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竜騎士見習いルル~田舎娘は仲間たちと空を駆ける~  作者: 夢子


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クラリスのお家

「ねえ、今度私の家に泊まりに来ませんこと? 両親もルルとミアに会いたいと言っているのよ」


「「えっ? クラリスのお家?」」


「ええ、そうよ。王都のタウンハウスですけどね」


 ある日、ルルとミアはクラリスからそんなお誘いを受けた。

 クラリスの家であるヴァレンティア家は伯爵家。領地は竜に乗って飛んでいかなければならないほど遠い場所にあるらしい。そのため、領地運営は政務官とクラリスのお父さんの弟さんが受け持っているらしく、だからこそ竜騎士として今も働けているのだと聞いていた。


 王都にはヴァレンティア家のタウンハウスがあり、クラリスにとっては、そのタウンハウスこそが自分の家なのだという。

 そんな場所へのお誘いだ。ルルもミアも、貴族のお家ということで、体も顔も固まってしまった。


「えっと、でも、私、マナーとか何も分からないし……」


「私もクラリスのご両親に失礼なことをして、嫌われたくないんだけど……」


 おろおろする二人を見て、クラリスが紫水晶のような綺麗な目を瞬かせる。

 そして、くすくすと笑い、「うちの家族はみんな竜騎士ですのよ。そんなことは気にもしませんわ」と答えてくれた。


 そんなこともあり、ルルとミアはクラリスの誘いを受けることにした。

 週末、ヴァレンティア家の馬車が寮まで迎えに来てくれて、ルルとミアは貴族らしい豪華な馬車にドキドキしながら乗り込んだ。


「ふかふかの椅子だね……」

「うん、トーマスさんの馬車と全然違う……」


 二人して、思わずそんなことを呟いてしまう。

 今日は母ミレイユが作ってくれた一番お気に入りのワンピースを着ていて、それもあってか、ルルまでお嬢様になったような気分だった。


「見えてきたわ。あれが私の自宅ですわ」


「うわぁー、カッコいい」

「すごい、大きいお屋敷だねー」


 小さなお城とも言えるヴァレンティア家のお屋敷は、竜騎士学校からも騎士学校からも近い場所にあり、貴族としてのヴァレンティア家の力がうかがえるようだった。


 白灰色の石壁に濃紺の屋根は気品があり、クラリスの印象にもよく似ている。正門には竜と剣の紋が掲げられていて、それがヴァレンティア家の紋章だと分かった。


「お嬢様、お帰りなさいませ」


 クラリスが馬車から降りると、使用人からそう声がかかる。

 クラリスは当たり前のようにそれを受け止め、使用人に声を掛けた。


「お父様とお母様は?」


「はい、すでに応接室でお待ちですよ。ワクワクした様子で今にも飛び出してきそうでしたわ」


「もう、お父様もお母様も落ち着きがないんだから。お友達がびっくりするから、出迎えは禁止って言っておいて良かったわ」


 クラリスは普段より子供っぽい口調で口を尖らせる。

 きっと自宅に帰ってきたことで、無意識に「娘」に戻っているのだろう。

 そんな姿が可愛くて、ルルとミアは緊張も忘れて笑顔になる。


「ルル、ミア、行きましょう。きっと応接室は大変なことになっているわ」


 照れ怒りのような様子のクラリスに続き、ルルとミアも屋敷に入る。

 ヴァレンティア家の廊下にはカーペットが敷いてあり、ルルとミアは歩くことさえ緊張してしまう。

 その上、応接室の扉は大きくて重厚で、クラリスではなく使用人が頭を下げて開けてくれるのだ。ドキドキとうるさい胸を笑顔で誤魔化しながら、二人は部屋に入った。


「クラリス!」

「きゃっ」


 熊のような大きな物体がルルたちの前に現れたと思った瞬間、クラリスが応接室の宙を舞った。


「よく帰ってきたな! 待っていたぞ!」


「お父様、降ろしてくださいませ! 私はもう小さな子供ではありませんのよ!」


 クラリスの兄レオニスよりも背の高い男性が、クラリスを軽々と持ち上げ、赤子をあやすように高い高いと天井近くまで放り投げる。


 クラリスは怒ってはいるけれど、投げられることには平気そうな顔をしている。

 きっといつもの定番の挨拶なのだろう。

 慣れた様子で飛んでいるように見えた。


「あなた、落ち着いてください。お友達の前ですわよ。クラリスが困っているではありませんか」


 顔つきはクラリスそっくりだけれど、髪の色はオレンジブラウンで、瞳は緑色のカッコいい女性がクラリスの父親を止める。クラリスとレオニスの髪と瞳は父親と同じ。でも、顔つきはクラリスのお母さんそっくりだ。だからレオニスのような美形ゴリラが出来上がったのかと、ルルは内心納得していた。


「おお、すまんすまん。いつもの調子でな。友人たちよ、私がクラリスの父、アドリアン・ヴァレンティアだ。そして、こちらが私の愛妻、セレーネだ。美しいだろう。君たち、いつもクラリスと仲良くしてくれてありがとう。今日は我が家でゆっくりと過ごしてほしい。私のことをお父様と呼んでもかまわないからな」


 ぱちんとウインクして、アドリアンは豪快に笑う。

 力強いパワー型の竜みたいな人で、ルルはクラリスのお父さんらしいと笑ってしまう。


「もう、あなたったら、最初に言うことがあるでしょう。ルルさん、ミアさん、先日の件ではお世話になりましたわね。クラリスを支えてくださってありがとう。あなたたちがいたからこそ、クラリスは今も笑顔で学園に通えているのよ」


 セレーネはそう言ってルルとミアの手を取り、美しい笑顔を向けてくれる。

 本当に女神さまのようで、ルルは同じ女性なのにドキドキしてしまった。


「いえ、あの、クラリスはとても強い人ですから、あの人のことはもう忘れたと思います」

「クラリスは素敵な人だから、あんなの……あ、すみません。あの、もっといい人がいると思っています」


 緊張からか、ルルとミアが余計なことを口にしても、アドリアンもセレーネも笑ってくれる。

 そして、学園での話を少し聞きたいと言って席を勧めてくれ、美味しそうなお菓子とお茶が運ばれてきた。


「今日のおやつはエトワールから取り寄せたものなのよ。さあ、どうぞ召し上がれ」


「わあ、ありがとうございます。エトワールのお菓子、すごく嬉しいです」

「ありがとうございます。エトワールに行こうって約束しているんですけど、まだ行けていないので、とても嬉しいです」


 何種類かの焼き菓子がテーブルに並べられ、選んだものをメイドさんがお皿に乗せてくれる。

 そして、美味しい紅茶もテーブルに置かれ、クラリスのご両親とのティータイムが始まった。


「クラリスの学園での様子はどうかな?」


「はい、クラリスは周りをよく見ていて、自分の足りない部分もちゃんと把握して、補うように勉強しています」

「それに、飛び方もすごく綺麗で、新入生が入ったらお手本にしてほしいぐらいです」


 ルルとミアが学園でのクラリスの様子を話せば、ご両親は嬉しそうに聞いてくれる。クラリスは恥ずかしさを誤魔化すようにお茶を飲んだ。ちょっと頬を染め、「二人とも大げさよ」とツンッとするところはクラリスらしく、とても可愛い。


 ご両親も、そんなクラリスが愛おしくて仕方がないのだろう。

 とても優しい目で見つめていて、ルルは父や母に、なんだか会いたくなってしまった。


「んんっ、それで、もう一つ聞きたいのだが……レオン・グランフォードはどんな子かな?」


「お父様?」


「クラリス、これは大事なことなんだよ。あれ(元婚約者)は私の友人の息子だったから、よく調べもしないでお前の婚約者にしてしまった。あれの兄がレオニスの友人でしっかりした者だったこともあるが、他の者の評価も聞いておくべきだったと、今は深く後悔しているんだ」


「……そうですけど……」


「お前が前向きに考えているのなら、なおさらだ。レオン・グランフォードが私たちの調べた評価どおりの人物なのか、お前の友人たちにも聞いてみたいんだよ」


「……」


 どうやらクラリスは、レオンとのことを前向きに考え始めているようだ。

 それは、ここのところの様子を見ていれば、ルルとミアにも分かっていた。

 クラリスはレオンの心を開きつつある。


 押し付けないレオンの優しさは、しっかりとクラリスに響いていた。

 それにレオンはクラリスを自分の女神だと言うくらいで、他の女の子なんて目に入らない状態だ。


 なので、ルルとミアは自信をもって頷いた。

 レオンならば大丈夫。そんな意味も込めて、ご両親に自分たちの気持ちを話してみた。


「レオンは、さりげない優しさがあって、クラリスのこともちゃんと見てくれています」

「きっとクラリスの努力とか、真面目さとか、レオンならちゃんと理解してくれると思います」


「そうか……」


「「はい!」」


 ルルとミアがお勧めです! と言い切ると、クラリスが「もう、二人とも!」と言って、赤い顔でそれを止める。


 その様子にご両親も嬉しそうで、クラリスの家族とのお茶会は和やかに進んだ。ちょっとだけのつもりだったお茶会は、楽しすぎて夕食近くまで終わらなかった。

おはようございます、夢子です。

本日もお読みいただきありがとうございます。


クラリスのお父様、熊系男子。

見るからに強そうな感じです。

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