現場のプライドと劣化コピーの終焉
現場のプライドと劣化コピーの終焉
「インテリヤクザ! テメェだけは絶対にぶち殺して、俺は平和な暮らしを取り戻すんだよォォォッ!!」
ポポロ村の集会所。
ルナの規格外の『善意』によって爆弾首輪から解放され、命拾いをしたにもかかわらず、火原は完全に逆上していた。
詐欺師としてのシノギを潰され、ナンバーズの幹部スリーに見捨てられ、失うものは何もない。あるのは、インテリぶったスーツの男にプライドをへし折られたという、逆恨みとドス黒い怒りだけだった。
「俺のユニークスキル『コピー』を舐めるな! 泥の壺なんか俺の本気じゃねぇんだよ! ルナミス帝国の武器屋で、俺がショーケース越しに舐め回すように見てきた『本物の伝説の武器』の数々……その外見を、今ここで完璧に具現化してやる!」
ブワァァァァッ!
火原の全身から、ヤケクソになった強烈な魔力が吹き上がる。
彼のユニークスキルが全力で発動し、空間がぐにゃりと歪んだ。
シュァァァンッ! バチバチバチッ!
火原の両手と、その背後の空間に、まばゆい光を放つ無数の武器が次々と顕現した。
白銀に輝く刀身を持つ『聖剣』。
禍々しい真紅のオーラを纏った『魔槍』。
ドワーフの国宝とされる『ミスリル戦斧』。
それらはすべて、アナステシア世界の歴史に名を残すような伝説級の武具の『コピー』だった。見た目だけは、本物と寸分違わぬ圧倒的な威圧感と美しさを放っている。
「ひゃははははっ! どうだ、インテリ野郎! チビりそうか!?」
火原は、両手に聖剣と魔槍を握りしめ、背後に数十本の伝説の武具を浮かべながら狂喜の声を上げた。
「全部、俺の記憶から引っ張り出した国宝級の武器だ! 現場で鍛えた俺の腕力と、この最強の武器群があれば、テメェのその棒切れ(三節棍)ごと細切れにしてやるよォォッ!」
「ひぃぃっ! マモルP、逃げてくださいませ! あんなのまともに食らったらミンチになりますわ!」
集会所の外から様子を伺っていたリーザが、芋ジャージを震わせて悲鳴を上げる。
だが。
伝説の武具の大群を前にしても、マモルの表情は、休日の朝にリビングを散らかされたオカンを見た時のように、ただひたすらに『呆れ』の境地にあった。
「……なるほど。見た目だけは、ルナミス帝国の博物館に展示されている国宝にそっくりだ」
マモルは、伊達メガネを中指でクイッと押し上げ、静かに特製三節棍を構えた。
「だが、お前は根本的な勘違いをしている。モノづくりを、そして『チート』を舐めるな」
「負け惜しみを言ってんじゃねぇ! 死ねェェェッ!」
火原が、渾身の力を込めて右手の『聖剣』を大上段から振り下ろした。
それは、本物であれば城壁すら一刀両断するほどの神聖な刃。火原のガテン系の腕力も相まって、凄まじい風切り音を立ててマモルの頭上へと迫る。
しかし、マモルは一歩も退かなかった。
ただ、三節棍の真ん中の節を両手で持ち、真横にスッと掲げて『受け』の体勢をとっただけだ。
「バカが! そんな木の棒で、神の金属オリハルコンの聖剣を防げるわけが……」
火原が勝ち誇った笑みを浮かべた、その直後。
ガキィィィンッ!
三節棍と聖剣が激突した瞬間。
パキィィィィィンッ!!
まるで、薄いガラスの板を金槌で叩いたかのような、あまりにもマヌケな破砕音が集会所に響き渡った。
「……え?」
火原の動きが止まった。
彼が握っていた『聖剣』の刀身は、マモルの三節棍に当たった瞬間に、根元からポッキリと折れ、さらに空中でパラパラと無数の破片になって砕け散ったのだ。
「な、なんだと……!?」
火原は、折れた柄だけを握りしめ、信じられないものを見るような目で破片を見つめた。
「オリハルコンだぞ!? 竜のブレスでも溶けねぇって言われてる神の金属が、なんでただの棒切れに……!」
「神の金属だ? 笑わせるな」
マモルは、三節棍をクルリと回し、冷たい声で論破を開始した。
「いいか? お前のスキルは『見た目』をコピーするだけだ。お前はオリハルコンの『結晶構造』を知っているか? 炭素の含有量や、鍛冶師が何百度の温度で焼き入れと焼き戻しを行って強度を出しているか、その工程を一つでも説明できるか?」
「け、けっしょう……? やきいれ……?」
中卒叩き上げの元土木作業員である火原の脳内には、理系や金属工学の知識などミリグラムも存在しなかった。
「外側だけを同じ形にしたところで、内部の分子配列や魔力伝導回路がスッカスカなんだよ。強度を持たないただのハリボテだ」
マモルは、落ちてきた聖剣の破片を革靴の裏で無慈悲に踏み砕いた。
「お前の作ったその武器は、伝説の聖剣なんかじゃない。ただの『銀色のアルミホイルを巻いた発泡スチロール』だ。100均のプラスチック製のおもちゃの剣の方が、まだしなりがあって丈夫だぞ」
「だ、黙れェェッ! たまたまその一本が不良品だっただけだ!」
火原は現実逃避の叫びを上げ、今度は左手に持っていた『魔槍』でマモルを突き刺そうとした。
「学習能力ゼロだな」
マモルは、向かってくる魔槍の穂先を、三節棍の先端で軽く『トンッ』と払った。
ポキッ。
魔槍は、枯れ枝のようにあっさりと折れ曲がった。
「あ、あぁ……」
「まだだ。後ろに浮いているそれも、全部テストしてやろう」
マモルは、チャコールグレーのスーツの裾を翻し、一気に火原の間合いへと踏み込んだ。
そして、三節棍をプロペラのように高速回転させ、火原の背後に展開された『伝説の武器の大群』へと叩き込んだ。
パリンッ! パシャァァン! ボキッ! ガラシャァァンッ!!
それはもはや、戦闘などという立派なものではなかった。
ただの『廃棄物処理』である。
マモルが三節棍を振るうたびに、数千万円、数億円の価値がある(ように見える)伝説の武具たちが、まるで安い飴細工か薄いガラス細工のように、次々と粉々に砕け散っていく。
「や、やめろ……俺の……俺の財産がぁっ……!」
火原が涙目で叫ぶが、マモルの手は止まらない。
数秒後、火原の頼みの綱であった『最強のコピー武器』は、すべて集会所の床に散らばるプラスチック以下のゴミ屑(破片)へと変わっていた。
「……これが現実だ」
マモルは、息一つ乱すことなく、伊達メガネの位置を直した。
「現場で汗水流してきたんだろ? だったら、技術や知識を持たない素人が、職人の作ったモノの『形だけ』をパクって一丁上がりだなんて、そんな舐めた真似が通用しないことくらい分かるはずだ。お前のコピーは、本物の職人に対する最大の冒涜だ」
「う、ううぅぅっ……!」
火原は、膝から崩れ落ちた。
自分の唯一のチート能力。それでこの世界を成り上がれると信じて疑わなかった自尊心が、インテリヤクザ(法務担当)の理詰めの正論と、三節棍による物理的証明によって、完膚なきまでに叩き潰されたのだ。
「終わった……。俺の、俺の異世界転生が……」
火原が絶望に顔を覆う。
「ああ。クーリングオフの期間はとうに過ぎているが……お前の悪行に対する『返品手続き』は、今ここで完了だ」
マモルは、三節棍を腰に収めると、代わりに足元の『丸めたルナミス新聞』を拾い上げた。
そして、それを右手に持ち、腰を深く落とした。
「社会インフラに寄生するダニめ。消費者センターの恐ろしさを、その顔面で噛み締めろ」
ドンッ!
マモルが踏み込むと同時に、オカンの怒りを限界まで圧縮した新聞紙の先端が、火原の顔面へと真っ直ぐに突き出された。
スパーーーーーーーンッ!!!!
「あべぼぁッ!?」
完璧なタイミングと体重移動で放たれた『特製新聞紙・顔面フルスイング』。
火原の顔面がひしゃげ、彼の巨体はコマのように空中で回転しながら、集会所の壁まで一直線に吹っ飛んでいった。
ドサァァァンッ!
壁に激突し、ズリズリと滑り落ちた火原は、白目を剥いて完全にノックアウト(気絶)していた。
「……ふぅ」
マモルは、丸めた新聞紙を肩でポンポンと叩きながら、小さく息を吐いた。
チート能力に溺れ、平和な村のインフラに寄生しようとした小悪党の詐欺師は、異世界最強の法務担当によって、見事に論破され、そして物理的に粉砕されたのである。
しかし、この事件にはまだ『仕上げ』が必要だった。
「さて……アホな天使は、ちゃんと仕事をしているだろうな」
マモルが視線を上空へ向けると、そこには、一部始終を魔導カメラでバッチリと撮影していた天使族の姿があった。
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