30話 クリパのプレゼント選びで
ショッピングモールの喧騒の中、三は少し距離を置いて咲の後ろを歩いていた。
高校生にもなって妹と二人でお出かけだなんて、いささか周りの目を気にしてしまう。知らない人はまだいい。けれど、同じ学校の人には絶対に会いたくない。そんな自意識が働き、三はつい周囲を警戒して足を止めてしまう。
「……お兄ちゃん、そんなとこで突っ立ってないで行くよ」
先を行く咲が、呆れたように振り返って声をかけてくる。
急かされるまま、咲の背中を追いかけた。
初めは順調にスプレゼント交換会のプレゼントを選んでいたが、気づけば服や靴など、咲が見たいお店ばかりを巡っている。三ははただ、咲の買い物の付き添いのように後をついて回るだけになっていた。
あまりの自然な流れに、俺は尋ねる。
「……咲。プレゼントを探しにきたんだよな?」
その瞬間、咲の足がピタりと止まった。
ゆっくりとこちらを振り返り、ハッと何かを思い出したような顔をする。図星だったのか、彼女はみるみるうちに顔を赤く染め上げた。
「あ……。い、いやー……」
咲は視線を泳がせ、言い訳を探すように口ごもる。どうやら自分の買い物に夢中になりすぎて、すっかり本来の目的を忘れていたらしい。
咲は気を取り直したように陳列棚を眺め始めた。その瞳は真剣そのものだ。
「……例えば、このハンカチ。無難だけど、素材が良いから結構いいんじゃないかな?」
「ハンカチか。まあ、いいんじゃないか?」
「でも、これだとちょっと面白みに欠けるかも。……じゃあ、アロマとかはどう? 最近はこういう香りが流行ってるし、癒やしになるし」
「アロマ……ね……」
「……お兄ちゃん、悩んでばっかじゃいつになっても終わらないよ」
咲が少し寂しげに、でも呆れたような溜息をつく。
「ごめん。正直、どれを見ても決め手がなくて……。何が相手にとって喜ばれるのか、どう選べばいいのか分からない」
三が正直に言うと、咲は驚いたように目を見開いた後、諦めたように苦笑いを浮かべた。
「もう……本当にお兄ちゃんは、そういうところ変に真面目すぎ。プレゼント選びに正解なんてないんだから」
咲が俺の融通の利かなさを諭していた、その時だった。
「……お兄ちゃん!久しぶり」
後ろから不意に声をかけられ、俺は振り返った。そこには、小学生くらいの男の子が一人で立っていた。咲と顔を見合わせる。「……どういう状況?」と言わんばかりの表情で、三をじっと見つめていた。
状況を飲み込めないでいると、背後からドタバタと駆け寄る足音が響いた。
「……こら、急に走るなって言ったでしょ!」
聞き覚えのある声の先には色晴が小さな女の子の手を引いて立っていた。色晴は息を切らしてその男の子を窘めると、真っ直ぐに俺を見て、パッと表情を明るくした。
「あれ? 坂倉じゃん」
思わず心の中でため息をつく。
よりによって、こんなところで会うとは。
さっきまで「学校の知り合いには会いたくない」なんて考えていた矢先だ。そんなことを思っていると、色晴が咲へ視線を向けた。
「この子は……?」
「あ、妹です!」
咲は一歩前へ出ると、にこっと笑って頭を下げた。
「初めまして! 兄がいつもお世話になってます!」
「こちらこそ。色晴です」
色晴も笑顔で軽く頭を下げる。
「坂倉に妹さんいたんだ」
「よく言われる」
三は気難しそうに答えた。
そんなやり取りをしていると、咲が肩を回しながら口を開いた。
「あー、いっぱい歩いたから疲れちゃった」
「まだそんな歩いてないだろ」
三が呆れたように言う。
「女の子は歩くだけで疲れるの」
咲は当然と言わんばかりに返した。
すると、その言葉に反応したように色晴の弟が声を上げる。
「僕も疲れた!」
「わたしもー!」
妹も色晴の袖を引っ張る。
「座りたい!」
色晴は困ったように笑った。
「さっきまで元気だったじゃん」
「疲れたー」
二人は声を揃える。
咲は近くのベンチを指差した。
「あっ、あそこ空いてますよ。少し休みません?」
色晴もベンチへ視線を向け、小さく頷く。
「そうだね。じゃあ少し休憩しよっか」
「やったー!」
弟妹は嬉しそうにベンチへ駆け出した。
「こら、走らないの」
色晴は苦笑しながら後を追う。
咲は三を振り返る。
「ほら、お兄ちゃん」
「……はいはい」
三も小さく息をつきながら、その後を歩き出した。
「もー、本当に困るんですよ。うちのお兄ちゃん、センスというものをどこかに置いてきちゃったみたいで。プレゼント一つ選ぶのにも全然決められなくて、私に『手伝ってくれ』って泣きついてくるから……」
咲は心底困ったような演技で、溜息までついてみせる。
「坂倉が?お家ではそんな感じなの?(笑) 。でも、確かにそういうの得意ではなさそうだね」
色晴は肩を揺らして笑い出した。
三はおい、と心の中で叫ぶ。話を脚色するのもいい加減にしてほしい。俺がいつ泣きついたというんだ。咲の嘘に腹が立つやら、恥ずかしいやらで、三は顔から火が出る思いだった。
そんな二人の楽しげな会話の裏で、三は完全に蚊帳の外だった。
「ねえ、お兄ちゃん! こっち来て!」
「お兄ちゃん、これ持てるー?」
色晴が連れていたのは男の子だけじゃなかったのか。小さなおてんばそうな女の子まで加わり、
三は完全に二人の子供たちに囲まれていた。
「ちょっ、おい、服を引っ張るな。……危ないから走るなよ」
「お兄ちゃん、これ見て! これ!」
「こっちも! こっち!」
さっきまで咲のプレゼント選びで頭を抱えていたというのに、今度は子供たちの無邪気な攻撃にさらされている。二人の子供たちは容赦なく三の手を引き、あっちへこっちへと連れ回す。
「あはは、坂倉、なんか大人気じゃん」
三が弟妹達に弄ばれ、あわあわと翻弄されている様子を眺めながら、色晴は面白そうに笑っている。咲も、三のその情けない姿を見て「もう、お兄ちゃんったら!」とケラケラと笑い出した。
数分後、色晴は手元で時計を確認すると「あ、そろそろ帰ろうかな」と子供たちに声をかけた。
「じゃあね、坂倉。また明日、学校で。咲ちゃんも、またお話ししようねー!」
「はい!」
去っていく色晴たちの背中を見送った後、咲はくるりと三の方を向き、先ほどまでの呆れていた態度とは打って変わった様子で言い放った。
「お兄ちゃん! 色晴さんに喜んでもらえるようなクリスマスプレゼント、ちゃんと選ばなきゃ! 早く行くよ!」
俺がフラグを立てたせいでこんな状況になったのか。クリスマスプレゼントを選びにきただけのはずなのにと心の中で嘆く。
結局、その後は何とかプレゼントを選び終え、三たちは帰路についた。
帰り道、街灯がポツポツと点り始めた歩道で、咲がふと呟くように言った。
「……色晴さん、いい人だったなー」
今日の出来事を反芻しているのか、どこか楽しげな声色だった。咲はそのまま、少し離れて歩く俺の方へ視線を向け、唐突に切り出してきた。
「ねえ、お兄ちゃん。色晴さんのこと、好きなの?」
直球すぎる問いかけに、俺は足をもつれさせそうになる。
「なに言ってんだ。別に、そう言うのじゃない。……ただの友達だよ」
口から出た言葉を、自分でも確認するように反芻する。
「友達」
咲は「あ、そう」と少し意外そうな反応をしたが、すぐにニヤリといたずらっぽく笑った。
「へえー。にしても、お兄ちゃんの口から『友達』なんて言葉、久しぶりに聞いた気がするなー」
その言葉に、三は立ち止まりそうになる。
言われてみれば、自分でも驚くほど自然にその言葉が出てきたことに、今さらながら違和感を覚える。 三が自分から誰かをそう定義することなんて、ここ最近なかったはずだ。
「……うるさい。早く帰るぞ」
三は気恥ずかしさを隠すように、咲よりも少し先を早足で歩き出した。
背後で咲が「図星だー」と笑いながら追いかけてくる気配を感じながら、三は冷えてきた夜風に顔をさらして、前だけを見つめていた。
最近、本当に暑くなってきましたね。この時期になると、この話ばかりしている気がします。
そんな暑さとは対照的に、三たちの物語は冬へ突入しました。寒い季節は寒い季節で大変でしょうけど、今の暑さを考えると少し羨ましくも感じます。
そして、遅くなりましたが30話までお付き合いいただきありがとうございます!
飽き性な私が、ここまで書き続けられるとは自分でも驚いています。まだまだ目標の10万字には届いていませんが、一歩ずつ積み重ねながら、これからも三たちの物語を紡いでいきたいと思います。
今後とも『第三者の僕と君』をよろしくお願いいたします!




