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35年ローンの一戸建てごと異世界転移した元教師、合気道と現代インフラで無双する~タダ飯人魚やヤンデレ兎が入り浸る最強マイホーム~  作者: 月神世一


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変身とツッコミの待機時間

変身とツッコミの待機時間

 ポポロ村の集会所では、少しばかりピリッとした空気が流れていた。

 三カ国が交差する国境の村であるポポロ村には、定期的に各国の視察団が訪れる。今日やってきたのは、魔法と享楽の国『アバロン魔皇国』からの使者だった。

「――以上が、今期のポポロ村の収穫量および、魔皇国への関税報告書ですわ。ご査収ください」

 村長であるキャルルが、普段のぽわんとした態度はどこへやら、ウサギの耳をピシッと立てて立派に公務をこなしていた。

 その対面に座っているのは、魔皇国の視察団代表であり、魔族穏健派の貴公子ルーベンスだ。

 切れ長の目に理知的な光を宿し、仕立ての良い漆黒のスーツを隙なく着こなしている。休日は競馬場でワンカップ(芋酒)を煽っているという噂もあるが、仕事中の彼は完璧なエリート官僚だった。

「ふむ、計算に狂いはないな。流石はゴルド商会のニャングルが財務を握っているだけはある。キャルル村長も、若いがよく村をまとめているようだ」

 ルーベンスは報告書に目を通し、満足げに頷いた。

「ありがとうございます。それもこれも、最近村の学校の先生になってくれた、マモルさんのご指導のおかげですから」

「ほほう。マモル殿、と」

 ルーベンスの鋭い視線が、キャルルの斜め後ろで腕を組んで立っている加藤真守かとう・まもるに向けられた。

 今日は村長の護衛(という名の保護者)として同席させられている真守は、いつも通りのワイシャツにスラックス姿である。

「ただの数学教師です。俺は村の帳簿の計算式を少し直しただけですよ」

「謙遜されるな。竜人のイグニスを素手で組み伏せたという噂は、魔皇国にも届いている。貴方のような得体の知れない……いや、優秀な人材がこの村にいるというのは、我々にとっても喜ばしいことだ」

 ルーベンスは皮肉めいた笑みを浮かべた。

 無事に視察の会議が終わり、一行が集会所の外に出た時のことだった。

「はーい、みんな! 今日の配信は、自然豊かなポポロ村をお散歩していくよー! あ、そこのお花、綺麗だねぇ♡ ……ん?」

 空中に魔導カメラ(通信石)を浮かべ、スマホ画面を見ながらフラフラと歩いてきたのは、純白のフリフリ衣装を着た天使族のトップ配信者、キュララだった。

 彼女はスマホから顔を上げると、目の前に立っている真っ黒なスーツのルーベンスとバッチリ目が合った。

「あ」

「む?」

 魔族と天使族。本来なら、古代から対立関係にある真逆の種族である。

 キュララは数秒間ルーベンスを凝視した後、大げさに顔を引きつらせて悲鳴を上げた。

「ひぃぃぃぃっ! 魔族ですぅ! お散歩してたら強盗に会っちゃいました! リスナーの皆、助けてぇーっ!」

 キュララはカメラに向かって涙目でアピールを始めた。

『天使ちゃん逃げて!』

『魔族こえええ』

『通報しました!』

 空中のウインドウに、リスナーからのコメントが殺到する。

「し、失敬な! 誰が強盗だ!」

 ルーベンスは額に青筋を浮かべて怒鳴った。

「私はアバロン魔皇国の名代として、正式な視察に来たのだ! そもそも、何故こんな辺境の村に天使族がいるのだ! 全く、天使長のヴァルキュリア殿は部下にどんな教育をしているのだ!」

「うぇぇぇん、マモルお兄さーん、この角の生えたおじさん怖いよぉ!」

 キュララが真守の背中に隠れる。

「……お前、配信のネタのためにわざと煽ってるだろ」

 真守がため息をつきながらキュララの頭を小突いた、その時だった。

 カンッ! カンッ! カンカンカンカンッ!!

 突如として、ポポロ村の広場にある見張り台の鐘が、けたたましく鳴り響いた。

 緊急事態を知らせる警鐘だ。

 集会所の角から、自警団リーダーのマンミアが血相を変えて駆け込んでくる。

「キャルル様! マモル先生! 敵が来ました! 『死蟲機ネクロバグ』の群れです!」

「ええっ!?」

 キャルルがウサギの耳を逆立てて驚愕した。

 死蟲機ネクロバグ――それは、かつての大戦で敗れた死蟲王サルバロスが生み出したという、機械と昆虫が融合した恐るべき生体兵器群だ。意思を持たず、ただ周囲の生命を刈り取るためだけに行動する厄介な代物である。

「死蟲機だと? よりにもよって、この私が視察に来ているタイミングで襲撃とはな」

 ルーベンスは漆黒の瞳を細め、殺気を漂わせた。

「舐められたものだな。アバロン魔皇国の力、見せてやろう。……おい! そこのやかましい天使!」

「ひゃいっ!」

「貴様も仮にも聖騎士の端くれだろう。無実の者を強盗呼ばわりした罪滅ぼしに、少しは手伝え!」

 ルーベンスに一喝され、キュララはビクッと肩を揺らしたが、すぐに魔導カメラの方を向いてニヤリと笑った。

「う〜ん、相手は機械のバケモノかぁ……怖いけど、これは『撮れ高』のチャンス! みんな、キュララのアクション配信、見逃さないでね!」

 キュララは胸の前で両手をクロスさせ、天高く突き上げた。

「行くよ! ホーリー・メイク・アップ!!」

 ――ピュィィィィン!!

 突如、キュララの周囲に眩い光の粒子が舞い上がり、どこからともなく『壮大でテンポの良いオーケストラ風のBGM』が空間そのものから鳴り響き始めた。

 光の帯がキュララの身体を包み込み、ゆっくりと、本当にゆっくりと回転しながら、彼女の衣装が神聖な装甲へと変化していく。

 リボンがほどけ、光が弾け、ポーズを決め、また回転する。

 いわゆる『魔法少女の変身バンク』である。

「…………」

 真守は、無表情のまま左腕を上げ、腕時計(地球から持ってきたG-SHOCK)の文字盤を見た。

「……これ、終わるまでに三分はかかるか?」

「ごめん、マモルさん。私、ちょっとお花摘み(トイレ)に行ってくる」

 キャルルは、目前で光り輝きながらスローモーションで空を飛んでいるキュララを完全に無視し、踵を返して村の公衆トイレへと小走りで向かっていった。

「全く……天使族というのは度し難いな」

 ルーベンスは呆れたように首を振った。

「実戦のさなかに、無防備に三分も変身に時間をかけるなど自殺行為だぞ。敵が待ってくれると思っているのか」

「同感だ。俺なら光り始めた瞬間に膝を蹴り折っている」

 真守も同調した。

 ルーベンスは懐から、ポポロ村の特産品である最高級の『ポポロシガー』を取り出し、指先の闇魔法でシュボッと火をつけた。

 紫煙をふぅと吐き出し、ルーベンスは真守にシガーケースを差し出した。

「待つしかないな。お前も吸うか?」

「……悪いな」

 真守はシガーを一本受け取ると、ルーベンスの火を借りて先端を燻らせた。

 地球では非喫煙者だったが、この異世界同棲生活のストレス(主に居候たちの奇行)を前にしては、タバコの一本でも吸いたくなるというものだ。

 魔族の貴公子と人間の数学教師。

 種族も立場も違う二人の大人の男が、空中で光りながら「クルクル〜ッ☆」と回っているアホ天使を背景に、並んで渋く紫煙を燻らせる。

「あ、あの! マモル先生! ルーベンス殿!」

 マンミアが、パイルバンカーを抱えたまま半泣きで叫んだ。

「敵が! ネクロバグの群れがもう村の防壁に迫ってるんですよ!? ポポロ村の危機なんですが!? どうして二人してくつろいでるんですか!?」

「慌てるな、マンミア。これも『教育』の一環だ。あいつが変身し終わるまで、手を出してやる義理はない」

「お前の村の指南役がそう言っているのだ、自警団長。焦っても戦局は変わらん」

「だ、大人の余裕すぎます!!」

 マンミアがツッコミ疲れて膝に手をついた頃。

 ようやく、BGMのクライマックスと共に光が弾け飛んだ。

「シャキィィィン!! 変身、完・了!!」

 空から舞い降りたキュララは、頭の先からつま先まで、分厚く神聖なオーラを放つ白銀の『フルプレートアーマー(全身鎧)』を完璧に装着していた。

 どんな攻撃も弾き返しそうな、まさに聖騎士の姿である。

「ふふんっ! 待たせたわね、機械のバケモノども! 私の正義の鉄槌を受けてみなさい!」

 キュララは右手を虚空に突き入れ、そこから己の『専用武器アーティファクト』を力強く引き抜いた。

「いっくよーっ!!」

 ガシャッ。

 彼女が構えたのは、聖剣でも、聖槍でもなかった。

 漆黒の銃身、近代的なフォルム。拡張レールにスコープを備え付けた、ゴリゴリの現代兵器――『M4カービン(アサルトライフル)』だった。

 それを、重厚な甲冑を着た天使が、カメラ目線でバッチリと構えているのだ。

「…………」

 真守は、吸いかけのポポロシガーを携帯灰皿に押し付けると、極めて冷徹な声で突っ込んだ。

「銃を撃つだけなら、そのクソ重い鎧を着た意味あるの?」

「細けぇこたぁいいのよ!! 絵面えづらが大事なの!! フルオートでなぎ払うわよーっ!!」

 キュララはツッコミをガン無視し、M4カービンの引き金を引いた。

 ダダダダダダダダダダッ!!

 けたたましい銃声とマズルフラッシュが、ポポロ村の空に響き渡る。

 こうして、魔族の視察とアホ天使の乱射から始まる、死蟲機との防衛戦の幕が切って落とされたのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

「待機中にタバコ吸うマモルとルーベンス渋すぎ笑」

「変身バンク(3分間)の間にトイレに行くヒロイン」

「M4カービン出すなら鎧いらんだろ!」

と少しでも楽しんでいただけましたら、

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皆様の応援が、マモル先生のシガー代(作者のモチベーション)になります!

次回、第14話「前線での指揮」!

ついにマモル先生の生徒たちが、最前線で大暴れします! お楽しみに!

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