入学式の朝
「あっさだー!」
今日は遂に王立アストリア竜騎士学園の入学式の日を迎えた。
ルルは前日の夜からドキドキしながら、この日を待っていた。
いや、正直言って竜騎士学園への入学が決まったその日から、この日を待っていたと言っても過言ではない。
何故なら、今日この日から、ルルは王立アストリア竜騎士学園の学生として正式に認められる。
つまり学園へ行き、竜舎に入ることが許可されるということで、ルルは飛び起きると作業着に着替え、寮の入り口からすぐ傍にある学園への裏門へ向かい、そのまま竜舎へと足を運んだ。
「おはようございます! 新入生のルル・ヴァルドです。お手伝いさせてください。よろしくお願いします!」
「「「……」」」
竜舎へ向かえば、学園で雇われている竜のお世話係たちが、掃除や竜のお世話を行っていた。
ルルはぽかんとするお世話係たちのことなど気にもせず、無言=許可されたと思い動き出す。
「えっと、竜舎を掃除すればいいですか? それとも竜のブラッシング? あ、朝ごはんが先ですか? ここでの順番を教えてください」
「「「……」」」
まだ動かぬお世話係たちの様子を見ながら、ルルは箒を取り、真似をして竜舎を掃いていく。
その間にも竜舎にいる竜たちに視線を送り、可愛い子だ、綺麗な子だ、あの子カッコいいと、色んな子を見て眼福だ。
今いる竜舎には自宅にいる祖父の竜グレイヴよりも若い子が多く、体も成長途中のように感じる。
勿論、竜としては大人扱いになるが、本物の竜は鱗の硬さが違う。羽の厚みが違う。爪の鋭さが違う。
グレイヴを間近で見てきたルルには、竜舎にいる竜たちはルルたちと同じ、まだ成人前の子供のように見えていた。
「お掃除はここだけですか?」
「いや、学園の竜舎は三つある。ここは比較的若い竜だけがいて、中堅どころが隣の竜舎、そんで奥の竜舎には女帝と呼ばれるここのボス竜と古株がいるんだ。女帝には試験の時に会っただろう? 女帝が認めないと竜騎士にはなれないからなぁ」
「女帝……」
ルルには聞かなくても、どの竜が「女帝」と呼ばれている竜かすぐに分かった。
入学試験の際、竜との顔合わせでひときわ目を引く竜がいたことは簡単に思い出せた。
竜舎の奥、白銀の鱗はどこまでも美しく、佇む姿には威厳さえ兼ね備えていた。
それに彼女はグレイヴにも負けない体躯を持っていて、女帝と呼ばれるに相応しい風格だった。
だけど彼女はどこか寂しげで、ルルは試験だというのも忘れ、彼女に駆け寄りたくなったのを覚えている。
「じゃあ、そっちの掃除もお手伝いさせてください。私、竜のお世話は慣れているんで」
女帝にもう一度会いたいという欲を笑顔で誤魔化し、ルルはお世話係に願い出る。
せめて女帝に一目会うことが出来たら、その鱗を撫で、心を癒してあげることが出来るかもしれない。
彼女がもし近づくことも嫌がるのならば、グレイヴも好きな子守唄を歌ってあげて慰めることが出来るかもしれない。
いや、それ以前にルルがただ、あの子にもう一度会いたいのだ。
私は貴女が大好き! その気持ちを伝えたいだけだった。
「い、いや、ルルちゃん、今日入学式だろう? そろそろ戻らんとだめだろ?」
「ああ、全然大丈夫ですよ。入学式って言っても制服に着替えて学園に行けばいいだけなんで」
「いや、いや、ルルちゃん、朝ごはんもまだだろう? 早めに戻らんと」
「ううん、私朝ごはんは五分で食べられるから問題ないですよ、早食い得意なんで!」
どうしてももう一度女帝に会いたいルルは引き下がらない。
入寮後、物凄く近くに沢山の竜がいると知っているのに、今日まで会うことを我慢していたのだ、尚更だった。
どうすっかなぁと悩み始めたお世話係の人たちを期待の目で見ていると、「ルル!」と大きな声で呼ばれ振り返った。
「ルル! 探したぞ! お前、入学式の日に何やってんだよ!」
「エド?! 何って、掃除だよ、見て分かるでしょう?」
「掃除だよぉん、じゃねーよ。おまえ、俺らの代表だろ! 主席だろう! 朝飯食ったら担任の先生んとこ行けって言われてるだろうが! 早く準備しねーと間に合わねーぞ! 何やってんだよ!」
「えっ? エドこそ何言ってんの? まだ十分に間に合うよ。あと朝ご飯食べて着替えるだけだもん。十分もあれば準備できるしー」
「何言ってんだよ! そんな汗くせー状態じゃダメに決まってんだろう! 入学式は校長先生とか、いろんな大人が見に来るんだぞ。王族だって来るって聞いてるだろうが! 汚いまんま出席するなんてあり得ない!」
「えっ? 汗……汗臭い……?」
「良いから! とにかく、行くぞ!」
一応は男の子の部類に入るエドに汗臭いと言われ、地味に傷つくルルの手を引き、エドは寮へと駆け出していく。
そして待ち構えていたミアとクラリスにルルを渡し、大急ぎで身支度を整えてもらう。
その間にエドはキッチンへ行き、簡単に食べられる朝食を部屋に届ける予定だ。
竜に夢中になるとルルは急にぼんくらになると知っていたけれど、まさか入学式の初日にこんな騒ぎを起こすとは思わなかった。
念のためと、マーサに許可を貰い部屋に声掛けに行って良かったと思う。
それと、クラリスとミアが協力的なことにも感謝しかなかった。
「まったくもう! 貴女、何を考えていますの? 女性は身なりが大事でしょう。今日は貴女が私たちの代表ですのよ。ちゃんとして下さいませ!」
「ルル、入学式では私たちの代表で王族の方に挨拶もするんでしょう? ぼさぼさの頭じゃ失礼になるよ。ルルってば、色んな意味で度胸がありすぎるよ。私でさえ綺麗にしなきゃって思ったのに……ルルは主席じゃない……」
シャワーを浴びるようにクラリスとミアに言われ、汗臭いと傷ついていたルルは大人しくそれに従った。
そしてバスタオル一枚で部屋の中に出てくると、待ち構えていたクラリスとミアに髪を整えられ、顔にはちょっと何かを塗られ、そして制服を着てリボンを整えられ、十分もすると完璧な女子生徒に仕上げられた。
それはルル至上、一番カッコいい姿だといえた。
「おーい、朝ごはん持ってきたぞ。着替え終わったかー?」
部屋の外からエドの声が聞こえ、ミアが対応してくれる。
本当は女子生徒の部屋がある三階には男子生徒は上がってはいけないのだが、今日だけは特別だとマーサに許可を貰えたらしい。きっと入寮からお手伝いを続け、信用を得た結果だろう。
ただし、ルルは今日のことでマーサからの信用が少し落ちてしまうかもしれない。
学園に入学後、竜騎士学園で竜関係のことがない日はないだろう。マーサはルルを警戒するに違いなかった。
「エド、ありがと。見てみてー、クラリスとミアが可愛くしてくれたの! もう汗臭くないでしょう?」
ミアと言葉を交わす扉の先にいるエドへ向け、ルルは着飾った制服姿を披露する。
髪を綺麗に結われ、制服と同じ色のリボンを付けてもらったルルは竜騎士の卵そのもの。
それに青空色のリボンは、太陽のような蜂蜜色の髪を持つルルにとても似合っていた。
「かわっ! って、馬鹿! 制服に可愛いとかそんなもんあるか! みんな一緒だ!」
「えー、もう、そんな顔を真っ赤にして怒らなくてもいいじゃない、エドのケチ。あ、でも今日のエドはカッコいいよ、制服似合ってるね。普段より大人っぽく見えて素敵だね」
「ばっ! ばか! 冗談言ってないで早く朝飯食べろ! 学園まで俺が付いてくからな! 下で待ってるぞ!」
揶揄ったつもりはないのだけど、エドはルルの言葉を聞くと、ますます顔を赤らめて下へ降りて行ってしまった。ドスドスと階段を強く踏む音が聞こえたので、本気で怒ってしまったようだ。
もしかしたら村を出るときの格好を笑ったことを思い出しているのかもしれない。あとでもう一度カッコいいと伝えなければと思いながら、ルルはサンドイッチに齧り付いた。
「ルルはタラしですわね……」
「エド君……ちょっと可哀そうかも……」
クラリスとミアの呟きは、朝食に夢中なルルには聞こえなかったのだった。
こんばんは、夢子です。
本日二話目です。
ルルのお話は登場人物も多く賑やかになりそうです。
世間様はシルバーウイークなのですね。
なんだか実感がありません。
旅行に行ける人が羨ましい。
応援ありがとうございます。
とても励みになっております。
明日からは一話投稿、毎週土曜日は二話投稿できたらと思っております。
ええ、その通りです。ストックがあるんですよ。( ̄▽ ̄)




