35話 新年最初の再会で
一月一日。
朝早く、三は眠気の残る目を擦りながら布団を出た。
身支度を済ませると、家族とともに家を出る。
三としては、こんな朝早くから初詣へ行く必要があるのかと思っていた。
だが、一月一日に参拝することに意味があるらしい。それに、この辺りでは混雑を避けて一月二日に訪れる人も多いため、元日の朝は比較的人が少ないのだという。
「だから今日の朝が狙い目なの」
「そうなのか?」
「うん」
咲は当然と言わんばかりに頷いた。
近くに車を停め歩いてしばらくすると、大きな鳥居が見えてくる。
この辺りで初詣といえば、多くの人が訪れるこの神社だ。普段ほとんど初詣に来ない三でも、そのくらいは知っている。
鳥居をくぐると、冷えた空気が頬を撫でた。
朝早いにもかかわらず、境内にはすでに多くの参拝客が集まっている。
「……結構いるな」
「お昼だったらもっといるよ」
咲は笑いながら階段を登っていく。
家族の後について手水舎へ向かう。
三も周りに倣い、手順通りに手を清めていく。
一通り終えると、柄杓を隣へ差し出した。
「どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
聞き覚えのある声だった。
三は思わず顔を上げる。
「……優?」
「……三くん?」
優も驚いたように目を丸くした。
「お兄ちゃーん、まだ?」
咲の声が聞こえ、三は振り返る。
「……咲」
「みんな待ってるよ」
「ああ」
咲は三の隣に立つ優へ視線を向けた。
「……あれ?」
「どうした?」
「この可愛いお姉さん、お兄ちゃんの知り合い?」
「学校の友達」
「ふーん」
咲は少しだけ考えるような顔をする。
「じゃあ、昨日LINEしてた人?」
三は少し目を見開いた。
「なんで分かったんだ?」
「なんとなく」
咲はそれだけ言うと、満足そうに頷く。
「じゃ、お母さんたち待ってるから」
小走りで家族のもとへ戻っていった。
三は優へ向き直る。
「悪い」
「いえ」
優は小さく笑った。
「じゃあ、また後で」
「はい」
三はその場を離れ、家族の後を追う。
参拝の列はゆっくりと前へ進んでいた。
賽銭箱の前まで来ると、三は賽銭を入れ、鈴を鳴らす。
二礼二拍手一礼。
静かに手を合わせ、目を開く。
隣を見ると、咲はまだ願い事をしていた。
「……長いな」
参拝を終えた咲が顔を上げる。
「ちゃんとお願いしてたの!」
「何を?」
「秘密」
参拝を終え、人の流れはそれぞれ境内へ散っていく。
「私は受験のお守り見てくる」
「じゃあ一緒に行こうか」
母がそう言うと、咲も嬉しそうについていく。
「三、何かして待っててね」
「ああ」
三は一人、おみくじのある方へ歩き出した。
列の最後尾に並ぼうとした、そのとき。
「三くん」
聞き慣れた声がした。
「また会ったな」
振り返ると、優が微笑んでいた。
「また会いましたね」
二人は並んで列へ加わった。
「古暮さんは毎年来るの?」
「はい。毎年家族で来ています」
「そうなんだ」
「三くんは?」
「俺は久しぶりかな」
「そうなんですか?」
「あんまり来ることなかったから」
二人で話しながら列を進む。
その間におみくじを引く。
ちょうど紙を開いたところで、
「おーい!」
元気な声が境内に響いた。
二人が振り返る。
「やっぱいた!」
蓮が大きく手を振りながら近づいてきた。
「本当に会ったな」
「昨日話してた通りじゃん」
蓮は笑う。
「家族と来てるのか?」
「ああ」
「俺も。姉貴が帰ってきてるからさ」
「帰省してたのか」
「年末にな」
そんな話をしていると、
「あっ!」
少し離れたところから穂花の声が響いた。
「れんにぃー!」
色晴と手を繋いで歩いていた穂花は、蓮を見つけると一目散に駆け出す。
「おっと」
蓮はしゃがみ込み、飛び込んできた穂花を受け止めた。
「元気だったか?」
「うん!」
その後ろから色晴も歩いてくる。
「やっぱりみんないたね」
「結局会ったな」
三がそう言うと、色晴は笑顔で頷いた。
「昨日LINEで話してた通りだね」
「本当に会えるとは思いませんでした」
優も穏やかに笑う。
「この辺で初詣っていったら、やっぱりここだからね」
蓮が周りを見回す。
「ひまりちゃんたちは?」
「ひまりはまだ寝てるし、柊も起きなかったから、お母さんとお留守番。今日は穂花だけ連れてきたの」
「なるほど」
「そういえば二人とも、もうおみくじ引いたの?」
色晴が三と優を見る。
「ああ」
「はい」
「えっ、先に引いたの!?」
蓮が驚いたように声を上げる。
「ああ、たったさっきな」
「まじか、俺も引いてこようかな」
蓮は苦笑し、おみくじを引きに向かった。
「色晴達も引きに行こうぜ」
「うん!」
色晴も穂花と一緒に列へ並ぶ。
ほどなくして三人が戻ってきた。
「じゃあ、せーので開けよう!」
色晴の一声で、それぞれがおみくじを開く。
「大吉!」
色晴が嬉しそうに声を上げた。
「ほのかも!」
穂花もおみくじを掲げる。
「穂花も大吉なんだ」
「やったー!」
色晴が穂花の頭を優しく撫でる。
「俺は……凶」
蓮が固まる。
「新年早々かよ……」
「蓮らしいね」
色晴が笑う。
「笑い事じゃないって」
蓮は肩を落とした。
「私は吉でした」
優が紙を見せる。
「俺は小吉」
三も続ける。
「じゃあ今年は私の勝ちだね!」
色晴が得意げに胸を張る。
「おみくじで勝敗決めるな」
蓮が苦笑すると、その場に自然と笑いが広がった。
蓮は苦笑しながら、おみくじを木に結び付けた。
「じゃあ、うちそろそろ行くね」
色晴が穂花の手を握る。
「ひまりも待ってるし」
「じゃあまた学校で」
優が軽く頭を下げる。
「ああ」
「またな」
蓮も手を上げる。
それぞれが家族のもとへ戻っていく。
三も鳥居の方へ歩き出した。
待っている家族の姿を見つけ、小さく足を速めた。




