第27章 時を超える友情、エルドとアーク
『聞こえるぞ、エルド! 宝玉がひび割れたことで、時空の壁に穴が開いたんだ! こっちの声がそっちに届いている!』
「アーク! お前、いま見えているのか!」
『ああ! ……すべて見えていた。聞こえていた。お前が過去に飛ばされたことも、勇者アリアが洗脳されていることも、魔王の正体も――全部、分かった!』
宝玉の光の中に、ぼんやりとアークの姿が浮かび上がる。
未来の世界にいる、11代目勇者。……俺の親友!
『エルド。僕から力を送る。勇者の心を――アリアに届ける!』
「勇者の心……?」
『僕とアリアは同じ血を引く勇者だ。僕の心をアリアに送り込めば、闇の洗脳を打ち破れるはずだ!』
宝玉から、金色の光が放たれた。
その光は真っ直ぐにアリアに向かって飛んでいく。
「させるか!」
魔王が阻止しようと手を伸ばし、炎の魔法を俺に向かって撃ったが、俺はその前に立ち塞がり、剣でその炎を弾き飛ばした。
「ええい! どけ、魔法戦士!」
「どかねえよ、大魔王。……アークの想いは、必ずアリアに届ける!」
金色の光が、アリアの胸に吸い込まれた。
「ぐ、あ……あ、あああ……!」
アリアの身体が、激しく震え始めた。
漆黒に染まっていた瞳に、光が戻りつつある。闇と光がせめぎ合い、アリアの中で激しい戦いが繰り広げられている。
やがて。
「…………ぁ」
アリアの瞳から、闇が消えた。
澄んだ色の瞳が、まぶしそうにこちらを見つめてくる。
そして――アリアはゆっくりと膝を突き、崩れ落ちるように気絶した。
「アリア!」
俺はアリアの身体を支える。
呼吸はある。意識を失っているだけだ。よかった、生きている。
「リプリカ様!」
振り返ると、リプリカ様は壁際に倒れていた。
駆け寄ると、彼女は苦しそうに息をしている。
「リプリカ様! しっかりしてくださいよ!」
「う、ぬ……炎をまともに……食らってしまった……。もう、動けそうにない……」
「ルティナ姫、癒やしの杖を!」
「は、はいっ!」
ルティナ姫が駆けつけて、癒やしの杖をリプリカ様に向ける。
だが、杖の魔石は弱々しく光るだけで、リプリカ様の傷は回復しなかった。
「だ、だめです。……魔王の炎が強すぎて、癒やしの杖の力では追いつかない……!」
「くそっ……」
『エルド!』
宝玉から、アークの声が再び響いた。
しかし、宝玉のひび割れはさらに広がっている。もう長くは持たない。
『エルド。アリアもリプリカも、もう戦えない。……君だけが頼りだ』
「……2軍だった俺が、か?」
自嘲気味につぶやく。
パーティー最弱。二軍落ち。酒場で何か月も待機していた男。
それが俺だ。そんな俺に、世界の命運を託すのか?
『エルド。確かに最近、君とは話をしていなかった。僕は魔王と戦うことだけで頭がいっぱいだったんだ。……すまなかった。……だが僕は、君を心強い仲間であり、まだ親友だと思っているんだ!』
「アーク……」
その言葉が、胸に刺さった。
何か月もまともに口をきいていなかった。 宴にも呼ばれなかったと思っていた。
見捨てられたと、忘れられたと、そう思い込んでいた。
だけど。
俺、魔王を倒した勝利の宴にも呼ばれなくて――
「……エルド」
弱々しい声で、リプリカ様が口を開いた。
「エルド、魔王を倒した勝利の宴。おぬしが呼ばれなかったのは、アークが呼ばなかったのではない」
リプリカ様は、かすかに笑みを浮かべた。
「あのとき、わしが呼びに来ていたのじゃ。アークに『酒場にいるエルドを呼んできてくれ』と頼まれてな」
「リプリカ様が……俺を呼びに……?」
「そうじゃ。じゃがわしが話を切り出す前に、時の宝玉の事件が起きてしまった。……そなたをこの時代に送り込んでしまったのは、ある意味ではわしの責任でもある」
「…………」
「これまで言い出せなかった。すまなかった、エルド」
そうだったのか。
俺は呼ばれていなかったわけじゃなかった。
アークは俺のことを忘れてなんかいなかった。
宴に来て欲しいと、一緒に祝ってほしいと、あいつはちゃんと思っていてくれた。
ただ、タイミングが悪かっただけだったんだ。
目の奥が、熱くなった。
「……そっか。そうだったのか」
『エルド。宝玉の力が持つのも、もうあと少しだ。……頼む。君なら魔王を倒せる。僕はそう信じている』
「…………ああ」
俺は、立ち上がった。
魔刀工の剣を握りしめる。
「勇者じゃねえが」
魔王を見据える。
あの巨躯。あの禍々しい力。
それが全部、俺の前に立ちはだかっている。
だけど。
怖くはなかった。
「魔法戦士エルドが――この世界を救ってみせる」




