入学式
朝の勝手な行動のせいで信用がないのか、子供のようにエドに手を引かれ、ルルは今日から通う王立アストリア竜騎士学園へ連れていかれた。
「いいか、ルル、俺は教室へ向かうけど、おまえは職員室だからな! 真っ直ぐ行けよ。変なものに気を引かれるなよ。職、員、室、だからな!」
「はいはい、分かってるって。はぁ~、もう、エドってば、口煩いおばちゃんみたい。何度も言わなくても聞こえてるって、職員室でしょう? 主席は先生と打ち合わせがあるって書いてあったし、エドに言われなくても分かってるってば」
何度も何度も同じことを言うエドに、いい加減飽き飽きしてルルがそう言い返せば、エドは「おばちゃん……」と何やらショックを受けた様子で、フラフラしながら教室までの廊下を歩いていった。
そんなエドと別れ、ルルは職員室へ向かう。
確かにエドの言う通り、廊下にはルルが興味を持つものばかりが飾られている。
有名な竜騎士の肖像画だったり、盾だったり、剣だったり、竜の銅像だったり。
ルルは誘惑と戦いながら、どうにか職員室へ向かった。
「本日入学のルル・ヴァルドです。担任の先生に会いにまいりました」
職員室の入り口で中へ向かってそう声を掛けると、深緑色の髪をした男性が立ち上がり、ルルに近付いてきた。
「ルル・ヴァルド、入学おめでとう。一年生担任のガイウス・レインだ。入学式の打ち合わせを行う、こちらへ来てくれ」
「はい!」
職員室のすぐ傍にある、相談室と書かれた部屋へ一緒に移動する。
ガイウスの瞳は琥珀色で温かく、髪の色はグレイヴの好きな草原のようで、なんだか親近感が持てた。
「うん、座ってくれ。今日、君が代表で決意を述べることは分かっているかな? 書類に書いてあったはずだが」
「はい、分かっています。おじ……いえ、家族と一緒に考えてきました。大丈夫です」
「そうか、なら安心だな。まあ、緊張しても大丈夫だ。王族の御前ということで、過去には頭が真っ白になって『頑張ります』の一言で終わらせた新入生もいたらしいからな。それに間違えても誰にも分からないから、気にせず続けてほしい。ただし、元気ではあるように。竜騎士は騎士以上に体が資本だからな」
「はい! 元気だけは得意です」
「ハハハ、そうか。なら安心だ」
その後は会場へ入ってからの動きなどを確認し、ルルはガイウスと共に教室へ向かう。
一年生の教室は三階で、職員室がある一階から階段で上がった。
上級生に会ったりするかしら? なんてちょっとだけ楽しみにしていたけれど、上級生たちはもうすでに会場入りしているらしく、ルルはただ静かな廊下を歩くだけで、残念ながら楽しいイベントは何も起きなかった。
「皆、おはよう。担任のガイウス・レインだ。全員揃っているか?」
教室へ入れば、担任と一緒に教室へ来たルルに皆の視線が集まった。
誰もお喋りしていた者はおらず、皆、指定された席へ着き、大人しく待機していたようだ。
席は成績順のようで、ルルは教室の一番前の奥。その隣は知らない男の子で、その横、三番目がエドとなっていた。
エドと目が合い、小さく手を振った。
「全然大丈夫だったよ」の意味を込めた合図だったのだが、教室内の視線が集まったからか、エドが手を振り返してくれることはなかった。
ちょっとだけ頬が赤かったのは、朝の怒りの余韻かもしれない。
「よし、では講堂へ向かうぞ。一人一人、名を呼ばれるが、きちんとした返事を心がけるように。王族の方もいらっしゃるが、学校中の視線があるからな。あまりにも情けない返事では笑われてしまうぞ。分かったな」
「「「はい!」」」
緊張気味だった生徒たちの顔が、少しだけ強張ったものに変わる。
新一年生はたったの九名。
竜騎士になる難しさを表しているような人数だ。
その上、三年生はすでに半分がいなくなり、六人だけ。
二年生は歴代最多人数の入学数だったのだが、今では八人しか残っていないという。
それを聞いたルルは「絶対にクラス全員で竜騎士になるんだ!」と改めて仲間意識が湧き、強い決意を固めることとなった。
講堂に着くと、ガイウスの後ろを、ルルを先頭に一年生が並んで入場する。
講堂の高い位置には、王様だと思われる豪華な服を着た男性と、王子様だと思われる少年が座っていて、ルルは(キラキラだなぁ)と思いながら講堂の中を進む。
一年生の席の右には、昨日挨拶をした三年生のアルフレッド・グレイヴスが拍手をしているのが見えて、その場に一緒にいる全員が三年生だと分かった。
そして左側には、二年生だと思われる生徒たちが拍手でルルたちを迎え入れてくれていた。
「新入生、ルル・ヴァルド」
「はい!」
担任のガイウスから、新入生一人一人の名が呼ばれる。
主席のルルは当然一番に名を呼ばれ、元気いっぱいに返事を返す。
そして九人の名前が呼ばれ、無事返事を返し終わると、白髪で隻眼の、とってもカッコいい男の人が校長先生として挨拶を始めた。
「新入生諸君、入学おめでとう。校長のヴァルター・グランディスだ。今日から君たちは、竜騎士を目指す者として、この学び舎で多くのことを学ぶことになる。竜との絆を育み、仲間と支え合い、己の力を磨いてほしい。ここにいる君たちが、いつの日か立派な竜騎士となり、この国の未来を支える存在になることを、我々教師一同、心から期待している。さあ、今日から始まる学びの日々を、大切に過ごしてくれ」
校長先生はそう言って挨拶を終えると、ニヤリと笑う。
その笑みがルルに向いている気がして、ルルは「はい」という意味を込めて大きく頷いた。
「新入生決意の言葉、代表、ルル・ヴァルド」
「はい!」
王様が見ている緊張よりも、今のルルはワクワクする気持ちのほうが強い。
これでやっと竜騎士の卵と認められ、竜と強く結びつくことができる毎日が待っている。
祖父の竜グレイヴが自宅にはいて、確かに家族としてルルは可愛がってもらったけれど、それでもグレイヴはやっぱり祖父の竜、ルルの相棒ではない。
だけど竜騎士になったルルには相棒ができる。
そのことが何より嬉しく、ルルの気持ちを前向きにさせていた。
「私は、竜を第一に考え、竜の気持ちを大切にできる竜騎士になりたいです。竜と心を通わせ、互いに信頼し合えるよう、一生懸命頑張ります。そして、ここで出会う仲間たちと助け合い、時には競い合いながら、元気いっぱい学校生活を送りたいです。竜にも、仲間にも、胸を張れる竜騎士になれるよう、精一杯努力します! 新入生代表、ルル・ヴァルド」
胸を張り宣言を終えたルルの耳に、大きな拍手の音が聞こえる。
緊張もなく、大きな声で宣言を終えたルルの度胸の良さに、担任のガイウスも校長のヴァルターも笑っている。
そして視線を上の方へ向ければ、ふと王子様と目が合った。
その整った顔には楽し気な笑みを浮かべていて、ルルに興味がある、そう言っているようにも見えた。
おはようございます、夢子です。
本日もお読みいただきありがとうございます。
台風が来ておりますが皆様大丈夫でしょうか?
どうぞお気を付けください。




