リアル・キングボンビーの擦り付け合い
リアル・キングボンビーの擦り付け合い
「あーっ!! また『スリの銀ウサギ』が出ましたわーっ!! 私の、私のなけなしの持ち金が全額ゼロにいいいぃぃっ!」
加藤真守のマイホーム、一階の広々としたリビング。
壁掛けの大型4Kテレビの前では、芋ジャージ姿のリーザがコントローラーを握りしめ、悲痛な叫び声を上げていた。
「ふふん! リーザちゃん甘いよ! そこは『防犯のカード』を持っておかないと!」
「キャルルちゃんひどーい! 私に『貧乏神』擦り付けないでよぉ! あーっ、勝手に物件捨てられたぁ!」
画面の中でサイコロを振って絶叫しているのは、月兎族の村長キャルルと、天使族のトップ配信者キュララだ。
彼女たちが熱中しているのは、マモルが地球から持ち込んだボードゲームの定番『梅太郎伝説DX・世界一周電車旅』である。
「フッ……他愛もない。ここで『特急サイコロカード』を使用。さらに目的地へゴールし、援助金は私が頂こう。貧乏神はキュララ、お前のままだ」
「ルーベンスのおじさん大人げなーい! 魔族の財力でゲームでも無双するなんてズルい!」
漆黒のスーツを隙なく着こなした魔皇国の貴公子ルーベンスまでもが、なぜか休日のたびにポポロ村のこの家に通い詰め、地球のゲームにドハマりしていた。
画面内では、悪行の限りを尽くす最悪の貧乏神――通称『キングボンビー』がプレイヤーに憑りつき、なけなしの資産を理不尽に破壊し尽くすという、血で血を洗う友情破壊ゲームの真っ最中だった。
「嫌ですわ! 貧乏神は現実だけで十分ですの! キャルル、このキングボンビーはお前に擦り付け――」
「させないよ! 『ぶっ飛びカード』で遠くに避難!」
「あーっ! 逃げたぁぁ!」
ギャーギャーと騒がしいリビングのドアが、ガチャリと開いた。
「お前ら、相変わらずうるさいな。外まで絶叫が聞こえてたぞ」
呆れ顔で入ってきたマモルの後ろには、ふんわりとした高級ドレスを身に纏った銀髪のエルフ――ルナ・シンフォニアが、ちょこんと三歩下がってついてきていた。
「まぁ! 本当に皆様お揃いですのね!」
ルナは両手を胸の前で合わせ、天使のように(本物の天使であるキュララ以上に)神々しく微笑んだ。
「お久しぶりですぅ♡ キャルルちゃん、リーザちゃん! それに初めてお会いする方も……ルナ、皆様に会いたくて、はるばる森を抜けて会いに来ましたのよ♡」
ピタリ。
その瞬間、テレビ画面の賑やかなBGMだけが空しく響く中、リビングの空気が完全に凍りついた。
コントローラーを握っていたキャルルとリーザの顔から、サーッと血の気が引いていく。
キャルルのウサギの耳は恐怖でペタンと頭に張り付き、リーザに至っては小刻みに震え始めていた。
「ル、ルナ……どうして、ここに……っ」
「キャルルちゃん、お元気そうで良かったですわ! お手紙で、皆様がポポロ村で貧乏暮らしをしていると聞いて、私、心配で心配で夜も8時間しか眠れませんでしたの!」
ルナは、心配そうな顔でリーザの芋ジャージを見つめた。
「特にリーザちゃん……そんなボロボロのお洋服を着て。以前お会いした時は、パンの耳すら買えずに雑草を食べていると仰っていましたわね……」
「は、はい……。スポンサー様のおかげで、今はなんとか命をつないでおりますが……」
「もう大丈夫ですわ! 私、とっても良い解決方法を思いつきましたの!」
ルナの瞳が、狂気的な純粋さでキラキラと輝き始めた。
「お金がないなら、皆様の『腎臓』を一つ切り取って、闇市に売り払いましょう!」
「「「…………は?」」」
マモルを含め、その場にいた全員の思考が停止した。
しかし、ルナの善意の暴走は止まらない。
「大丈夫ですわ! 私が最上級の回復魔法で、すぐに新しい腎臓を再生して差し上げます! そうすれば、また腎臓を売ることができますの! これを繰り返せば、皆さまは痛い思いを少しするだけで、無限にお金持ちになれますわ!」
「ヒィィィィィィッ!!」
ルナミス帝国時代から彼女の『善意100%のコンプラ破壊』を知っているキャルルとリーザが、悲鳴を上げてソファの後ろに隠れた。
「コンプライアンス違反ですわ! 生命倫理の完全崩壊ですの!」
「む、無理無理無理! いくら回復魔法があるからって、お腹切られるなんて絶対に嫌ぁぁぁ!」
「あら? どうして逃げるんですの? 少し痛いだけですわよ? ほら、麻酔代わりに私がこの『世界樹のツタ』で首をキュッと絞めて、気を失わせて差し上げますから……♡」
ズルズルッ、とルナの足元から太い植物のツタが這い出てきて、まるで生き物のようにヒロインたちを捕縛しようと動き出した。
その光景は、もはやスプラッタホラー映画のワンシーンである。
「来ないでええぇぇ! そうだ! 腎臓を売るなら、そこの泥棒猫を使ってくださいまし! 天使の臓器なら、きっと高値で売れますわーっ!」
リーザが、隣にいたキュララを突き飛ばした。
「ちょっとぉ! 何すんのよこの貧乏神! 私はトップ配信者なのよ! お腹に傷跡が残ったら水着配信ができないでしょ! 臓器提供なら、そこの暴力兎を使いなさいよ! 月兎族の回復力なら一瞬で治るでしょ!」
「私に振らないでよ! 私、村長だから臓器売買なんてしたら失職しちゃう! そうだ、ルーベンスのおじさん! 魔族なら腎臓が3つくらいあってもおかしくないでしょ!」
「ふざけるな! 我々魔族の臓器は人間や獣人の市場では適合しない! それに私は健康診断で尿酸値が引っかかっているから売り物にならん! 貧乏神の魚女、貴様が提供しろ! 魚ならすぐ生えるだろうが!」
ギャーギャー、ワーワー!
先ほどまでテレビ画面の中で『キングボンビー』を擦り付け合っていた大人たちが、今度はリアルで『サイコパスエルフの善意のターゲット』を全力で擦り付け合い始めたのだ。
「私のは雑草しか食べてないから栄養価が低いですのよーっ!」
「じゃあ私だって毎日青汁しか飲んでないから苦いはずよ!」
あまりにも醜い。そして狂気である。
笑顔でツタを操る美少女エルフから逃げ惑いながら、友人を売ろうとする最低の同居人たち。
「…………」
部屋の入り口でその惨状を眺めていたマモルは、スッと無表情になり、玄関に置いてあった『ルナミス新聞』を手にとった。
そして、それを筒状に硬く丸め、特製のハリセンを作り上げた。
タタタッ!
無駄のない合気道の歩法で一瞬にしてルナの背後に回り込むと、丸めた新聞紙を振り下ろした。
スパーーーンッ!!
「あふんっ!?」
ルナの頭頂部に、小気味良いツッコミの音が響き渡った。
「痛っ……!? ま、マモル様!? 何をなさいますの!?」
ルナが涙目で頭を押さえてしゃがみ込む。その瞬間、足元で暴れていたツタもシュルルと消滅した。
「お前ら、ゲームのノリで友人の臓器を売買しようとするな! そしてルナ! お前のやろうとしていることは、臓器密売組織と同じだ! 法律と倫理を少しは学べ!」
「で、ですが……皆様がお金に困っていると聞いて、私なりの親切心で……うぅっ」
「善意なら何をやっても許されると思うな! どうしても助けたいなら、その無駄にある魔力でまともに畑でも耕せ!」
マモルの絶対的な『オカンの雷』が落ち、リビングは水を打ったように静まり返った。
キャルル、リーザ、キュララ、ルーベンスの四人は、ソファの陰から恐る恐る顔を出し、マモルの背中を後光が差す仏のように崇め見た。
「マ、マモルP……! 助かりましたわ……。あの女、顔は天使ですが、中身は世界を滅ぼすナチュラル・ディザスターなんですの……」
「あぁ……マモルさんがいなかったら、今頃私の内臓が闇市に並んでたよぉ……」
震える同居人たちにため息をつきながら、マモルはうずくまっているルナを見下ろした。
ルナは上目遣いでマモルを見上げ、頬を赤く染めてモジモジとし始めた。
「マモル様……私の暴走を、こんな風に怒って止めてくださったの、世界樹のお父様以外で初めてですわ♡ ……素敵♡」
「(……あ、これ完全に面倒なベクトルで懐かれたな)」
三十五年ローン物件の平和は、こうしてまた一つ、圧倒的な『善意の爆弾』を抱え込むことになってしまったのである。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
「ルナの善意100%のサイコパスっぷりヤバい笑」
「桃鉄のノリで臓器提供を擦り付け合うヒロインたち最低すぎるwww」
「マモル先生のオカン力と新聞紙ツッコミが冴え渡る!」
と少しでも楽しんでいただけましたら、
ぜひページ下部より【ブックマークに追加】と、
【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして評価ポイントを入れて応援していただけますと幸いです!
皆様の応援が、マモル先生の新聞紙代(作者のモチベーション)になります!
次回、第3話「買収と監視の同居契約」!
ルナのマイホーム入居を巡る、更なるドタバタが展開されます。お楽しみに!




