一年生
入学式の後、ルルたちは教室へ移動し、改めて自己紹介をすることになった。
残念ながら今日は授業はなく、顔合わせだけで終了するらしい。
けれどルルとしては、せっかく竜騎士学校へ来たのだから、どうせなら竜との顔合わせもしたかったぁ……というのが正直な気持ちだった。
「一年生の皆、入学おめでとう。先ほども名乗ったが、私が君たちの担任であるガイウス・レインだ。君たちが本物の竜騎士になれるよう、これから三年間、指導していく。よろしくな」
ガイウスは教壇から一年生たちを見渡す。
緊張気味だった一年生たちも、ガイウスの優しい言葉にホッとしているように見える。
竜騎士学校の教師と聞いて、厳しく屈強な騎士を想像していたからかもしれない。
「皆も知っていると思うが、竜騎士になるための教育は厳しいものになるだろう。だが、それに負けず、クラス全員が無事に卒業できることを期待している。それと、何かあった時は一人で悩まず、私に相談してほしい。いつでも君たちの味方でいられるよう、私も心がけるつもりだ。遠慮はいらないからな」
「「「はい!」」」
皆が声を揃えて返事をする。
竜騎士学校の教師は、皆、元竜騎士だと聞いている。
そのためか、ガイウスに対して尊敬の念を抱いている者も多いようだった。
「それでは、最初は……ルル・ヴァルド、自己紹介をしてくれ」
「はい!」
指名されたルルは元気よく立ち上がった。
そして皆に笑顔を向け、元気に名乗る。
「私の名前はルル・ヴァルドです。ベルン村出身です。このクラスにいる皆と仲良くなって、クラス全員で竜騎士になりたいと思っています。クラスの代表としても一生懸命頑張りますので、どうぞよろしくお願いします!」
ルルが挨拶を終えると、クラスの皆から拍手が起こった。
ガイウスが、ルルは入学試験で主席だったため、クラスのキャプテンを務めることも皆に伝える。
「よろしくね!」
そう言ってルルが皆に笑いかけると、隣の席に座る男の子と目が合った。
紺色の髪に青い瞳を持つ男の子だ。
けれど、目が合ったと思った次の瞬間、フイッと視線を逸らされてしまった。
クラスの席は成績順に並んでいるため、隣の彼は入学試験で二位だった子だ。
(もしかして、私の挨拶が気に入らなかったのかな?)
ルルが少し心配していると、ガイウスに促され、その男の子が立ち上がった。
「私の名はカイル・アシュフォードだ。アシュフォード侯爵家の次子であり、誉れある竜騎士を目指す者でもある。いずれは私がこのクラスをまとめ上げ、一人の脱落者も出さず、全員を卒業まで導くリーダーとなるつもりだ……入学試験では出遅れたようだが、次は必ず私が勝つ。期待していてくれ」
そう言ってカイルは挨拶を終えると、片方の口角を上げて笑った。
どうやらカイルは、ルルをライバルだと認識しているらしい。
ちょっと少年物の小説みたいで、なんだかワクワクする。
そんなことを考えていると、次の生徒が指名された。
「エド・ハーヴェルです。ルルと同じベルン村出身で、有難いことに、竜とは身近な生活を送ってきました。竜の体については、少しは詳しいつもりです。なので、相棒の体調について何か不安なことがあった時は相談してもらえると嬉しいです。よろしくお願いします」
エドが挨拶を終えると、ルルは大きな拍手を送った。
頑張ろうね、という意味を込めてウインクも送る。
すると、エドまでフイッとルルから視線を逸らしてしまった。
もしかしてエドもルルをライバルだと意識しているのだろうか。
ならばルルも負けてはいられない。
誰が竜を一番大好きか選手権の開幕だろう。
(学園生活、楽しくなりそう!)
ルルがそんなことを考えていると、次の生徒の挨拶が始まった。
「レオン・グランフォードです。グランフォード伯爵家の次男です。竜騎士になるのは子供の頃からの夢でした。夢を実現できるよう努力して参りますので、皆さん、よろしくお願いします」
レオンは銀灰色の髪に灰色の瞳を持つ、少し色素の薄い男の子だった。
笑顔を浮かべているけれど、なぜか笑顔なのに笑っていないような、不思議な印象を受ける。
きっと、こういう子が貴族らしい子なのだろう。
勝手に納得し、ルルが拍手を送っていると、クラリスの番になった。
「クラリス・ヴァレンティアですわ。ヴァレンティア伯爵家の娘で、次女でございます。父と母、それに兄も竜騎士として働いております。私も家族に続けるよう努力していくつもりですわ。どうぞ三年間、よろしくお願いしますわね」
クラリスが微笑むと、綺麗で、まるで教室の中に花が咲いたようだった。
ルルは友人に大きな拍手を送る。
そして次の子が指名され、立ち上がった。
「ハルト・グレンです。伯爵家の出身ですが、僕は七男なので、あんまり貴族の子供って感じじゃないと思います。それに、竜騎士学校に合格したことも家族に驚かれたくらいなので……まあ、気軽に接してくれると嬉しいかな。アハハ、よろしくー」
ハルトはエドと仲が良く、最近は一緒にいるところをよく見かける。
ハルトが気さくで明るい性格なので、平民の子だと思っていたエドは、伯爵家の出身だと知って後から驚いていた。
本人は「七男なんて、家からもらえるものなんて何もないから平民と一緒だよー」と言って、まったく気にしていない。
赤銅色の髪と琥珀色の瞳を持つハルトは人懐っこく、朗らかで、ルルも好印象を持っていた。
「ディーン・ローディスです。ローディス子爵家の六男です。この学園に入学できて、本当に嬉しいです。竜騎士を引退した後は、竜の食事に関する仕事に就きたいと思っています。その、僕も食べることが好きなので、竜の好みや苦手なもの、その子の体に良い食べ物なんかを研究できたらいいなっと思っています。よろしくお願いします」
明るい茶色の髪をしたディーンは、他の子より少し体格が良く、丸顔だ。
食べることが好きだと聞かなくても分かるような雰囲気を持っている。
それに料理も好きなのか、寮の料理人であるゴードンのところへ行き、キッチンを使ってもいいか尋ねていたことをルルは知っていた。
(ディーンとは料理友達になれるかも)
そう思うと、なんだか嬉しくなった。
「えっと……あの、僕はノア・フェルディです。男爵家出身です。その……皆と仲良くなれるように頑張ります。あと、実技で遅れないように気をつけます……ので、よ、よろしくお願いします……」
ノアは栗毛の男の子で、このクラスで一番小柄だ。
男の子なので、きっとそのうちルルの背を抜くとは思う。
けれど体は細く、竜に乗れるのかと少し心配になるほど華奢な体つきだった。
声も小さく、自信がなさそうにも見える。
本人も、どうして自分が合格したのだろうと、いまだに夢でも見ているような気持ちなのか、おどおどしている感じだ。
でも、竜に認められたのだ。
だったら、もっと自信を持っていいと思った。
「ミア・ベルナードです。平民です。十人兄弟の長女です。竜騎士学校では学費がかからないと聞いて応募しました。合格できてとても嬉しいです。いろいろな面で遅れていると思いますが、皆さんについていけるよう頑張りますので、よろしくお願いします」
最後の挨拶はミアだった。
ミアは幼い頃から竜騎士になりたかったわけではなく、家族のために竜騎士を目指したのだとルルは聞いていた。
落ちこぼれになって落第するのは絶対に嫌だから、ルルに勉強を教えてほしい。そう願ってくれたのだ。
竜騎士学校でできた最初の友達がミア。
だからルルは、ミアが無事に卒業できるよう、お手伝いする気満々だった。
ルルが友人に向けて胸を叩く仕草をすると、ミアはクスッと可愛らしく笑い、クラリスはフッと静かに笑う。
美人なクラリス。
可愛いミア。
同学年に素敵な友人ができたことが、ルルは何より嬉しかった。
「よし、これで全員の名前を知ったな。今日からこのメンバーが同級生であり、仲間だ。そして、竜騎士として同じ一隊になる可能性もある。そう考えておくように」
「「「はい!」」」
「それから連絡事項だが、新入生の歓迎会は一週間後に開かれる。もし衣装がない者は私に声をかけてくれ。学園でも少しだが貸衣装を用意している。それと、明日の授業では武器の選択を行う。今すでに自分の武器を持っている者は、学園でそれを使うことも許可されている。だが、竜騎士になれば国が用意した武器を使うことになるため、学園時代からそちらに慣れておくことを勧める」
「「「はい!」」」
「成長途中の者も多いので、武器や学用品の交換が必要になった場合は、武器課、生活課の職員へ遠慮なく相談してほしい。それと、竜の中には鉄の匂いを苦手とするものもいる。好き嫌いが激しいものもいる。そういったことも遠慮なく相談するように。それも君たちの大切な課題だからな。分かったな?」
「「「はい!」」」
ガイウスの言葉は当然のことだった。
祖父もグレイヴが鉄を嫌うからとミスリルの剣を使っているし、服の装飾品にも鉄を付けていない。
ルルや両親が鉄を身につけていても、グレイヴは気にもしない。
けれど祖父が身につけていると、どうにも気に入らないらしい。
竜は大きな体をしているけれど、意外と繊細なのだ。
そのことを知っているルルは、大きく頷いた。
「さて、今日はこれで終わりだ。何か質問はあるか?」
「はい、先生! 質問があります!」
ルルが勢いよく手を上げる。
するとガイウスの視線がルルへ向き、楽しそうなものに変わった。
何を言い出すのだろうと期待しているようだが、ルルは別におかしなことを言うつもりはない。
ルルにとって一番大事な質問をするだけだ。
「竜との顔合わせは、いつでしょうか?」
「ハハハハッ! そうだな。それが一番大事なことだったな。ルル、相棒を決めるのは、身体検査など諸々の手続きが終わった後だ。そうだな……毎年、歓迎会の前には相棒を決められる感じだな」
「本当ですか!」
ルルの顔がぱっと明るくなる。
自分の相棒が決まる。
そう思うと、嬉しさを我慢できない。
「ああ。それと、それまでは竜舎にいる竜には近づかないように。掃除の手伝いくらいなら……まあ、いいがな」
「えっ……?」
「君たちはよそから来た身だからな。詳しい検査が終わるまでは竜との接触は禁止だ。分かったな?」
ニヤリと笑ったガイウスの顔を見て、ルルは悟った。
(先生は今朝私が竜舎へ行ったことを知っているんだ……)
掃除はいい。
けれど、竜との接触は禁止。
あの女帝が気になって仕方のないルルは、あまりのショックに大きく肩を落としたのだった。
おはようございます、夢子です。
本日もお読みいただきありがとうございます。
ぺちゃぺちゃと小さな音がすると思ったら……
三男猫でした。
夢でも食べる食いしん坊猫です。
ルルたち一年生、九人いるよね?
何度も数えました。w




