第24章 (この時代の)魔王城にいざ、突入
城門に着くと、もちろんモンスターどもが待ち構えていたが、俺と仲間たちの敵ではなかった。ゴブリンの群れも、オークの集団も、片っ端から蹴散らしていく。
城門を突破し、城の内部に入った瞬間だった。
「やあ、また会ったね。魔法戦士エルド」
聞き覚えのある声が、薄暗い城内に響いた。
漆黒のマントを翻し、数十体のガイコツを引き連れた美少年が、通路の向こうから悠然と歩いてくる。
「現れたな、ジャスティア!」
「今度こそ、僕が勝つ。前回の雪辱を果たす! ――かかれ、死の騎士団!」
ジャスティアの号令と共に、ガイコツたちが一斉に襲いかかってきた。
さらにその後方からは、ケルベロスやキメラといった上級モンスターまでが姿を現す。
「はっ、前回と同じ手が通じるとでも?」
「同じ手じゃないよ! 今回は本気の死の騎士団だ! 見ろ、数が違う! 前回の3倍はいるぞ!」
確かにガイコツの数は多い。だが、
「本気ならば、わしも手を貸してやろう」
リプリカ様が一歩前に出た。
銀髪をなびかせ、右手を高々と掲げる。
「【セイクリッド・ストーム】!」
リプリカ様の手から、無数の光の矢が放たれた。
それは嵐のように城内を駆け巡り、ガイコツたちを一体残らず貫いていく。聖属性の上級魔法。不死身のアンデッドも、これを食らえば二度と蘇ることはない。
ガイコツの軍団が光に包まれ、ひとつ、またひとつと消滅していく。
上級モンスターたちも、リプリカ様の魔法の前には紙切れ同然だった。ケルベロスもキメラも、光の矢に射抜かれてあっさりと倒れていく。
ものの10秒で、ジャスティアの軍団は壊滅した。
「な……う、嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ……!」
ジャスティアは、がくがくと膝を震わせている。
「さすがリプリカ様ッスね! 俺とは違う!」
心の底からそう思った。
一軍の実力者。魔女の中の魔女。
俺がずっと憧れていた、あのパーティーの主力だ!
「……何を言っておる、エルド」
だがリプリカ様は、意外にも首を横に振った。
「水の精霊の魔力を手に入れたそなたは、一気に強くなっておる。エルフの加護、姫の加護も受けて、さらにな」
「え?」
「……そなたは、誰かと親しくなることで強くなる素質をもっていたのじゃな」
リプリカ様は、真剣な表情で俺を見つめた。
「仲間との絆が、そなたの力になる。それは勇者アークでさえ持っていなかった特別な才能じゃ。……いまやそなたは、わしより強い」
「まさか。……リプリカ様より俺のほうが強いわけ――」
「嘘は言わん。数字で分かる。そなたの魔力は、いまのわしの1.5倍はある。……まったく、とんだ化け物じゃ、そなたは」
俺が、リプリカ様より強い? ……そんなことが、ありえるのか? パーティー最弱だった、この俺が?
「く、くそぉ……」
ジャスティアが、歯を食いしばりながら後ずさりしている。
「こんなの……こんなのありえない。……撤退する。撤退、だ……!」
ジャスティアは、悔しそうに顔を歪めながら、闇の中へと消えていった。
またしても逃げたか。……まあいい。ジャスティアは、俺たちの本当の敵じゃない。
「先に進もう。魔王はこの城の奥にいるはずだ」
「それにしても」
「アリアはどこだろう」
アイネスとクロエが同時に言った。
さらわれたという初代勇者アリアの行方は、確かに気になるところだ。
「地下牢とかに、閉じ込められているのかもな」
「絶対に助けてあげましょうね」
「ルティナ姫が勇者アリアを助けるのか。史実とはあべこべだな」
リプリカ様がくすっと笑った。
俺たちは魔王城のさらに奥へと足を踏み入れた。
薄暗い通路には、そこかしこに罠が仕掛けられていた。落とし穴、毒矢、崩落する天井。一歩間違えれば命に関わるトラップの数々が、俺たちの行く手を阻む。
だが、リプリカ様がその都度、的確に指示を出す。
「ここは左じゃ。右の通路には毒矢の罠がある」
「この床板は踏むな。落とし穴じゃ」
「天井の色が変わっているところは危険じゃ。重石が仕掛けてある」
「す、すごいですね、リプリカ様。まるで魔王城の構造を知り尽くしているかのよう……」
ルティナ姫が感心すると、リプリカ様は得意げに銀色の髪をかきあげた。
「初代勇者の魔王城の作りは、書物で何度も読んだからの。未来の世界には、過去の魔王城を研究した学者たちがおったのじゃ。……まさかその知識がこんな形で役に立つとはのう」
「さすがリプリカ様。勉強家だなあ」
「ふふん。こう見えても知識の蓄えだけはそれなりにあるからの。……250年生きておると、暇な夜には本を読むしかなかったんじゃ」
リプリカ様のガイドのおかげで、俺たちは罠をことごとく回避しながら進んでいく。
そして――魔王城の最深部。
巨大な扉の前に、たどり着いた。
「ここが、魔王の間か」
扉からは、ひしひしと禍々しい気配が漂っている。
俺は剣の柄を握りしめ、深呼吸をした。
「よし――開けるぞ」
ぎぃぃぃぃぃ……。
重厚な扉が開く。
その向こうには、広大な空間が広がっていた。
黒い大理石の床。天井は闇に包まれ、壁には不気味な紋章が刻まれている。
そして。
その空間の中央に――
「……え?」
俺は目を見開いた。
そこに立っていたのは、巨大なモンスターでも、おぞましい魔物でもなかった。
人間だった。
俺と同じくらいの年恰好。10代半ばか。
短い黒髪に、細身の体躯。その手には、一振りの剣が握られている。
だが――その瞳は、漆黒に染まっていた。
光のない、闇そのものの色。
「まさか……」
リプリカ様が、息を呑む。
「……アリア?」
俺がその名を呼んだ瞬間、黒い瞳の少年は、ゆっくりと剣を構えた。
ああ、雰囲気が似ている。あいつに。俺が知っている未来の勇者に。
その構えなんて、まるでうり二つだ。
親友に――
アークに。
勇者アークに。
似過ぎている。
そいつが、剣を俺に向かって構えている!
「どういうことだ! アリア!」
俺は、困惑した。
助けに来たはずのアリアが、魔王の間にいる。
しかも敵意をむき出しにして、こちらに剣を向けている。
その瞳は闇に墜ちている――




