マイホーム大宴会と、悪くない日常
マイホーム大宴会と、悪くない日常
ポポロ村を襲った死蟲機の群れが完全に沈黙し、森に再び静寂が戻った頃。
加藤真守のマイホーム、その一階リビングは、すさまじい熱気と喧騒に包まれていた。
「ぷはぁーっ! 極楽ですわーっ! あの『じゃぐち』から出る温かいお湯、本当に何度浴びても最高ですの!」
「こらリーザちゃん、バスタオル一枚でウロウロしないでよ! 風邪ひいちゃうよ!」
「あははっ、キャルルちゃんもお肌ツルツルじゃん! あー、お風呂でゆっくり羽を伸ばせるって最高〜♡」
泥だらけだった三人のヒロイン――リーザ、キャルル、キュララは、真っ先に最新式のシステムバスルームに放り込まれ、ピカピカに磨き上げられてリビングへと帰還していた。
三人が髪からいい匂いをさせてドライヤーを奪い合っている横で、マモルはアイランドキッチンに立ち、文字通り『オカン』のようにフライパンを振るっていた。
「おいお前ら、髪が乾いたらテーブルの上に皿とコップを並べておけ! もうすぐ料理が上がるぞ」
「「「はーいっ!」」」
真守の号令に、三人が素直に従って準備を始める。
今日の夕食は、マモルが宣言した通りの『大宴会』だ。
キッチンには、地球のスーパーで大量に買い込んでいた食材がフル動員されていた。
ジュワァァァァッ! と食欲をそそる音を立てて油の中で泳いでいるのは、にんにくと醤油、生姜の特製ダレに漬け込んだ大量の『鶏の唐揚げ』である。(今日はトライバードが獲れなかったので、地球産の鶏もも肉だ)。
隣のコンロでは、ケチャップライスをふわふわの卵で包み込んだ特大のオムライスが並び、カウンターの上には、ポテトサラダや、ネギオが差し入れてくれたポポロ村特産の野菜を使った新鮮なサラダが山盛りにされている。
「おーい、マモル先生! 俺たちも来てやったぜ!」
玄関のドアが開き、大きな声と共にイグニスが入ってきた。
その後ろには、パイルバンカーを置いて私服に着替えたマンミアと、相変わらずポポロシガーを咥えたネギオが続いている。
「お邪魔します、マモル先生。それにしても……何度見てもこのお家は素晴らしいですね」
マンミアが、ピカピカのフローリングに感嘆の息を漏らす。
「おう、よく来てくれた。適当に座っててくれ。……あんたも、文句を言わずに来たんだな」
マモルの視線の先には、漆黒のスーツを整えた魔族の貴公子、ルーベンスの姿があった。
「ふん。本来なら視察を終えて帰路についている時間だが、貴様がどうしてもと言うなら付き合ってやらんこともない」
素直じゃない魔族の言葉に、マモルは軽く鼻で笑った。
「そうか。なら、特別な『酒』を用意してある。後悔はさせないぞ」
十分後。
巨大なダイニングテーブルに、所狭しと大皿料理が並べられた。
唐揚げの山、特大オムライス、サラダ、そして冷蔵庫から出してきたばかりの、霜がつくほど冷えた『缶ビール』とジュースの数々。
マモルがグラスにビールを注いで回ると、黄金色の液体と真っ白な泡に、異世界人たちが目を丸くした。
「さぁ、今日はお前ら全員、本当によく頑張った。村を守った俺たちの勝利に……乾杯!」
「「「かんぱーい!!」」」
グラスとジョッキが、カチンと派手な音を立てて合わさった。
「っ……!? な、なんやこの飲み物は!?」
ビールを一口煽った瞬間、イグニスの喉がゴクリと大きく鳴り、顔が驚愕に染まった。
「冷てぇっ! それに、口の中で弾けるような泡と、この独特の苦味……! こんな強烈に美味い酒、飲んだことねぇぞ!」
「信じられん……」
ルーベンスもまた、グラスを見つめて震えていた。
「我がアバロン魔皇国でも、これほど冷たく、かつ芳醇で喉越しの良い酒は存在しない。……マモルよ、これは一体なんだ?」
「俺の故郷の『ビール』って酒だ。仕事の後に冷やして飲むと最高なんだよ。遠慮せずにどんどん飲んでくれ、冷蔵庫にまだ冷えてるからな」
酒の美味さに感動した大人組の横で、ヒロインたちは料理に夢中になっていた。
「カリッ、ジュワァァ……っ! お、美味しいですわーっ!!」
リーザが唐揚げを頬張り、感動のあまりボロボロと涙を流している。
「外はサクサクなのに、中から肉汁が溢れてきますの! こんなに美味しいお肉、私初めて食べましたわーっ!」
「リーザちゃん、唐揚げばっかり食べないで、お野菜も食べなきゃダメだよ! あ、マモルさん、私にもオムライスよそってください♡」
キャルルが自分のお皿を差し出し、ちゃっかりとアピールをしてくる。
「はーい、リスナーのみんな見てるー!? マモルお兄さん特製の、異世界のご飯だよーっ! すっごく美味しいの!」
キュララに至っては、相変わらず空中に魔導カメラを浮かべ、食事風景を『飯テロ配信』していた。
『唐揚げ美味そうすぎワロタ』
『マモル先生、料理スキル高すぎだろ』
『深夜に見るんじゃなかった……胃袋が鳴ってる』
コメント欄が嫉妬と空腹の悲鳴で埋め尽くされている。
「ほら、マンミアも遠慮せずに食え」
「は、はいっ! いただきます!」
マンミアもオムライスを口に運び、「んんっ……! 卵がふわふわで、中の赤いご飯が甘酸っぱくて……美味しいです!」と頬を抑えて悶絶している。
賑やかすぎる食卓。
イグニスがネギオに力比べを挑み、ルーベンスがビール片手に静かに笑っている。
ヒロインたちは唐揚げの最後の一つを巡って、キャットファイト(という名のじゃれ合い)を繰り広げている。
マモルは、その騒がしい光景をキッチンから眺めながら、自分用の缶ビールをプシュッと開けた。
「……はぁ。全く、どいつもこいつもうるさい連中だ」
口ではそう悪態をつきながらも、マモルの表情はどこか柔らかかった。
三十五年のローンを組んだ、彼にとっての『夢のマイホーム』。
元恋人に裏切られ、一人で住むはずだった孤独な空間は、今や異世界の住人たちの笑顔と声で満たされている。
(まあ……一人で静かに飯を食うよりは、飯の作り甲斐があるってもんだ)
マモルは、缶ビールをあおり、喉を鳴らした。
労働の後のビールは、地球でも異世界でも変わらず美味い。
「マモルさん」
ふと、キャルルがトテトテと歩み寄ってきて、隣に立った。
「ん? どうした、食い足りないのか?」
「違いますよぅ。……あのね、マモルさん」
キャルルは、少しだけ頬を赤く染め、上目遣いでマモルを見上げた。
「私、マモルさんがこの村に来てくれて、本当に良かったなって思ってます。私だけじゃない、リーザちゃんも、自警団のみんなも……きっと、同じ気持ちです」
「……大げさだな。俺はただ、自分の家を守るついでに、ちょっと口出ししただけだ」
「ふふっ。マモルさんはいつもそう言って照れ隠しするんだから。……でも、本当にありがとうございます。これからも、ずっとこの村に、私たちと一緒にいてくださいね」
キャルルがマモルの腕にギュッと抱き着いてくる。
柔らかい感触と石鹸のいい匂いに、マモルは内心で少しだけ動揺しながらも、「おい、くっつくな。暑いだろ」と頭を撫でて誤魔化した。
「あーっ! キャルル、ずるいですわ! マモルPは私を一生養ってくれるスポンサーなんですのよ! 抜け駆けは許しませんわーっ!」
それを見ていたリーザが、口の周りにケチャップをつけたまま突撃してくる。
「ずるーい! キュララもマモルお兄さんにハグしたーい!」
キュララまで羽を羽ばたかせて飛び込んできた。
「おい、やめろバカ! ビールがこぼれるだろ!」
三人のヒロインに揉みくちゃにされながら、マモルは苦笑いするしかなかった。
絶望の三十五年ローンから始まった、異世界への強制転移。
しかし、絶対防御のマイホームと現代インフラ、そして得意の合気道と数学的思考があれば、どんな理不尽なファンタジー世界だろうと、たくましく生きていける。
(次は、庭にトマトでも植えるか)
騒がしくも温かい居候たちとの生活は、まだ始まったばかりだ。
最強のオカン系教師・加藤真守の、マイホーム防衛&異世界同棲ライフは、これからも果てしなく、そしてドタバタと続いていくのである。
第一章、これにて完結です!
ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました!
「宴会の飯テロたまらん!」
「異世界ビールで陥落する魔族と竜人笑」
「マモル先生、すっかり良いオカンになったな」
と、少しでもこの騒がしくも温かい日常を楽しんでいただけましたら、
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皆様の温かい応援があれば、マモル先生たちの第二章(新たな厄介な居候の襲来や、マイホームの設備拡張など!)でお会いできると思います。
本当に、ありがとうございました!




