↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/39

37話 スキー合宿


 冬休みが明け、数日が経った。


 ようやく学校生活のリズムを取り戻し始めた頃。教室にもいつもの空気が戻り、生徒たちは未だ休み中の出来事を話しながらホームルームを待っていた。

 そんな中、担任が一枚のプリントを手に教室へ入ってくる。


「今日は大事な連絡がある。全員、このプリントを後ろに回してくれ」


 前の席から順番にプリントが配られていく。

 三も受け取った紙へ何気なく視線を落とした。

 そこには大きく『スキー・スノーボード合宿について』と書かれている。


「再来週、スキー・スノーボード合宿を行います」

 担任のその一言で、教室中が一気にざわめいた。


「マジか! スノボーできるじゃん!」

「俺スキーしかやったことないわ」

「初心者でも講習あるらしいぞ」

「楽しそう!」


 期待に満ちた声が教室のあちこちから飛び交う。

 三は騒がしい教室の中で、もう一度プリントへ目を落とした。


 スキー・スノーボード合宿。

 雪山へ行くのは、随分久しぶりな気がする。

 最後に滑ったのは、いつだっただろうか。


 細かな記憶までは思い出せない。ただ、冷たい風を切って滑る感覚だけは、不思議と今でも体が覚えている気がした。


 そんなことを考えているうちにホームルームは終わり、いつもの授業が始まる。

 その日一日、教室では休み時間になるたびに合宿の話題で持ちきりだった。

     ◇

 放課後。

 静まり返った教室には、いつもの四人だけが残っていた。


「スキー合宿かぁ……」


 色晴がプリントを両手で持ちながら、不安そうに眉を寄せる。


「どうしたの、色晴ちゃん?」


 優が首を傾げると、色晴は少し照れくさそうに笑った。


「いや、私さ。スキーもスノボも人生で一度もやったことないんだよね。それこそ雪遊びくらいしかしたことなくてさ」

 そう言ってプリントへ視線を落とす。

「ちゃんと滑れるかすごく心配なんだよね。転んだら絶対痛いじゃん」

「最初はみんなそんなものだって」

 蓮が笑いながら言う。


「ちゃんとインストラクターの講習もあるんだし、何とかなるだろ」

「そうかなぁ……」

 色晴はまだ少し不安そうだった。


「最初はゆっくり教えてもらえるみたいですし、きっと大丈夫ですよ」

 優は優らしい穏やかな口調で付け加えた。

「そういえば、当日はスキーとスノーボード、どちらにするか決めないといけないんですよね」

 優がプリントへ視線を落としながら言った。


「優ちゃんは初心者?」

「……いえ。一応、スキーは滑ったことがあって」

「そっかぁ……じゃあ、完全な初心者は私だけか」


 色晴は苦笑いを浮かべながら肩を落とした。

 三はそんなやり取りを聞きながら、手元のプリントの端を指先で軽く折る。


「俺なんて今から楽しみで仕方ないぜ」

「さすがスキー経験者は余裕だな」

 三が呆れたように返す。


「別に最初は俺だって転びまくってたんだから」

「そうなんですか」

「ま、慣れたけどな」

 蓮は得意げに笑った。


「じゃあ、みんなはもう決めたの?」

 色晴がプリントを見ながら尋ねた。

「俺はもちろんスキーだな」

「私もスキーです」

「みんなスキーなんだ、三は?」

「……スノボー」


 三が短く答えた。

 その時何かを思い出したように、蓮の口元がゆっくりと吊り上がる。

 その笑みを見た瞬間、三は嫌な予感しかしなかった。

 

「こいつ実は――」


 三は反射的に席を立ち、蓮の口を片手で押さえつけた。

「んぐっ!?」

「……」

「え、何なに?」

 色晴が目を輝かせる。


「三に何かあるの?」


 三はすぐに手を離した。


「……こいつが余計なこと言おうとしただけ」

「余計って何ですか?」

「気になるじゃん!」


 色晴は興味津々だ。

 三は何も答えず、蓮へ鋭い視線を送る。

 これ以上しゃべるな。

 そんな意思を込めた無言の圧力だった。

 蓮はその視線を受けると、やれやれと肩をすくめる。


「……なんでもない。忘れてくれ」

「絶対なんかあるじゃん!」


 色晴が頬を膨らませる。


「ずるいです」


 優も小さく苦笑していた。

 三は気まずさをごまかすようにプリントへ視線を戻す。


「昔、少しやってたってだけ」

「少し、ねぇ……」


 蓮が意味深につぶやく。

 もちろん聞こえている。

 それでも聞こえないふりをした。

 わざわざ自分から話すようなことでもない。

 昔のことは昔のこと。


 今さら自慢するほどの話でもなかった。


「まあ、当日になれば嫌でも分かるって」


 蓮が笑う。


「ほら、そろそろ下校時間だぞ」


 三が話を切り上げると、色晴は「えー、気になるなぁ」と名残惜しそうに言いながらバッグをまとめ始める。


 優もプリントを鞄へしまい、蓮は伸びをしながら立ち上がった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。