教え子たちの最大火力と、借金完済の女神
教え子たちの最大火力と、借金完済の女神
「今だ! お前らの本気を見せてみろ!!」
マモルの檄が戦場に轟いた。
死王蟻機の巨大な前脚がマモルの合気道によって完全に逸らされ、そのガラ空きの胸元――分厚い装甲の継ぎ目という致命的な弱点が、無防備に晒された瞬間だった。
「はいっ! 私のステージ、とくとご覧あれですわ!」
一番手に出たのは、まさかのリーザだった。
普段はタダ飯を狙ってマイホームの床を這い回っているポンコツ芋ジャージだが、彼女は本来、海中国家シーランの正統な王女にして『人魚姫』である。
リーザは胸の前で両手を組み、肺いっぱいに空気を吸い込んだ。
「私は運命! 私は物語! だから貴方達の全てをちょうだい! 『Love & Money』!!」
彼女の口から紡がれたのは、強欲極まりない歌詞を乗せた、しかし人魚特有の魔力を帯びた圧倒的な『歌声』だった。
♪愛も富も一つの物〜! 貴方の全て(人生)を背負って生きていける〜!♪
その歌声が空間を波打たせて広がった瞬間、周囲の森でワシャワシャと動いていた無数の小型死蟻機たちの動きが、ピタリと止まった。
「なっ……なんだ!?」
防衛ラインで戦っていたイグニスが目を丸くする。
人魚の歌声は、聴く者の『時間』と『意識』を強制的に奪い、己の虜にする恐るべきデバフ魔法である。機械のバケモノである死蟲機たちでさえ、リーザの魔力波形を浴びた途端、なぜか前脚をペンライトのように振り始め、攻撃を完全に放棄して『お布施モード(機能停止)』に陥ってしまったのだ。
「す、凄い……! 周囲の雑魚が全部ポンコツになったぞ!」
「フッ、ならば本命は私が止めよう」
リーザの歌によって周囲の邪魔が完全に消え去ったのを確認し、魔族の貴公子ルーベンスが優雅に前へと進み出た。
彼は漆黒のスーツを風に翻し、右手を死王蟻機へと向けた。
「私がここにいる意味を、そして魔皇国の誇りを、その空っぽの機械頭に刻み込むがいい。闇よ、全てを飲み込め――『ダーク・ベノム』!!」
ルーベンスの足元から、インクをぶち撒けたような濃密な闇が爆発的に広がり、死王蟻機の足元へと殺到した。
それはただの影ではない。触れたものを重力で縛り付け、腐食させる漆黒の沼である。
「ギ、ギュルルルルルッ!?」
マモルを追おうとしていた死王蟻機の六本の脚が、ダーク・ベノムの沼にズブズブと沈み込み、その巨体が完全に大地へと縫い付けられた。
一切の身動きが取れなくなったマザー。その顔面が、恐怖に引き攣るように上を向いた。
「よくやったルーベンス! トドメだ、キャルル!!」
マモルが叫ぶ。
「はいっ!!」
すでに限界まで身を沈め、クラウチングスタートの姿勢をとっていたキャルルが、マモルの声に呼応して大地を蹴った。
ドドォォォォンッ!!
彼女が踏み込んだ地面が、すり鉢状に吹き飛ぶ。
月兎族のポテンシャル。それは『脚力』である。通常時でも百メートルを五秒台で走る彼女が、自警団の特注安全靴に仕込まれた『雷竜石』の力をフル解放したのだ。
バチバチバチィィィッ!!
紫電の雷光がキャルルの全身を包み込む。
彼女はマモルが作った死王蟻機の巨大な隙間へと向かって、一気に跳躍した。
空を蹴り、森の木々を三角跳びの要領で蹴り渡り、加速度を無限に高めていく。
「マモル先生……見ててください!」
空中で一回転し、右足に一億ボルトの雷撃と全闘気を集中させる。
音の壁を突破し、キャルルの身体が文字通り『マッハ1』の雷の流星と化した。
「行きます! 『超電光流星脚(スーパー・ライトニング・メテオ・ストライク)』!!」
二百七十七トンとも言われる圧倒的な着弾衝撃力が、音速のキックとなって、身動きの取れない死王蟻機の顔面――分厚い装甲のど真ん中に突き刺さった。
ピシッ……バキィィィィンッ!!
鋼鉄すら凌ぐ漆黒の装甲が、まるでガラス細工のように粉々に砕け散る。
一億ボルトの紫電が怪物の体内を駆け巡り、内部の機械中枢を完全に焼き尽くした。
「ギ、ギギギギギ…………ッ」
断末魔の機械音を漏らし、死王蟻機の巨体が大きくのけぞる。
ドガガガガガァァァァァァンッッ!!!!
そして、森の木々をなぎ倒すほどの超絶な大爆発を引き起こし、マザー型は跡形もなく消し飛んだ。
親玉を失った周囲の小型死蟲機たちも、制御を失って次々とその場に崩れ落ち、沈黙していく。
「……よっしゃあああ!!」
マモルは、爆風を三節棍で振り払いながら、会心のガッツポーズをキメた。
無傷でヘイトをコントロールし切り、生徒たちに最高のステージを用意する。教師として、これ以上のカタルシスはない。
「やりましたわーっ!」
「フッ、他愛もない」
「マモル先生っ♡」
着地したキャルルが、勢いそのままにマモルの胸にダイブしてくる。マモルは「おいバカ、危ないだろ」と言いながらも、その華奢な身体をしっかりと受け止めた。
「凄いわ! みんな最高! いまの映像、完璧に撮れてたわよーっ!」
上空でM4カービンを抱えたキュララが、魔導カメラに向かって興奮気味に叫んでいる。
そのウインドウには、処理落ちしそうなほどのすさまじい勢いでコメントと『赤スパ』が滝のように流れていた。
* * *
時を同じくして。
天界セレスティア、カスタマーハラスメント部から隠れるようにして使っているルチアナのコタツ部屋。
「……ッ!! う、うそ……うそでしょ!?」
ジャージ姿の女神ルチアナは、ノートパソコンの画面に食い入るように顔を近づけ、震える手でマウスを握りしめていた。
画面には、キュララの配信チャンネルの管理画面が映し出されている。
『同時接続数:800万突破』
『獲得スーパーチャット総額:測定不能』
マモルの神がかった回避アクションからの、ヒロインたちによる超派手な必殺技の連携。
神々が視聴する『ゴッドチューブ』において、これほどカタルシスに満ちた戦闘映像は近年稀に見る大傑作だったのだ。
パソコンの隅にある「収益残高」の数字が、凄まじい勢いで跳ね上がっていく。
ピロリンッ♪
ルチアナのスマホ(エンジェルすまーとふぉん)に、一通の通知が届いた。
『クレジットカードのご利用残高:0円(完済いたしました)』
「か、完済……。限度額100万円に張り付いてたリボ払いが、一瞬で、全部……!」
ルチアナは、ポロッと目薬ではない本物の涙をこぼした。
「やったわ……! やったわあああああ!! これでタコ部屋行きは回避よ! それどころか、推しの月人くんの全国ツアー、全公演VIP席で追っかけられるじゃないのぉぉぉぉっ!!」
ルチアナはコタツから跳ね起き、バンザイをして号泣した。
「ありがとうマモル! 理不尽に借金を押し付けて、35年ローン物件ごと異世界に放り投げて本当にごめんね! でも私、貴方を選んで本当に良かったわーっ!!」
天界の片隅で、クソ女神の歓喜の叫びが響き渡った。
あの夜、コンビニのトイレから理不尽に異世界へ飛ばされたマモルの『裏のミッション(女神の借金返済)』は、彼が全く知らないところで、完璧に達成されていたのである。
* * *
一方、ポポロ村の森。
「……ん? なんか今、無性にイラッとする声が聞こえたような気がしたんだが」
マモルは空を見上げて眉をひそめた。
「どうしたの、マモルさん?」
「いや、気のせいだ。……それより、全員怪我はないな?」
マモルが問いかけると、キャルル、リーザ、ルーベンス、そして空から降りてきたキュララが、誇らしげに頷いた。
「よし。お前ら、本当によくやった。満点だ」
マモルが珍しく素直に褒めると、教え子たちの顔にパッと花が咲いたような笑顔が広がった。
「さぁ、帰るぞ」
マモルは、泥だらけになった彼女たちの背中をポンと叩いた。
「大立ち回りで疲れただろ。マイホームの広い風呂に入って、泥を落としてこい。今夜は冷蔵庫の食材を全部使って、大宴会にしてやる」
「「「やったああああああああっ!!」」」
マモルの一言に、戦勝以上の歓声が上がった。
こうして、ポポロ村を襲った死蟲機の脅威は、地球の数学教師と愉快な居候たちの手によって、あっけなく、そして最高にド派手に退けられたのだった。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!
「リーザの歌バフ、強欲すぎるけど強い!」
「マモル先生の完璧なアシストからの、キャルルの必殺キック最高!」
「ルチアナ、ちゃっかり借金完済してて草。第1話の伏線回収お見事www」
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次回、第1章最終回! 第16話「マイホーム大宴会」!
戦いの後は、美味しいご飯と騒がしい居候たちとの最高の日常が待っています。お楽しみに!




