32話 大騒ぎのクリスマスで
「…………」
優のダウンの下。そこには、赤と白のサンタコスがあった。
「……え?」
色晴が目を丸くする。
「優ちゃんもサンタコス?」
「え?」
優がきょとんとする。
「だって、このまえ……」
優の視線が三へ向く。
「三くんが……」
「…………」
その瞬間、三の頭に少し前の会話が蘇った。
優にクリパについて聞かれた時、三は何となく答えた。
『サンタの格好とかするんじゃないか?』
「あ……」
「クリパではサンタの格好をするものだって……」
「…………」
三はようやく理解した。自分が適当に言ったことを、優は信じていたのだ。そして今。二人揃ってサンタコスを着ている。
「……ごめん」
「え?」
「俺が悪い」
三は素直に頭を下げた。
「三くん……」
「……はい」
「本当は着てこないんですか?」
「……そうみたい」
「…………」
優の顔が少しずつ赤くなっていく。
「三くんが言ったから……」
「……ごめん」
三がもう一度謝ると、ついにこらえきれなくなった蓮と色晴が声を揃えて吹き出した。
「あはははははっ!」
「ちょっと、二人とも笑わないでください……!」
優が顔を赤くして口を尖らせる。
「いや、だってよ! 三だけならまだ分かるけど、優までサンタって!」
「ほんとだよ!2人ともサンタコス着てるだなんて!」
「……笑わないでください!」
優は両手で顔を覆った。
三が申し訳なさそうにしていると、優は少しだけ三を睨んだ。
「……もういいです」
優は小さく息をつくと、三の肩をポンと叩いた。
「着てきたものは仕方ないので」
「……まぁな」
「でも、三くんもそのままですからね」
「……え?」
「今日1日は着てもらいます」
「……」
優の指示を断るわけにもいかず、
「……分かった」
三は諦めたように息をついた。
「じゃあ、二人ともそのまま入ろっか」
色晴が笑いながら玄関の奥を指差した。
先を歩いていた蓮が、振り返って笑う。
「……お前ら、絶対あとで覚えてろよ」
こうして三と優は、揃ってサンタクロースの格好をしたまま、色晴の家へ上がることになった。
◇
「よし、それじゃあカードゲーム大会、始めよっか!」
色晴が笑顔でリビングのテーブルを囲むみんなに声をかける。
「私、カードゲーム結構得意だから。みんな、手加減しないよ?」
色晴が自信ありげに胸を張る。
その声に反応して、リビングの奥から小さな足音が近づいてきた。
「お姉ちゃん、俺も参加する」
部屋に入ってきたのは、色晴の弟妹たちだった。総勢三人。
「お姉ちゃんのお友達だ」
男の子の後に続くように2人の女の子がついてくる
色晴は三人を手招きした。
「ほら、みんな挨拶して。うちの小学生の長男で、ちょっと生意気な柊。それから次女の穂花と、三女のひまり」
「よろしくね」
「よろしくおねがいします」
三たちが軽く会釈を返すと、子どもたちも小さく頭を下げた。
こうして、三、優、蓮、色晴の四人に、小学生の三人を加えた七人でゲームをすることになった。
テーブルの上に用意されたのは、定番のトランプだった。
「最初はやっぱり、王道のババ抜きかな」
色晴が手際よくカードを配っていく。
席の並びは、時計回りに三、優、色晴、ひまり、穂花、柊、そして蓮の順番になった。
ゲームの準備が進む中、柊がスッと立ち上がり、隣の席に座る蓮を真っ直ぐに見据えた。
「おじさん、俺絶対負けないから」
「おじさんっておい……!」
蓮は引きつった笑いを浮かべる。だが、すぐに負けじと鼻息を荒くした。
「そ、そうかよ!こっちだって容赦しないぞ!」
意気揚々に蓮は小学生と張り合っていた。
一方、優はトランプを手に持ちながら、少し不安そうに呟く。
「私、ババ抜きってあまりやったことないんですが……」
「ババを持ち続けなければ大丈夫」
隣に座る三が端的に説明する。
「……わかった」
優は小さく頷き、手元のカードへ視線を落とした。
そして、いよいよゲームが始まった。
色晴のカードから、時計回りに順々に引いていく。
三のターンとなり、自分の手札を再度確認する。 その中には、ババが一枚。
「……」
三は何食わぬ顔でカードを持ち直した。そのまま隣の優へ手札を差し出す。
優は少し緊張した様子で、三の手札から一枚を慎重に引き抜いた。
そして、引いたカードを確認した瞬間。
優の表情が一瞬だけ固まった。
「……あ」
「どうした?」
三が尋ねる。
「いえ……なんでもないです」
優は慌てて表情を戻した。引いたのは、見事にババだった。
その後もゲームは進み、それぞれがカードを抜きつ抜かれつしていく。
そして、白熱の勝負がついに決着した。
栄えある一位は三。
二位は、悔しそうにしながらも抜けた色晴。
三位は優。四位は穂花、五位はひまりが続き、残ったのは蓮と柊の二人だけになった。
「うおっ、まじかよ!」
蓮の手札には一枚のカード。そして、柊の手には二枚。運命の最終決戦が始まった。
しかし、蓮の持っているババの場所は、あまりにも分かりやすかった。端からピョコンと飛び出しているカードを、柊は鋭い眼差しで見つめる。
「それだ!」
柊が迷いなく手を伸ばす。
「よっしゃ、僕の勝ち!」
「うわあああっ! まじかよー!!」
蓮はテーブルに突っ伏した。
「くっそ、もう一回だ! 二戦目行くぞ!」
「えー、またやるの?」
色晴が呆れたように笑う。
「勝つまでやる!」
「はいはい。じゃあ、もう一回ね」
蓮の強い希望で、すぐさま二戦目が始まった。しかし、結果は大きく変わらなかった。
最後は蓮が意地を見せて柊に勝利し、敗北した柊は唇を噛みしめ、本気で悔しがっていた。
その横で「私、けっこう強いんだからね」と自信満々に話していた色晴は、またもや二位という結果に終わっていた。
「うそ……私、坂倉に二度も負けたの……?」
色晴はテーブルに突っ伏し、ガックリと肩を落とす。
「……ババ抜きでそこまで落ち込むか?」
三が呆れたように言う。
「だって、私こういうの得意なのに坂倉に二回も負けるなんて……」
「……運だろ」
三の冷静な返答に、色晴はさらに肩を落とした。
「……もう一回やろうかな」
「まだやるのかよ」
「次は絶対勝つから」
色晴は顔を上げると、今度こそ負けないと言わんばかりに三を見つめた。
そんな二人を見て、優が小さく笑う。
「三くん、強いんですね」
優がそう言って、三を見る。
その表情は、楽しそうだった。
「……そうか?」
「はい。次は負けませんから」
どうやら、色晴だけでなく優ももう一度やるつもりらしい。
気づけば、悔しそうにしていた柊も三回戦が始まるのを今か今かと待つように、席に座っていた。




