15話 変わらない日々の中で
15話までお付き合いいただき、ありがとうございます。
最近更新ペースがゆっくり気味です。
「今日はたくさん書くぞ」と思って書き始めるのも、気づいたら布団の中にいるなんてことがちょくちょくあります。布団の持つ魔力には抗えそうにないです…
少しずつではありますが書き進めていきますので、今後ともお付き合いいただけると嬉しいです。
三は教室に入るなり、自分の席に座った。
連休明けの朝は妙に騒がしかった。体育祭の話題がまだあちこちで続いていて、教室の空気もどこか落ち着きがない。
三はいつものように鞄から本を取り出し、スピンを挟んだページを開いた。
「おはよーみつ」
朝からやたら元気な声が聞こえる、顔を上げて誰か確認するまでもない。
「おはよ」
「この前の体育祭は激アツだったなー」
「特に最後の団長のスピーチとか感動したわ」
「そんな凄いこと言ってたんだ」
「聞いてなかったのかよ」
体育祭の話で盛り上がっていた蓮だったが、不意に何かを思い出したように「あ」と声を漏らした。
「そういや土曜来なかったけどどうしたん」
やっぱり聞かれた。
「ああ」
「都合が悪くてさ」
「うん」
「色晴も古暮もいたぞ」
「そうなんだ」
三は本のページをめくる。
「まあ、都合がつかないなら仕方ないか」
蓮が笑った。
軽い調子のやり取り。それで話は終わりかと思った。だが、蓮はなぜかそのまま立っている。
「?」
三が顔を上げると、蓮は少しだけ眉を寄せていた。
何か言いかけるような顔。
けれど結局、
「いや、なんでもない」
そう言って笑う。
「そっか」
三は短く返し、本へ視線を落とした。蓮もそれ以上は何も言わず、自分の席へ戻っていく。
◇
昼休み。
三はいつものベンチで昼食を広げていた。
遠くから聞こえる生徒たちの声をぼんやり聞きながら箸を動かしていると、
「坂倉君」
声がした。
顔を上げると通路の先に優が立っていた。
「あ」
「こんにちは」
「どうも」
優はそういって、ほっとしたような顔をした。
それから少し言いづらそうに続ける。
「その……」
「?」
「体調、大丈夫でしたか?」
「俺?」
「はい」
三は首を傾げた。 体調を崩したのは優の方だったはずだ。なんで自分が心配されているのだろうか。
「別に悪くなかったけど」
優は少し言いづらそうに
「体育祭のリレーが終わった時あたりです」
「……」
「あの後急に顔色が悪くなったので」
三は無意識に視線を逸らした
「そんな風にみえた?」
「少し疲れてただけだから」
三は少し肩をすくめた。
「それならいいんですけど」
優はそう言ってから、何かを思い出したように口を開く。
「前に貸してくれるって言ってた本なんですけど」
「何か良いのありましたか?」
期待の混じった声。
三は視線を弁当に落とした。
「あー……ごめん」
「?」
「探してみたんだけど」
適当な言葉を選ぶ。
「思ったより読みやすそうなのなくて」
口にした瞬間、自分でもひどい言い訳だと思った。本当は何冊か候補が浮かんでいる。こんな嘘で誤魔化せるはずもないのに。
一瞬だけ沈黙が落ちた。
「そうなんですか?」
「うん」
「坂倉君のおすすめなら、別に難しくても――」
「いや」
三は小さく首を振る。
「また今度で」
優はそこで言葉を止めた。
少しだけ視線が下がる。
「……そうですか」
三は優の表情を見ないように弁当へ視線を落とした。
会話が途切れる。
風だけが二人の間を通り過ぎた。
やがて三は最後の一口を食べ終える。
「じゃ」
立ち上がる。
「あ、はい」
「また」
「うん」
三は短く返し、そのまま校舎へ向かった。
放課後。
帰りのホームルームが終わり、三は黙々と帰り支度を進める
窓の外は少しずつ夕方の色になり始めていた。
鞄のファスナーを閉め、ふと視線を上げる。少し離れた場所で蓮がスマホを弄っていた。優は友達と話している。どちらもいつもと変わらない光景。
それなのに、なぜか今日は早く帰りたかった。
三は立ち上がる。
その時、色晴と目が合った。
色晴は何も言わず、ただこちらを見ている。何か考えているような顔だった。
けれどすぐに視線を逸らし、友人との会話へ戻っていった。三も気にせず教室を出る。
廊下を歩き、昇降口へ向かう。
下駄箱で靴を履き替え、そのまま校門を抜けた。
いつもなら横断歩道の多い大通りの道を歩く。だが今日は違った。理由は分からない。
ただ何となく、いつもの道を歩きたくなかった。
気づけば住宅街へ続く脇道へ足を向けていた。
夕日が低い。電柱の影が長く細く伸びている。
子どもたちの笑い声がどこかから聞こえた。
三は小さく息を吐く。
考えないようにしているのに、気を抜くと蓮や優の顔が浮かんでくる。
元に戻っただけだ。そう自分に言い聞かせながら歩く。
けれど、胸の奥には言葉にならない何かが残っていた。
悶々とした気分のまま視線をあげると
「坂倉?」
そこにはパンパンになったレジ袋を両手に抱えている色晴がたっていた。




