高級車(わナンバー)と永遠の17歳
高級車と永遠の17歳
ルナ・シンフォニアという『歩く天然災害(コンプライアンス違反)』をマイホームの監視下に置いてから、数日が経過した。
ポポロ村の広場は、のどかな昼下がりを迎えていた。
ブォォォォォォォォンッ!!
突如、平和な村の静寂を引き裂くように、重低音のエンジン音(正確には魔導機関の駆動音)が響き渡った。
村人たちが何事かと道を空ける中、巻き上がる砂埃の中から姿を現したのは、一台のピカピカに磨き上げられた漆黒の『魔導高級車』だった。
「わぁっ! あれ、ルナミス帝国で作られてる最新型の魔導セダンだ! 王族か大商人しか乗れないっていう超高級車だよ!」
庭先で洗濯物を干していたキャルルが、目を輝かせて叫んだ。
流線型の美しいフォルム。太陽の光を反射してギラギラと輝くボディ。
さぞかし身分の高い貴族か、あるいは大国の使者がやってきたのだろう。村人たちが緊張の面持ちで見守る中、その車はなぜか、広場ではなく加藤真守のマイホームのフェンス前にピタリと横付けされた。
「……ん?」
庭で大根の間引きをしていた真守は、土のついた軍手をはたきながら立ち上がり、フェンス越しにその車を見つめた。
確かに高級車だ。
しかし、真守の極めて鋭い『オカン的・生活者の目』は、車のフロントバンパーに取り付けられた魔導ナンバープレートの隅に、ある一文字が刻まれているのを見逃さなかった。
「……『わ』って書いてあるな」
そう。アナステシア世界のルナミス帝国においても、車両登録の法律は地球のそれ(佐藤太郎が持ち込んだ知識)が採用されており、レンタカーのナンバープレートには『わ』の文字が割り当てられているのである。
「なんだ、ただのレンタカーじゃないか。見栄を張って一番安い時間貸しプランで借りてきたな、あれ」
真守がため息をついた瞬間。
ガチャリ、と重厚なドアが開き、中から一人の女性が降り立った。
ピンヒールに、一目でハイブランドと分かる(しかしロゴが主張しすぎて絶妙に品がない)タイトなワンピース。そして、顔の半分を覆うような巨大なサングラス。
彼女はバタンとドアを閉めると、フッ、と得意げに髪をかき上げた。
「ふふっ。辺境の村人たちが、私の圧倒的なオーラとセレブっぷりに圧倒されて言葉を失っているわね」
「……」
「さぁ、ひれ伏しなさい! 私がこの世界を創造し、貴方たちに慈悲を与える偉大なる女神――」
「げぇっ!? オバッ……!?」
上空で魔導カメラ(通信石)を浮かべて『ポポロ村・のどかにお散歩配信』を行っていたキュララが、車の女を見た瞬間、素っ頓狂な悲鳴を上げた。
キュララは慌てて口元を両手で塞いだが、時すでに遅し。
ピクッ。
車の女――女神ルチアナの額に、巨大な青筋が浮かんだ。
「オバ……なんだって? そこの羽の生えた底辺配信者」
「ヒィィィィィッ! ご、誤解です! ルチアナ先輩だぁって言おうとしたんですぅ!」
ルチアナはサングラスを指先で少しずらし、キュララを絶対零度の視線で睨みつけた。
「おばさんって言いかけたわね! 誰がおばさんよ! 私は世界神! そして『永遠の17歳』よ! 私の年齢にケチをつける奴は、大宇宙管理局のカスタマーハラスメント部に通報して、マグローザ漁船にドナドナしてやるんだから!」
「ごめんなさああああいっ! リスナーのみんな、助けてぇぇ!」
キュララが涙目で逃げ回り、空中のコメント欄には『天使が怯える女神ww』『ドナドナは草』と草(w)が大量に流れていく。
「……相変わらず、やかましい女だな」
真守は軍手を外し、フェンスの門扉を開けて外に出た。
「俺の家の前で騒ぐな、近所迷惑だろうが。……で、何の用だ? コンビニの便所から俺を異世界に突き落とした、詐欺師のクソ女神」
真守の容赦のない言葉に、ルチアナは「ゴホンッ」と咳払いをして、無理やり威厳を取り繕った。
「失礼ね! 私は神様よ! 少しは敬いなさいな!」
「レンタカー(わナンバー)で乗り付けてくる神様をか?」
「なっ……!? ば、バレて……っ、ち、違うわよ! これはエコよ、エコ! カーシェアリングの時代なのよ!」
痛いところを突かれたルチアナが、顔を真っ赤にして早口で言い訳をする。
彼女は、天界のコタツ部屋でゴッドチューブのPV(視聴率)を確認していたところ、マモルたちの活躍によってポポロ村の経済が異常に潤っているというデータを見て、居ても立っても居られず人間界に降りてきたのだ。
(正確には、推しのアイドルの追っかけ費用でクレジットカードが再び火の車になり、無心しに来たのである)。
「まぁいいわ。マモル、アンタ随分とこの村で羽振りがいいそうじゃないの」
ルチアナは、サングラスを外して真守にツカツカと歩み寄った。
「アンタがこの世界で無双して、色んな女の子を侍らせて、美味しいご飯を毎日食べてられるのは……誰のおかげかしら?」
「俺の合気道の腕と、毎日の自炊の賜物だ」
「違うでしょーが! 私が! アンタに! 『三十五年ローンのマイホームを自由に出し入れできるユニークスキル』を授けてあげたおかげでしょ!」
ルチアナが真守の胸倉を掴まんばかりの勢いで詰め寄る。
「つまり、アンタがこの村で潤っているのは、実質私のおかげ! 著作権料みたいなものよ!」
「……お前、俺に三十五年ローンと天文学的な借金を押し付けたこと、忘れてないだろうな?」
「細かいことは気にしないの! と・に・か・く!」
ルチアナは、顎をツンと上に向けて、これ見よがしに喉をさすった。
「はー、長旅で喉が渇いたわ〜。それに、お腹もペコペコ。私もアンタみたいに、ポポロ村の美味しいご飯とお酒で、たっぷりと『潤い』たいわ〜」
チラッ、チラッ。
ルチアナが真守の顔を上目遣いで見てくる。
要するに、「私が恩人なんだから、最高のおもてなしをしてタダで飲み食いさせろ」という、絵に描いたような図々しいタカリである。
「(……なるほど。タダで飲み食いさせろと。……そうは行くかよ)」
真守の脳内で、今月の食費と、居候たち(特にルナという底なしの爆弾)にかかる生活費の計算が瞬時に弾き出された。
これ以上、無駄なエンゲル係数を上げるわけにはいかない。
しかし、相手は腐っても神。ここで無下に追い返して、変な呪いや嫌がらせ(庭のトマトを枯らされる等)を受けたら面倒だ。
真守は、口角をわずかに上げ、営業用の『オカンスマイル』を浮かべた。
「……分かりました。俺を異世界に転移させてくれた恩人(元凶)ですからね。どうぞ、我が家に入ってください。精一杯、おもてなしさせていただきますよ」
「ふふんっ! 分かればいいのよ! じゃあ、冷たい飲み物と、一番高いお肉を用意しなさい!」
ドヤ顔でマイホームの敷地へと足を踏み入れるルチアナ。
その後ろ姿を見つめながら、真守の目は笑っていなかった。
(タダ飯が食えると思うなよ。我が家の『底辺居候』の恐ろしさを、たっぷりと味わわせてやる)
真守は、リビングで桃鉄の罰ゲームとして、公園の雑草を泣きながらかじっている『タダ飯人魚』のリーザの顔を思い浮かべていた。
クズにはクズを。
毒を以て毒を制す。
それが、異世界シェアハウスを管理するオカンの合理的な判断であった。
「さぁ、ルチアナ様。どうぞ中へ」
「ええ、邪魔するわよ。……あ、靴は脱ぐのね。ちょっと、私のブランド物の靴、踏まないでよ!」
わナンバーの高級車で乗り付けてきた借金まみれの女神が、真守の罠が待ち受けるリビングへと足を踏み入れた。
そこでは、リーザが「次こそはキングボンビーをなすりつけてやりますわーっ!」とコントローラーを握りしめ、血走った目で待ち構えていることを、ルチアナはまだ知らない。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
「わナンバー(レンタカー)で来る女神、ダサすぎるww」
「永遠の17歳(自称)のババアキレた!」
「マモル先生、完全に罠にハメる気満々で草」
と少しでも楽しんでいただけましたら、
ぜひページ下部より【ブックマークに追加】と、
【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして評価ポイントを入れて応援していただけますと幸いです!
皆様の応援が、ルチアナのレンタカー延長料金(作者のモチベーション)になります!
次回、第5話「底辺の絆と茹で卵」!
ついにリーザとルチアナが激突! 予測不能の化学反応が起きます。お楽しみに!




