回転寿司パーティーと宴会の〆
回転寿司パーティーと宴会の〆
ポポロ村を脅かした盗賊ギルド『ブラッドファング』の野盗たちは、自警団によって文字通り簀巻きにされ、ルナミス帝国の憲兵隊へと引き渡された。
彼らの身柄にはそこそこの懸賞金が懸かっており、それはそっくりそのまま、破壊された防壁の修繕費と村の防衛費へと充てられることになった。
まさに、悪徳サブスクリプション業者に対する、完璧な『クーリングオフ(全額返金と損害賠償請求)』の完了である。
そして、すっかり日が落ちた加藤真守のマイホーム、一階リビング。
そこでは、村の平和を守り抜いた(主にマモルとキャルルと食虫植物が)勇者たちを労うための、盛大な宴が開催されていた。
「おおーっ! すごーいっ! マモルお兄さん、この『ミニチュア魔導列車』、いつ見ても最高ね!」
ダイニングテーブルの上に展開された巨大な青いレールセットを見て、キュララが目を輝かせた。
「魔導列車じゃなくて、地球の『プラレール』だ。レールの上を走る車両の屋根に、マジックテープで小皿を固定できるように改造してある。今日は特別だ、もやし炒めはキャンセルして、特上寿司のフルコースだぞ」
マモルは、キッチンから山盛りの寿司ネタが乗った大皿を運びながら、ドヤ顔で宣言した。
今日の夕食は、マモル特製のDIY『自家製・回転寿司パーティー』である。
「わぁ……! レールの上を、お寿司が走ってきますわーっ!」
キャルルがウサギの耳をパタパタとさせて大喜びしている。
レールの上を、電池で動くプラスチックの列車が「ガタンゴトン」と小気味良い音を立てて走り、その上に乗った寿司の小皿が次々とヒロインたちの前を通過していく。
寿司のネタは、ポポロ村の流通ルートで仕入れた極上食材だ。シーラン国近海で獲れた『マグローザ』の分厚い大トロや赤身、清流で獲れた『ピラダイ』の炙りマヨネーズ乗せ、さらにマモルの家庭菜園で採れた新鮮な野菜を使った創作サラダ巻きまで、完璧なラインナップである。
「はーい、リスナーの皆! 今日は激闘の後の、お家で回転寿司パーティーだよーっ!」
キュララが空中に魔導カメラを浮かべて配信を開始した。
先ほどの『変身遅刻事件』で大量のチャンネル登録解除を食らった彼女だが、飯テロ配信に切り替えた途端、コメント欄には『美味そう』『マモル先生の料理スキル高すぎ』『オカン特製寿司食べたい』といった好意的なコメントとスパチャが再び流れ始めていた。
「さぁ、どんどん食え。酢飯はたっぷり用意してあるからな」
マモルがビール(地球の缶ビール)のプルタブを開け、プシュッと心地よい音を響かせた。
「いただきまーすっ! ん〜っ、マグローザのトロ、お口の中でとろけちゃう〜♡」
キャルルが幸せそうに頬張る。
そんな和やかな宴会のテーブルの『一番下座』。
プラレールのレールの端っこで、恨めしそうに寿司を眺めている二つの影があった。
芋ジャージの人魚・リーザと、エンジ色ジャージの駄女神・ルチアナである。
「……なんで私たちが、こんな末席なんですの」
「……お寿司が回ってくる前に、キャルルちゃんたちに美味しいネタを全部取られちゃうじゃないのよぉ」
二人は、割り箸を咥えながら涙目で文句を垂れていた。
「お前らは今日の昼間、五円玉を磨いてニャングルから肉を騙し取ろうとした『詐欺未遂犯』だろうが。夕飯をもやし炒めから寿司にグレードアップしてやっただけでもありがたく思え」
マモルが冷酷なオカンの目で二人を睨み下ろす。
「お前らの今日の役目は『プラレールの電池交換係』と、宴会後の『全自動皿洗い機(手動)』だ。それが終わるまで、高級ネタには手を出さず、かっぱ巻きとタマゴでも食ってろ」
「そんなぁぁっ! 私、偉大なる世界神なのにぃ!」
「プラレールの電池の減りが早すぎますわ! ああッ、私の目の前をマグローザの大トロが通過していきますのーっ!」
嘆き悲しむ二人だったが、底辺の食い意地は伊達ではない。
「……ルチアナ! あの大トロ、マモルPがよそ見した隙に、二人で半分こにして強奪しますわよ!」
「乗ったわリーザ先輩! 神の動体視力を見せてあげる!」
ガタン、ゴトン。
大トロの乗った小皿が二人の前を通過しようとした瞬間、リーザとルチアナの箸が、光の速さで同時に伸びた。
パシィィィッ!!
「あッ!? ちょっとルチアナ、私が先に掴みましたわ!」
「何言ってんのよ! 私の箸の方が一ミリ深く刺さってるわ! 先輩なら後輩に譲りなさいよ!」
「後輩のくせに生意気ですの! これは私の大トロですわーっ!」
先ほどまで『五円玉錬金術』で固い絆を結んでいたはずの底辺同盟が、たった一皿のマグローザの大トロを巡って、醜いキャットファイト(箸での牽制合い)を繰り広げ始めた。
「……お前ら、プラレールを脱線させたらマジで来週までパンの耳の刑にするからな」
マモルが青筋を浮かべて低い声で警告するが、食欲に支配された二人にはもはや届かない。
そんな騒がしいテーブルの様子を、ニコニコと見守っていたルナが、ふんわりと立ち上がった。
「まぁまぁ、お二人とも喧嘩はめっ、ですわ♡ そんなにお腹が空いているなら、私がこのお寿司さんたちに、特別に『世界樹の魔力』を注いで、もっと大きく、そして黄金に輝く究極のお寿司にして差し上げますわね♡」
ルナが、極めて純粋な親切心から、指先に莫大な魔力を集め始めた。
もしそれが実行されれば、シャリが家屋サイズに膨張し、マグローザが怪獣化して暴れ出し、さらに三日後にはただの石ころ(偽金)に変わるという、消化器官を完全破壊する地獄の寿司が誕生してしまう。
スパーーーンッ!!
「あふんッ!?」
マモルの手から放たれた『丸めたルナミス新聞』が、音速を超えてルナの頭頂部にクリーンヒットした。
「食べ物に得体の知れないバフを掛けるな! 巨大化して暴れ出したら誰が掃除するんだ! 普通に食え、普通に!」
「うぅっ……ごめんなさい、マモル様……。でも、みんなのお腹をいっぱいにしてあげたくて……」
「お前の優しさは致死量なんだよ! おとなしくサーモンでも食ってろ!」
ルナはおでこを押さえながら、どこか嬉しそうに「はぁい♡ 怒るマモル様も素敵ですわ♡」と頬を染めて席についた。もはやツッコミが完全に愛のムチ(ご褒美)として変換されている。天然サイコパスの学習能力は明後日の方向へと進化していた。
「あーんっ! 私の大トロがぁっ!」
「自業自得ですわ! 半分ちぎれましたの!」
端っこでは、引っ張り合った大トロがちぎれ、リーザとルチアナが醤油の小皿に顔を突っ込んで泣いている。
「みんなー、今日もマモルお兄さんのお家は平和(?)だよーっ!」
キュララが魔導カメラに向かってピースサインを決めている。
「……はぁ。本当に、どいつもこいつも」
マモルは、騒がしすぎる食卓を眺めながら、深く、深いため息をついた。
悪徳サブスクリプションの野盗を論破し、古代兵器を合気道で転ばせるほどの男が、このアホな居候たちの世話だけには、毎日手を焼かされている。
だが。
缶ビールをグイッと煽り、冷たい麦酒を喉に流し込んだマモルの口元には、微かな笑みが浮かんでいた。
(……まぁ、悪くない夜だ)
静かすぎる三十五年ローン物件は、少し広すぎて寂しい。
こうしてアホみたいに騒いで、美味い飯を食って、全力でツッコミを入れる。
それは、地球での孤独な生活では決して味わえなかった、騒がしくも温かい『家族』のような時間だった。
「おい、ルチアナ! リーザ! プラレールの電池が切れかかってるぞ! 早く単三電池を交換しろ!」
「ひぃぃっ! イエッサー、オカン!」
「ただいま交換いたしますわーっ!」
地球から異世界へと転移し、三十五年ローンのマイホームを背負わされた男、加藤真守。
彼の戦いは、魔王軍でも野盗でもなく、このポンコツな同居人たちとの『日々の生活』そのものである。
「明日は平和に過ごせるといいんだがな……」
マモルのささやかな願いは、おそらく明日も、明後日も、見事に打ち砕かれることだろう。
それでも、異世界オカン系教師は、今日も丸めた新聞紙を片手に、力強く生きていくのである。
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