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35年ローンの一戸建てごと異世界転移した元教師、合気道と現代インフラで無双する~タダ飯人魚やヤンデレ兎が入り浸る最強マイホーム~  作者: 月神世一


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知略の鬼と秘伝書

知略の鬼と秘伝書

 イグニスを『教育的指導』で瞬殺したという噂は、風よりも早くポポロ村中に広まった。

 自警団の面々からはすっかり「先生」として尊敬を集め、村を歩けば道ゆく人から挨拶される始末。

 マモルとしては、ただでさえ目立ちたくないスローライフ志向なのに、これでは本末転倒である。

(まあ、村の連中が俺の家に手出ししなくなったのは良いことだが……)

 休日の夕暮れ時。

 マモルはリビングのソファに腰を下ろし、テレビモニターに繋いだノートパソコンで、生徒用のプリントのデータ整理をしていた。

 傍らでは、リーザが「床が気持ちいいですわーっ」とフローリングを這い回り、キャルルはソファの端でマモルの服の袖をうっとりと握りしめている。

 いつもの騒がしくも平穏な日常――と思いきや。

 ピンポーン。

 玄関のチャイムが鳴った。

「ん? 誰か来たな」

「私が開けますわ! マモルPのマネージャーですから!」

 リーザが這いつくばったままの姿勢で玄関へ向かおうとするので、マモルは「お前はそのまま這ってろ」と引き止め、自らドアを開けた。

「……誰だ、あんた」

 玄関先に立っていたのは、人間ではなかった。

 植物のつるや樹皮で構成された人型の身体。その手には、鋼鉄すら切り裂くという『ネギカリバー(見た目は巨大な長ネギ)』が握られており、口にはポポロ村特産の高級シガーが咥えられている。

 変異種ポーン(樹人)の、ネギオである。

「お前が、あのイグニスを倒したっていう『先生』だな?」

 ネギオは紫煙をふぅと吐き出しながら、探るような目でマモルを見た。

「倒したっていうか、稽古をつけただけだ」

「ふん、謙遜するな。オレはネギオ。ドンガン地下帝国鍛冶師通信講座一級、およびルナミス帝国経済講座一級の資格を持つ、この村の知恵袋だ。力自慢の筋肉バカどもとは脳みその作りが違う」

 超毒舌キャラという設定通り、ネギオはいきなり早口でマウントを取り始めた。

「オレはな、論理の通じない輩にはこのネギカリバーを分けてやらん。お前が本当に『先生』と呼ばれるに相応しい知力を持っているか、オレの出す論理クイズで試して――」

「悪いが、そういう面倒な遊びに付き合ってる暇はないんだ。帰ってくれないか」

 マモルは冷たく言い放ち、バタンとドアを閉めようとした。

「ちょっ、待て待て待てぇっ! ドアに足を挟むな、痛い痛いっ! オレは樹人だから痛覚鈍いけど、心情的に痛い!」

「なんだ、まだ用があるのか」

「ある! お前、その……お前の家を調べさせてもらうぞ。この家、外から見てもルナミス帝国の建築技術を遥かに超えている。オレの知的好奇心が刺激されて仕方ないんだ!」

 ネギオは半ば強引に上がりかまちを越え、リビングへと足を踏み入れた。

 そして、室内の光景を目にした瞬間、彼の口からくわえていたポポロシガーがポロリと床に落ちた(マモルが慌てて拾い、灰皿に突っ込んだ)。

「な、なんだこりゃああああっ!?」

 ネギオは頭を抱え、絶叫した。

「隙間風一つない密閉空間! 魔力を一切感じないのに室内を均一に照らす照明! あの箱(冷蔵庫)はなんだ、熱力学の法則を無視して内部の熱だけを奪っているのか!? いや、そもそもこの壁の材質は……!」

 ドンガン地下帝国の最新技術に精通し、ルナミス帝国の近代魔法技術も学んでいるネギオだからこそ、マモルの『マイホーム』に隠された地球の現代科学のオーバーテクノロジーっぷりが、誰よりも正確に理解できてしまったのだ。

「お、おい、落ち着け。知恵熱が出てるぞ」

「落ち着けるか! これほどの技術、世界のパワーバランスが崩れるぞ……っ! マモル、お前は一体どこから来たんだ! このテレビに映っている発光する映像記録媒体の原理を教えろ!」

 ネギオはマモルのノートパソコンと接続されたモニター画面に顔を近づけ、目を血走らせていた。

「……はぁ。面倒な奴に目をつけられたな」

 マモルは額を押さえた。

 リーザやキャルルが「ご飯と冷たいお水とふかふかのベッド」という動物的な理由で懐いたのに対し、このネギオは「純粋な知識欲」で惹きつけられてしまったのだ。

   * * *

 それからというもの、マモルの平穏な夜の時間は完全に崩壊した。

「マモル! 昨日の『電気抵抗』の計算式の続きだが、オームの法則を魔道導線に応用する場合の熱損失について議論しよう!」

「マモル! 今日のコーヒーを持ってきた! それより『複式簿記』の概念だが、これはルナミスの経済を根底から覆すぞ!」

 毎晩毎晩、夕食が終わった頃を見計らったようにネギオがチャイムを鳴らし、ポポロ・コーヒーの差し入れと共に上がり込んでくるのだ。

 ネギオは元々が非常に高い知力を持っているため、マモルが教える地球の数学、物理法則、経済学の基礎をスポンジのように吸収していった。

 教師としては優秀な生徒に出会えた喜びはあるが、相手が深夜まで居座るとなれば話は別である。

「ねぇマモルP……あのネギのおじさん、最近毎日来てますわね。私とマモルPの甘い夜の同棲生活が邪魔されて不愉快ですわ」

 ソファでポテトチップスを貪りながらリーザが文句を言う。

「そうだよマモルさん! 夜は私と、一緒にテレビでドラマを見る約束だったのに!」

 キャルルもウサギ耳を垂らして不満顔だ。

(……このままでは、俺の睡眠時間とプライベートが削られる一方だ。何か対策を打たねば)

 数日後の夜。

 いつものように目を輝かせてやってきたネギオに対し、マモルは分厚い紙の束をドンッ、とテーブルに叩きつけた。

「マモル? なんだこれは。魔法の羊皮紙か? いや、手触りが滑らかすぎる……」

「これは『紙』だ。俺のノートパソコンに入っていた、数学、物理、化学、そして基礎的な経済学のデータを、プリンターで印刷アウトプットしたものだ」

 マモルは腕を組み、冷徹な教師の眼差しでネギオを見据えた。

「ネギオ。お前は優秀な生徒だが、毎晩毎晩突き合わされるのは俺の身が保たん。それに、基礎を理解せずに応用ばかり議論しても砂上の楼閣だ」

「む……」

「これは、お前だけの『秘伝書』だ。これを隅から隅まで読み込み、完全に理解するまでは、俺の家に夜間訪問することを禁ずる。分かったな?」

 ネギオは、その分厚い紙の束――地球の中学・高校レベルの理数系教科書のデータ――を震える手で受け取った。

「秘伝書……。これを読み解けば、マモル、お前の思考の深淵にたどり着けるのだな……!」

「ああ、まあ、そういうことにしておこう。だから、しばらくは一人で勉強しろ」

「感謝する! オレはしばらく工房に引きこもるぞ!」

 ネギオは秘伝書を大事そうに抱え、猛ダッシュで夜の村へと消えていった。

「……ふぅ。これでしばらくは静かになるな」

 マモルはホッと胸を撫で下ろし、ようやくキャルルとリーザの待つソファへと腰を下ろした。

   * * *

 それから一週間後。

 ネギオは、予告通りマモルの家に姿を見せなかった。

 その代わり、休日の昼下がりに、彼は目の下にひどいクマを作り、フラフラの状態でマモルの家の庭に現れた。

「……マモル。いるか」

「ネギオ? お前、大丈夫か。干からびかけた枯れ木みたいになってるぞ」

 真守が庭の水やりを止めて駆け寄ると、ネギオはニヤリと笑った。

「ふふふ……最高だ。あの秘伝書、特に『ベクトル』と『慣性モーメント』の概念は、オレの鍛冶技術の常識を覆してくれた。感謝してもしきれん」

「そうか。そりゃ良かったが、無理はするなよ」

「その礼と言ってはなんだが……これを受け取ってくれ」

 ネギオは、背中に背負っていた細長い布袋をマモルに差し出した。

「これは?」

「お前が使っている『三節棍』。あの武器は、物理演算の極致だ。だが、お前が持っていた木製のものは、激しい実戦には耐えられん。だから、オレのドンガン一級の鍛冶技術と、オレ自身の体から切り出した『ネギカリバーの派生素材』を使って、お前専用の特製三節棍を打った」

 マモルが布袋を開けると、中から鈍い銀色に輝く金属製の三節棍が現れた。

 手に取ると、驚くほど手に馴染む。ずっしりとした重みがあるにも関わらず、バランスが完璧に計算されており、振るえば羽根のように軽く感じられそうだった。

 鎖のジョイント部分も、摩擦係数を極限まで減らす特殊な構造になっている。

「鋼鉄すら切り裂き、魔力や闘気の衝撃を分散させる特殊合金だ。これなら、竜人の斧だろうが魔族の魔法だろうが、お前の理屈ベクトルで弾き返せるはずだ」

「……ネギオ。これは、凄いな」

 武道家であるマモルは、一目見ただけでその武器の凄まじい完成度を理解した。

 地球のどんな名工にも打てない、異世界の魔法技術と現代物理学の知識が融合した、文字通りの『業物わざもの』だった。

「礼には及ばん。むしろ、あの秘伝書に比べれば安いものだ。オレはまだ、第三章の『微分積分』でつまずいているからな。また後日、質問に行かせてもらうぞ」

 ネギオはそう言い残し、フラフラと工房へ帰っていった。

 マモルは新調された三節棍を軽く振り、手首の返しだけで空気を破裂させた。

 バチィッ! という鋭い音が、庭に響く。

「……素晴らしい。これなら、どんな厄介事が来ても対処できそうだ」

「マモルPーっ! お昼ご飯まだですかー!?」

「マモルさーん! テレビの使い方が分かりませーん!」

 家の中から、二人のポンコツヒロインの騒がしい声が聞こえてくる。

「……一番の厄介事は、すでに家の中にいるんだったな」

 マモルは苦笑しながら三節棍をしまい、オカンとしての職務を全うすべく、キッチンへと戻っていくのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

「ネギオ、インフラに知恵熱を出す笑」

「秘伝書(地球の教科書)」

「専用武器ゲット! マモル先生の戦力がさらにアップ!」

と少しでも楽しんでいただけましたら、

ぜひページ下部より【ブックマークに追加】と、

【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして評価ポイントを入れて応援していただけますと幸いです!

皆様の応援が、マモル先生のコピー用紙代(作者のモチベーション)になります!

次回、第11話「ポポロ山の獲物」!

キャルルと罠猟に行ったら、なぜか「天使」が釣れます。お楽しみに!

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