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第26章 魔法戦士エルドVS初代勇者アリア

「…………」


 アリアの剣は速かった。

 こちらの剣を弾いた直後、すぐさま次の攻撃が繰り出される。

 上段、下段、突き、薙ぎ。流れるような連撃が、間断なく俺を襲う。


「くそ、こいつ……強い!」


 俺は必死に剣を振るい、アリアの攻撃を受け流す。

 魔法剣を使い、スキルを発動させ、ありったけの技を駆使して戦う。


 ――だが、この戦い。

 俺のほうが、優勢だった。

 勇者の力を持つとはいえ、アリアはまだ若い。経験が足りない。


 しかも洗脳されているせいか、動きに柔軟性がない。パターン化された攻撃は、数合打ち合えば読めてくる。


 なによりも――


「お前の戦い方は、アークにそっくりなんだ! だから見えるんだよ、俺には!」


 上段からの振り下ろし。右に回避。

 続く横薙ぎ。半歩下がって間合いの外へ。

 突き。剣の腹で受け流す。


「お前の剣筋――3手先まで読める!」


 がきぃんっ!

 アリアの剣を弾く。

 体勢が崩れた。いまだ。ここで踏み込めば、一撃で――


「…………ッ」


 俺は、剣を振り下ろそうとして。

 ――止まった。


「エルド!? なぜ止める!」


 アイネスが叫ぶ。


「いまが好機だったではないか! なぜ止めた!」


「……殺せねえよ」


「なに?」


「こいつは……この世界の勇者だ。俺の親友の、先祖だ」


 アリアの顔を見つめる。

 闇に染まった瞳。光のない、真っ黒な目。

 だがその輪郭は。その横顔は。剣を構えるその姿勢は。


 あいつに似ていた。

 勇者アーク。

 俺の幼馴染で、親友で、一緒に旅をした男。

 あいつが剣を構えるときの癖。右足をわずかに引いて、肩の力を抜いて、剣先を相手の喉元に向ける、あの独特の構え。


 アリアも、まったく同じことをしていた。

 血は争えないってことか。何千年の時を隔てても、勇者の剣は同じ形をしているのか。


「こいつを殺したら……アークが生まれなくなる。11代目の勇者が、この世に存在しなくなる」


「エルド……」


「それだけじゃない。こいつは……こいつは被害者じゃないか」


 声が、震えた。


「親を殺されて、さらわれて、洗脳されて。こいつだって好きで闇に堕ちたわけじゃないんだ。……殺すなんて、できるわけがない」


 俺は、構えた剣を、下ろした。

 その瞬間。

 アリアが動いた。


「ッ!」


 がきぃぃぃんっ!!

 振り下ろされた剣を、咄嗟に受け止める。

 衝撃が両腕を伝い、足元の石畳にヒビが入った。重い。さっきまでとは段違いの一撃だ。


「エルド様っ!」


 ルティナ姫の悲鳴が聞こえる。

 だが振り返る余裕はない。アリアの猛攻が再開されたのだ。

 ざしゅっ!


「ぐっ……!」


 左の二の腕を浅く切られた。

 鉄の胸当ての隙間を縫うような、正確な一撃。さすが勇者の血筋、ってやつか。

 洗脳されていても、戦闘本能だけは研ぎ澄まされている。


 ざん、ざん、ざん!

 アリアの攻撃が加速する。

 さっきまでとは違う。パターンが変わった。俺が優勢だと見るや、新しい攻撃パターンに切り替えてきたのだ。


 学習しやがる。

 勇者の才能ってのは、こういうところにも現れるのかよ。


「くそっ……厄介だな!」


 だが、俺も黙ってやられるわけにはいかない。

 攻撃を受け流しながら、反撃の隙を探る。


 一合。二合。三合。

 剣と剣がぶつかるたびに火花が散り、衝撃波が広間の壁を震わせる。

 そして――見つけた。


 アリアの連撃の、四手目と五手目の間。

 ほんのわずかな、コンマ数秒の隙。

 俺はそこに剣を差し込んだ。

 アリアの剣を弾き上げ、がら空きになった胴体に向けて――


「…………」


 また、止まった。

 剣先が、アリアの胸元で静止している。

 あと数センチ踏み込めば、心臓を貫ける。


 だが、俺の腕は動かなかった。

 アリアの顔が、すぐ目の前にある。

 闇に染まった瞳。だがその奥に、かすかな光が見えた気がした。

 泣いているような。助けを求めているような。そんな、微かな光。


「……お前、本当は」


 その瞬間。


「やめろ! どけ!」


 アリアの口が動いた。

 洗脳されているはずのアリアが、はっきりとした声で叫んだのだ。


「お前……しゃべった……?」


「う、ぐ、あ……逃、げ……ろ……!」


 アリアの顔が苦悶に歪む。

 闇の瞳の中で、光と闇がせめぎ合っている。洗脳に抗おうとしているのだ。


「黙れ、アリア!」


 魔王が、玉座から怒声を放った。


「余の命令に逆らうことは許さん! 侵入者を殺せ!」


「う、が、あああ……!」


 アリアの身体がびくんと震え、再び闇の色が瞳を支配する。

 しかし完全には戻りきらない。光と闇が交互に明滅し、アリアは頭を抱えてその場にうずくまった。


「アリア!」


「ぐ……あ、あああああッ!」


 闇の瞳のまま、アリアは再び剣を振りかざす。

 だがその動きは先ほどまでの精密さを失い、荒々しく、がむしゃらなものになっていた。

 自分自身の意志と、魔王の洗脳がぶつかり合って、身体の制御ができなくなっているのだ。


 がきぃん! ざしゅ! がん!

 むちゃくちゃな剣撃を、俺は必死にさばく。

 技の精度は落ちたが、その分パワーが上がっている。一撃一撃が重い。まともに受けたら腕がもっていかれる。


「エルド! もういい、わしが――」


「来るな、リプリカ様!」


 背後からリプリカ様の声が聞こえたが、俺は制止した。


「こいつは俺が……俺がなんとかする! 殺さずに、止めてみせる!」


「殺さずに止める、じゃと? そんなことが……」


「やってみせる!」


 俺は、魔刀工の剣を左手に持ち替えた。

 そして空いた右手を、アリアに向けて突き出す。


「【スリープ】!」


 眠りの魔法を放った。

 だが、アリアの身体を包む闇のオーラが、魔法を弾き返す。


「効かない……! くそっ、闇の力が魔法を阻んでいやがる!」


「当然だ」


 魔王が、嘲笑う。


「余の闇の力で強化されたアリアに、その程度の魔法は通じぬ。……諦めろ、魔法戦士。その小僧を止める方法は、殺す以外にない」


「……うるせえ」


 俺は歯を食いしばった。


「殺す以外にないなんて、そんな選択肢、認めてたまるか!」


 俺は剣を鞘に収めた。


「エルド!? なにをしている!」


 アイネスが絶叫する。

 敵の前で剣を収めるなど、正気の沙汰ではない。それは俺だって分かっている。

 だが、俺は両手を広げた。


「アリア。俺はお前を殺さない。絶対に殺さない」


「…………ッ!」


 アリアが、闇の瞳のまま切りかかってくる。

 その剣が、俺の右肩に食い込んだ。


「ぐ、うっ……!」


「エルド様ーーーーっ!!」


 ルティナ姫の悲鳴。

 鉄の胸当てを切り裂いて、刃が肩の肉に到達している。血が流れ出す。

 だが、俺は動かなかった。


「……痛ぇな、おい」


 俺は、肩に剣を突き立てたままのアリアの顔を、真正面から見つめた。


「でもな、アリア。お前だって痛いんだろ?」


「…………」


「親を殺されて、さらわれて、心を闇に塗り潰されて。お前はずっと、痛かったんだろ?」


 アリアの手が、震えている。

 剣を握る手が、かたかたと音を立てている。


「俺は知ってるよ。お前の子孫をな。何千年も先の未来で、お前と同じ勇者の血を引いた男がいたんだ。そいつは俺の親友だった」


「…………」


「そいつもさ、背負ってたんだよ。勇者って運命を。世界を救わなきゃいけないって重荷を。だけどあいつは、ちゃんと笑ってた。仲間と一緒に旅をして、ケンカもして、バカやって、でも最後は笑って――世界を救った」


 アリアの瞳の中で、闇が揺らいだ。

 ほんの一瞬、光が差し込む。


「お前にだって、その資格がある。笑う資格が。自分の足で立つ資格が。――闇に支配されたまま終わっていい人生じゃねえんだよ、お前は!」


「う、あ……あ、ああ……」


 アリアの口から、嗚咽が漏れた。

 闇の瞳に、涙が滲んでいる。


「黙れ、魔法戦士!」


 魔王が叫んだ。


「くさい芝居はやめろ! アリアは余のものだ! 余の剣だ! 貴様の言葉ごときで――」


「うるせえっつってんだろ、魔王!」


 俺は、魔王を睨みつけた。


「お前はこの子の親を殺して、心を壊して、道具にした! それを許せるわけがねえだろうが!」


「フン……ならば、まとめて消えるがいい!」


 魔王が両手を掲げた。

 その手のひらに、凄まじい熱量の炎が渦巻く。城全体が赤く照らされるほどの、巨大な火球が生み出される。


「【インフェルノ】!!」


 炎の魔法が放たれた。

 俺とアリアの両方を飲み込む軌道で、灼熱の火球が突っ込んでくる。


「エルド!!」


 リプリカ様が割って入った。

 両手を前に突き出し、防御の結界を張る。

 だが、魔王の炎は桁違いの威力だった。


「ぐ、うあああああっ……!」


 結界にヒビが入る。

 リプリカ様の身体が、炎の余波を受けて後方に吹き飛ばされた。


「リプリカ様ッ!」


 そして――その衝撃で、リプリカ様のふところから転がり落ちたものがあった。


 時の宝玉。

 炎の余波を受けた宝玉に、ぴしっ、と亀裂が走った。


「あ……宝玉が……ッ!」


 ひび割れた宝玉から、虹色の光があふれ出す。

 その光は空間を裂くように広がり――やがて、光の中から声が聞こえてきた。


『エルド!』


 その声を聞いた瞬間、俺の心臓が跳ねた。


「アーク……!?」


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