王都到着
「ルル、エド、ほら、見てみろ。王都の門が見えてきたぞ」
「うわー! 本当だー! エド、見てみてみて! おっきい壁があるよー!」
「おおっ! すっげー、でけー! あ、ルル、あっちにたくさん人が並んでるぞー! 村の祭りみたいだ!」
「本当だー! すっごい人だねー!」
祖父の竜グレイヴに乗って空を飛ぶことはあっても、本当の意味で村の外へ出たことのないルルとエドは、王都を囲む巨大な城壁を目にして驚き、興奮に胸を弾ませる。
間もなく王都へ到着するとあって、馬車の御者席にトーマスと並んで座る二人は、今にも転げ落ちそうなほど身を乗り出し、王都の大きさに夢中になっていた。
「これからあそこで暮らすんだな」
「うん! 美味しいものも沢山ありそうだよね」
村の人口を超えるほどの人が、今目の前に並んでいる。
その上、冒険者など、名前だけは知っていても実際に見たことのない職業の人たちも大勢いる。
田舎から出てきた二人が、興奮しないわけがなかった。
「さあ、ルル、エド、ちゃんと座れ。俺たちはこっちに行くぞ。馬車が曲がるから、そのままじゃ落ちるぞ」
「はーい」
「はい」
王都の門に近付くと、トーマスは右へそれ、馬車が並ぶ列へと進んでいく。
旅人ではなく商人専用の門は、中央の門よりも少し小さい。
けれど馬車の停め場があり、荷物を下ろしている者もいるなど、とても賑わっていて、多くの人が行き交っていた。
「ああ、トーマスさん、お帰りなさい。今回はどこの村ですか? 西の方?」
「ああ、ベルン村まで行って荷物を下ろしてきた。それと、この二人を連れてきた。この子たちは竜騎士学校の卵だ、よろしくな。それと、これが二人の身分証だ」
「ルルです」
「エドです」
「ようこそ、王都グランディアへ。へえ、竜騎士の卵かぁ。凄いな、優秀じゃないか。入学おめでとう、歓迎するよ」
「「ありがとうございます!」」
兵士の男性に褒められ、ルルもエドも頬を赤く染める。
田舎の村でも大騒ぎになるほど、竜騎士になることが難しいのは世間にも知られている。
それは当然、王都でも同じだ。
アストリア竜騎士学園への入学といえば、一目置かれるほどのことだった。
「村の身分証と、学園の入学証明もありますね。はい、通っていいですよ。二人とも頑張ってね。応援しているよ」
「はい、頑張ります!」
「俺も、絶対に竜騎士になります!」
トーマスのお陰もあり、王都への入場は問題なく終わった。
そしてまた馬車に乗り込めば、王都の街並みにワクワク、ドキドキしている二人を見て、トーマスは笑いを堪えながら二人に提案する。
「よし、じゃあ入場手続きも終わったし、まずは昼飯を食べるか?」
「えっ?」
「いいの?」
「ああ、寮へ着くのは今日だって伝えてあるんだ。昼を食べてから行っても問題ないさ。おまえたち、何か食べたいものはあるか……? って言っても分からないか。王都は初めてなんだからな……」
村から出たことのない二人に王都で何が食べたいかと聞いても、分かるはずもない。
街の飲み屋には詳しいものの、子供が好きなものには詳しくないトーマスは、「うーん」と頭を悩ませる。
結局、街中の屋台へ行き、目につくものを色々と買って、それを馬車の御者席に座って食べることになった。
けれど、王都の街を眺め、美味しそうなものを選んで食べることはとても楽しく、それだけでも二人は大喜びだった。
「美味いか? ルル、エド」
「うん、トーマスおじさん、すっごく美味しい! このお肉も果物も、村では食べたことないものだよっ!」
「トーマスさん、美味しいです。王都って何でもあるんだね。俺、こんなにたくさんの店も見たことないよ。いつか一人前になったら、リオを呼んで食べさせてやりたいなー」
頬いっぱいに食べ物を詰め込み、幸せそうな顔を見せるルルとエドを見て、トーマスの頬も緩む。
これから二人には、厳しい寮生活が待っている。
竜中心の生活は、グレイヴを知る二人にとってそれほど苦ではないだろう。
だが、貴族もいる同級生たちと、田舎育ちのこの子たちが上手くやっていけるのか。
小さな頃から見てきた二人のことが可愛くて、トーマスはついそんな心配をしてしまう。
それでも、二人ならきっと大丈夫。
不思議と、そんな自信もあった。
「寮ではな、緊急時以外、ちゃーんと申請しないと街へ出られないから、そのことは忘れるなよ」
「「うん」」
「それと逆に、長期休暇は申請しないと寮には残れない。帰る日や戻る日を考えて、ちゃんと申請を出すんだぞ、忘れるなよ」
「「うん、分かりました」」
入学後に説明もあるとは思うが、トーマスはついつい口を出してしまう。
竜しか目に入らないルルはともかく、エドならばそのあたりはしっかりしているし、ルルにも注意してくれるだろう。
それでも、荷運びの仕事で王都を出ている時間が長いトーマスの心配は尽きなかった。
「よし、ほら、寮が見えてきたぞ」
「うわー! カッコいい! ねえ、エド、寮のマークが竜になってるよ!」
「ああ、本当だ。それに学校のすぐ裏が寮なんだな。これなら何かあっても安心だ。ルルが忘れ物しても取りに行けるしな」
「もう、エド、なんで私? 私、忘れ物なんてしないもん。ちゃんと自分のことは自分でできるんだからねー!」
確かに、普段のルルなら何も心配はいらないだろう。
でも、竜に夢中になり、「今日は空を飛びますよ」なんて言われた日には、他のことは全部忘れて、授業が耳に入らない姿が目に浮かぶ。
幼馴染のエドは、ルルのことをよく分かっているからだろう。
ルルの宣言を聞いても苦笑いを浮かべ、「俺がちゃんとしなきゃ」と言っているような顔だった。
「すみませーん」
「はーい」
トーマスが寮の入り口で声を掛けると、優しそうな女性が現れた。
寮の管理人なのだろうか。
二人を見ると、ニコニコと笑顔を浮かべている。
「いらっしゃい。ベルン村からの新入生ね。よかった、予定通り着いたのね。私は寮管理人のマーサよ。これからよろしくね」
「はい、ルルです。マーサさん、よろしくお願いします」
「俺はエドです。マーサさん、これからよろしくお願いします」
今は学年末の休暇中らしく、生徒のほとんどが自宅へ帰っているため、寮の中に生徒はいないそうだ。
新入生の中でも、ルルとエドが一番乗りで入寮したらしい。
何の事故もなく王都へ到着できたことを、マーサはとても喜んでくれた。
ルルの母やエドの母よりもちょっと年上に見えるマーサは、温かな雰囲気の人だった。
緊張気味だったルルとエドの心も、マーサの笑顔を見て自然と落ち着いていく。
「よし、ルル、エド、もう大丈夫だな」
「うん……じゃない、はい。トーマスおじさん、ここまでありがとうございました」
「トーマスさん、ありがとうございました。とても助かりました。俺、ここで頑張ります」
「うんうん、頑張れよ。だがな、困ったことがあれば遠慮なく俺を頼れ。まあ、王都にいる期間は短いが、それでもベルン村に戻るよりは早い。王都の父親だと思っていいからな」
「「はい、ありがとうございます!」」
ルルとエドが笑顔でお礼を言うと、トーマスは少し乱暴に二人の頭を撫でる。
ルルとエドが小さな頃から、トーマスは村に来るといつも遊んでくれた。
ルルの家に泊まってくれることも多く、親戚の叔父さん。
そう言えるほどの間柄だ。
だから「頼れ」と言ってもらえたことが凄く嬉しかった。
それに「王都の父親だ」と言ってもらえたことで、不安は一気に吹き飛んだ。
何かあってもトーマスに相談できる、そう思えるだけで二人は安堵の気持ちになっていた。
「マーサさん、二人をよろしくお願いしますね」
「ええ、トーマス、もちろんよ。私に任せてちょうだい。この寮なら何も心配はいらないわ。規則正しい生活をさせて、ちゃーんと学校に通わせます。あなたも、よく知っているでしょう?」
「ええ、よーく知ってますよ。昔のマーサさんは怖かったし、俺たち泣きそうでしたよ」
「……昔?」
「いや、いえ、ちょっと前の話ですよね。俺が学園を卒業したのは二十年以上前だから……」
「トーマス……?」
竜騎士として最も活躍していたルルの祖父。その背中を追って竜騎士になったトーマスは、ルルの父よりも少し年上だ。
そんなトーマスが学生だった頃から、どうやらマーサはこの寮の管理人をしていたらしい。
(マーサさん……いったい幾つなんだろう……)
空気を読み、黙ったまま二人のやり取りを見守るルルとエドの頭の中には、そんな疑問が浮かぶ。
だが焦る様子のトーマスを見れば、疑問は飲み込み、笑顔で固まるしかなかった。
女性の年齢には触れてはいけない。
特にマーサには、それが絶対の禁句なのだと、ルルとエドは初日に学んだのだった。
「じゃあな、ルル、エド。頑張れよ」
「うん、トーマスおじさん、またね! ありがとー!」
「トーマスさん、また。長期休暇の時はよろしくお願いします」
「おう」
手を振りながら寮を去っていくトーマスを見送り、ついにルルとエドの王都での生活が始まったのだった。
こんにちは、夢子です。
無事本日二話目、よろしくお願いいたします。




