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繋がる道程



 しんと鎮まり返った楼銀の首都、莉江。夜桜だけが咲き誇るこの国では本来この姿こそが真実であり、轟々と吹き荒ぶ豪風など、あるはずのない姿だったのだ。

 そう、これこそが真実。そして、―――この真実は未だ、誰かの手中に収まってなどは、いない。






「なん、だと……?」


 今の今まで一度として揺らぐことの無かった紅眼が、この状況下に陥って―――否、陥らせた張本人が彼なのだが―――初めての想定外に双眸を見開いた。



「アートがやられたとでも言うんすか……そんなはずが……!」

 同時刻、人間というものは侮蔑される生き物なのだと言うかのように笑った、もうひとりの茶眼すらもが動揺の色を隠せないでいた。




「――どうした、何をそんなに驚いてんだ」

「――どうかなさいましたか、顔色が優れませんが」


 そんな中、それぞれを見据えたのは正面の蒼と緑黄。別の場所に居る彼等の見据える者はそれぞれ違うはずなのに。


「当然だろうが」


「まぁ、向かわせたのが彼女ですからね」


 紡がれる言葉は対話のように、互い違いに繋がれる。決して声が聞こえている訳では無いはずなのだ、先程から繋げられている通信の状況は、とある妨害に寄ってノイズ音の嵐なのだから。

 吊り上がった目付きと捨てるように吐かれた言葉、笑みの最中に薄く開かれた眼光と優しげな面持ち。正反対以上の態度で二人は、タイミングを図ったかのように、



『―――うちのギルド員、ナメんじゃねぇよ』


 そう、告げた。










「有り得ない……、あの技が破られるなんて……! アートは大嵐の中に居たはず……!」


 先程まで見せていた余裕は何処へやら、独り言のようにぶつぶつ呟く彼は、信じられない今の状況を把握しようとでもしているのだろうか。幾ら妖怪であっても、大まかな価値観というものは変わらないらしい、自分達の優勢に今初めて―――亀裂が入ったことに気付いたのだから。



(……よくやってくれました、サイ)



 あの子を守りたい、自分やイルの言葉を振り切ってまで彼女が告げた自らの意思。あの轟音を止ませることが出来たのも恐らく、否、確実に彼女の功績であり、直接的にではないにしろ、それはあの子―――レイを守ることに繋がっただろう。

 同時に戦況までもが一転し、正に勝利の女神とも言える働きだ。動揺を隠せないでいる相手を前に目を伏せ、クレイは一人、彼女を思った。



「有り得ない、なんてことを本当に考えていたとは……滑稽だな」


 その一言で、クレイは視線を持ち上げ、デックの独り言がぴたりと止んだ。

 カチャリ、と中指で眼鏡を押し上げ、溜息混じりに吐かれた言葉は無論、イルジクト・リアスターデその人のもの。


「どのような状況にあれど常に冷静であれ、戦場に於いて有り得ない状況など存在しない」


 表情変化など滅多なことが無ければ存在しない彼の言葉に、クレイは敵にアドバイスをしてどうするのかなんて思いながらも、実に彼らしい言葉に、相対した敵のことなど蚊帳の外にして苦笑を浮かべた。




「―――実に人間らしい考えっすね」


 だが、蚊帳の外にしていられるのも此処までのようだ。彼の表情に、嘲笑が戻った。


「冷静でいれば何かが変わると? 頑張ればどうにかなるなんて思ってるんすよね、ははっ! これだから人間は面白い!」

「おや、どうにかなると思っていたら、どうだというんですか?」

「その考え方の方が、―――“滑稽”だってことっすよ!」


「……! イルジクト、来ます」

「分かっている」



 デックの双眸が、文字通りに色を変える。金色こんじきと化したそれには双方見覚えがあり、クレイもイルも、一歩退いて様子を伺う。彼等の仲間が大スケールな嵐を作り出した時にも、その金色は二人の前で妖しく光り輝いていた。

 そう、その金色は、妖力の反動から成る色。妖術発動の、証。


 大きなモーションと共に、デックが撫ぜるように冷え切った大地に触れた。一見すれば子供が行う砂掛けのような仕種、しかしそんな可愛いげのある行為を、今の彼が行う訳が無かった。

 彼が触れた場所から地面は盛り上がり、大地の槍と化したそれが勢い良く二人を襲う。扇状に広がった大地の槍は相当の広範囲を埋め尽くし、クレイとイルは左右斜め前に飛び退さる―――斜め前だから正確には退さっては無いのだが―――ことで無きにを得た。


「妖怪という生き物は、余程派手なパフォーマンスがお好きな様ですね」

「派手好きは認めますよう、ですが―――それだけじゃないってところを見せてやりますよっ!」


 態勢を崩すことなく避けたクレイの言葉を戯言と受け取ったデックは、間髪入れずに二撃目のモーションに入る。先よりも小さな動きで自らが突き立てた槍に触れ、それを振り撒くように横に薙げば、


「なっ……」

「クレイド!!」


 針千本、そう表現するに正しい数え切れない地針の群れが、大群となって彼を襲った。

 この出来事には流石に驚きを隠せなかったクレイだったが、促すように発せられたイルの声に刹那軸足を踏み締め真横に身を投げる。受け身もそこそこに身を起こし、避け切れなかった数本の針が頬や足にかすり傷を負わせたのを確認する。


「これも避けるんすか、すばしっこい人間だ。―――ッ!!」


 楽しげにクレイを見てくつくつと笑みを零すデック、しかし背後からの気配に気付けば透かさずしゃがみ込んで大地に手をつく。先程の大地の槍のようなものではなく、分厚い地壁が勢い良く生成され、気配の元となった物を、からん、と地に沈めた。


「相手は一人じゃないぞ」

「ふん、……そんなに急がなくても、ちゃんと相手してあげますよう?」


 デックに向かって飛んできた物、―――イルの放った数本のナイフが、妖力を失い砕けた地壁に紛れて銀色に輝いている。



(広範囲の攻撃、無理矢理近付いても防御があれでは……)


 未だ楽しげに嘲笑う少年の表情を、崩す道筋は立てられていない。急がなければと思う程、人は冷静ではいられなくなるのだ。

 けれど、


「ぼうっとするのは許さないでありますよう!」

「―――ッ!」


 ―――ドガァン!

 最初に浴びせられたものの威力よりは控えめな、デックに抱え上げられたバズーカからの弾丸がクレイ目掛けて射出される。碌な反動も見せず素早くバズーカを撃ったデックを見て、あのバズーカを造った彼等のリーダーは随分と高度なエンジニアリング技術を持っているのだろう、なんて考えを浮かばせたクレイ(ちなみにクレイの考えたことは、初対面時のデックが大仰に述べていたのだがどうやら興味は持てていなかったらしい)。

 だが、そんなことはどうでも良い。クレイの身体を真芯に捉えられるはずだった弾丸は、軌道が逸れた訳でもなく後方の木肌に直撃する。片足を退く、という小さな動作ひとつで、クレイは表情ひとつ崩すことなく直撃を避けたのだった。



(―――そうか、あのバズーカを使うのは、)


 後方に逸れた弾丸も、その弾丸を受けた大木が自分の数メートル横に倒れようとも気にせずに、クレイは終始笑顔な少年から視線を外す。視線を向けた相手など知れたこと、素人からすれば棒立ちしているように見えなくもないイル―――実際は無論、隙の無い臨戦態勢だ―――が、こちらの意図を伺うように黙視している。

 恐らくあちらも、何かの違和感に気付いたということだろう。勘の鋭い彼に口角を若干吊り上げ、クレイは言う。



「イルジクト、行きますよ」

「言われずとも、分かっている」


「かかって来るんすか? ははっ、面白いっすねぇ!」


 デックの高らかな笑い声が小高い丘に木霊しても、二人の鋭い視線は揺らぐことなく見据えていた。


 薄く開かれるデックの―――茶色の眼光を。















「レイ、隠れるぞ!」

「え?」


 急に雷佳に手を引かれ、レイは物陰に身を潜めた。自分達が行こうとしていた方向をひょっこりと覗けば、其処を横切る人々の陰が現れ慌てて頭を引っ込める。


「あ、ぶない……! 雷佳、良く気付いたね……」

「ふ、妾は武術をかじっておる、気配には敏感ぞ?」


 まぁ、だからといって民から逃げることになるとは思わなんだ、と。苦笑しながらそう言われ、レイは本当に辛いのは雷佳なんだものね、と、自身に言い聞かせた。


 現在レイ達は、城下の中心地から大分離れた商店街に居た。中心街と比べれば大分こじんまりとしたエリアではあるが、その分隠れるスペースは多く、逆に言えば隠すスペースも多く存在するのではないか、という雷佳の案による移動だった。


 しかし、その提案に基づき移動し、―――此処に辿り着く前のこと。




『あ、ねぇ雷佳! あの竜巻みたいなのが無くなっていくよ! サイファンさん

、妖怪をやっつけたんだね!』

『うむ、その様だな。……時にレイ』

『ん?』

『先程妾達が見つけた“自意識過剰な機械”は、一体何色だったかの?』

『えーっと、黒だったね』


『では、あれは何色ぞ?』

『えーっと、青だね』

『そのように妾にも見えるのだ』

『うん、すっごく青いね』

『嗚呼、凄く青いぞ』

『……』

『……』



 もう一台の“自意識過剰な機械”を見つけていたのだった、―――目に痛い程の、真っ青なアルテミスフューチャー005を。




「やっぱり、此処ら辺には無いかな……?」

「うむ、このような“隠れそうな場所”には仕掛けられてないような気がするな」


 人々の気配が完全に消えてから、二人は再びアルテミスの捜索に乗り出した。だが、数分前に見たその鮮やか過ぎる青の所為で、若干ながら頭が麻痺し始めた二人がそこには居た。

 アルテミス(黒)が動物に取り付けられていたのに対し、アルテミス(青)が何処にあったのかと問われればそれはとある鉄塔の上にあった。消滅した大嵐を見上げ、二人で歓喜を浮かべていた際のあの圧倒的なる存在感と衝撃を、何時になったら忘れることが出来るのだろうか。―――否、存在を忘れてはならないのだが。

 莉江一の高さを誇る鉄塔なのだと、雷佳はレイに説明してくれた。莉江の夜を照らしてくれる明かりの全ては、この鉄塔を基点としているのだと。だが、それだからこそあの塔に近付くのは至難の技であり、不用意に近付こうものならただでは済まされないとも教えてくれた。『今の所、感電死の報告は一件も入っておらぬぞ』と意気揚々に応えてくれた雷佳だったが、レイからしてみればだから何だというのだ、な意気揚々さだった。


「青いのがあれだけでしゃばってたものね……他のもでしゃばってるかも……」

「うむ、あのでしゃばり方には最早品が伺えたな」


 機械に品などあってたまるものか、この場にアルがいればそう言葉を挟んだであろう。今は二人の言うところの“でしゃばりつつも品のある機械”は結局保留にし、他の三台を探しているのだが……その感性を元に戻さない限り、他の機械も見つからないのではないか―――風で誰かがそう噂をしている最中、瞬間的にぴたりと、二人の動きが静止した。


 まるで何かを見つけたかのように、嗚呼、正にその通りである。


 商店街の細い路地の奥。本来ならばこの夜更けに見えることのないその奥に、




「「―――見つけた!!!!」」


 ブラックライトで照らされたかの如く、闇夜に朧げに光り輝くアルテミス(黄)を見た瞬間―――誰が叫ばずにいられただろうか。

 急いでその奥まで進めば、別に何ら変わりの無い(元がおかしい故の考えだが)機械が其処にあって。アルテミス(黒)の時同様、フォルムは大きさを除いて据え置き型、何を示しているのかは分からないデシタルな数字が刻一刻と時を刻んでいる。謎の多い機械ではあるが、これを壊すべく二人は動いているのだから、そんなことは関係無―――



おごそかだ……厳かだよ雷佳……!」

「妾もそう感じた、……何なのだ、この荘重そうちょうな様は……!! これ程に存在感を発揮しておるのに、路地裏に鎮座するなど……何てことだ」



 ―――いどころか、二人は全く別のところに驚愕を見せていた。



 残る“存在感ある厳かな機械”は、あと三つ。
















 先程までの轟音が嘘だったかのように、廃屋内は静寂に包まれていた。大嵐が治まったのはほんの数分前のこと、けれど二人の間に流れるこの静けさは、一体体感でどれ程の長さになっているのだろうか。

 既に消滅したはずの大嵐、此処からは随分遠く、自分からすれば何の徒労も無かったことは確かだ。けれど耳から脳にまで響いたあの轟音が、残滓のように耳の奥でリフレインを続けている。その大嵐の脅威を止めたのは一体誰? ―――インカムの向こうからノイズに紛れ時折聞こえる仲間達の声だけが、現在の彼にとっての唯一の情報源だった。



(―――サイ、……か)


 今こうやって思考を練れているのも、相手である主犯格のリーダー、彼がぴくりとも動きを見せないからだ。次に何をしてくるのか、先程から一度も目を離さずに彼を見ているが、自分の洞察力を以ってしても、彼は一ミリ単位で動いてはいないのだ。


(自分が芸術アルテにでもなるつもりか、あのクソリーダー)


 今の内に攻撃を仕掛けるべきか、否、深手を受けているのは確実にこちらであり、無理矢理に突っ込んでカウンターのひとつでもまともに喰らおうものなら、正直―――次に立てる自信は五分五分だった。

 腹部の怪我、左肘の出血、ついには左肩まで不可思議な飛び道具―――飛び交っている最中にアディが道具の名前を言っていたが、アルにそれを聞いてやる義理は無かった―――で持っていかれ、左腕はもう使い物になっていないのが現状である。見慣れない相手の武器に苦戦している自分に舌打ちをしそうになりつつ、今は冷静に相手の動きを待つべきか、と、考えた、








「―――くっ、ははっ、はははははっ!!」


 ―――その時、肩を揺らし、狂ったように笑い出した相手につい身構えて様子を伺う。


「ひっ、はははっ! はーっはっはっは!!!!」

「……」



 気持ち悪い―――それがアルの率直な感想だった。

 それから少しずつ小さくなっていた大笑い、やっとのことで止んだそれに頗る機嫌を悪くしたアルは、元から悪い目付きでアディを睨む。だが当の本人は気にする様子は無く、己の武器であるクナイを再びくるくると旋回させるだけだった。



「いーじゃねーか、俺様の予測が凌駕された。くーッ、久しぶりだぜこの感じ!」


 実に楽しそうに述べられる言葉に、アルは黙ったまま彼を見据え続ける。


「だからやめられねーよ、なぁ、お前もそう思わねーか?」


 問われようとも、答えはしない。それに、問うたところで彼は、自分の回答など求めてはいないのだろうから。


「アートが倒されるなんてことがあるなんてな、ま、俺の命令無しにくたばったりはしねーだろうけど」


「芸術に損害は付き物だ、素晴らしいもんを作るには、破壊や損害はなくてはならない」


「お前の仲間もタダじゃ済まねーぜ? ま、そりゃ承知で立ち向かって来てんだろ? 物好きだよな」



 ひとりでつらつらと演説を開始したアディ、その一言一言は実に最もらしい言葉ばかりだった―――無論、問い掛けは全て無視した―――。だがほんの少し、否、もうほんのにも至らない程に微細だったが、



「おい」



 このままこの演説を聞く、唯一の聴衆者になっているのも嫌だったこともあり。


「お前は、その芸術の為なら何が犠牲になっても良いのか」


 尋ねてみることにした、時間も有限、これを機にとっとと戻って来いとでも言わんばかりに。




「当たり前じゃねーか、芸術以外に何が必要だってんだ」


 ―――しかし、逆効果だったようだ。自分が変なことを聞いたとでも言うように、アディは訝しげにアルを見る。

 再び続けられる演説会、勘弁してくれ、と身体以上に疲労する精神に溜息を漏らしてから、




「―――第一、妖怪なんてイキモノは皆、力に驕ってんだろーが。本当に他を思いやれるような奴が、」



 “居るはずがない。”


 ―――その言葉を、ゆっくりと拾い上げた。









「……ん? どーしたい、アルス・イルバート」


 場の雰囲気が切り替わったのをアディは感じ取る。一人を相手に演説を始めてしまうような感性の持ち主ではあるが、彼は決して弱い訳では無いのだ。


「……」

「……なんだよ、言いたいことがあるんじゃねーのか?」


 黙ったままに伏せられた視線、不思議そうに首を傾げれば、アルがほんの小さな声で、何かを呟いていることに気付いた。

 聞き取れなかったアディは再び不思議そうに傾げるけれど、それでも彼の言葉は聞き取れない。


「おいおい、ボリューム設定おかしなことになってねーか?」


 くつくつと冗談がましく笑うアディ、それでもアルは反応を見せない。そろそろおかしい、ということに気付いた彼は、意識を集中させてそれを聞き取ろうとする。

 だが、



 ―――からん。


 先に動きを見せたのはアルの方、自らの武器である白銀の銃を右方に投げ捨てれば、そのまま黙ったように棒立ちした。



「……おい。まさか降参、なんて言うつもりじゃ―――」

「ふざけんな、誰がテメェになんざ降参するかよ」


 遮るように吐き捨てたアル、じゃあ一体これは―――アディがその状況を把握したのは直ぐ、だが、事態を理解するに至ったのは、それより後になることなど、本人は気付いていただろうか。




「テメェの演説を聞くくらいなら、うちのギルド長の戯言聞いてた方がずっと良い」

「―――!? お前、それ……!!」


 驚きを隠すことなく目を見開き、アディは一歩後退る。淡々と述べられる言葉の意味など理解している暇は無い、ただ、今の自分に理解出来ることは―――



「演説したけりゃ勝手にしやがれ、だがな―――全ての妖怪を、テメェみてぇな端くれと一緒にしてんじゃねぇよ」



 アルス・イルバートという人物を、完全に怒らせてしまったという、その事実のみ。


(おいおいおい、これはどういうことだ……!?)


 彼と相対してから既にひとつ、自分が持ち得ていなかった情報が彼には存在した。それだけでも随分な失態であるのに、此処に来てまたひとつ―――今度は自分が理解し得ない事象が発生している。


 だが、今は考えている時間など無い。何より、彼が待ってくれそうに無い。









 敵の言葉に耳を傾けるなど、戦いの最中に於いてあってはならないことだ。だが、一度聞き入れてしまった言葉を放り出すことなど、器用でない自分に出来るはずもない。


(他を思いやれる妖怪、なんて)


 やけに冴えた頭で考える。本当ならば、今の状態で思考するなど勿体ないだけなのだが。けれど、考えずにはいられない、邪魔な思考と言われようと、今のアルの脳裏には。



(―――居ないはず、無ぇだろうが……!)



 かつて彼を救った、大切なモノの姿があった。シンビオスのギルド員の姿ではない、もっと昔にあった、―――かつての記憶が、そこに。




「―――手加減なんて、しねぇぞ」


 相手が地雷を踏んだ以上、この身体が保つ限りは戦い抜く。

 決意を固めた彼の手には、何時の間やら握られたひとつの武器。彼の眼光の如く光り輝いたそれを久方振りだと握り締め、再び戦場へと踏み込んだ。


 そう、そんな彼の瞳は正に―――。










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