初めての仲間
ルルが竜騎士学園の寮に入って三日が経った。
少しずつだが先輩たちが寮へ戻り始め、「おはようございます」と挨拶を交わす機会も増えてきた。
先輩たちは新入生よりも早く学校生活が始まるため、すでに学園へ向かい、自身の竜に会いに行ったり、図書館で課題に追われたりしている者もいるらしい。
けれど、ルルとエドはまだ入学前だ。学園の課題があるわけでもなく、入学前のため学園の図書館へ向かうこともできない。そして当然、竜を見に行くわけにもいかなかった。
普段から家の手伝いを率先して行っていた二人は、すっかり手持ち無沙汰になってしまい、寮の管理人であるマーサの手伝いや、料理人ゴードンの手伝いをして過ごしていた。
「今日はルルちゃんたちの学年の子が入寮するわよ。明後日は入学式ですものね」
「本当ですかー? うわー、楽しみー! 仲良くなれる子がいるといいなー」
「俺はちょっと緊張する。貴族の子供がほとんどなんだろう? 平民を馬鹿にするやつは絶対にいるだろうしな~」
竜騎士を目指す子供は、当然ながら男子のほうが多い。
すでに寮で先輩たちと接する機会があったエドは、少し緊張気味だ。
もしかしたらルルのいないところで何か言われたのかもしれない。
今のところ大きな揉め事はないものの、挨拶をしても返してくれない先輩もいるらしい。
そんな相手が同級生だった場合、寮は個室なのでまだいいが、学園で毎日顔を合わせるとなれば、学校生活そのものが嫌なものになってしまうかもしれない。
少し心配そうなエドの顔には、苦笑いが浮かんでいた。
「マーサさん、ちょっといいですか? その子たちに挨拶をしたくて」
「あら、アルフレッド君。どうぞ。ルルちゃんとエド君は私の仕事を善意で手伝ってくれているだけだから、遠慮はいらないわよ」
アルフレッドと呼ばれた生徒は、赤いネクタイを締めている。三年生のようだ。
ルルより背の低いエドとは違い、アルフレッドはすっかり大人の体格で背も高い。それに肉付きもしっかりしており、すでに竜騎士だと言われてもおかしくない雰囲気を持っていた。
髪は紺色で、瞳は灰色。
そんな落ち着いた色合いが、アルフレッド本人の持つ穏やかな雰囲気によく似合っている。
「三年生のキャプテン、アルフレッド・グレイヴスだ。昨夜、寮に戻り、今日は担任に挨拶をしてきた。新入生である君たちへの挨拶が遅くなってすまなかったが、そこは許してほしい。三年生は現在、全員で六名と少なく、女子はいない。それと、何か困ったことがあれば、遠慮なく私を頼ってほしい」
「は、はい。ベルン村から来ました、ルル・ヴァルドです。よろしくお願いします」
「同じくベルン村から来ました、エド・ハーヴェルです。よろしくお願いします」
「ああ、よろしくな。それと、二年生のキャプテンはセドリック・フェルナンという少し変わり者だ。まあ、頼るなら女子生徒のエミリア・ローズがいいと思うぞ。二年生は八名。そして彼女だけが、現在学園に在籍している女子生徒となる。明日には高学年の学園生活が始まるので、二人も入寮してくるだろう。またその時に紹介しよう。キャプテン同士には顔合わせが必要だからな」
「「キャプテン……?」」
アルフレッドの言葉に、初めて疑問が浮かんだ。
キャプテンが学年のリーダーであることは分かる。
だが、いったい誰を指しているのか分からず、ルルとエドは顔を見合わせた。
首を傾げる二人を見て、アルフレッドが説明してくれる。
「竜のボスは力あるものがなる。それは竜騎士も同じだ。竜騎士学校内では生まれは関係ない。成績こそがすべてだ。つまり一年生のリーダーはルル・ヴァルド、君だ。入学試験で主席を取ったのだろう。素晴らしいことだ。誇っていい。そして一年をどんなクラスに仕上げるかは、君の肩にかかっている。存分に力を発揮するといい」
「「……」」
主席には、こんなおまけまでついていたらしい。
アルフレッドの話を聞いて分かったが、どうやらルルは一年生の学年キャプテンを任されるようだ。驚きしかない。
クラスを導く存在のように言われても、ルルにはそんな崇高な考えなどあるはずがない。
だからルルは、いつものルルらしく答えた。
「はい! 楽しい学年になるように頑張ります!」
「……そうか……。入学生全員が卒業まで残れるよう、頑張ってくれたまえ」
「はい! ありがとうございます!」
アルフレッドは一つ頷くと、その場を去っていった。
そして、今の話を聞いていたマーサから、三年生は入学時より半数が減り、二年生もすでに半数近くが辞めていると聞かされた。
竜騎士になることは難しい。
その言葉が現実の人数を知ると、本当なのだと実感させられる。
怪我をして辞める者。
勉強についていけず辞める者。
そして、竜との信頼関係を結べず辞める者。
理由はさまざまだ。
「俺は絶対に竜騎士になる」
「うん、エド。絶対に竜騎士になろうね」
ルルとエドはアルフレッドの言葉を怖がることなく、自分たちの夢へ進む道を選んだ。
「あの、こんにちは……」
マーサの手伝いも終わり、ルルが部屋へ戻ろうとしたところで、背後から声を掛けられた。
振り返ると、そこにはふわふわとした栗毛色の髪を持つ、可愛らしく大人しそうな女の子が立っていた。
「こんにちはー! えっ? 新入生?」
「はい。新入生のミア・ベルナードです。あの、ルルさんですよね? マーサさんから、先に入寮した子がいるって聞いて……」
「うん、ルル・ヴァルドだよ。ルルって呼んで」
「はい。じゃあ、私のこともミアって呼んでください」
「うん、ミア。よろしくね。あのね、私――」
「ちょっと、どいてくださる?」
やっと来た同性の同級生に挨拶をしていると、また背後から声を掛けられ、ルルが振り返る。
そこには淡い金髪に紫色の瞳をした、少し気位が高そうな女の子が立っていた。
もしかして、この子も同級生?
そう思っていると、女の子はツンとした顔でルルを見た。
「聞こえましたの? 私、部屋へ入りたいの。そこをどいてくださる?」
「えっ? あ、ごめんなさい。えーと、貴女も新入生?」
「ええ、そうよ。ヴァレンティア家長女、クラリス・ヴァレンティアよ」
「クラリス? 綺麗な名前だねー。私は――」
「知っているわ。ルル・ヴァルドでしょう? そして、あなたはミア・ベルナード。うちは竜騎士の家だから、情報が入りやすいの。まあ、三年間勝手に頑張ってちょうだい。私、馴れ合いは好きじゃないの。だから私のことは気にしなくていいわ。寮も学園の勝手も分かっているから、私のことは気にしないで」
そう言うと、ルルとミアの答えも待たず、クラリスは自分の部屋へ入ってしまった。
残されたルルとミアは言葉が出ず、ぽかんと間抜けな顔で立ち尽くす。
貴族がいる学校だとは聞いていたけれど、貴族のお嬢様とはみんなあんな感じなのだろうか。
仲良くなりたいと思っていたルルだったが、少しだけどうしていいのか分からなくなった。
まあ、でも何とかなるかな。
今日は出会ったばかり、何と言っても初日だ。
竜とだって、仲良くなるには時間がかかる。
前向きなルルは、クラリスの言葉をあまり気にしなかった。
「えっと、ミア。荷物を片付けたら、私の部屋でお茶しない?」
「うん、ぜひ。荷物って言っても私これだけだから、すぐにルルの部屋に行けるけど、手伝うことある?」
「ううん、大丈夫だよ。えっと……一応、クラリスにも声を掛けてみていいかな?」
「うん、もちろん。三人しかいない女の子でしょう? 私も早く仲良くなりたいもの」
ミアの言葉にホッとしながら、ルルはクラリスの部屋の戸を叩いた。
中からは少し時間を置いて、「はい」と返事が返ってくる。
その声だけで迷惑そうな様子が伝わってくるが、ルルは諦めずに声を掛けた。
「えっと、クラリス。良かったらお茶でもどうかな?」
「結構よ。私、荷物を片付けるから、放っておいて」
「そうなの? 良かったら手伝うけど……」
「結構よ。自分でできるわ」
制服や作業着は先に届いていて、荷ほどきはそれほど大変ではない。
それでも貴族のお嬢様には大変なのではないかと思い、手伝いを申し出てみたが、クラリスは頑なに断った。
ルルは少ししょんぼりしながら、ミアに向かって呟いた。
「せっかくマフィンを焼いたんだけどなぁ」
「マフィン?」
「そう。寮の料理人のゴードンさんにお願いして、オーブンを使わせてもらったの。お母さん直伝のマフィンなんだよ。お友達と一緒に食べようと思ってたんだ。ミア、一緒に食べてくれる?」
「もちろん! 寮内に漂ってた甘い香りは、ルルのマフィンだったんだね。うふふ、楽しみー。私の家、子供が多いから、お菓子ってあまり食べられなくて……寮に来て良かった。ルルのお菓子、楽しみだわ」
「うん、一緒に食べようね」
ミアが荷物を自分の部屋へ運ぶために移動を始めると、ルルたちの後ろでクラリスの部屋の戸がバンッと勢いよく開いた。
すると、少しばつの悪そうなクラリスがチラリとルルを見る。
そして、フンッと顔を背けながら言った。
「お茶、飲んであげてもいいわよ。マフィン、作ったんでしょう?」
「クラリス……」
どうやらクラリスは甘いものが好きらしい。
寮内に広がるこの甘い香りを気にしていたのは、ミアだけではなかったのだろう。
ツンツンしながらも頬を少し赤く染めるクラリスが可愛らしくて、ルルは仲良くなれる予感がした。
「うん、一緒に食べよう! 自慢のマフィンなんだー」
こうして、ルルに初めての同級生の仲間ができた。
どこまで仲良くなれるか分からないけれど、ルルには不安はない。
何故なら、竜が認めた者だけが入れる竜騎士学校。
そこに悪い子供などいるはずがない。
そんな自信があるからだった。
おはようございます、夢子です。
本日も読んでいただきありがとうございます。
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クラリスは緊張気味です。なのでどうしていいか分からずツンツンしてしまう。w




