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35年ローンの一戸建てごと異世界転移した元教師、合気道と現代インフラで無双する~タダ飯人魚やヤンデレ兎が入り浸る最強マイホーム~  作者: 月神世一


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暴行しない券(サブスクリプション)

暴行しないサブスクリプション

「マ、マモルさん! 大変なのっ! ポポロ村が、大変なことになっちゃうよぉぉっ!」

 加藤真守のマイホーム、一階リビング。

 五円玉詐欺の正座説教が終わって間もない空間に、月兎族の村長・キャルルが涙目で飛び込んできた。

 彼女のウサギの耳は恐怖でピンと直立し、手には一枚の羊皮紙が握りしめられている。

「落ち着け、キャルル。とりあえず麦茶でも飲んで息を整えろ」

 マモルは冷蔵庫からよく冷えた麦茶を注ぎ、キャルルに手渡した。

 キャルルは「ぐすっ、ありがとう……」と麦茶を一気飲みし、乱れた呼吸を落ち着かせると、握りしめていた羊皮紙をテーブルの上にバンッ! と広げた。

「さっきね、村の集会所に、すっごくゴツくて怖い男の人たちがやってきたの。それで、村の代表である私に『こんなプランを買わないか』って、これを押し付けてきて……!」

「プランだと? 行商人か何かか?」

 マモルが怪訝な顔で羊皮紙を覗き込む。

 そこには、達筆な字で、信じられないような文言が並んでいた。

『〜安心・安全の村ライフをあなたに〜』

『ポポロ村限定!【暴行しないパス】定額サブスクリプションのご案内』

「……は?」

 マモルの動きが止まった。

 和室でぐったりしていたリーザとルチアナも、何事かと這い出てきてテーブルを覗き込む。

「暴行しない券……? なんですの、それ」

「続きを読んでみろ、リーザ。あまりにも狂ってるぞ」

 マモルがこめかみを押さえながら指示する。リーザは不思議そうに羊皮紙の文字を読み上げた。

『昨今、治安の悪化が叫ばれるアナステシア世界。我々【盗賊ギルド・ブラッドファング】は、ポポロ村の皆様の平和な日常をお守りするため、画期的な定額サービス(サブスクリプション)を開始いたしました!』

『■ ベーシックプラン(月額:銀貨5枚)』

『ご契約いただいたご家庭に対し、我々が月に一度の定期襲撃を行う際、一切の【暴行】を行いません。※略奪行為は通常通り行われます。』

『■ プレミアムプラン(月額:金貨1枚)』

『暴行に加え、家財道具の【略奪】も免除されます! 完全な平和をお約束!』

『■ お得な割引サービスも充実!』

『・家族割引:世帯主が契約すれば、同居するご家族への暴行もセットで免除!』

『・子供青春割引:18歳未満のお子様がいるご家庭は、なんと初月無料キャンペーン実施中!』

「…………」

 リビングが、完全な静寂に包まれた。

「なんだこの……徹底的にふざけ腐ったビジネスモデルは」

 マモルは、ギリッと奥歯を噛み締めた。

「『暴行しない券』だと!? ただのみかじめ料、いや、恐喝じゃないか! それをなんでこんな、現代のIT企業みたいなサブスク(定額制)モデルで売り込んでるんだ!」

「マモルさん、私どうしたらいいのぉ……」

 キャルルが涙声で訴える。

「あのゴツい営業マン(野盗)たち、『明日までに村人全員の契約書をまとめておけ。契約しなかった家は、規約通りに通常襲撃プランを実行する』って……!」

「アホか! 誰がそんな反社(反社会的勢力)のサブスクに登録するか! そんな連中、自警団のマンミアたちに追い払わせればいいだろうが!」

 マモルが当然の解決策を提示する。

 ポポロ村には、ケンタウロス族のマンミアを筆頭とする自警団がいる。最新の魔導ライフルやバズーカも配備されているはずだ。

 しかし、キャルルはウサギの耳をペタンと伏せて首を振った。

「それが、ダメなの……。自警団の武器の弾薬や、魔導フィールドの維持費……全部、前の村長ロップが持ち逃げしちゃってて……」

「はぁっ!?」

「ロップ前村長、隣町のゲートボール大会で知り合った魔族の貴婦人と恋に落ちて、村の防衛資金を全部持って駆け落ちラビリンス(夜逃げ)しちゃったのよ……。だから今、自警団の武器はただの重い鉄の棒なの……」

「あのジジイ!! 後で必ず捕まえてポポロ山の山頂から吊るしてやる!!」

 マモルは激怒してテーブルを叩いた。

 防衛インフラが機能していないことを嗅ぎつけた野盗が、ここぞとばかりに村を脅迫しにきたというわけだ。

「あら? なら、私が代わりに、その野盗さんたちにお支払いして差し上げましょうか? お金ならいくらでも錬成できますのよ?」

 天然サイコパスエルフのルナが、ふんわりと微笑んで提案した。

「バカ言え。反社に資金供与なんかしたら、マネーロンダリングの共犯だぞ。それに、一度払えば『美味しい村』だと思われて、一生カモにされるのがこの手の悪徳業者の常套手段だ」

 マモルは即座にルナの提案を却下した。

「それじゃあ、どうするんですの? マモルPが三節棍で全員殴り倒すんですか?」

 リーザが小首を傾げる。

「ただ殴り倒すだけじゃ、根本的な解決にならない」

 マモルは、丸めたルナミス新聞を手に取り、冷たい瞳で羊皮紙を見下ろした。

「相手が『契約』というビジネスの体を装ってきているなら、こっちもビジネスのルールで徹底的に潰してやる。コンプライアンス(法令遵守)という名の暴力でな」

 マモルの背後に、オカン系教師としての絶対的なオーラが立ち上った。

 三十五年ローンを抱え、毎月の保険料や光熱費の契約書を隅々まで読破している現代日本の消費者にとって、この程度の穴だらけの悪徳商法など、赤子の手をひねるようなものである。

「キャルル。明日の契約の場には、俺が『村長代理の法務担当』として同席する」

「マ、マモルさん……!」

「俺のクローゼットから、一番いいスーツを出しておいてくれ。消費者センターの恐ろしさを、異世界のチンピラどもに骨の髄まで教えてやる」

 マモルの唇が、三日月のような邪悪で冷徹な弧を描いた。

「ま、マモルPが一番悪党の顔をしていますわ……」

「神様の私から見ても、ちょっと引くレベルのオーラね……」

 リーザとルチアナが、顔を引きつらせて後ずさる。

 こうして。

 異世界に突如として現れた悪徳サブスクリプション商法に対する、加藤真守の『物理&論理のクーリングオフ』作戦が幕を開けたのである。

読んでいただきありがとうございます。

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