第23章 リプリカ様、初代の時代に登場
「って、リプリカ様!?」
「あ、あの、あの! あなたはどなたですか!?」
ルティナ姫は、突如現れた美少女に目を白黒させている。
そりゃそうだ。いきなり光の中から知らない女の子が出てきたんだから。
「わしの名はリプリカ。エルドの仲間じゃ。……というか、エルドがいた時代の仲間じゃな」
「エルド様の時代の……?」
「その通りじゃ。エルドは未来の時代からやって来た男でな。わしも未来の人間じゃ」
「み、未来!?」
「じ、時間移動だと!?」
「未来の……人間……?」
ルティナ姫、アイネス、クロエ。
三者三様に仰天している。
そして俺に視線が集まった。
温泉の中で服を着たまま浸かっている俺に。
「え、エルド様。あなた……未来から来た方だったのですか?」
「…………まあ、その、うん。……そうッス」
隠し通せるとも思ってなかったが、こういう形でバレるとは。
俺は気まずさを感じつつも、正直に話すことにした。
時の宝玉で数千年先の未来から飛ばされてきたこと。
未来の世界では勇者アークの仲間だったこと。
初代勇者がいないこの世界で、代わりに魔王を倒そうとしていること。
すべてを聞いたルティナ姫は。
驚きつつも、碧眼を潤ませながら、
「それですべてが理解できました。あなた様の強さの理由も。し、しかし、しかし……それではエルド様。あなた様は、すべてが終わったら、元の時代に戻られてしまうのですか?」
「…………」
「わたしにとっては……勇者はそのアリアという者ではありません。わたしをドラゴンから助け、父上の病を治し、こうして旅をしてくれている……わたしにとっての勇者は、エルド様です」
「だけど……本来の歴史では、ルティナ姫。あなたを助けるのは俺じゃなくて、アリアだったはずで……」
「本来の歴史なんて知りません! いまを生きるわたしを助けてくださったのは、共に旅をしたのは、わたしが一緒にいたいのは、あなたです、エルド様!」
「…………」
ルティナ姫の言葉が、心に染みた。
本来の歴史では、ルティナ姫を救うのは初代勇者アリアの役目だったはずだ。
でもこの世界では、俺がそれをやった。
俺なんかでよかったのかは分からないけど。
「……ありがとう」
それだけ言うのが、精一杯だった。
リプリカ様は腕を組み、じっと俺の顔を見つめていた。
そして、
「エルドよ。宝玉の力がいまなら十分にある。元の時代に戻るなら、いまじゃぞ」
「…………」
俺は、少し考えた。
やがて、首を横に振る。
「帰らないッス」
「ほう?」
「ここまできたんです。この世界の問題を解決してからにしますよ。……アリアを助けて、魔王を倒す。それが終わるまでは」
リプリカ様は、少しだけ嬉しそうに目を細めた。
「ならば、わしも手を貸してやろう」
「マジッスか?」
「当たり前じゃ。仲間じゃろうが」
その一言が、やけに心強かった。
翌朝。
森を抜けた俺たちは、温泉のあった場所へと戻り、ウェンちゃんに改めて礼を言った。
「ウェンちゃん。水の船の作り方、ちゃんと覚えたぜ。ありがとうな」
「あはは、どういたしまして! ……イケメンくん、がんばってね。あの子――アリアを助けてあげて」
「ああ、任せろ。じゃあな、ウェンちゃん」
「ばいばーい! また遊びに来てね!」
手を振りながら消えていくウェンちゃんを後にして、俺たちは山を下りた。
そして、ディヨルド大陸の東岸を流れる大きな川のほとりへとたどり着く。
「よし。ここで船を造る」
俺は川面に向けて右手をかざした。
ウェンちゃんに教わった通り、水に向かって魔法力を注ぎ込む。
「【アクアフォルム】!」
川の水が、ごぼごぼと盛り上がり始めた。
水がブロック状に固まり、ひとつ、またひとつと組み合わさっていく。
船底、船首、舷側。水のブロックが次から次へと積み上がって、やがてそこには――
「おおおっ!」
「す、すごい……水でできた船……!」
「見事な造形だ……」
「クロエも初めて見る」
全長10メートルほどの水の船が、川面に堂々と浮かんでいた。
半透明の水色の船体が、朝日を受けてキラキラと輝いている。
「乗り込んでくれ。この船なら川を下って海に出られる。そこからオデスド大陸まで一直線だ」
俺が促すと、最初に乗り込んだのはリプリカ様だった。
「ふむ、なかなか頑丈じゃな。揺れも少ない」
続いてルティナ姫、アイネス、そしてクロエが乗り込む。
全員が船に乗ったところで、俺は改めて彼女たちに向き直った。
「……みんな。ここから先は、本当に危険だ。オデスド大陸は魔王の本拠地。モンスターだらけの土地だ。……みんなはもう来なくていいんだぜ?」
「なにを言っているのですか、エルド様」
ルティナ姫は、きっぱりと言った。
「ここまで来たら、この世界の行く末をこの目で確認したいのです。わたしはディヨルド王国の姫として、世界の未来を見届けます」
「姫様の言う通りだ」
アイネスもまた、凛とした声で言う。
「私はこの時代の人間として、魔王を倒したい。未来から来たエルド、お前ひとりの戦いにはさせない。……この時代に生きる者の責務として、私も戦う」
「クロエも行く」
クロエが静かに、しかし確かな声で続けた。
「エルドは言った。未来では人間とエルフが和解していると。……クロエはその話をもっと聞きたい。そして、その未来が本当に来るのか確かめたい」
「…………」
ルティナ姫、アイネス、クロエ。
みんなが俺と一緒に行くと言ってくれている。
リプリカ様もまた、無言でうなずいている。
「……分かった。じゃあみんなで行こう。オデスド大陸へ!」
俺は船の舳先に立ち、前方を指さした。
「出発だ!」
水の船は、川を下り、やがて海に出た。
果てしなく広がる青い海原を、水の船は驚くほどの速さで滑るように進んでいく。
精霊の魔法で造った船だけあって、波にも強い。海上でもまったく揺れを感じなかった。
そして数日の航海ののち。
水平線の向こうに、灰色の大地が見えてきた。
「あれがオデスド大陸だ」
リプリカ様が言った。
「11代目勇者の時代にも魔王の本拠地だった場所じゃ。初代の時代も同じく……ここに魔王がいる」
空気が変わった。
大陸に近づくにつれ、空は暗くなり、海の色もどす黒く変色していく。
禍々しい気配が、肌を刺すように伝わってくる。
「……いよいよだな」
俺は、腰の魔刀工の剣に手をやった。
上陸する。
オデスド大陸の大地は荒涼としていた。
岩と砂だらけの荒野に、枯れた木が点在している。空はどんよりとした雲に覆われ、太陽の光がほとんど届かない。
そして――
大陸の中央に、それはそびえ立っていた。
「あれが、魔王城か」
黒い岩で築かれた巨大な城。
禍々しいオーラを放つその城は、見るだけで寒気がするほどの威圧感を漂わせている。
「行こう」
俺たちは、魔王城に向かって歩みを進めた。




