11話 休日の混雑したモールで
体育祭の買い出しが終わり、時計を見るとちょうど昼時だった。
「腹減ったー!」
蓮が両手を上げる。
「それ、さっきから三回聞きました。」
優が冷静に返した。
「だって減ったんだから仕方ないじゃん!」
「じゃあご飯にしますか」
色晴が笑いながら言う。四人はそのままフードコートへ向かった。
休日ということもあり、人はかなり多い。
「席あるかな」
「最悪別れて座る?」
「それは嫌だなー」
そんな話をしながら空席を探す。
しばらくして四人席を見つけ、蓮が満足そうに頷いた。
「よし、ここ拠点な」
「拠点って」
三が呆れたように言う。
「じゃあ各自買って集合な」
そう言ったところで、三は立ち止まった。
「先に座ってて。俺ちょっとトイレ」
三がそう言うと、蓮がすぐに反応する。
「迷子になんなよー」
「お前じゃあるまいし」
適当に返し、三は一人でその場を離れた。
◇
トイレを出た帰り道。
休日のショッピングモールは相変わらず人が多い。家族連れや学生たちの間を縫うように歩いていた三は、不意に視界の端で足を止めた。
小さな男の子が一人で立っていた。
年齢は五歳くらいだろうか。周囲を何度も見回しながら、不安そうに唇を噛んでいる。
(迷子か)
そう思ったが、三はそのまま歩き出す。たぶん近くに親が居るだろうから大丈夫だと。
そう考えて数歩進んだところで、背後から小さなすすり泣きが聞こえた。
三は足を止め、数秒だけ迷ってから、大きくため息を吐いた。
「迷ったのか」
男の子がびくりと肩を震わせる。
「お母さんは?」
「……いない」
「はぐれた?」
こくりと頷く。
「名前は?」
「……ゆうと」
「そうか」
三は頭を掻いた。すこし面倒だと考えたが、それでも放っておく気にはなれなかった。
「とりあえず行くぞ」
そう言って歩き出す。男の子は少し慌てながら後ろをついてきた。でも子供が泣きそうになると、「そのうち見つかるだろ」「案内所なら放送もしてくれるし」と声をかけた。会話はそれで終わった。それでも男の子は少しだけ落ち着いたらしい。
三は案内所を探しながら歩き続けた。
やがて案内所へ辿り着く。少しして、慌てた様子の母親が駆け込んできた。
「ゆうと!」
男の子は泣きながら母親へ飛びつく。母親は何度も頭を下げた。
「本当にありがとうございました!」
三は少し目を逸らす。
「別に。見つけただけなんで」
と居心地悪そうに言った後その場を去った。
「ごめん、遅くなった」
三がフードコートへ戻ると、蓮と優が席に座っていた。
「お、帰ってきた」
蓮が手を振る。
三は空いている席を見て眉をひそめた。
「佐々木さんは?」
「あー、さっきトイレ行った」
迷うことはないだろうが、人は多い。
「坂倉くん、すれ違いませんでしたか?」
三は少し考える。
そして首を横に振った。
「あってないな。」
「探しますか?」
優が小さく言い蓮は「んー」と唸る。
その時。
「何の話ー?」
聞き慣れたこえで三人が振り向くと色晴が飲み物を片手に立っていた。
「なんかあったか?」
蓮が言う。
「ごめんごめん。ちょっと寄り道してた」
色晴は笑いながら席へ戻り、そのまま何事もなかったように座る。
だが席につく瞬間だけ色晴の視線が三へ向いた。
◇
買い物を終えた頃には、すっかり午後になっていた。
四人はショッピングモールを出て駅へ向かう。休日の街は人通りが多く、行き交う人の流れに混ざりながら蓮が大きく伸びをした。
「終わったー!」
「まだ荷物持ってるだろ」
三が呆れたように言うと、蓮は気にした様子もなく笑った。
「気持ちの問題だよ、気持ちの」
「便利な言葉ですね」
優の返答に色晴が吹き出す。
「古暮ちゃんて結構容赦ないよね」
「そうですか?」
本人には自覚がないらしい。
そんなやり取りを聞きながら歩いているうちに駅前が見え始め、解散の時間も近づいていた。
「そういえばさ」
不意に色晴が口を開く。
「今日、思ったより普通だったね」
「何が」
「みんなで買い物」
三は少しだけ考えた。
休日にクラスメイトと出かけるなんて、少し前の自分なら面倒だと思っていたかもしれない。けれど今日は不思議とそこまで疲れていない。
「そうかもな」
珍しく素直な返事に、色晴はわずかに目を丸くした。
「へぇ」
「何だよ」
「別に」
そう言って嬉しそうに笑う色晴を見ながら、三は小さく肩をすくめる。




