っ当にやり直す? それは素晴らしい心がけだな」
マンミアは、冷酷な騎士の顔で火原を見下ろした。
「ポポロ村の掟を知っているか? この村で悪事を働いた者は、ドンガン地下帝国での『強制労働』か、シーラン国の『マグローザ漁船』行きの二者択一だ」
「マ、マグローザ……漁船……!?」
「お前は以前、炭鉱から脱走した前科があるからな。地下労働は不適格だ。よって、シーラン海の巨大怪獣魚を一本釣りするタコ部屋、マグローザ漁船への片道切符をプレゼントしてやろう。船内通貨は『K』だ。借金を完済するまで、船から降りることは一生許されない!」
「い、いやだぁぁぁぁっ!!」
火原の悲鳴が、集会所の天井を突き破らんばかりに響き渡った。
「俺は! 争いのない平和な場所で! クーラーの効いた部屋でぬくぬくと暮らしたいだけなんだよぉぉっ! 怪獣魚なんて釣りたくねぇぇぇっ!」
「安心しろ。海の上はとっても平和だぞ。魚と波の音しかしないからな!」
マンミアが容赦なく言い放ち、「連れて行け!」と部下に命じる。
「マモルゥゥッ! インテリヤクザァァッ! テメェの顔だけは絶対に忘れねぇからなァァァッ!」
ドナドナと引きずられていく火原の断末魔が、遠くポポロ村の空へと虚しく消えていった。
こうして、村の平和を脅かした『開運の壺詐欺』は、首謀者の社会的抹殺とマグローザ漁船行きという、これ以上ないほど完璧な『クーリングオフ』によって幕を閉じたのである。
「……ふぅ。やれやれ、これでようやく一件落着だな」
マモルはスーツのネクタイを少し緩め、深く息を吐いた。
「マモルP! マモルP!」
そこへ、泥だらけのリーザとルチアナが、目をキラキラさせて駆け寄ってきた。
「あのおじさんが逮捕されたってことは……私たちが交わした『月利20%』の借金契約書は、もちろん無効ですわよね!?」
「そうよ! 私の五十万円の借金、チャラになったのよね!?」
「あぁ? 当然だ」
マモルは、火原の懐から回収していた『借金の契約書』の束を取り出し、三節棍の柄でビリビリに破り捨てた。
「元々、法律の要件を満たしていない違法契約だ。これで借金はゼロだ」
「「やったあああああぁぁぁっ!!」」
底辺コンビが、手を取り合って狂喜乱舞する。
「借金が消えたってことは、私たちの罰(一週間もやしとパンの耳の刑)も終わりってことですわよね!?」
「ええ! 今夜は借金帳消し祝いよ! 特上のロックバイソン肉を焼きましょうよ、マモル!」
二人は調子に乗って、マモルのスーツの袖を引っ張った。
しかし。
マモルは伊達メガネを光らせ、スッと目を細めた。
「……借金が消えたことと、お前らが俺の忠告を無視して『五十万円の詐欺に引っかかったという事実』は別問題だ。コンプライアンス意識が欠如していることには変わりない」
「えっ……」
「お前らの今日の夕飯は、予定通り『パンの耳と醤油草の塩もみ』だ。泥水まみれになったリビングの掃除も、最後までキッチリやってもらうからな」
「「鬼ィィィィィッ!!」」
絶望のどん底に叩き落とされる二人を尻目に、マモルは集会所の出口へと向かって歩き出した。
「泥沼さんも、奥さんとしっかり話し合って、元の生活に戻れるように頑張ってください」
「あぁ……ありがとう、マモルさん。あんたは俺たち夫婦の恩人だ……!」
源蔵と恵が、涙ながらに深く頭を下げた。
騒動が片付き、傾きかけた夕日がポポロ村を赤く染めている。
異世界オカン系教師は、泥だらけで泣き叫ぶ居候たちをズルズルと引きずりながら、愛する三十五年ローンのマイホームへと帰路についた。
「さぁて。アホどもの飯はパンの耳だが……俺とキャルルたちは、美味い肉でも食って英気を養うとするか」
マモルの呟きに、後ろからキャルルとキュララ、ルナが「わーいっ!」と歓声を上げた。
かくして、詐欺師の野望は潰え、マイホームでの『至福の焼肉パーティー』の準備が、静かに始まろうとしていた。
読んでいただきありがとうございます。
面白いと思っていただけましたら、★評価やブックマークで応援していただけると励みになります。




